FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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終劇

「……このまま行くと、どうにも足の付け根部分に着いてしまう気がするんだけど、ウェンディは一体どこにいるのやら……」

 

ウェンディと合流するために彼女の足跡を追うマルク。しかし、匂いを辿っていく内に、段々とエルザの言っていた足の付け根部分に向かっている事だけは理解出来た。

 

「ナツさん、グレイさん、ルーシィさん、エルザさん、一夜さん……そして、エルザさんが名前を教えてくれなかった男が一人。

六本の足を同時に潰すために……それぞれが足に向かっている、ってエルザさんは言ってたけど……その内の誰かの所にいるのか?それとも……自分で、壊しに……?」

 

ウェンディもまた、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の一人である。だから何かしらの攻撃魔法を持っている事は当たり前といえば当たり前だが、彼女が自主的に向かう事なんて滅多に無かったから内心驚いていた。

 

「……開けた場所に……ウェンディ!?」

 

「マルク!無事だったの!?」

 

魔水晶(ラクリマ)のある部屋に辿り着いたマルク。そこにはウェンディとシャルルの二人しかいなかった。

やはり、マルクの予想通りウェンディが魔水晶を潰すために動いていた。

 

「エルザさんが助けてくれたからな……にしても、さ。ウェンディ……大丈夫か?」

 

『大丈夫』という言葉が何を指しているのか、ウェンディも理解したようで、言葉を詰まらせていた。

だが、すぐに覚悟を決めた表情になり、無言で頷いた。

 

「……シャルル、何があった?ウェンディがこんなに……その、やる気を出すなんて……」

 

集中しているウェンディの邪魔にならないように、マルクはシャルルにウェンディのことを尋ねる。目を離していた短い間に一体何を決めたのか。

 

「……化猫の宿(ケットシェルター)を守る為、ってあの子は言ったわ。弱気なあの子が、随分頑張ってると思わない?」

 

「……ウェンディも、やっぱり同じ気持ちだったんだよな。……滅竜魔法は誰かを守る力、か……」

 

「あら、その言葉は貴方の思いついた言葉かしら?ニルヴァーナをとめた滅竜魔導士さん。」

 

「……いいや、俺の親の受け売りさ。誰かを潰すためでなく、誰かを守る為に魔法を振るう。その為の滅竜魔法…やっぱりウェンディは純粋だな。誰かを守るために力を発揮できるって……いいことだと思うし。」

 

「それは貴方も同じじゃないかしら?誰かを倒すためには、滅竜魔法を使っちゃいけなかったんでしょ?

今まで誰かに見せることすらしなかったのに……随分目立ちたがり屋に変わったものね。」

 

お互いに笑いながらウェンディを見守る。魔水晶を同時に壊す時間、それは刻一刻と迫っていた。

何かを守るために魔法を振るって、そして守りきる為に相手を無力化する。

 

「天を食らう竜……天空の滅竜魔導士か……」

 

「……天竜の咆哮………!」

 

そう言いながらウェンディは空気を食べて魔力を充填する。強大な一撃を放つ為に。

そして貯めに貯めた魔力、その全てをウェンディは一瞬で放つ。暴風、空気の渦は『竜』がとぐろを『巻』くかのように渦巻き、そして竜巻となってその規模を拡大させる。

そしていとも簡単に魔水晶は破壊され、その直後にニルヴァーナが轟音を鳴らし始めた。

 

「……私、やったの?」

 

「あぁ……やったなウェンディ。お前が止めたんだよ、ニルヴァーナを。そんでもって化猫の宿も守った……良くやった、なんて上から目線で言えたことじゃないけれど……それでも、ありがとう……!」

 

「きゃっ!?」

 

嬉しさのあまりウェンディを抱きしめてしまうマルク。抱きしめられた本人は顔を少しだけ赤くしていたが、すぐにシャルルがマルクの頭を叩いて注意をする。

 

「イチャイチャしてないで、早く出るわよ!なんか崩壊しかけてるわ!!二人共こっちよ!!」

 

「あ、あぁ!」

 

「ま、待ってよシャルルー!!」

 

シャルルは走って出口まで先導し始める。その後をマルクとウェンディがついて行く。

魔水晶を失ったことで、その強大な建造物の重みに耐えられなくなっていたニルヴァーナ。つまりは自壊し始めて、瓦礫がそこら中に落ち始めていた。

 

「きゃっ!」

 

「「ウェンディ!!」」

 

しかし走っている最中で、ウェンディは瓦礫に躓き転んでしまう。咄嗟にマルクとシャルルが庇いに入るが……何かに支えられ、マルクは宙に浮かぶ感覚を覚えた。

 

「ジュラさん!」

 

ジュラが、ボロボロになりながらも三人を庇っていた。彼は3人に無言で笑みを向けた後、そのまま崩れゆくニルヴァーナ内を、時折降って来る瓦礫を魔法で防ぎながら駆け抜けていく。

 

「ニルヴァーナを壊したのは……ウェンディ殿か?」

 

「は、はい!」

 

「そうか……良くやってくれた二人共。マルク殿はニルヴァーナを防ぎ、ウェンディ殿はニルヴァーナを止めるために動いてくれた……聖十大魔道(せいてんだいまどう)などと呼ばれておきながら、恥ずかしいものだ。」

 

「そんな事ないですよ。ジュラさんがいてくれたおかげでブレインを倒すことができた。それに貴方の存在は、皆を安心させてくれる……ってくらい存在感があるんですから。」

 

「そうか……励みになるよ。」

 

走りながらウェンディ達に対して賞賛の声をかけるジュラ。喋りながら走り、そしてすぐに崩壊によって空いた横穴から脱出して、何とか外へと出ることが出来た。

 

「みんな無事か!?」

 

ほぼ同時のタイミングで出てきていた他のメンバー達。即座にグレイが今いる面子の確認を行う。

グレイとジュラ、そしてジュラに抱えられているウェンディ、シャルル、マルクに、一人脱出していたエルザ、そして何故かムキムキになっている一夜、ギリギリで脱出していたルーシィとハッピーの合計9人である。

しかしそうなると、足りないメンバーがいた。

 

「ナツさんは!?ジェラールもいない!」

 

「見当たらないな……」

 

ナツ、ジェラールの二人が居なかった。とは言ってもジェラールの存在を知っているのは一部だが。

そうして、いないナツ達を探そうと全員が動こうとした瞬間、ハッピーのいる地面が風船のように膨らみ、そして割れた。

 

「愛は仲間を救う…デスネ。」

 

「ナツさん!!」

 

砂の中から出てくるコードネーム:ホットアイことリチャード。彼はナツともう一人の人物を抱えて砂の中から現れた。

 

六魔将軍(オラシオンセイス)が何で!?」

 

「色々あってな……大丈夫、味方だ。」

 

そして、二人がリチャードから下ろされて地面に立った瞬間に、ウェンディは嬉しさのあまり、ナツに飛びついていた。

 

「ナツさん!本当に、約束を守ってくれた……ありがとう!ギルドを助けてくれて!」

 

「みんなの力があったからだろ?ウェンディの力もな。今度は、元気にハイタッチだ。」

 

「はい!」

 

そう言ってウェンディはナツとハイタッチを交わす。マルクはこの時知らなかったが、ナツは六魔将軍のマスターであるマスター・ゼロと戦い、そして勝ったのだと教えられた。

そのマスター・ゼロと言うのがブレインのもう一つの人格だったらしく、ニルヴァーナを発射させたのもゼロだったらしい。

つまり、マルクが聞いた声はブレインの物ではなく、マスターであるゼロの悔恨の声だった、ということになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員無事で何よりだね。」

 

「皆……本当によくやった。」

 

「これにて作戦終了ですな。」

 

改めて、全員の無事を確認した一行。どうやら他のメンバー達は、マルクが一瞬だけ見たクリスティーナの中にいたらしい。

 

「……で、あれは誰なんだ?」

 

グレイが少し離れた位置に立っているジェラールを見てそう呟く。どうやらウェンディ以外でジェラールの姿を知っていたのは、この場にいる妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーのエルザとナツ、ハッピーだけだったらしい。

 

「……ジェラールだ。」

 

「何っ!?」

 

「あの人が!?」

 

しかし名前だけは知っていたらしく、エルザが名前を伝えると驚いていた。

 

「だが、私達の知っているジェラールでは無い。」

 

「記憶を失っているらしいの。」

 

「いや、そう言われてもよう……」

 

「大丈夫だよ、ジェラールは本当はいい人だから。」

 

その事を知っているのはウェンディだけだろう、と内心でマルクはツッコミを入れていた。ウェンディは純粋だから、あまり面と向かって言うことはできないが。

そして、ジェラールの元にエルザが向かう。何やら話し合いを始めたのだが、こういう話は本当に聞いていいのだろうか……と、ジェラールと話すエルザの雰囲気を感じ取りながらマルクはそう思っていた。

しかし、そんな時に唐突に一夜の声が響く。

 

「メェーン!」

 

「どうしたおっさん!?」

 

「トイレの香り(パルファム)を…と思ったら何かにぶつかった〜…」

 

「何か地面に文字が……」

 

「こ、これは……術式!?」

 

この場にいる全員を囲うように術式が現れる。術式は、起動に時間こそかかるが、内側にいる者にルールを課す魔法だ。

 

「いつの間に!?」

 

「閉じ込められたァ!?」

 

「誰だこらァ!!」

 

そして、術式が発動してすぐに、どこからとも無く大量の人が現れる。統一された服装、統一された武器……十字架のようなマークを服のど真ん中に描いて、杖を装備している者達。

 

「……手荒なことをするつもりはありません、しばらくの間そこを動かないで頂きたいのです。

私は新生評議院第四強行検束部隊隊長、ラハールと申します。」

 

「新生評議院!?」

 

「もう発足してたの!?」

 

新生評議院、少し前に評議院が一時的に崩壊再構成された組織。崩壊した理由は、評議院の魔法『エーテリオン』の悪用を目論んだものによっての本部の壊滅があったからである。

 

「我々は法と正義を守るために生まれ変わった。如何なる悪も決して許さない。」

 

「おいら達何も悪いことしてないよ!!」

 

「お、おう!!」

 

「何でそこで強く否定出来ないんですかナツさん……」

 

「存じております。我々の目的は六魔将軍の捕縛……そこにいるコードネーム:ホットアイをこちらに渡してください。」

 

当たり前だと言えば、当たり前の話である。どれだけの善行を積んだとしても、その前にとんでもない悪事を働いていれば、当然その人物は犯罪者として扱われる。

それと同じようにニルヴァーナ破壊の手助けをしたと言っても、ホットアイ……リチャードは六魔将軍である以上、犯罪者として扱われるのだ。

 

「ま、待ってくれ!!」

 

「いいのデスネ、ジュラ。」

 

「リチャード殿……」

 

微笑みながらジュラの肩に手を置くリチャード。それ諦めではなく、償いをしたいという彼の気持ちの表れだった。

 

「善意に目覚めても過去の悪行は消えませんデス。私は一からやり直したい。」

 

「……ならば、ワシが代わりに弟を探そう。」

 

「本当デスか!?」

 

「弟の名を教えてくれ。」

 

リチャードのその言葉に、ジュラは微笑み返す。やり直したいという彼の思いを酌んでのことだった。

 

「名前はウォーリー、ウォーリー・ブキャナン。」

 

「ウォーリー!?」

 

その名前に聞き覚えがあるのか、エルザとナツ、ハッピーが驚いたような表情をしていた。

 

「その男なら知っている。」

 

「なんと!?」

 

「私の友だ…今は元気に大陸中を旅している。」

 

エルザのその言葉に、リチャードは涙ぐみ、嗚咽を漏らす。探していた弟が元気で暮らしている、その知らせだけで彼の心はとても救われていた。

 

「これが…光を信じるものだけに与えられた、奇跡という物デスか……!ありがとう、ありがとう……!ありがとう!!」

 

そして、リチャードは評議院に連行される。しかしまだ何か用件があるのか、術式の解除はされなかった。

 

「もう良いだろ!術式を解いてくれ!漏らすぞ!!」

 

「そうですよ、六魔将軍の捕縛……果たしたんなら俺たちを解放してください。」

 

「いえ、私達の本当の目的は六魔将軍如きではありません。」

 

「え?」

 

そう言いながらラハールは指を向ける。リチャードが六魔将軍として捕まった、なればもう一人も捕まらなければならない。

 

「評議院への潜入、破壊……エーテリオンの投下……もっととんでもない大悪党がそこにいるでしょう。貴様だジェラール!来い!抵抗する場合は、抹殺の許可も降りている!」

 

「そんな!?」

 

「ちょっと待てよ!!」

 

「その男は危険だ……二度とこの世界に放ってはいけない……絶対に!!」

 

ラハールが強く言い放ち、面々が文句を飛ばす中……エルザだけがくらい表情を浮かべて黙っていたのだった。


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