「わはははっ!やっぱり君たちに任せて正解だったよ、いやー、よくやったよくやった。」
「楽勝だったな。」
「無事にウォーロッド様の依頼を達成出来てホッとしています。」
太陽の村から、ウォーロッドの家まで戻ってきたナツ達。依頼完遂の報告と、今回の事件の現況や途中で起きたことも踏まえて、全て話していく。
「
「それに、
「ウム、その辺の調査は評議院に任せておけば良い。それより君達に報酬を渡さねばな。」
「待ってましたー!」
花壇の中の草花を少しだけ掻き分けながら、ウォーロッドはナツ達に渡す報酬を取り出す。
「ほい。」
「ほい…って。」
「ワッシの畑で取れたジャガイモ。」
楽しそうに笑うウォーロッド。しかし、それは逆にナツ達は反応に困っていた。何せ、取り出されたのがジャガイモ1個だけなのだから。
「…というのは冗談じゃ。」
「だ、だよな!?」
「あは、は……」
「じょ、冗談キツすぎますって……」
「本当は隣の村で買ってきたジャガイモなのじゃ。」
「どっちでもいいわァ!」
「金寄越せこらぁ!」
「報酬ジャガイモ1個は流石にキレますよ!?」
「……ったくあのじーさんは…」
「ま、まぁまぁ……夜景眺めながら温泉は入れるって、いいじゃないですか。」
「まぁ……それもそうか。」
「あいー…」
ナツ達は、ウォーロッドに案内された温泉に入っていた。ただ入れるならと、とりあえず先に男性陣が入っていたのだ。
「あー……にしても、腹減りません?」
「そうだな、帰りにどっか寄って飯食いに行くか?」
「お、なら肉食いに行こうぜー」
「オイラお魚がいい。」
ゆっくりくつろぎながら、他愛もない会話を続けていくナツ達。すると、遠くから声が聞こえてくる。
「…なんか聞こえてきません?」
「そうかァ?俺ァ何も聞こえねぇが。」
「……いや、この声…ルーシィ達か?」
自分たち以外のメンバー、所謂女性陣であった。
「まぁ…温泉に興味ありそうですよね、俺ら以上に。」
「だな……」
ゆったりしていたが、突然マルクは疑問を抱いた。『あれ?そう言えばここの温泉男女で別れてたっけ?』と。
「あの、この温泉ってまさか混━━━」
「黙ってろ。」
グレイがマルクの口を塞ぐ。そして、マルクは確信した。ナツとグレイは分かっていながら入ってきていたのだと。
「━━━仕事の後のお風呂って最高だよね。」
そして、女性陣が温泉に浸かる音が聞こえてくる。マルクは叫ぼうとしたが、口を塞がれて叫べないのと、叫んでも叫ばなくてもこれアウトだな、と理解してしまったために……思考を放棄していた。
「疲れた心と体を癒し、また明日に向けて気持ちを切り替えられるしな。」
「でも、マルクやナツさんグレイさんにはなんか、悪いですよね。」
「いーのよ、あいつらどうせ温泉になんか興味無いでしょうし。」
「いや、そうでもねぇぞ。」
「たまにはこういうのも気持ちいいもんだぜ。」
ナツとグレイが言葉を発する。マルクは目を瞑って、更に腕で目を隠している。
エルザは呆然としており、同じく呆然としていたウェンディとルーシィは咄嗟に状況を把握する。
「きゃああああああ!」
「何勝手に女湯入ってきてんのよー!」
「先に入ってたのは俺達だ。」
「お前らがあとから入ってきたんだろ!」
マルクは何も見えていないが、頭に何かぶつかった様な気がした。実際、ルーシィがナツに向けて投げた桶が、マルクにクリーンヒットしただけの事なのだが、もはやそれすらも気にならなくなっていた。
「あれ?言っとらんかったかの?混浴じゃと。」
「堂々と入ってくんなー!!」
そして、ウォーロッドが最後に入ってくる。最早隠す気もない清々しさが、何故かそこにはあった。
「……あれ、もしかして今ウェンディの体見ました?」
「…いや、そもそも湯気でよく見えねぇから、うん。」
「そ、それにあいつらとはちょっと距離があるしな。」
唐突にマルクがウェンディのことに気がつく。女性陣がいるのなら、当然温泉なので服は脱いでいるだろう、そしてそれはウェンディも同じである。
そう、ナツとグレイはウェンディの体を見た可能性があるのだ。
「いやでも見たんですよね?」
「全身潜ってるから分かんねぇ。」
「……」
マルクは目を隠している。だが、どうにもじっと睨まれているような気がして2人はバツが悪そうな顔をする。
「ちょっと男子は出ていきなさいよ。」
「そうです!恥ずかしいです〜…」
「お前の裸なんか見飽きてる。」
「新鮮味はねぇな。」
「うわー、超最低。死ぬの?」
段々と悪化していく言い争い。それに見兼ねたのか、エルザが1歩前に出てくる。
「まぁ落ち着けみんな、仲間同士だ。これくらいのスキンシップは普通だろ。」
「普通じゃありません!」
なんの躊躇もなくエルザは立ち上がって、ナツとグレイに近寄っていく。物凄く堂々としているが、これがジェラールの前とかになると恥ずかしがったりするんだろうか…と目を隠しながらマルクは冷静にそう考える。
「昔はナツやグレイと一緒に、風呂に入ってたんだ。」
「それが普通じゃないのよ。」
エルザはナツとグレイに近寄って。風呂から引っ張り出そうとする。姉御肌というかなんというか、基本的にエルザは世話を焼きすぎるタイプなのだと、この場の一同は改めてそう感じる。
「久しぶりに背中を洗ってやる。」
「いっ、いいよ!」
「もうガキじゃねえんだ!」
「マルクもどうだ?」
「え、遠慮します!」
これらの光景を見て、ウォーロッドは嬉しそうに笑みを浮かべていた。とても懐かしそうに、とても嬉しそうに。
「ほっほっほっ仲間というものは、いいもんだのう。」
「あんた違うでしょうが!!」
「おや?そうか…まだ言っとらんかったか。」
ウォーロッドは、浸かっている左腕を上げて、一同に見せつける。そこには一同と同じ…
「ワッシはメイビスと共に、妖精の尻尾を創った創世期メンバーの一人。君らの大先輩じゃよ。」
当然、その場にいた全員が驚いた。生きているのもそうだが、聖十大魔道序列4位の人物が、妖精の尻尾創世期の人物だったのだから。
「おじいさんの昔いたギルドって…」
「妖精の尻尾って事?」
「そっか、だから……同じ聖十の称号を持つマスターの言い方は気になってたのよ。」
「明らかに、目上の人を敬う言い方でしたもんね…俺は最初、序列的に敬っているのだとばかり…」
「……というのは。」
「冗談なのか!?」
「本当じゃ。」
ずっこけるグレイ。冗談ばかりを言い続けていたために、最早話が進まない状態が悪化してきている。
「それでウチのナツとグレイを指名なされたのですね。」
「ウム、いかにも。君達がワッシの家を訪れた時、ほのかに懐かしきギルドの古木の匂いがした……というのは冗談じゃが。」
「話が進みませんね……」
「君達若き妖精に出会えて、ワッシは本当に嬉しいのだ。メイビスの唱えた和…血よりも濃い絆で結ばれた、魔導士ギルド妖精の尻尾。
その精神は時が流れた今でも、君達の心に受け継がれておる。それは仕事の成否にあらず、君達を見た時に感じたこと。」
微笑みながら、ウォーロッドは語る。初代ギルドマスターメイビスの残した言葉と、その心を。
「かつてメイビスは言った。仲間とは、言葉だけのものでは無い…仲間とは心、無条件で信じられる相手。」
『どうか私を頼ってください。私も、いつかきっとあなたを頼ることがあるでしょう。
悲しい時も、苦しい時も…私が隣についています。貴方は決して1人じゃない。空に輝く星々は希望の数。肌に触れる風は明日への予感。さぁ歩みましょう……妖精達の
感慨深く、聞き惚れる一同。その言葉が、全員の心に残る言葉となっていた。
「…変われ。」
「あ、うん。」
いつの間にか、ナツの背中を洗っていたエルザ。そして今ナツがエルザの背中を洗う番となっていた。
交代しつつ、その言葉に感慨を寄せる。
「妖精の尻尾、創始の言葉かぁ…なんか感慨深い物があるね。」
「つー事はあれか!?じっちゃんより歳上なのか!?」
「失礼だぞ、ナツ。」
「いや…もしかしてそんなに昔の人だとさ、ENDって悪魔の話知ってるのかなって。」
「END?終焉…?」
「ゼレフ書の悪魔らしい。俺の親父のドラゴンが倒そうとしてたみてぇなんだ。」
「ゼレフ書…また物騒な名前を……」
ナツの言葉に、指を顎に当てて考え込むウォーロッド。どうしても聞き覚えがないのか、真剣に考えこんでいた。
「そのENDってのがなんなのか分かれば、イグニールの居場所のヒントになると思ってたんだけどな。」
「アトラスフレイムが言ってた言葉ですね。」
「ウム…すまんが知らんのう。」
申し訳なさそうに頭を下げるウォーロッド。だが、別の話しなら思い出したのか、すぐに頭をあげて語り始める。
「だが、昼間
奴らは正体が一切わからぬ不気味なギルド。本拠地も、構成員の数も不明じゃ。だが、何度か周回を目撃した者の話を聞くことがある。
その者達は、口々にこう言う……『あの集会は悪魔崇拝』じゃと。」
その言葉に息を呑む一同。悪魔崇拝、要約すればまともではない者達の集まりということになる。
それこそ、悪魔になる男がいるくらいなのだから。
「これは我々、イシュガルの四天王の推測ではあるが……奴らは協力なゼレフ書の悪魔を、保有している可能性がある。」
「ゼレフ書の悪魔を保有!?」
「もしかしてその悪魔がEND!?」
「いや、悪魔崇拝だと言うんだったら下手をすれば複数……」
「嫌なこと言わないでよね!?」
憶測を飛び交わせる一同。ゼレフ書の悪魔、それ一体で圧倒的な力を持つ凄まじい悪魔。
闇ギルド3大同盟、バラム同盟。その1つであり、そして残り一つにもなっているギルド。ならば、それ相応の力を持っているのは確かに必然と言える。
「そっか…!どこにいるかわかんねーってんならやりようがねぇな!!くそっ!!見つけたら叩き潰して吐かせてやる!こうやってギッタンギッタンに━━━」
「おい、ナツ…」
「ア?」
「……な、ナツさん…今エルザさんの体を洗っていたんじゃあ……」
殴るジェスチャーをしていたナツ。しかし、自分が一体直前まで何をしていたのか、完全に忘れているようだった。
そう、マルクが言った通り今ナツはエルザの体を洗っていた。そして、殴るジェスチャーとはいえ、殴る蹴る自体の行動には出ているのだ。
つまり━━━
「…ほう?ギッタンギッタンに……なんだ?」
「ぁ……」
石のタイルでできているはずの床が、エルザの握力でヒビが入る。そして、目の前にぼこぼこにされたエルザがいた。
「……フンッ!」
「ぎゃああああ!!」
ナツの悲鳴が、夜空に響き渡る。その凄惨な光景に、誰もが目を背けていた。
背ける必要もなく目を瞑っていたマルクだったが、今の今まで女子と一緒にお風呂に入って恥ずかしがっていた気持ちが、この光景の音だけですっかり冷静になるほどだったのだという。