「う、ぁ……?」
マルクは目を覚ました。明らかに、外でもないしましてや知らない家にいる、という訳でもない。
目覚めた直後は、頭が完全に覚醒していなかったが、両隣から聞こえてくる苦悶の声に、つい起き上がって見てしまう。
「ラクサスさん…フリードさん……エバさんとビックスローさんまで……」
両隣どころではなく、よく見れば一緒にクエストに向かった4人が全員倒れていた。
何があったのか、即座に思い出すマルク。あの後、恐らくフリードが連れて帰ってくれたのだろうと思い至る。
「とりあえず……出ないと……」
横に置いてあった服を取り、状況を把握するために一旦医務室から出ようとするマルク。だが、医務室の外が妙に騒がしいことに気づいて、少し疑問に思いながら外に出た。
「ん!?お、おいマルク動けるのか!?」
「へ……う、動けるって…?」
「お前と同じくらいの量の、魔障粒子吸い込んだラクサスがやべぇんだぞ!?というか、少量吸ってもフリード達みてぇになるってのに!」
マックスが気づいて、マルクに駆け寄ってくれたが、マルクはマックスの話がいまいち理解出来ていなかった。
確かに、魔障粒子と呼ばれるものを彼らは吸ったが、動けないのは目覚めてないから出ないのか、と。
「か、体なんともないのか?」
「ちょっとふらつく程度ですけど……特には。」
「……顔色は悪くねぇし、嘘は言ってないみたいだし……まぁいい、動けるんならちょっと悪ぃが手伝ってもらうぜ。」
腕いっぱいに担いである資料を、近くのテーブルにおいて、マックスは座り込む。
「えっと……何をですか?」
「よし、まずは色々説明していくか。
まず、今俺達は元評議院の住所を調べ回ってる。何人かの住所は既に判明してて、そこに何人かのチームで向かってもらってる。」
「……元評議院を、
「そう。まぁ最初にわかった評議院は、ロキがちよっとしたルートで知ってたらしいがな。
で、色々な手を使って他の評議院も探してるってわけだ……一応合法だぞ?」
「……分かりました。なら、俺も手伝います。」
「ナツ達は既に向かってる、調べ倒して他のギルドにも連絡取って……あぁもうやることが多い!!
とりあえず、こんだけ頼んだ!!」
資料のほんの一部を、マックスはマルクに手渡してから離れる。その資料を軽く目を通しながら、ふとマルクはとある疑問に辿り着く。
「こうやって、調べないといけないような事なのに……冥府の門はどうやって元評議院達の位置を知ったんだろ…?」
裏ルート、と言えばかっこよく聞こえるだろう。しかし、元評議院の家の場所を知ったところで、はっきり言えば意味は無い。
スキャンダルを狙えるわけもなし、命を狙ったところで意味もなし。せいぜいさらって身代金を要求する程度だが、秘匿情報の元評議院の居場所を知るリスクを犯してまで、身代金の要求というのも変な話だ。
「……教えた人がいる、それもかなり評議院に精通している1人が。」
1人、頭に思い浮かんだ人物がいた。ジェラールである。だが、ジェラールがそんなことをするとも思えない以上、マルクは他の人物の可能性を考える。
「おい!連絡用の
「誰だ!?一応出るぞ!」
「通信……」
ふと気になって、資料を見ながらラクリマのあるところまで向かうマルク。辿り着くとほぼ同時に通信用ラクリマに映像が映る。
「良かった!やっと繋がった!持ってきたの壊れちゃって…これ、街のやつなの!」
「ルーシィか!?そっちの様子は!?」
「ミケロさんは無事よ!」
ルーシィの声で、歓声を上げる仲間達。その映像からでは、マルクがいることは分からないらしく、そのままルーシィは話を進めていた。
「ナツは大怪我しちゃったけど。」
「勝ちだ。」
「タルタロスの1人を倒しました!」
「勝ちだ。」
「……だそうです。」
「ウェンディ!?」
「え、マルク!?」
ウェンディの声が聞こえてきて、つい前に出るマルク。ウェンディも、マルクが起き上がってることに驚いたらしく、驚いた声を上げていた。
「も、もう起きて大丈夫なの!?」
「うん!」
「すまん、今は……」
「す、すいませんマスター……」
マカロフと代わり、マルクは一歩後ろに下がる。しかし、ナツが大怪我をしたということは、それだけ強い相手が冥府の門にいるということになる。
「それで、ミケロから何か情報は聞き出せたのか?」
「それが……」
ルーシィは、少し困り顔になりながらラクリマに元評議院であるミケロを映し出す。何やら、放心した状態でブツブツと何かを呟いていた。
「白き遺産…フェイス……ワシは何も知らん……本当に、何も知らん……」
「フェイス…?」
「フェイスは……評議院が保有する平気のひとつ。」
その言葉に、一同が息を呑む。超魔導砲エーテリオン、それ以外にも評議院は秩序を守る為に様々な兵器を保有しているが……
「兵器だァ?評議院が何でそんなもんを……」
「私だって思うところがあるけど……」
「いくつもある兵器は、その危険度や重要度などによって管理方法が違ってくる。
例えばエーテリオン…この大陸中全てを狙える超魔導砲。その威力は1国をも一瞬で消滅させるほどの力……これの発射には、現評議院9名の承認と上級職員10名の解除コードが必要となる……」
「つまり、今はそのエーテリオンが使えないってことに……」
「エーテリオンを無力化することも奴らの狙いか……」
同時に通信を聞いていたリリー達も、呆れながらも冥府の門の手腕に敵ながら感心する他なかった。
「フェイスとは一体どんな兵器なんじゃ!」
マカロフがそう聞くが、ミケロはモゴモゴするだけで一向に答えようとはしない。例の秘匿義務、と言うやつだが今ここでそれを使われても、意味があるものでは無い。
それは、ミケロ自身も分かってはいるのだ。
「秘匿義務があるのは分かる!しかし今はそれどころじゃ無いんじゃぞ!!」
「っ……!魔導パルス爆弾……大陸中、全ての魔力を消滅させる兵器…」
「なっ!?」
「た、大陸中の魔力を消滅!?」
もし、魔力が消滅してしまえば魔力のある魔導士達は、全員魔力欠乏症にかかり、苦しむ事になる。それこそ、今のフリード達のように。
「しかも、冥府の門の使う力は魔法じゃなくて呪法だとか言ってた!!」
「全魔導士が魔法を使えず、苦しむ中で……冥府の門だけが自らの力を使える世界……」
「何というとんでもない兵器を……!」
「それはどこにあるんだ!!奴らより先に俺達がぶっ壊してやる!!」
ナツがミケロに掴みかかり、情報を吐かせようとする。しかし、ミケロは首を横に振る。
「し、知らないんじゃ……本当に……封印方法は、三体の元評議院のリンク魔法だと聞いたことはあるが……その3人が誰なのかは、元議長しか知らない情報じゃ。」
「生体リンク魔法……」
「3人の命が封印を解く鍵……」
「だから、フェイスの情報を得ようともせずに殺すわけか……」
「けどそれって……逆に言えば、情報を得る必要が無いということです。冥府の門は、フェイスの隠し場所まで掴んでいるということでしょうか?」
憶測が飛び交うが、わかっていることはただ一つ。元議長を含めた元評議院のメンバーが殺されてしまえば、フェイスが冥府の門の側に渡ってしまう、ということである。
「急いでその3人を見つけ出し、守らねば!その3人のことは元議長が知ってるんだな!?」
「お、恐らく……」
「元議長の割り出しはまだか!?元議長も敵に狙われてるはずじゃ、急げ!!」
「大丈夫!追加で16人の元評議院の住所を見つけた!!他のギルドにも頼んで護衛についてもらってる!!」
忙しく動き回る中、見つけた情報。そして、その情報の中には皆が知りたがっていた者の住所も入っていた。
「その中に元議長の住所もありました!!」
「急いで誰か向かわせろ!!」
「安心してください、既に向かってます!!最も頼れるふたりが!!」
エルザとミラ、既にその2人は発見された元議長の家へと向かっていた。
そして、マルクは他の者達を手伝いながら住所を探していた。しかし、どうにも気がかりなことが多すぎるのだ。
「おい、どうしたー、マルク。手が止まってんぞ。」
「マカオさん……いや、なんか、大事なことを見落としてるような気がして……」
「大事なこと?なんだ、何が気になってんだ。」
ずっと考え続けているマルクに、マカオが話しかける。マックスやウォーレン達が話を通していたらしく、起きていることに驚く様子もなかった。
「……気になってるところと言えば、なんで元評議院の住所やフェイスの情報を知れたんでしょう。」
「そりゃあおめぇ、闇ギルドなんだし特有の情報網があるだろ……ってそもそもの情報源の話か。」
「はい。幾ら闇ギルドと言っても、秘匿情報である住所やその他の情報…流石に、知りすぎている気が……」
「……なんつーか、改めて聞かされると確かに気持ち悪く感じるな。
例の呪法とやらで知った……の割にはフェイスの事に関しては、どうにも分かってねぇこともあるみてえだし。」
マカオも、一緒になって考え込む。何か、とても大事なことを見落としているかのような。そんな気持ち悪さを覚えていた。
「……もし、仮になんですけど。元評議院全ての住所を知ってる人がいるとすれば、どういう人でしょう。」
「……地道に探した、っつうのはねぇな。見つけた矢先から殺していきゃあいい話だし、誰かが探したって訳じゃねぇ。
となると、初めから知っているやつ……元評議院の情報を管理するほど偉かったらあるいは……
「……いや、まさかそんな。」
辿り着いた答えに、マカオもマルクも『ありえない』と首を振った。しかし、元議長が情報を流したとすれば…ここまでの暗殺が全てスムーズに行われてあるのも、理解ができる。
むしろ、元議長という答え以外に当てはまる人物はいない。
「……マカオさん、嫌な予感がします。俺はエルザさんの方に向かってもいいですか?」
「……おめぇ、体は動くのか?別段無理はしてねぇのだけはわかるがよ。」
「大丈夫ですよ。今から言って……間に合うかどうかだけは分かりませんが。」
「…よし、俺からマスターには話を通しておいてやる。おめぇもなるべく無理せずにいけよ。」
「はい、ありがとうございます。」
マルクは、自分の調べていた分をマカオに渡してからギルドの外へと走り出す。目指すは元議長の住所、馬が1頭だけ余っていたのでそれに何とか乗ってからマルクは向かうのであった。
「……む?」
冥府の門本部。そこで、ラクサス達を襲った悪魔と同格の悪魔である1人の悪魔……名をキョウカという。
そのキョウカが、冥府の門本部にあるとある部屋にて異変を感じ取った。
「……テンペスター、妙に騒いで……」
「我ではない。
「…ほう、今の今までただ居座り続けてきたあの悪魔が……反応している、というのか?」
「そのようだ。」
ラクサス達を襲った悪魔…テンペスターと呼ばれたその悪魔は、とある液体の入ったポッドにて、体がゆっくりと再生し続けていた。
そう、悪魔達は不死なのだ。たとえ何度倒されても……ここで復活ができる。
「……しかし、奴が騒ぐということは…何か、面白いことが起こる可能性があるな。」
そして、ポッドが大量に置かれている部屋……その部屋の隅の隅にその騒いでいる悪魔はいた。
意味のある言語を発してはおらず、体も首から下が再生されていない……という状態だが。
「どちらにせよ、用心しなければならないな。我ら九鬼門外の、強力な悪魔の復活となると。」
騒いでいるその悪魔を尻目に見ながら、キョウカは軽く微笑むのであった。