蛇姫の鱗で
「どれにする?」
「あんまり差し当たりのない奴を……」
「じゃあ私が選んであげるよ。」
「大丈夫かしら……」
マルク達は、初めてのクエストにチャレンジすることになった。だが、妖精の尻尾で何度も受けては報酬を貰い……を繰り返してはいたものの、他のギルドで、いきなり難易度が高そうなのを受けるのは、少しだけ躊躇するものだった。
だが、そんな時にシェリアが現れて、1枚依頼書を選んでそれをマルク達に見せる。
「これなんかどう?」
「えーっと……『盗賊団から村を守ってください』?報酬は山分けしても問題ないし……まぁ、シェリアとウェンディと俺がいるなら…大丈夫かな…?」
「待て待て……いつも言っているがな、シェリア。ギルドに入っているとはいえ、あまり危険なことはするな。」
シェリアが選んだクエストに、リオンが反対意見を述べる。年下であることと、彼にとっては妹分であるシェリアが危険な目に合いかねないのは、お断りしたいようだった。
「それを言ったらどのクエストも、危険性は同じくらいじゃないの?雑草抜きとかともかく……」
「はぁ……しょうがない、俺が着いていく。」
「もう!私達子供じゃないんだから!!行こうウェンディ、マルク!!」
「え、あ、シェリア!?」
「す、すいません…おーい!待てよ2人とも!!」
「私も置いていかないでよ!?」
リオンを置き去りにして、シェリア達はギルドから出立する。その後、リオンは頭を抱えてため息をついていたが、他のメンバーからは『心配しすぎ』とまで言われてしまうのであった。
「まったくもう!リオンはいつまで私のこと、子供扱いしてるんだろ!!」
「ま、まぁ……心配するのも本当に大切に思っているからだよ。」
「……ま、まぁ…それは分かってるんだけど……」
「複雑な気持ちね。」
ウェンディ達がガールズトークに夢中になっている中で、マルクは外を眺めていた。
これから依頼主に会いにいくために、雨が降って服が濡れるということだけは回避したかったのだ。
「……でも降りそうなんだよなぁ…」
「まぁいざとなれば、私達2人でこう……ビューっ!って大きな風吹かせて、雲を散らせればいいんじゃない?」
「魔力の無駄遣いだろうが……」
少し呆れながらも、しかしそれがすぐにできるのならしたいというのもまた事実である。
「でも濡れるのは……」
「そうだよね〜……私もこの服が濡れるのは嫌だし……」
胸元を指でつまんで、少しだけ服を持ち上げるシェリア。雨が降ると、服が濡れて体温が下がるばかりでは無い。
服が張り付くという不快感も、一緒に味わなければならない。ただ、張り付いた場合のことを考えたのか、ウェンディが軽くした唇を噛んでいたが。
「……ま、一応どこかで降りて雨具を買うべきだろうな。」
「そうだね、何かあるかなぁ……」
「傘って、意外と高いもんねぇ……」
そうやって、談笑し続ける四人。そして、1度雨具を買うために目的の駅よりも、少し手前の駅で降りる。どちらにせよ、馬車で向かわないといけないような場所なので、そこから向かうのもいいだろうと考えたためである。
「げっ……雨降ってきた……」
「うわぁ……嫌だなぁ、せっかく降りたのに。」
「走る?」
「ここ結構大きい駅だし……もしかしたら、中にあるかもしれない。」
「探してみよっか。」
駅に着いたと同時に、本降りし始める雨。それに辟易しながらも、とりあえず駅の中で雨具を扱っている店はないか、探し始める。
「あ、あったよ!」
「本当だ!」
「やるじゃない!!」
そして、駅の中で見つけたのでとりあえず子供用3枚と、特別に小さい雨具を買うことが出来た。
そして、そのまま街の中へと向かい始める。
「ここの街の馬車ってどこに来るんだっけ。」
「とりあえず探してみよう?」
「………」
「…マルク?」
「え?ど、とうした?」
ぼーっとしていたマルク。ウェンディが心配して声をかけるが、まるで何事も無かったかのようにふるまい始める。
「ぼーっとしてたよ?」
「そ、そうか……雨降ってるのを見て、無意識に憂鬱になってたのかもしれないな。」
「……」
『雨は絶対関係ない』と思いながらも、この時はそこまでウェンディは気にしていなかった。
『話したくないことだってあるだろう』としか思いようがなかったからだ。
「とりあえず馬車をさがそうか。あわよくばそのままの依頼地へと迎える。」
「そうだね。」
マルク達は、そのまま小一時間馬車を探す。そして、そのまま見つけたので、目的の村まで行くことになったのであった。
「いやぁ、にしてもお客さん物好きだねぇ……あの村に行くなんて。」
「いや、俺達はその村の人から依頼を受けたんで……」
「あー、魔導士の方なのね。そりゃあ納得だ。」
馬車の運転手は、マルク達が魔導士だと分かると、妙に納得のいった顔をしていた。
それほどまでに、村に行くことが好き者みたいな扱いを受けるほどに、その村が如何に盗賊達に困っているということが伺える。
「あー、だったら途中までしか送れないよ。あんまり近づくと、こっちだって危ないかんねぇ……」
「どの辺までですか?」
マルクが地図を広げて、運転手に止まるところがどこかを聞き始める。その間に、シェリアがウェンディに近づいて小声で話し始める。
「……村周辺、襲われるって書いてあった?」
「多分書いてなかったと思う……自分達のとこで手一杯すぎて書くの忘れたんじゃないのかなぁ……」
「だといいけど……もし『見聞きするより体験しろ』っていうタイプの人だったら私はやだなぁ……」
「考えすぎだよ。」
「……あ、雨止んできた?」
「本当だ、止んできたね。」
馬車の外から、雨が止んでいることだけが確認出来たウェンディ。しかし、どちらにせよ地面がぬかるんでいるので、タイヤを補強してぬかるんだ地面も走れるようにしていた馬車の、微妙に上乗せされた料金はどちらにせよ払わないといけないのだが。
「んじゃ、このまま後5分くらい動かしますんで。」
「はい。」
そして、村までおよそ1キロ離れた位置に馬車は止まり、あとは歩いていったのだった。
「おぉ、蛇姫の鱗の方達ですな。お待ちしておりました……どうぞ中へ、村長が奥でお待ちしております。」
「えぇ、すぐに向かいますよ。」
村に着いたら、まずは村長のところに案内された。特に変わったことも言われず、また注意されるようなこともなく、早速盗賊を退治することが決定したのであった。
「ところで、盗賊達が来る方向とか時間とか……バラバラなんですか?」
「いいえ、いつも決まった時間、決まった方向から来ているんです……変な話ですよね、何故そこだけ律儀にしているんでしょう……」
「因みに、いつどこから?」
「昼頃に、あの山の向こうから1人ずつ入ってくるんです。と言っても向こうは走り幅跳びの要領でこちらに来るため、1人ずつ入ってくると言ってもそこまで丁寧ではありませんが。」
しかし、襲ってくる時間が決まっているというのだけ聞ければ十分である。なにせ、こちらには支援と回復に特化した人物が二人もいるのだから。
「私達に任せて!やろうウェンディ!!」
「うん!」
「じゃあ……いざと言う時のために、シャルルは俺と一緒に来てくれ。何かあって、上から見る時とか視線が必要なように思えるし。」
「あたしだけ飛べばいいんじゃないの?」
「いや、万が一飛んでるところ狙われた時に1人だったら身を守れない可能性があるだろ?」
マルクを中心に作戦を立てていく一同。昼までにつくことが出来たので、それまで作戦会議をしておくことにしたのであった。
だが、時折その作戦会議でマルクの意識が途切れ途切れになることがあった。一瞬、1秒にも満たない瞬間で時折……といったふうなのでシェリアには分からなかったが、ウェンディだけは気づいていた。そして、こうも感じていた。『やはりマルクはなにか隠している』と。
「ウェンディ?どうしたの?」
「ふぇ!?う、ううん!なんでもないよ!!」
しかし、『本人が隠していることを、追求するのはいかがなものだろうかだろうか』という気持ちにもなっていた。本当に問題ないのかもしれないし、ウェンディの勘違いや気のせいで終わる話かもしれない。
あまりしつこく同じ質問をするのは、マルクも鬱陶しい気がする……と妙に言うのがはばかられた。
「眠いなら、少し仮眠でもとるか?なにせ結構体力つかっただろうしな。」
「う、ううん。マルクの方こそ無理してない?」
「…大丈夫だよ。俺はまだまだ元気モリモリだからな!」
ポージングを取って、悪ふざけをするマルク。確かにパッと見た感じは、本当に元気そうなのでウェンディもこれだけ見たら信じていただろう。
「……そう、私も大丈夫だよ。」
信じられるわけがなかった。だが、本人が無理していないと言っている以上、話題はここで打ち切られてしまう。
「さて……んじゃまとりあえず、作戦は立てれたんでこれでいこうと思う。
まずはウェンディとシェリアが山賊達の相手をする、そしてその間俺はシャルルに抱えてもらって空中に待機。流石に山賊達もここで全滅するのは控えるだろうから、逃げるはずだ。」
「それで、その後マルクは山賊の本拠地に行って終わり……だね?」
「あぁ、シャルルには一旦入口で別れてウェンディ達を後から連れてくるつもりだ。」
「マルクが打ち漏らした相手も、私達二人なら相手できるもんね。」
「そういうことだ。」
作戦に依存がない様なので、マルクは手を叩いて作戦会議終了の合図を出す。もうすぐ山賊達が来る時間らしいので、先にマルクをシャルルが抱えて空中へと飛んでいく。
それを、シェリアとウェンディが軽く見送ったあとで、お互いに目を合わせる。
「いい?ウェンディ!」
「初クエスト……頑張らないと!!」
やる気を入れ直すウェンディ。両頬を叩いて、目の前のことに集中し始める。
しばらくすると、山賊達が村に入ってくるのが見えてきた。
「来たよシェリア!」
「行こうウェンディ!!」
そして、2人はこの場で山賊を全滅しかねない勢いで、戦い始めるのであった。
「二人とも元気だなぁ……俺の出番残ってるといいけど。」
「大丈夫でしょ、あの山賊たちの中にリーダー格っぽいやつがいないんだし……少なくとも別で動いている部隊か、どこかで待機している部隊はいるわよ。」
上から眺めながら、マルクは苦笑いを浮かべていた。わかっていた事だが、天空の滅竜魔法と天空の滅神魔法は恐ろしい程に攻撃力に特化している。
荒れ狂う天候の力なのだから、当たり前といえば当たり前なのだが。
「……ん?山賊達が慌て始めてるな。」
まずは、ウェンディとシェリアが山賊達に魔法をぶつける。近くにいたヤツらは我先にと襲い掛かるが、それらを全て受け流していっていた。
次に、本気でやらないといけないという雰囲気になったのか、略奪行為をしていた山賊達も混じり始める。
そして、その後すぐに山賊達が逃げようと蜘蛛の子を散らすように村から離れ始める。
「逃げてる方向は……全員同じか。」
「複雑そうに逃げてるだけで、ほぼ一本道ね。」
「前から見るより、上から見た方がわかりやすいなやっぱり……よし、行くぞシャルル。」
「えぇ。」
マルクは、シャルルと共に山賊達のアジトであろう場所へと向かうのであった。