「……こりゃあ酷い事件だなぁ……」
「評議院が爆破!?」
「9人の議員が全員死んじまったらしい。」
レストラン8アイランド。元評議院の1人であるヤジマが経営しているレストランであり、今ここに雷神衆のメンバーとマルクが仕事に来ていた。
「それだけじゃないぞ……死傷者119名…大惨事だわい。」
「そんな簡単に、落ちる様な場所でもないでしょう……一体誰がやったんでしょうか…」
「さぁな……けどよ、アンタ評議院止めてて良かったねぇ。」
「バカタレ!不謹慎な事を!!」
「しかし、不幸中の幸いでしたね。」
「ちょっとあんた達!幾らお客さん少ないからって、真面目に働きなさいよ。」
店の制服を着たエバーグリーンが、他の男勢に注意のために声をかける。しかし、フリードとビックスローは呆れた顔でエバーグリーンを見る。
「お前似合わねぇなその格好。」
「ウム。」
「あんたらに言われたくないわよ!!」
「まぁでも、ほんとに少ないですもんね……評議院爆破されたから、みんな警戒してるんでしょうか。」
「いや…そこまで警戒している者も少ないだろう。大陸中の魔導士を全滅させる!と爆破犯が言わない限りはな。」
片付けた食器を持ってきながら、エバーグリーンはボヤく。珍しく、仕事戦いなどとは一切無縁の依頼である。
「大魔闘演武の影響で、ここんとこ重たい仕事が多いってぼやいてたから、軽い仕事を見つけてきたんじゃない。」
「これこれ、飲食店は軽くないよ。」
「まぁ、俺もココ最近ずっと色んな所行ってるから…付き添わせてくれてありがとうございます。」
「単純に5人の方がいいと思った迄だ。それに、料理を作れる人数はなるべく多い方がいい。」
包丁を丁寧に扱いながら、フリードはマルクに感謝を述べる。鍋を掻き混ぜながら、マルクは軽く照れていた。
「料理じゃなくて、盛りつけなら得意だぜベイビー。」
「もりつけもりつけー」
「ま…私もお色気は得意分野だけどね。」
「ここってそういう店じゃないんですけど。」
会話をしていく内に、ヤジマはラクサスのことを思い出す。実は、彼もこのクエストに着いてきているのだが、お使いをする担当になっているので、店にはいないのだ。
「ところで…ラクサス君はまだ戻ってこないのかね。」
「道に迷ってるのか?」
「お使いもできないとは…仕方の無いやつめ。」
「何でちょっと嬉しそうなんですか。」
と、ここで店の裏口の扉の開く音が聞こえてくる。ラクサスがお使いから戻ってきたのだと、全員が思い、振り返ると……見知らぬフードの男がいた。
「あの、ここ関係者しか入れないんで━━━」
「……ヒュル。」
マルクが、その男に対して注意をしようとしたその時、男が一言だけ呟いた。
……直後、轟音とともに
「何じゃこいつは!?」
「ヤジマさん!」
そして、竜巻をまといながら男はヤジマに向かって突撃していく。だが、フリードとビックスローが間に入って、男を撃退しようとする。
そして、その直後にマルクが上から仕掛ける。
「これで…!」
「どどん。」
男は、両手をフリードとビックスローに押し当て、またも一言呟く。すると、フリードとビックスローの体が回転しながら吹き飛ばされる。
「があああああ!」
「ぐっ…!」
「フリードさん!ビックスローさん!!」
吹き飛ばされてしまった2人だが、両手を使ってしまった以上、既にぶつかる直前であるマルクの攻撃を防ぐ手段はない。
故に、そのまま勢いよくマルクはかかと落としを決めようと、振り抜いた。
「ヒュル。」
「なっ…!?く、ううううう!!」
だが、間髪入れずに男は蛇のように曲がりくねっていふ竜巻を発生させて、マルクを地面に叩きつける。
魔力を吸収しようにも、既に勢いだけはあるのでただぶつけられるよりも乱回転だけの影響を受けて、悲惨な事になっていた。
「小癪な…!」
「ボッ。」
「ぐあああああ!」
ヤジマは、魔法により自分の体を薄くして、男に立ち向かおうとしたが、男の体から吹き出した風によって、やはり吹き飛ばされてしまっていた。
「ヤジマさん…!」
「妖精機銃『レブラホーン』!!」
更に間髪入れずに、エバーグリーンが魔法を男に向ける。だがそれさえも━━━
「ヒュル。」
「きゃああああああああ!」
エバーグリーンもまた、男の竜巻によって吹き飛ばされ、店の残骸に激突してしまう。
「エバ!」
「こいつ……」
「風の、魔法…なんてもんじゃない……!」
男はヤジマに歩み寄る。フードのせいでうまく顔が見えてないため、どのような顔かも判断出来なかった。
「ぐうぅ……!何者じゃ…!」
「我に名はない…九鬼門の一人。人類は我を厄災と呼ぶ。」
男は、ヤジマの首を掴む。確実に殺す為に、腕には男の魔法であろう竜巻が既に滞留し始めていた。
「くそ…何なんだこの魔法は……体が、動かん…!」
「俺は、まだ大丈夫そうです……!」
既にボロボロになっているが、マルクは何とか立ち上がる。体が動かない、という程でもないが……うまく動く、というわけでもなかった。
それでも、立ち上がらねばならないのだ。
「冥府の門は開かれた……」
「ヤジマさんを、離せ!!」
「ほう、あれを受けて立ち上がるか……」
マルクの一撃は確実に男の頭にヒットした。だが、男には通じていなかった。
「なっ……頭狙ったのに…」
「貴様の『魔』では、我は倒せん。
だが、先に死ぬか、後に死ぬかの違い……人類に裁きを。」
「ぐっ……!?先か、後かの違い…だと!?」
首をヤジマと同じように掴まれるマルク。だが、男の言葉の意味がどういう意味なのか、それに対する嫌な予感を感じていた。
「そうだ、我らによって━━━!?」
「殺すのか、色んな人を…大事な人を……!」
マルクは、男を睨みつける。そして、男の腕にある竜巻を無視して
「殺すのか!苦しみを、味わせるのか!」
「この男、人間では……ぐっ!?」
男は、マルクに掴まれた腕を離す。だが、タイミングが一瞬遅かったのか……
離れた瞬間に、力尽きたのかマルクはそのまま倒れ込む。
「冥府の門……|冥府の門
「こいつら……現評議院だけでなく、元評議院も対象なのか!?一体なんの目的で……」
「ぐっ……だが、この男だけは……冥府へ、落ちろ…!」
「よせぇー!!」
男は、ヤジマにに向き直り、再び竜巻を回転させ始める。ヤジマを仕留めようと、確実に殺そうとその魔の手を伸ばす。
「ヤジマさーん!!」
そして、ヤジマが殺される……そう誰もが思った瞬間に、どこからともなくきた攻撃によって、男の竜巻が消える。
男は振り返る。ヤジマは驚く。そして、他の者達は喜んでいた。
「っ…!」
男の体に、落雷が落ちる。既にその場には、先程までその場にいなかった人物が一人いた。
「道には迷っちまったが……てめぇを殺すことには、迷いはねぇから。」
「ラクサス、さん……」
「何なんだこいつァ。」
ラクサス。買い出しのために店の外に出ていっており、今しがた戻ってきた。
「冥府の門よ!ヤジマさんを狙ってきたの!」
「ほう……」
「……!」
被っていたフードを破り脱ぎ捨て、その姿を現す。獣のような顔つきに、とても人間とは思えない肌色。それだけで人間でないと、すぐに判断出来た。
「人間じゃねぇ!?」
「そいつ、は……」
「マルク?」
「そいつは、多分悪魔です!前の以来の時に出会った……悪魔の男と、気配が似てます!!」
「……なるほど、そりゃあ納得だ。」
悪魔と聞いて、妙に納得するラクサス。マルクも証拠こそなかったが、男の言葉やフードを脱ぎ捨てたあとから、ビシビシと感じる嫌な気配が目の前の男が悪魔だと断言するまでの確信を得ていた。
「ヒュル!」
男は、ラクサスに向かって回転しながら突撃してくる。そして、片腕で攻撃をするが、ラクサスは悠々とその攻撃をかわしていく。
追い打ちで攻撃を仕掛けようとするが、ラクサスは電撃をまとい一瞬で後ろに回る。
速度では、圧倒的にラクサスが勝っておりそのまま後ろから蹴り飛ばした。
「コイツ……」
「相手が悪かったな……」
蹴り飛ばされた直後に立ち上がった男だが、その時には既にラクサスは後ろにいた。
速度では……否、パワーもラクサスの方が上であった。
「雷竜の
男の顔が地面にめり込む。そして、その衝撃の余波で周りの地面も全て凹み、まるでクレーターのようになっていた。
それで男は動かなくなり、完全に仕留められたとラクサスは思って構えを解く。
「さすがラクサス!」
「よっしゃ!」
「やっぱり
「ヤジマのじいさん、こいつどうするよ。」
動けるようにはなったのか、その辺のものに座り込むラクサスとマルク以外の面々。マルクは、未だ動けるようにはなっていないのか、倒れたままだった。
喋るくらいは、出来るようだが。
「ウム…評議院は機能スておらんスなぁ……よくもワスの店を……」
「本部はそうだろうけど、支部とか沢山あるんだろ。」
「トップがやられちゃ下は機能せん、評議院などそんな脆い組織よ。」
「意外と難しいものですね…やっぱり
「連れ帰る……尋問すべきだろうし、異論はないな。」
「アラ、私そういうの大好きかも。」
エバは近くにあった、まだ切り分けられていないソーセージを、まるで鞭のように引っ張ってしならせる。
「コイツらは現評議院だけでなく、元評議院まで狙ってきた。目的が気になる。」
「そうだな。」
「まぁ、ろくなものじゃないことだけは確実ですね……」
「妖精の尻尾、か……」
「こいつ、まだ……」
倒したはずの男が、再び話し始める。だが、倒れたその場から動こうとしない辺り、まだそこまで回復していないのかもしれない。
「まさかこれほどの魔力を持った人間がいたとは計算外、想定外のダメージ。
「死ぬ?何を言ってやがる。」
「
瞬間、男の体が消えて黒い霧状の物質になる。その変化の仕様に、一同は不意をつかれてしまった。
「自爆!?」
「この、霧は……!」
「どんどん広がっていく!」
「人は厄災には勝てん。これは魔障粒子…空気中のエーテルナノを破壊し、汚染していく。」
「アンチエーテルナノ領域!?ぐは、ごほっ!!」
「それは魔力欠乏症や、魔障病を引き起こす。」
「ぐ、うぅ!」
苦しむ一同。魔道士にとって、魔力欠乏症や魔障病というのは死にやすくなる病気である。
それが、とんでもない濃さで街中へと広がっていく。
「魔道士にとっては死に至る病……唯一の弱点は、我の体を再生するために本部に戻らねばならぬこと。」
「本部、だと……!ごはっ!!」
「冥府で会おう、死人達よ。」
「霧は吸い込むな!!」
「このままじゃ、みんな……!」
「町中が汚染される!!」
「みんな、とにかく逃げるんじゃ!霧のないところへ……おぐ…!」
倒れるヤジマ、そしてエバやビックスロー……次々と倒れていく一同。そんな中、ラクサスだけがそのまま立っており、マルクも無理矢理立ち上がっていた。
「誰も死なせねぇ!死なせねえぞォ!!」
「全員、生きて連れて……帰らないと!」
「ラクサス!マルク!!2人とも口をふさげ!!」
フリードは吸い込むなと2人に伝える。だが、
「
「ってわけで……後頼みましたよ……!」
「全員連れて帰るのが、お前の仕事だ…!」
勢いよく吸い込んでいくマルク、勢いは劣るがとんでもない量を吸い込んでいくラクサス。
その後2人は、完全に気絶して倒れるまでずっと魔障粒子を吸い込み続けるのであった。