FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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魔を取り戻す

「うおおおおお!」

 

「何とも面白い!そうかそうか、力を一時的に取り戻したのかマルク・スーリア!」

 

連続で拳を繰り出していくマルク。その拳を適度にあしらいながら、グラトニーは少しづつ後ろに下がっていた。

その表情は、未だ余裕を保っていた。

 

「失われた能力を、イービラーで補ったか!父親を喰らった気分はどうだ!?お前の育ての親の味はどうだった!?」

 

「うるさい!!お前を倒して、イービラーを安心して眠らせる……それか俺が今できることだ!!魔龍の(アギト)!!」

 

両足を開き、挟み込むように上下から蹴りを入れようとするマルク。しかしグラトニーは蹴りあげてくる足を自身の足で押さえ込み、かかと落としを決めようとする足を片手で防ぐ。

 

「惜しいな!!もっと手数を増やせば話は変わっていたかも知れないぞ!?」

 

「滅竜奥義!!魔光絶闇激!!」

 

「ぬぉっ!?」

 

両手から魔力を吹き出させて、そのまま体を回転させるマルク。まるでドリルのように回転し始める。それによって、マルクの足を掴んでいたグラトニーも一緒に回転させられて、横顔にかかと落としを決められるハメになっていた。

 

「だらァ!!」

 

「ぐっ……ははは!やられたか!!だがまだまだこれからだ!!」

 

「くそっ!!」

 

まるで、ダメージがないかのように振る舞うグラトニー。しかし、恐らくダメージ自体は入っているが、それ以上にこの戦いを楽しもうとするグラトニーの感情の方が上回っているということだろう。

 

「お前、何でそんなに楽しそう戦ってんだ!!」

 

「は?いやいや、楽しいから戦うんだ。戦いそのものが楽しいんだよ、それ以上の理由なんてあるわけが無い!!」

 

「……お前みたいなのは、生きてるだけで周りに不幸を撒き散らすタイプだ!!」

 

「ははは、いいだろう!!なら俺を倒して見せろ!!」

 

「言われ、なくても!!」

 

マルクが拳を打ち出せば、グラトニーは軽くはたいて回避していき、グラトニーが攻撃をすれば、マルクはなんとかガードしきる。

それの繰り返しを続けていた。

 

「もっとだ!もっと打ち込んでこい!!」

 

「くっ!」

 

グラトニーに、一切の焦りも疲れも感じない。未だあしらわれるほどに戦力が傾いている、ということだろう。つまり、対等な立場ですらないのだ。

 

「俺に勝ちたいか!?ならもっと強くなるべきだった!自分の体の幼さを恨め、魔力のなさを恨め、そして何より上位互換に当たったことを恨め!!」

 

「幼くても戦える!魔力はお前から奪い取る!!お前が上位互換なら、その力もまとめて全て食らう!!」

 

「なら、この一撃を耐えてみろ!!」

 

マルクが拳を繰り出す、それに合わせてグラトニーも全く同じように拳を繰り出す。

そして、2人の拳がぶつかり合いそのまま押し合いが始まる。

 

「ぐっ……!」

 

「このまま押し合えば、貴様の拳が砕けるぞ!!」

 

「お前に砕かせる気もないし、負ける気もない!!」

 

「何っ!?」

 

マルクは、()()()()()()()。バランスを少しだけ崩したグラトニーは、即座に立て直そうとするがその時点で既に手遅れとなっていた。

 

「おらぁ!!」

 

「うぐっ!!」

 

「もう1発!!」

 

マルクの膝蹴りが、グラトニーの腹部に直撃していた。そして、その直後には地面に叩き落とされていた。

 

「ぐはっ……!?」

 

グラトニーは、こう感じた。『スピードとパワーが上がってきている』と。それも段階ごとに、一撃を入れ合う事に確実に明確に上げてきていた。

 

「まだだぞオラァ!!」

 

「ははは!!イービラーの魔力に適応してきたか!?それでこそ、だ!!」

 

だが、グラトニーもまだ本気を出していなかった。そこから更に体のギアをあげて、さらに本気に近い力を出し始める。

 

「まだ、俺の本気に、届いてないぞ!!」

 

「が、ぐっ!!」

 

顔、腹、両腕に両足と一瞬でそれらの部位に2発以上拳を叩き込むグラトニー。しかし、それだけでは終わらずに、顎に膝蹴り、そして仰け反ったところで、顔を掴んでそのまま地面に叩き落とす。

 

「がはっ……」

 

「まだなのは俺も同じことだ!!」

 

そのまま持ち上げて、マルクを正面に投げるグラトニー。そこで、マルクの体に対して違和感を覚えるが、それもすぐに忘れられる。

 

「魔龍の咆哮!!」

 

マルクが即座に魔法で応戦してきた。だが、違和感はそこではない。しかし、何かが良くわかっていないために即座にそれを保留にしてからブレスをかわしてから、マルクに素早く詰め寄る。

 

「ふん!」

 

「遅い!!」

 

「なっ……!?」

 

まだ全力ではないとはいえ、先程よりも早い速度で攻撃を出したにも関わらず、マルクはかわしたのだ。それも、彼にとってはその攻撃が遅い、ということも教えながら。

 

「ならばっ!!」

 

「また、早く……!」

 

完全な全力を出すのは、グラトニーはあまりしたくなかった。何故ならば、自身の体が全てを喰らい始めてしまうため、今歩いている地面すら食らい始めかねないからだ。

 

「触れるなよマルク・スーリア!俺のこの形態は、魔力があったとしても全てを食らう!!暴食なんだよ、俺は!!」

 

「暴飲暴食するくらいなら、ぶん殴って止めりゃあいいだけだ!!」

 

「だったら触ってみろよ!お前の魔力…いや、イービラーの魔力があったとしても、俺はそれを食らうだけだ!!」

 

グラトニーは、完全に全力を出していた。拳を震えばその場の空気がなくなり、踏んでいる地面は毎秒無くなり続けていた。

 

「ぐっ……ここまで、とは…」

 

「本当に喰らえるもんなら、喰らってみろよ!」

 

しかし、マルクの急激な成長の方が上をいっていた。一撃一撃が、更に素早く、重く……何より、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「がぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「吠えてもなんも、変わんねぇからな!!」

 

マルクの体にまとわりつく魔力が、だんだんと変化していく。黒く、黒く……真っ黒すらも超えて最早暗黒にすら届きつつあった。

まるで、光すらも吸収してしまっているかのような……それほどまでに黒い鎧を、魔力で構成し始めていた。

 

「そうか……そうか!!先程までの違和感はこれか!!マルク・スーリア!貴様…俺からの攻撃で()()()()()()()()()()()()()()()()()それが、その魔力が証拠だ!!」

 

「わかんねぇよ…ただ、がむしゃらなだけだ。

けどな、お前がイービラーを殺し、そして俺も殺したあとにみんなの前に向かうと考えるとゾッとする。」

 

「はっ、絆とやらか?馬鹿馬鹿しいぞ、戦うにはそのようなもの不要だ!!」

 

「だっ……たら、俺に勝って俺を殺して証明して見せろよ!!」

 

マルクは拳を振るう。それはグラトニーの顔面を狙い撃ち、殴り飛ばしかねん勢いのものだった。

だが、吹き飛ばされる前にグラトニーはマルクの腹に蹴りを入れる。本来ならば、それで終わりだったのだが……マルクの腹は蹴りを入れられた跡が付いただけで、グラトニーの魔力が働いているようには見えなかった。

 

「ぐはっ…」

 

「ぐぅっ……」

 

お互いに吹き飛ばされて、墜落するかのように地面に落ちる。2人のパワーも相まって、引きずりながらである。

 

「そうか、俺の魔力を…ならば、俺の方が格下になるのは当たり前か。」

 

「何?」

 

「俺の魔力+イービラーの魔力。俺には、俺の魔力しかないんでね。こればっかりは量じゃない、質のルールだ。」

 

「質のルール、だと?」

 

グラトニーは頬を抑えながらすぐに立ち上がる。対照的に、マルクは息を切らしながら立ち上がっていた。

 

「あぁそうだ、質だ。質が上のものは、必然的に勝てるんだよ……自分よりも質が下のものに。」

 

「……だが、ヴァレルトはお前に勝ったらしいじゃないか。お前の魔力があれば、やつの電撃は余裕で防げるだろう。」

 

「質というものは、上げられるんだよ。色々な方法で、一時的にでも永続的にでも。

それで、やつが一瞬だけ俺の質を上回った……それだけの事さ。」

 

グラトニーは構える。既に体力も心許ないが、マルクは同じように構える。だが、一向にグラトニーが来る気配がない。

 

「……言っただろ、質は上げられると。」

 

「っ!!させるか!!」

 

一向に動かないグラトニーだったが、なぜ動かないのかマルクはすぐに理解した。

魔力を練っていたのだ。それも、とても濃密にである。

 

「お前がイービラーの分の魔力を使うならば、俺は俺の分×2の魔力の質を上げるだけだ。

それでようやく、お前以上の力になる。体中の喰らう速度は、早まってしまうがな……!」

 

「お前、なんでそこまでして……」

 

「戦いたいだけだ、そのために勝ちを狙うし卑怯な手以外の手段ならば、なんでも取ると決めている。」

 

「……まるで動物だ。」

 

ただがむしゃらに戦いだけを求めるその姿は、もはや悪魔ともマルクは思えなかった。

戦いたいだけが彼の本能であり、それに知能がついたかのようなレベル。人間とは違う、と言えばそこまでだが…

 

「本能で生きる、悪魔だから以前の問題だ。そもそもゼレフ書の悪魔共はいささか理性すぎる。あれだけの力を持っているのだから、本能で生きればいいものを……」

 

「全員お前みたいに考えなしだと、ギルドどころかチームとして成り立たなくなるからな。」

 

再び攻めるために、どうするか考えるマルク。しかし、どれだけ頭の中でイメージしても一撃目を入れられるイメージが湧いてこなかった。

 

「さぁ、続きをしようかマルク・スーリア。お前が強くあればあるほど、俺はもっと楽しめる。」

 

「ちっ……」

 

楽しませることは不本意だが、しかし戦わなくては…こいつを倒さなくてはならなかった。

だが、このままいっても堂々巡りになるだけである。しかも、自分の体力と魔力だけはただ減っていくおまけ付き。このままいけば、負けることは確実である。

どれだけ魔力を喰らおうと、魔法をほとんど使わない相手なのでほとんど喰らえないのだ。

 

「呪法、呪力か……」

 

「そう言うもんだと初めて知ったのさ、ゼレフ書共を見てからな。ま、これが本当に呪法なのかどうかはともかく……」

 

グラトニーは、マルクをじっくりと観察する。そして、鼻で笑うかのよに、まるで嘲笑うかのような表情をしながら、マルクに指をさしてくる。

 

「どうやら、ほんの少しづつしか魔力を吸収できていないようだな。」

 

「……うる、せぇ!!」

 

過剰な魔力消費、結果として得られる魔力はそれと比べると1/10もあるかどうか怪しいのだ。

だが、確実にグラトニーの力を魔力として蓄積することは出来つつあった。

 

「おっと……!どうした?動きが鈍くなってるぞ?」

 

「くっ……」

 

意識してしまったせいか、マルクは魔力消費を抑えてしまう。その結果、先程よりも動きが遅くなってしまった。

 

「ふん、言葉程度で惑わされるのはまだまだだな。」

 

「うるせぇ、って!!」

 

無理矢理魔力消費を増やして、速さを取り戻し始めるマルク。それを見てから、グラトニーはまた気づいたことがあった。

マルクの魔力は元々黒っぽい色の様なものだったが、段々と色の濃さが増してきていたことに。つまり、魔力消費をすればするほど魔力が濃くなっていっている……ということである。

 

「……どうなるのやら。」

 

「何を1人でブツブツと!!」

 

「おっとすまんな……貴様が今からどうなっていくのかが楽しみでな!!」

 

「何を訳の分からんことを!!」

 

マルクは、自身の魔力の変化に気づいていなかった。もし、完全に魔力がゼロになってしまったら……ただゼロになるだけなのか、はたまた未知の変化をしてくれるのか……内心、とても楽しそうにしているグラトニー。

戦いは、ようやく終盤へと向かい始める。


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