炎竜アトラスフレイム。時を超える魔法、エクリプスにより400年前から現れたドラゴンの一頭。初めこそ、敵対していたもののナツと関わったことにより未来から来たローグから離反し、仲間として一緒に戦ってくれたドラゴン。
体が炎でできており、物理攻撃は愚かブレスさえも並大抵のものは効かないのだ。
そして、アトラスフレイムは巨人の村…太陽の村にある永遠の炎だったのだ。それが今、ナツの炎によって復活する事が出来た。
この村で何が起こったのか……今、それが明らかになる。
「あいつは……」
「エクリプスから出てきたドラゴンの一頭!?」
「400年前に帰ったはずじゃあ……」
「400年……ウム…400年、われは燃え続けておる。」
「ドラゴンって……分かってはいたけど、長命なんだな。」
驚きのあまり、その驚きが言葉に出来なくなっているマルク。それは、他の者達も同じだった。
「生きてたんだな、おっちゃん。」
「お久しぶりです……」
「生きて……?いや、違うな……」
「この姿は、私のミルキーウェイで魂を具現化したものです。」
「つまり、ナツさんの炎があってようやく魂が具現化できるレベルだったってことか……」
「死んだ、ということか……?それも、遥かなる古……」
困惑したかのような声を出すアトラスフレイム。どうやら、本人にも死んだことが良くわかっていなかったようだ。
「意識がはっきりしてねーのか?」
「意識…と言うよりは記憶が、混濁しておる……ムム、ここは……我は……」
「しっかりしろよおっちゃん。」
「イグニールの子は、覚えておる……」
困惑を続けるアトラスフレイム。残留思念だからなのか、それとも他に別の理由があるのか。彼の記憶はあやふやになっていた。
「どういう事?ジルコニスの時は記憶もはっきりしていたのに。」
「氷のせいかも……」
「どういう事だ?ウェンディ。」
「元々残留思念というものは、とても強い意志に反してとても弱い魔力なの。それが、氷の魔法によって長時間凍結されたことで記憶の1部が損傷したのかも……」
「要するに……脳みそにダメージ受けたようなものかな……」
「氷…ウム、氷だ……」
そのウェンディの言葉に、アトラスフレイムが反応を示す。どうやら、何かを思い出しそうになっているようだ。
「世界は氷に包まれた。」
「おっちゃん、この村のこと言ってんのか!?」
「何が、あったのですか……あの、教えて……」
この村の出身者でもあるフレアが、恐る恐るアトラスフレイムに近寄って話しかける。
「ムググ……あの男は、我を…何かと間違えて……ムウウ……!」
「あの、男……?」
「…そう、だ。たった一人の人間が……世界を氷に変えた。」
「氷の魔導士の仕業だったのか……!」
氷を使う魔導士だというのは、予想ができる範囲ではあった。グレイは、改めて答えを得られたことで確かな納得を得た。
だが、問題は村1つを丸々凍らせるほどの魔力を持った、1人の人物によってこれが行われた、ということである。
「たった一人の魔法でこの村をこんなふうにしたの!?」
「な、何のために……!?」
「あの男は…我を、悪魔だと思っていた……我を消すため、村中を凍らせた……悪魔祓いの魔導士、
滅悪魔導士、その言葉を聞いて一同が驚く。竜でも神でもなく、悪魔を滅ぼす為の魔法。
「悪魔……そうか、だから……」
自身が氷に触れた時の激痛、そして怪鳥に食べられた男。どちらも悪魔だったからこそ、この村の氷が効いたのだ。
妙に納得すると同時に、マルクは自分の異質さを改めて理解することになった。
「ムググ……思い出せん、われは一体……!」
「━━━あなたはこの村の守り神!巨人の炎!!」
「ム……」
我慢出来ずに、声を出すフレア。永遠の炎なら、アトラスフレイムならこの村の氷を溶かせると、その気持ちがついに爆発してしまったのだ。
「どうかお願いします!この村に再び光を!この村を救ってください!!どうか……!」
「フレアお姉様……」
土下座をするフレア。その一心が、村を救いたいという気持ちが……奇跡を産んだ。アトラスフレイムの記憶に、その奇跡が宿った。
「われは……そうだ、我が名は
「いいぞ!思い出してきたんだな!」
「我が村の不幸は我が痛み……我が村の悲しみは我が涙……我が…魂の最後の残り香と、イグニールの子の炎を持って……この村を解放せし………我が名は炎竜アトラスフレイム、この村の守護竜なり!」
アトラスフレイムから、凄まじい熱気が吹き出してくる。熱気とともに、アトラスフレイムの炎が激しく燃え盛る。
その圧倒的な雄々しさに、圧巻の一言しかでなかった。
「魂が消えていく…」
「え!?」
「文字通り、最後の残り香って事か……!」
燃え盛るアトラスフレイム。その最期の最中、靄に包まれていた記憶が鮮明に思い出されてきていた。
「イグニール、竜王祭、アクノロギア、ゼレフ……思い出した、思い出したぞ…!ゼレフ書最凶最悪の悪魔『END』400年前、イグニールはENDを破壊できなかった……」
「イー……エヌ、ディー…?」
ゼレフ書最凶最悪の悪魔、ナツの親であるイグニールが倒せなかったという悪魔。否、倒せなかったのではなく…破壊できなかった悪魔。
その言葉だけを残したあと、アトラスフレイムは完全に消えていくのだった。
「アトラスフレイムの思念は完全に消えました。」
「現世に残る僅かな魂が、ここまでの力を引き出せるなんて……」
「……お姉様、嬉しい?」
「……うん…!」
「わははははは!」
「わはははははははは!!」
「「わーっはっはっはっはっはっー!!」」
巨人の頭の上に乗り、高らかに笑うナツ。そして、乗られている巨人もまた大きく笑っていた。要するに、意気投合しているのだ。
「すっかり馴染んじゃって…」
「小さきものに救われてしまったな。」
「元に戻れてよかったな。」
「小さきもの…」
「その中でもウェンディとマルクは更に小さい部類ね。」
「わはははははははは!!」
「……楽しそうな人達だな、ほんと。」
先程まで凍っていたことすら、実は夢だったのではないかと思うほどに、巨人達はとてもおおらかだった。
「一体この村で何があったのだ。」
「そう言えば、エルザさんいませんでしたね……何かあったんですか?」
「まぁ、それは後で話そう。マスターにも話さなければならないだろうしな。」
「氷の滅悪魔導士って言うのが襲ってきたんだって。」
その事で、巨人達も少し申し訳なさそうな顔になっていた。どうにも、自分達が一瞬でやられたとは思っていないようだった。
「ワシらも武器を取って立ち向かったのだが……」
「そこからの記憶が無い。」
「ウム。」
「……という事は、一瞬でとんでもない範囲を凍らせたってことですかやっぱり。」
改めて、氷の滅悪魔導士の強さを思い知る一同。認識出来ないほど早く、凍らされたということなのだから。
「永遠の炎…つまり、アトラスフレイムを悪魔だと思って倒しに来たらしいの。」
「犯人の勘違いが、引き起こした事件だというのか?しまらん話だな。」
「いや、その犯人の真意はまだ分からねぇ。サキュバスの男が言ってたんだよ…」
闇ギルド『
「…『お前らは開いちまったんだ、冥府の門を。もう後戻りはできない』…でしたっけ。」
「
「ひぃっ!」
「恐らく犯人は冥府の門の人間だ。その下部ギルドにあたる夢魔の眼がこの村の守備についたんだ。」
「何か別の理由があって村を凍らせた、ってこと?」
「そうね……まだ何か裏がありそうだわ。」
冥府の門、夢魔の眼…闇ギルドの一角が動き出している以上、どうしても気が引き締まってしまう。
だが、その緊張は今の間だけは必要のないものである。
「まぁ、とりあえずは仕事完了だ。」
「あいさー!」
ナツは朗らかに笑い、仕事の完了を喜ぶ。それにつられてほかのメンバーにも笑みが浮かぶが、ふとそこにフレアの姿がないことにルーシィは気がついた。
「そう言えばフレアは?」
と、後ろを見ると何故か木陰に隠れているフレアとマホーグが、そこにはいた。
「何で隠れてるの?というかなんで二人共……ねぇ、フレア。」
「フレアだと!?そこにおるのか!?」
突然、人が変わったかのように巨人達は立ち上がる。当然、頭の上に乗っていたナツとハッピーは転がり落ちる。
「ほら、久しぶりに帰ってきたんだからさ。」
「私、この村捨てた…勝手に出て言った……だから…」
「大丈夫だよ、怒ってなんかないって……」
ちらっと、巨人の方を見上げるルーシィ。しかし、その顔はしかめっ面になっており、とても安易に『怒っていない』とは言えないものだった。
「本当にフレアなのか?」
「久しいな…」
「大きくなったが…まだワシらより小さいな。」
「外の世界はどうだった?」
突然尋ねられ、言葉に困るフレアだったが、たどたどしくもなんとか紡いでいく。
「た、楽しいことも…辛いことも、いっぱい……」
その言葉を聞き、巨人達とナツは笑みを浮かべる。それを見て、怒ってなく寧ろ歓迎していることが良くわかった。オドオドしているフレア以外は。
「それはどこにいても同じだ、生きている限りな……出ていこうが戻ってこようが、ここがお前の家だ。」
「自由にすればいいさ。」
「ウム。」
「まぁ……しかしなんだ、これだけは言っておかんとな。」
「「「おかえり、我らが娘よ。」」」
巨人達のその言葉に、フレアは顔を俯かせる。そして、涙を流し始める。それは、悲しみの涙ではなく……巨人達に、親に捨てられていなかったと思える嬉しさの涙だった。
「た、ただいま…!」
そして、笑顔を浮かべるフレア。そこには、闇ギルドに所属していた者の面影はどこにもなく、ただ一人の少女がいるだけであった。
「マルク、混ざらないの?」
「俺、酒飲めないし……」
「私だって飲めないけど、参加してるよ?」
「う…」
森の影に一人でいるマルク。そこにウェンディがやってくる。笑顔で近づくウェンディに、どうにも申し訳ない気持ちになっていた。
「……思うところでもあった?」
「…村が凍ってる時に、俺の体調が悪かった理由。フレアさんについて行ってたはずなのに、いつの間にかはぐれて悪魔だった男とグレイさんの近くに出て…偶然とは思えないんだよ。」
「……マルクは、人間だよ?」
「ウェンディ?」
「私と一緒に生活して、一緒に育って、魔法も使って……」
指を折りながら、色んなことを確認していくウェンディ。小さなことから大きなことまで、思い出を上げていく。
「それに、マルクの髪も…肌も…姿形も、人間にしか見えないよ?おかしいところなんて何も無い。」
「に、人間の姿になれるらしいし…悪魔って。無意識にそうなっているだけかもしれない……」
「それを言っちゃったら、私だっていつかはドラゴンの姿になるかもしれないんだよ?」
「う…ジルコニスの話か……」
滅竜魔法を使い続ければドラゴンになる。結局、アルカディオスはゼレフが原因だと言っていたが、あれの真実はどっちなのだろうと少し考えてしまうマルク。
「それでも、私は自分が人間だって思ってる。なら、マルクも人間だよ?」
「……わかった、俺は人間だよ。ただちょっと変な弱点が多いだけの、な。」
「うん!ほら、混ざりに行こ?」
「おい待てって、引っ張らなくてもついていけるから!」
そして、この日はいつまでも巨人達と一緒に一同は朝まで騒いで過ごしたのであった。