それにより、最早邪魔されることがないと確信した同じく九鬼門が1人、キョウカは計画をフェイス計画ひとつに絞ることを決定。
しかし、その後九鬼門フランマルスが大量の魔力反応がある事を確認、映像で確認してみると、カードの束を抱えたエクシードの3人、ハッピー、シャルル、リリーがこちらに飛んできているのだった。
「ネコ…!?」
「あれは確か妖精の尻尾の…!?」
フランマルスは、ハッピーに見覚えがあった。それもそのはず、ナツが冥府の門のギルドに乗り込んだ時に、一緒にいたのをフランマルスは確認していたからだ。
そして、その時は九鬼門の1人シルバーに任せてきていた。てっきり同じく捕まっているか、殺したかと思っていたのだが……シルバーが取り逃したことを即座に理解した。
「あんな小動物から多数の魔力反応だと!?」
「キョウカ様、手に何かを持っているようですわ……カード!?」
持っているカードを見て、唖然とするセイラ。だが、この場にいる唯一の九鬼門では無い……それどころか、冥府の門ですらない悪魔である甲冑の悪魔は、一人の女性の姿を思い浮かべていた。
何故、自分がその女性のことを知っているのか分からなかったが、段々と理解し始める。これは、
「カナ…アルベローナ……カードに関する…魔法を、使う……」
「つまりあのカードは……妖精の尻尾の魔導士ですぞ!!」
「なんだと!?」
「そんな…私の……失態………」
声を震わせながら、驚くセイラ。彼女にとって、妖精の尻尾は既に全滅していなければならない存在。
だが、生きているのは自分の失態。その恐怖と、生きていたという驚きが合わさって、声が震えてしまっていた。
「防衛線を張れ!アンダーキューブに重力場を展開!フロント・リア・サイドキューブは第1先頭配置!
トップキューブには近づけさせるな!!」
冥府の門のギルドがあるのは、空中に浮かぶ立方体の島。そこに向かって、ハッピー達は飛んでいたが、急に島の底部に引き寄せられていく。
「わ!?」
「何これ!」
「吸い寄せられてる!!」
「これは…重力!?」
地面に叩きつけられるハッピーとシャルル。見事に着地するリリー。そして、その直後に冥府の門の兵士達が襲いかかってくる。
「オイラ達逆さまになってるの!?」
「そんなことより敵が出てきたわ!!」
「━━━全員カードから解凍!行くよ!!」
「「「おおおおおおおっ!!妖精の尻尾、出陣!!」」」
カナの魔法の一つにより、ハッピー達が持っているカードが全員妖精の尻尾のメンバーに戻る。
「………」
その様子を、遠くから1人の悪魔が見ていた。あの甲冑の悪魔である。戦うでもなく、かと言って情報を見て届けているなどでもなく。
ただずっと傍観に徹していた。冥府の門側も、そんな悪魔に構ってはいられないのか、無視して妖精の尻尾との戦いを続けていく。
「……ウェンディ、マーベル……」
そんな中、一人の少女を甲冑はじっと見続けていた。胸が激しく高鳴る。これがどんな感情なのかわからない。
だが、とても不愉快なものに感じていた。その不愉快なものの正体は、見れば治るのか?答えは否と、甲冑は即座にたどり着く。
「消せば、あの少女を消せば……!」
地面に手を付き、足を曲げて……一気に伸ばして飛び上がる。狙うはウェンディの頭上。
その小さな頭に、手を向けるだけでいい。触れるだけで、終わりである。
「っ……!?」
だが、向けられない。向けることは出来ない。しかし既に飛んでしまっていた。
「……」
「っ!?冥府の門!?」
故に、ウェンディの近くに着地することになってしまった甲冑。ウェンディは、落ちてきた甲冑の悪魔に即座に気が付き、距離をとる。
そして、魔法で迎撃しようとして……匂いに気がついた。
「あれ……この匂い…マル、ク……?」
「……」
「死ねぇぇぇぇ!!」
武器を振るって、ウェンディを殺しにかかる冥府の門。その武器に向かって甲冑は、ただ手を向ける。
「なっ!?な、なんで俺の武器が………」
「……」
そして、触れた部分から武器が消えていった。なにかに飲み込まれたかのように。
「き、貴様!そちら側に着くのか!?」
「…?やりたいように、やっているだけだ。」
自分でも、なぜ目の前の少女を助けたのか分かっていない。だが、何故か助けなければならない気がしたのだ。
「……く、くそぉ!!」
兵士の一人が逃げ出す。それを見届けてから、甲冑は一跳びで何処へと消え去っていく。
その場には、ただ呆然と立っているウェンディだけが残された。
「マルク……マルク、なの…?」
「……」
自分は何者なのか。
記憶が混濁している。
「……フェイス、白き遺産。」
先程部屋にあった地図。あれにはフェイスの位置が記されていた。既に誰かが向かっているらしいが、自分には関係の無いことである。
だが、そう思いながらも足はそちらに向かっていた。
「おや?存外貴方もお暇なんですね。それだったらエゼルさんの手助けにでも行ってほしいものです。」
部屋には未だフランマルスがいた。甲冑はそれを無視して、地図を確認する。それに軽くため息をつくが、すぐに地図に視線を向け直す。
「うーむ、やっぱりおかしいですな。フェイス出現予想地点とは別の場所に現れるなんて……小さなズレは予測していましたが、これ程とはぐむむむむ……どう思いますかこれ。」
フランマルスは甲冑に再度視線をむける。考えるような仕草をしてから、甲冑は口を開く。
「……予想地点が、ズレていた訳では無い━━━」
答えを言い切る前に、ここに来るまでにあるエレベーターが止まる音が聞こえてくる。
フランマルスはそれをいち早く察知し、甲冑を引っ張りこんで物陰に隠れる。
「何…!?この部屋……」
「沢山文字が浮いてる……あの大きい球体、地図みたいですよ。」
「制御室かしら……」
来たのはウェンディ、シャルル、ルーシィ、ハッピーであった。4人は隠れたフランマルス達に気づくことなく、部屋を見渡していた。
「おお…?もうこんな所にまで……守備兵のしょぼさはおいくらかおいくらか……」
「……何故隠れる。」
操作板を操作しながら、ルーシィは現状の再度把握に務めていた。そして、悔しそうな表情でため息をついていた。
「エルザが言ってた通り、フェイスの封印が解かれたみたい。」
「そんな……」
「この魔法陣使って、また封印できないのかな?」
「駄目ね、完全にロックされてるわ……動かせない。」
「…あれ?ここには現地の手動操作じゃないと起動出来ない、って書いてあるのに……起動してる!?」
その事を聞き、フランマルスはニヤリと笑みを浮かべる。既にエゼルが向かっていて、仕事をこなしているようだったからだ。
「仕事が早いですね……エゼルさん。」
「……これ、フェイス発動まで後41分って…!?」
ウェンディのその言葉に、隠れている2人以外は驚き焦り始める。何せ、一時間を既に切ってしまっていたからだ。
「41分!?あとたった41分で大陸中の魔力が!?」
「どうしようどうしよう!!みんなに知らせなきゃわー!?」
「落ち着きなさいハッピー。」
「ここを壊してもダメ!?」
「起動も解除も現地のみです!!」
「みんなに知らせてる時間はないわね……私たちで行きましょう!」
「あい!!」
即座に判断し、フェイスを止めようとした矢先…錫杖の音が鳴り響く。その音に、後ろを振り向くウェンディ達。
「仄暗き乙女の祈りは、地獄に響く鈴の音か。照らす魔皇は、大地を回復せし明星の息吹。
冥界に落ちた妖精の乙女よ…骸となりて煉獄を彷徨え。」
「が、がいこつ……」
「お面ですよきっと…」
冥府の門九鬼門、漆黒僧正キース。見た目は、完全に骸骨だが彼も歴とした悪魔である。
「……時間が無い、スキを作って脱出しよ。」
「はい。」
すぐに切り替え、いかにここを突破しようかと考えるウェンディ達。だが、ここにいる悪魔は彼一人ではない。
「早くフェイスを止めないと…」
「大変なことになるわ。」
「もう大変なことになっているんですよ、お嬢さん方。ゲヘヘヘヘ。」
「……」
キースの影からフランマルスと甲冑が現れる。そして、甲冑にウェンディは戸惑いを感じてしまう。
「っ……2人…!」
「あたしに任せて!開け金牛宮の扉、白羊宮の扉!!タウロス、アリエス!!」
「MOォ!出番ですかな!」
「頑張りますすみません!!」
ルーシィは2人の精霊を呼び出す。フランマルスは驚いていたが、キースと甲冑は特に驚くことなくその場に立ち尽くしていた。
「モコモコウール100%!!」
「もっ!?ぶほぉ!!」
「MOOOOOOO!ウールタイフーン!!」
「ぶほほっ!?」
アリエスが出したウールを、タウロスが戦斧を振り回して勢いよく巻き上げる。倒すための技でなく、アリエスのウールで拘束して、吹き飛ばす完全な足止め技である。
「今のうちよ!!」
「あい!!」
「フェイスの場所分かる!?」
「ドクゼリ渓谷の大空洞よ!!」
「急ごう!!」
「はい!!」
そのままルーシィとウェンディは、ハッピーとシャルルに捕まって、飛びながら移動し始める。
「……ふん。」
甲冑は、ウールの影響を全く受けていなかった。そのまま、普通に歩いて出てくる。
「MOォ!?」
「な、なんでモコモコが……すみません……」
「あー、すいませんね。驚くことは驚きましたが……『吸収』させてもらいますぞ!!」
フランマルスがそう言いながら、モコモコに絡まれた状態で腕を伸ばす。
「接続!!」
「MOッ!?こ、これは……」
「ひうっ!?」
「吸収!!」
フランマルスの腕が、タウロス達と同化する。まるで電撃のようなものが流れて、タウロス達は次第に力が抜けてきているのか、足を付く。
そして━━━
「レボリューション!」
「酷い見た目だ。」
「酷くありません!?」
タウロスとアリエスは、姿を消した。しかしそれは星霊界に帰ったのでなく、フランマルスの中に取り込まれたのだ。
アリエスを吸収したことにより、モコモコを気にせずに進めるようになったフランマルス。
「とりあえず……キースさんも先に行ったみたいですし、追いましょう。近道はあるのですよ、ゲヘヘヘヘ。」
「逃がしませんぞぉ!!」
「え!?」
モコモコを出しながら、フランマルスはルーシィ達の先回りをする。不意を突かれたのか、ルーシィとハッピーはモコモコにぶつかってしまう。
「なんでアリエスのモコモコが!?」
「ルーシィさん!」
「ハッピー!!」
「ウェンディ、時間がない行って!!」
「はい!!」
ルーシィの言う通りに、ウェンディはそのまま外へと飛び出す。だが、そのあとをすぐ追うように、甲冑が窓辺から飛び出す。
「あとは任せましたぞぉ!」
フランマルスの声も届く前に、甲冑は落下していく。しかし、走っていくのは些か時間がかかりすぎる。
そう考えた途端、甲冑の背中から機械質の羽が形成される。
「……」
そのまま甲冑はウェンディ達に続くように、空を飛び始めるのであった。