FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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苦戦

「ごめんなさい、元議長の家まで行ったんだけど……」

 

「エルザもミラさんも、ナツもハッピーもいなかった。」

 

「私の鼻じゃあ後を追うまでは難しくて……」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)に戻ってきたウェンディ達。しかし、そこにはナツとハッピーの姿がなかった。

なぜなら、別行動とはいえナツは元議長の裏切りに気づいて先に向かっていたからだ。

 

「なぁおい、マルクも向かったはずなんだが……」

 

「いえ、マルクもいませんでした…」

 

「ガジル、お前が元議長の家まで行って匂いで捜索できないのか?」

 

「このガキに出来なかったんなら俺にも無理だ。人の匂いってのはそれほど長時間は残留しねぇ。」

 

「すみません…」

 

冥府の門(タルタロス)……何とかして本拠地の情報を得られるものか。」

 

顔を俯かせるウェンディ。マカオもそれで軽く気を落としていた。だが、いつまでも気を落としてはいられないと、何とかして本拠地を探れないか思案し始める。

 

「━━━見付けたー!オイラ本拠地見つけたよー!!」

 

その時、フラフラになりながらハッピーが戻ってくる。しかし、戻ってくる時に力尽きたのか、着地すると同時にそのままの勢いで転がる。

なんとか、その場で立ち上がって皆に説明しようとするが……

 

「エルザとミラが捕まっちゃって!元議長が裏切り者で…ナツまで、オイラ……!」

 

「落ち着きなさい。」

 

「あい!!」

 

慌てるハッピーを落ち着かせるために、シャルルが両頬を押さえつけて無理やり落ち着かせる。

そして、ハッピーがそのまま事の顛末を話し始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マルクの考えた通りだったとはな……」

 

「しかし信じられん…元議長が冥府の門側に……」

 

「エルザとミラが捕まるなんて……」

 

ハッピーの説明により、元議長であるクロフォードが裏切っていたこと。エルザとミラが薬を盛られて、眠らされて捕まったこと。それに気づいたナツは冥府の門に乗り込み、逆に捕まってしまったこと。

 

「それと……」

 

「?」

 

ハッピーはグレイを見るが、すぐに首を振る。そして、今度はアジトの情報について話始めるが……

 

「あいつらのアジトは移動してるんだ……変な四角い島みたいな…」

 

「移動じゃと!?」

 

「それじゃあ正確な位置は分からないの?」

 

「ハッピー、大体の場所と向かってる方向わかる?」

 

レビィが、ハッピーに尋ねる。ハッピーは、来た時のこととアジトに向かっている時のことを思い出して、ジェスチャー混じりでなんとか説明していく。

 

「オイラ…向こうから来て、あっちに動いてて……」

 

「任せて!私が的の進行経路を計算する!!必ず場所を突き止めてやるから!!」

 

「急げレビィ!他の者は出撃準備じゃ!!」

 

「おぉ!!」

 

活気づく妖精の尻尾。しかし、ウェンディは顔を俯かせていた。マルクが捕まったこと。

マカオは大丈夫だと信じて送り出したらしいが、やはり心配なものは心配なのだ。

 

「……ガキンチョ、前見ろ。」

 

「ガジルさん…?」

 

「てめぇがいの一番に諦めてちゃあ、アイツにわりぃだろうが。」

 

「……はい!」

 

ガジルに励まされて、ウェンディもマルクを助けるために動こうとするのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁクソっ!!」

 

そして、当の本人であるマルクはイラついていた。檻から出て、ずっと一本道であるはずなのに、誰も止めようとしないこと。襲ってくれば、まだ戦闘して突破する方法もできるのに、例え目の前に来ても襲うどころか全くのスルーを決められてしまっているのだ。

調子が狂いすぎて、イライラが高まっていた。

 

「隠れるところもねぇのに……んだよこの扱いは……ん?」

 

しばらく走っていくと、少し大きな部屋へと出た。看板に書いてある文字は『ラボ』と書かれてることだけがわかった。

 

「ラボ……?」

 

何故か妙に気になり、マルクはそのラボの中をゆっくりと進みながら回っていく。

どこかに別の道があるかもしれない……という事は、一応考えていたものの、それ以上の何かによって突き動かされていた。

 

「━━━━━━!」

 

「っ……なんだ、この声……」

 

マルクの耳に響く声。その声の主を探そうと、無意識の内にマルクは足を向かわせていた。

エルザ達を探さなければいけない、と考えているにも関わらず、だ。

 

「どこから……この声が……」

 

「ウゥ……!」

 

「……こいつ、か?」

 

マルクの目の前に、顔だけが入ったポッドが存在していた。しかし、顔だけといえども()()()()()()()()()()()()()()

 

「……こいつ、どこかで……」

 

早くエルザ達を探さなければいけないのに、と考えているのにマルクはその場から離れることが出来なかった。

魔法で、離れられないようにされている訳では無い。だが、マルクはそれに何か得体の知れないもので、引き寄せられていた。

 

「早く、行かないと……」

 

呼吸が荒くなり、心臓が高鳴る。頭は理性的な事は考えられなくなってくる。体が熱くなり、目の前が湾曲して見えてくる。

『まずい』と思った時にはもう既に遅かった。

 

「あ━━━」

 

マルクはポッドに触れる。そこから、意識が途切れる。そして、ポッドの中には顔だけの何かが存在しておらず、ポッドの前にマルクは存在していなかった。

 

「……」

 

黒く、薄い鎧をまとったかのような見た目の人物が、代わりにそこに立っていた。それは、そのまま歩き始めてそのラボから出ていくのであった。

 

「…終わったようです。」

 

「ふ…なるほどあぁいう風になるのか。進化と言うべきか?セイラ。」

 

「いいえ、あれは進化というより同化…どちらかと言えば、元に戻った…というのが正しいかと。」

 

そしてラボの天井の骨組みから、2人の女性…否、悪魔が一部始終を覗いていた。

1人は、キョウカ。もう1人はセイラと呼ばれる悪魔だった。

 

「ふ……しかし面白いな。あれを、こちら側に引き入れるのもいいのではないか?」

 

「……私個人としては、反対です。得体の知れないもの以前に、あの力は危険です。」

 

「しかし、どちらにせよ決めるのは私達ではない。処分すると決まったら……処分するだけだ。」

 

冷たい笑みを浮かべながら、キョウカは新しく生まれ変わった悪魔を見据える。

冥府の門にとっての敵か、味方か。妖精の尻尾にとっての敵か、味方か。あの悪魔を今のところは第3勢力として扱っている以上、様子見をするのはとても大事だと思っていた。

 

「さて……では、我々は我々の仕事に戻るとしよう。まずは…邪魔な者達を潰さなければ。」

 

「元議長が、ジェラールを見つけてくれると嬉しいのですけど。」

 

そのまま2人ともそこを去った。キョウカは元議長の元に、セイラも頼まれた仕事を終わらせるために動くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

黒い甲冑は、言葉を発さない。否言葉を発せないというのが正しかった。まだ声帯から声を出せない。

だが、肉体はある。動ける。多少違和感こそあれど、それは唐突に変わったとも言える視点の高さの問題だと認知していた。そして、時期に違和感もなくなり声を発せるように鳴るだろうと。

 

「……」

 

ここがどこかは分からない。だが、分かっていることはここが人外の集まりだということ。

自分よりも上か、はたまた下か。どちらにせよ、恩自体は存在しているために、返さなければならないと思考していた。

義理深いという訳では無い。ただ、借りを作るのがそれにとっては嫌なだけだった。

 

「……?」

 

目の前の部屋から話し声が聞こえてくる。気になったのか、そのまま足をその部屋に向けて歩き始める。

 

「━━━あば、あばばば!?」

 

目の前で、肥え太っている老人が刺されていた。同種の存在が2人、その場にいた。

そう言えば、似た気配をさっき感じていたような気がしていた。

突然、地面が揺れ始める。

 

冥界島(キューブ)も反応している。フェイスの封印は解かれた。……それにしてもすごい反応だな。」

 

「間違いありません!フェイスの封印が解かれたのです!」

 

「座標は!?」

 

「出現予想地点とはかなりズレてますな。」

 

話し合っている中、関係ないと言わんばかりに部屋に入り込む。2人は1瞬だけこちらを見たが、すぐさま元の話に戻り始める。

 

「…構わん、起動させろ。」

 

「それが…お?振動が収まりましたな。

えー、ここからでは無理ですな。」

 

「なんだと?」

 

「遠隔操作は不可能、フェイスは手動でしか起動出来なくなっております…正確には、元議長様なら遠隔操作が出来たのですがね。」

 

「此方とした事が……早まったか。仕方あるまい、誰かを向かわせるか……」

 

目の前にいる悪魔……キョウカは少し後悔を感じながら、誰を出すか考え始める。

 

「また妖精の尻尾に邪魔されなければ良いのですがね…」

 

「その点はご安心を……」

 

そう言いながら、セイラが現れる。甲冑姿の悪魔を同じように一瞬だけ視認し、再びキョウカに視線を向ける。

 

「間もなくですわ。妖精の物語が終わりを告げる時です。」

 

「……」

 

妖精、と聞いて甲冑は少しだけ反応を返す。だが、なぜ自分がその言葉に反応したのかわからず、頭に疑問符を浮かべていた。

 

「セイラがそう言うのならば、間違いはないだろう……しかしこいつは言葉を喋らないのか?」

 

「喋らない、というよりは喋れないのでしょう。発生の仕方を忘れたとか体が馴染んでないとか……色々ありますし。」

 

「歩けるだけマシ、という事か。」

 

「そういうことでございますな。」

 

「……とりあえず、妖精の姿はそろそろ確認出来る頃だと思います。」

 

セイラがそう告げる。どうも、自分が目の前にいるのにも関わらず、他の者の話をされるのは不愉快と感じるらしい。

 

「ふ……ならば、確認せねばなるまいな。」

 

「妖精の尻尾ギルドの真上までは、もう少しですよ。」

 

モニターに、冥界島の下が映し出される。それを見て、ただじっと待つだけというのは手持ち無沙汰なのか、少しだけ連絡版を操りメンバーに連絡を取る。

 

「おや、誰かに伝言でも?」

 

「エゼルに向かわせようと思ってな。仕事がしたいと言っていたし、丁度いいだろう。」

 

「なるほど。」

 

そう話し合いながらも移動していく冥界島。そしてついに妖精の尻尾…マグノリア上空まで移動してくる。

 

「……」

 

甲冑はただ眺めているだけだった。だが、心に湧き出た感情がなんなのか分からなかった。

眺めていると、心がざわつくような感覚に襲われ始めていた。

 

「……クスッ」

 

セイラが微笑んだ瞬間…妖精の尻尾は大爆発を起こした。ギルドそのものが吹き飛ぶほどの大爆発。

建物どころか、周辺の土地すらもひび割れるほどに大きな爆発。

 

「ご覧の通りですわ、キョウカ様。」

 

「よくやったセイラ。」

 

恍惚とした表情で、セイラはキョウカに報告を改めてする。そんなセイラをキョウカは褒め、セイラはより恍惚とした表情となっていた。

 

「ゲヘヘヘ…失ったお命は、おいくらかおいくらか。」

 

「一掃出来たのなら、こんな辺境の地までキューブを動かす必要はなかったな。

これより、作戦を従来のフェイス計画に一本化する。時は満ちた……人間共の猜疑心が生み出した白き遺産によって、人間共は自らを滅ぼすのだ。

フェイスは人間共から全ての魔力を奪い、我ら魔族の時代を約束するだろう。

全ては、ゼレフの望む世界のために。」

 

「……まだ、だ。」

 

声を発する甲冑。発したその言葉に、キョウカはただ冷徹な目で視線を向ける。

 

「…まだ、とはどういう事だ?」

 

「おんや?」

 

「どうしたフランマルス。」

 

「いえね、多数の魔力反応が……」

 

フランマルスが報告する中、1人の兵士が部屋の中に大急ぎで入ってくる。

 

「大変です!冥界島に向かってくる三体の影を確認しました!」

 

「三体?いや、これはもっと大勢の魔力ですぞ?」

 

「視認できるのは3体のみです!」

 

「……何事だ?」

 

「アンダーキューブを移しますわ。」

 

島の下側、その映像が映し出される。そこには確かに、三体の影がいた。ハッピー、シャルル、リリー……大量のカードを抱えた3人が、今まさに冥府の門に向かってきているのだ。

 

「……まだ、終わって…いない。」

 

妖精の尻尾は、まだ終わっていないのだ。それを、この3人が証明したのであった。


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