FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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解散

冥府の門(タルタロス)を壊滅させた、その翌日。ナツ達は既にどこかへと姿を消していた。

だが、それよりも…もっと重大なことが起こっていた。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)を、解散させる。」

 

マカロフの突然の言葉。その言葉に困惑する者もいれば、抗議する者もいた。だが、全員突然の解散宣言に納得するわけがなかった。

 

「どーゆー事だよマスター!!」

 

「ふざけんなっ!!」

 

「明日からどうやって飯を食っていけばいいんだ!!」

 

「勝手に決めるな!!」

 

妖精の尻尾に、途中から入った者。子供の時から居場所が無く、最早ここが家同然の者だっていた。

特に、後者はギルドでしか仕事が入ったことがないために、他の生き方なんてろくに知らない者もいる。

 

「妖精の尻尾は解散させる。これからは己が信じる道を己が足で進め。以上じゃ。」

 

これでこの話題は終わりだ、と言わんばかりにマカロフは話を切った。当然、その説明に納得する者はいない。逆に反論をしようとする者だっている。

マカロフを罵倒する者や、妖精の尻尾はまだ無くならないと豪語する者も現れはじめる。

 

「今この時を持って妖精の尻尾は解散じゃ!今後二度とその名を口に出すことは許さん!!」

 

だが、マカロフはそれでも押し切った。反対する者も、この一言で押し黙ったのだ。『マカロフは本気だ』と肌で感じとったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どう、しよっか……」

 

「そうだな……」

 

その後、まばらにその場から離れ始める。その中でウェンディや、シャルル、そしてマルクも離れてマグノリアの一角に座り込んでいた。

 

「あたし達、というかウェンディとマルクは本当に他で働けないわよ?」

 

「だよな……俺達はギルド以外のことを知らなさすぎる。」

 

「どうしよう……」

 

しばらく考え込む3人。しばらく何もしないでも、暮らしていける金はある。あくまでも飯の代金だけで考えれば、だが。

つまり、今すぐにでもお金を稼ぎに行かないとまずいのだ。

 

「……蛇姫の鱗(ラミアスケイル)に行くか。」

 

「へ?な、なんで?」

 

突如提案したその案に、ウェンディは困惑する。だが、シャルルは察したのか納得の顔をしていた。

 

「そうね、確かにそこなら問題なさそうだわ。」

 

「で、でも……」

 

「何より、あそこにはシェリアがいるんだ……どこか全く別のギルドに行くよりマシさ。」

 

「……迷惑、じゃないかな。」

 

「……ウェンディ、俺達は依頼者としてでもただ宿を貸してくれって言う訳でもないんだ……」

 

マルクは拳を握りしめながら空を見上げる。彼にとっても、その選択は何も思わない訳では無い。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「……」

 

「……働くには、生きていくには必要なことよ。」

 

「うん……そうだね。」

 

少し渋っていたが、ウェンディも納得したようでこれで3人で蛇姫の鱗に行くことが決まったのだった。

 

「まぁウェンディがいいなら、あたしは人魚の踵《マーメイドヒール》でもいいのよ。」

 

「……それ、俺には別ギルド入れってことか……?」

 

「あそこ入りなさいよ、四つ首の番犬《クワトロケルベロス》。」

 

「いやいやいやいや……」

 

冗談を言い合いながら、マルク達は進み始める。妖精の尻尾解散、そして自身の親との別れ…そのようなことがあっても、3人は……ウェンディとマルクは、進んでいかなくちゃいけないのだ。

悲しい事があっても、前に前に……しかし、その心にはどこか空虚な感じが居座っているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冥府の門との戦いから1年が経過した。ウェンディ達は、蛇姫の鱗に入って、何とか馴染めていた。

だが、そこにマルクの姿はなかった。

 

「ウェンディ〜、お疲れ様〜……ウェンディ?」

 

「………」

 

「……ウェンディ、またボーッとしてるよ。」

 

「ひゃう!?」

 

ウェンディの首筋に、冷たいドリンクの入った瓶を当てるシェリア。なぜ彼女がボーッとしているのか、その理由を彼女達は…蛇姫の鱗全体が知っている。

 

「……また、今日も見つからなかったの?」

 

「……うん。」

 

「……いなくなって、半年か…」

 

シェリアは、近くにあった写真立てを手に取ってその中の写真を眺める。

その写真には、ウェンディ、シャルル、シェリア、マルクの4人が映っていた。

 

「……いつからかマルクがいなくなって、もう半年…どうして帰ってこないんだろ……」

 

「ま、まだみんな探してくれてるから……」

 

ウェンディが呟いた言葉に、フォローを入れるようにシェリアが励まそうとする。その言葉に対して、ウェンディは弱々しい笑みを見せるだけだ。

 

「ウェンディ、あの……」

 

「…マルクのね、匂いはするんだ。」

 

窓を見ながらウェンディは呟く。この言葉自体は、前から聞いていた。滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の鼻は、確かに強力ではあるが幾らなんでも近くにいるというのに、一向に姿を表さないのは不自然である。

 

「……マルクはなんで、姿を見せないんだろ。近くにいるんだよね?」

 

「分かんない……理由も告げなかったから…きっと、マルクにとっても触れられたくないんだと思う。」

 

「……半年前、か。」

 

「シェリアが私達と一緒に行った、以来の時からだったよね……」

 

そう言って、ウェンディは思い出し始める。半年前から、ウェンディ、マルク、シャルルの3人が蛇姫の鱗に入った頃からの記憶を漁り始める。一体、どこからマルクに何かしらの異変が起きていたのか……それを探るために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、それらの状況を向かいの建物の屋上から覗く、フードを被った男が1人。決して悟られないように、目立たない色のフードを被って誤魔化してはいるが、その視線には並々ならぬものが込められていた。

 

「……ウェンディ…」

 

手も足も、そして顔もフードに完全に覆われており、何者かが完全に把握出来なくなっていた。

それほどまでに自分を見せたくなかったのか、それ以外の理由もあるのか。

 

「……あれは…」

 

男は、少し視線を傾けると見慣れたピンクの髪の男と、金髪の女性を見かけた。

火の滅竜魔導士ナツ・ドラグニルと、星霊魔導士のルーシィ・ハートフィリアであった。

 

「……何故…?」

 

妖精の尻尾は既に解散している。わざわざここに用事に来ているということは、ウェンディが目的だろう。逢いに来ただけか?それは違うだろうと、即座に頭の中で否定する。

 

「……連れ戻す、のか…妖精の尻尾に。」

 

ナツは、妖精の尻尾の解散を知る前に出たのだ。そして、彼の性格ならば妖精の尻尾の解散なんてマカロフを殴ってでも止めようとしただろう。

それほどまでに、彼にとっては家族がいるところだったのだ。

 

「……けど…」

 

男は、腕に被っている布を取り除く。そこには、明らかに人間の腕ではない真っ黒なものがそこにあった。

指の数、そして指の長さは人間相当のものだが、その爪の長さや爪の形…そして何より手の色や腕の色が真っ黒に変色しているのだ。

 

「……この体になった俺は、いても気味悪がられるだけだ。みんなが『大丈夫だ』と答えても、それ以外の全員が気味悪がるだろう。

俺は……戻れない。」

 

風が吹き、フードが外れる。そこにはマルクの顔があった。そう、この男はマルクであった。しかし、その顔の半分は黒く染まり、牙も生え渡っていた。半分だけ、であるが。

 

「……っとと、見えちゃまずいな……ナツさんにバレる前に戻らないと。」

 

マルクは踵を返して走って、建物から飛び降りる。その直後に背中から羽を生やして、大きく空を羽ばたき始める。

 

「……バレてないといいけど。」

 

翼をはためかせながら、マルクはどこかへと飛んでいく。ウェンディのことも気にかかっているが、どうしようもないことだけは、ハッキリしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んぁ?」

 

「ナツ?どうしたの?」

 

「……マルクの匂いがする。」

 

「そりゃあ、蛇姫の鱗に入ったって情報があるんだから……いるでしょう。」

 

ナツは振り返って首を傾げる。確かに、ルーシィの言う通りではあるのだが、彼にはどこか違和感があった。

匂いは間違いなくマルクだったが、なぜここまで来ておいて自分達に会っていかないのか、それが妙に気になった。

 

「何が気になるのよ。」

 

「うーん……わかんね!!」

 

「しっかりしてよね、ナツ。」

 

やれやれと言った感じでハッピーが首を振る。それを気にしないまま、とりあえずマルクのことは一旦保留にして、ナツ達はウェンディに会いに行くのであった。

だが、三者三様の思惑が交錯する中、ギルド・蛇姫の鱗に今まさに重大な事件が起きようとしていることを、誰も気づかなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年前、ウェンディとマルクとシャルルが、蛇姫の鱗に入った日。その日から、3人の全てが動き始めたのだ。

 

「よろしくお願いします。」

 

「歓迎するよ、3人とも。」

 

「ウェンディ〜」

 

「シェリア!」

 

ウェンディが来たことにより、テンションが上がっているのか手を握ったりハグをしたりするシェリア。その微笑ましい光景を見ながら、話はマルクが進めていく。

 

「…しかし、妖精の尻尾の事は…」

 

「いいんです、確かに悲しいのは事実ですけど…悲しんでばかりもいられませんしね。」

 

「ふ、確かにその通りだな。」

 

リオンは、それ以上妖精の尻尾のことに関して追求することは無かった。蛇姫の鱗に入った直後は仕事はせず、色々街やギルド内を案内された。

仕事をするのは、2日目からだった。

 

「じゃあ、私といこう!」

 

「うん!」

 

3人でチームを組む予定だったが、そこにシェリアが入ってくる。ウェンディは、自分の傷を回復できないので結構有難いとマルクはこのとき考えていた。

その日の初めての仕事も、次の日も次の日も……仕事はかなり順調だった。だが、入って1ヶ月程でマルクに異変が起きる。

 

「っ……」

 

「マルク?どうしたの?」

 

「……いや、なんでもないよ。」

 

「そ、そう…?」

 

マルクのその言葉に嘘偽りはないと感じて、ウェンディはそれ以上追求することは無かった。

だが、その日からマルクは1人でどこかに行くようになっていた。気づいたらいなくなっており、1度着いていこうともしたが撒かれて後を追うことができなかった。

そして、半年前。

 

「……あれ、マルクまだ帰ってきてないんですか?」

 

「受注した記録もないし……依頼でどこかに行った、って線は薄い…何かに巻き込まれたか?」

 

その日から、しばらくの間蛇姫の鱗の何人かでマルクを探すことにした。しかし、影も形も掴めずにそのまま捜査は打ち切られてしまった。これ以上探し続けていると、仕事もままならない状態になりかねないと、マスターが判断したからだ。

だが、それならば仕事と両立して探してやるという者もいた。だが、何かに巻き込まれた、にしては何も起きなさすぎるしたとえ本当に巻き込まれていたとしても、これほど探して見つからないという事は……という所まで語られた。

 

「……ウェンディ、今ちょっといいかしら?」

 

「何?シャルル。」

 

この1年で、変身魔法を覚えたシャルル。そのシャルルが、ウェンディを名指しで指名してきたのだ。

 

「ナツが来てるわ。ルーシィと、ハッピーと一緒にね。」

 

「ナツさん、が……!?う、うん、わかった!」

 

両頬を叩いて、気合を入れ直すウェンディ。そして、ナツ達に会うために緊張しながらも旧友に会える喜びで少しだけ、笑顔になれたのであった。


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