「きゃう!」
「ウェンディ大丈夫?」
「すみません、地面が凍ってて……」
「たしかにちょっと滑りやすいもんな……にしても、ナツさんどころかグレイさんともはぐれるとは…」
ウェンディを起こしながら、マルクはそう呟く。どこもかしこも凍っており、普通の森よりも行き来が難しくなっているこの森。
先行したナツとも、いつの間にかグレイともはぐれてしまっていた。
「どうしよう……全然訳が分からないわよ、ここ。」
「空から2人を探すって言ってたハッピーとシャルルも……戻ってこないし。」
「そう言えば……さっきから、ちょっと気になることが…」
急にしどろもどろになるウェンディ。マルクとルーシィは、その様子に首を傾げる。
「気になる、ていうか……絶対変、というか……付けられてるみたいです。」
後ろに視線を投げるウェンディ。その先にルーシィとマルクも視線を向けると、トレジャーハンターのふたりがいた。
なぜか、1人は顔を青く塗りもう1人は顔を白く塗って。
「やだなぁ、オイラ超ネコだにゃ。」
「白ネコだニャドゥーン。」
「きゃあああああ!」
「うわ、これは……」
悲鳴をあげるルーシィと、ありえない程に不快感を感じているマルク。似ても似つかない変装に、何故か腹を立てていた。
「トレジャーハンタースキル、変装が見破られた…だと!?」
「やっぱ俺が青ネコやるべきだったんだよ!!」
「そもそもあの二人はそんなにでかくねぇし、喋り方もしない!!」
「本気で騙せると思っていたのかしら……」
「奥が深いですね、トレジャーハンターって。」
トレジャーハンターの2人は、顔のメイクを消してから立ち上がる。割と素早くとってたので、変装する手間が早い分雑だったのだろうと…そう考えておくことにした3人だった。
「バレちまったら超仕方ねぇ!!標的変更!!お前のその鍵、超レア物だろ!」
「ドゥーンと頂いていくぜ!!」
「何なのよこいつら…」
ルーシィは黄道十二門の鍵を隠しながら、1歩下がる。代わりに、ウェンディが1歩前に出て説得しようと試みる。
「あの、小瓶の事はすみません……けど、私達は争うつもりは無いんです。巨人さんを助けたいんです。」
「巨人?そんな奴らはどうでもいいよ。トレジャーハンターにとって、ものを見極める基準は一つだけ……それが宝か、宝じゃねぇかだ!!」
そう言うと、
その行動に、3人は驚く。
「止めなさい!まだ生きてんのよ!!」
「生きてようが死んでようが、宝じゃねぇものに興味はねぇ。」
「止めて下さい。」
ウェンディが、少し言葉を強くしながらもまだ諭そうとする。だが、トレジャーハンター達にはそれは届かない。
「辞めねぇよ、やりてぇ事をやる…欲しいものをいただく。それがトレジャーハンター━━━」
「やめてください!!」
ウェンディは、ブレスでトレジャーハンターを吹き飛ばす。なんとか、そこまで吹き飛ばされないようにした2人だったが、もはやそんなものは関係なかった。
ウェンディとルーシィ、そしてマルクは既に戦う体勢に入っていた。
「争うつもりは無かったけど酷いです、ほ放ってけません!!」
「村人を傷つけるつもりなら、あたし達が相手よ。」
「イイネ…宝も女ももらっていくか。」
「女はイラネ、殺そうぜ。ドゥーンっと。」
「……あ?」
『殺す』という単語を発したララを、睨みつけるマルク。ルーシィとウェンディは、そのマルクの様子に少しだけ焦りを感じ始める。
だが━━━
「きゃっ!!」
「わっ、わっ!?」
「ちっ!!」
そう、トレジャーハンターはもう一人いたのだ。スナイパーである、スナイパー・ドレイクが。
遠いところから狙い撃つ彼は、ウェンディ達を一方的に狙い打てるのだ。
「あっ!!」
「ウェンディ!」
氷のせいでコケるウェンディ。そのウェンディを庇うように、マルクが即座にウェンディと、射線上で居場所だけはわかったドレイクの間に入る。
「ウェンディ!マルク!!」
銃口が光り、弾丸が放たれる。だが、その弾丸はウェンディ達に届くことは無かった。
何故なら、弾丸は止められていたからだ。赤い髪に。
「ふふ……女は4人、男が1人……」
「フレアさん!?」
「なんでこんな所に……」
突如現れたフレア。彼女の事もそうだが、『女は4人』というセリフに少し引っ掛かりを覚えていた。
ここにいるのは3人、1人足りないのだ。
「……わ、私。」
「マホーグ!?」
「ま、マーちゃん……って呼んで。マホーグって名前……可愛くない、らしいから。」
「お、おう……?」
そしてまた突然現れたマホーグ。何の気配もなしに、いきなりマルクの後ろに立っており、ルーシィとウェンディは当たり前だが驚いていた。
「なんだこの女……」
「奴らの仲間か。」
トレジャーハンター達も警戒しており、攻撃は仕掛けてこない。
「あの……ありがとうございます。」
「なんであんたがここにいるわけ!?」
「それと、マホー……ま、マーちゃん……も何で?」
本名を言いそうになって、ぐるんと首を回して視線を向けてきたため、少しビビって訂正し直すマルク。
それで満足したのか、トレジャーハンター達の方に再度視線を向け直す。
「……金髪をつけてきた。」
「ええ!?」
「ていうか、いつもつけてる。」
「えええっ!?」
ニヤニヤと笑いながら、フレアは語っていくが……すっ…と、真面目な顔付きになる。
「ウソ……私、行くとこなくなった。だから、帰ってきた。」
「帰って……きた?」
「そう、私の故郷……この紋章は、
フレアは、胸のマークを見せながらそう語る。巨人の村…太陽の村といったこの村が、フレアの故郷なのだと。
「フレアさんってこの村の人だったんですか!?」
「ウソっ!?」
「小さい頃、巨人に育てられたの。帰ってきたら村の人が…私の、家族が……許せない。」
「氷漬けにしたのは俺達じゃねぇよ!!」
「俺たちは永遠の炎をドゥーンと頂くために━━━」
「それとダメっ!!」
大声を張り上げるフレア。彼女にとって、この故郷を汚されることは…何人たりともしてはならない事なのである。
「永遠の炎は村の守り神……大切な物!!誰にも汚させない!!」
「髪が伸びた!?」
自らの魔法を使い、フレアは髪を伸ばして攻撃を仕掛ける。それに驚いてもいたが…相手には、剣を使う相手もいるのだ。
「任せろ!!チェインブレイドで……超斬る!!」
「さ、させるわけ……ない!!」
咄嗟に割り込まれ、鍔迫り合いを始めるヒロシとマホーグ。だが、ヒロシは瞬間的にチェインブレイドを変形させて、フレアの髪を銃モードでバラバラに撃ち抜く。
「っ!!」
「開け、巨蟹宮の扉…キャンサー!!」
「髪のことなら任せろ…エビ。育毛スカルプケア!!」
キャンサーは、フレアの髪を自らの魔法で治していく。短くなった髪が、元の長さを取り戻していく。
「金髪……」
「巨人を守るのよ。」
「一緒に戦いましょ!!」
「家族を狙われるのは……まぁ、辛いよな。」
フレアは、3人の言葉に少しだけ微笑んだ後にすぐさま治った髪をヒロシにぶつける。
そして、交代であるかなようにマホーグがフレアの後ろまだ下がってくる。
「ふ、フレアお姉様……ごめんなさい…」
「わ、私の髪はどうせ伸びるから……気にしない。」
そして、元レイヴンのふたりがヒロシと戦っている間に、ウェンディとマルクはララと戦っていた。
「ドゥーン!!」
「天竜の、鉤爪!!」
「魔龍の尾激!!」
振り下ろされるストロンガーを、ウェンディが蹴りあげて一瞬止めて、その好きに横からマルクが蹴りつける。
「ブレスじゃなかったら使えるっぽい!!」
「逆になんでブレスはダメなの…?」
「さぁ……?何で俺だけ……」
「ともかく、いこう!!」
「おう!!」
戦いは白熱を極めていく。だが、相性の問題か徐々に5人は押され始めていく。
「髪しぐれ狼牙!」
「所詮髪の毛!剣の敵じゃねぇ!!」
「な、なら……武器が相手、なら?」
マホーグ、ヒロシにハンマーの形となった武器を叩きつけようとする。だが、それは避けられるだけに終わってしまう。
「……一瞬でも、いい。」
「あ?」
「この髪は永遠の炎から授かった私の誇り……髪しぐれ蛍火!」
「おごぉっ!?み、味方ごと…」
「わ、私ワープできるし……」
切れた髪の毛が、爆発を起こす。ヒロシは吹き飛ばされるが、マホーグはショートワープでそれを回避する。
「ヒロシー!!」
「やぁ!!」
「ドゥーン!?」
ヒロシの援護にまわろうとしたララだったが、ウェンディに蹴られて軽く怯んでしまう。
だが、即座にストロンガーを動かしてウェンディに掴みかかろうとする。
「ふん!!」
「わわっ!?」
だが、マルクが即座に間に入ってウェンディが掴まれるのを阻止、代わりにマルクが掴まれてしまう。
「このストロンガーは並の力じゃあ外せねぇぞ!!」
「……」
「動くなよ…この男の体がドゥーンと爆発するぜ!!」
「マルク!!きゃっ!!」
マルクのヘルプに回ろうとしたルーシィだったが、即座に足元に弾丸を打ち込まれて、コケてしまう。
「ちぃっ…えっ……?」
髪を動かして、ルーシィを助けようとするフレア。だが、動かそうとしたその瞬間に、何かに引っかかるような感覚を覚える。
後ろを見れば、フレアの髪がいつの間にかヒロシによって木に結びつけられていた。
「姉様っ!?」
「私の髪が!?」
「トレジャーハンタースキル!固結び!!うははははははっ!!」
「一丁上がりってな。」
「ドゥーン。」
髪を結び付けられたフレア。動けば、すぐさま撃ち抜かれるルーシィ。拘束されたマルクに、そのせいで動けないでいるウェンディ。
状況は確かに悪いが……トレジャーハンター達は、その状況で勝ちを確信してしまった。
「魔導士ごときが俺らに喧嘩売るなんて、超10年はええよ。女は女らしく、男の前でケツ振ってればいいんだョ。
おい、ちょっとケツ振ってみろよ。」
「うははははっ!!いいなっ!やれやれ!」
「……あんたら、ばっかじゃないの?」
呆れた顔をするルーシィ、すぐ後ろで星霊のバルゴが何故か言われたとおりに振っていたが、いつもの事なのか完全にスルーしていた。
「魔導士に喧嘩売るなんて100年早いのよ。」
「よいしょっ。」
「うへっ!?」
軽く体を動かすように、両手と両足を動かすマルク。それだけで、ストロンガーの指関節は壊れてしまう。
「ウェンディ、俺じゃあ壊しきれないからあと頼んだ。」
「
そして追撃と言わんばかりに、ストロンガーは破壊される。もうこれで、厄介なストロンガーは使えなくなった、というわけである。
「結ばれてても私の髪伸びるし。」
「何っ!?」
「マホーグ、よろしく。」
「はい!フレアお姉様!」
「俺のチェインブレイド!?」
ものすごく嬉しそうに、マホーグはフレアから投げられたヒロシのチェインブレイドを、叩き壊す。はっきり言うと、ここまでする必要は無い。
「ルーシィ!!」
「間に合った!」
そして、いつの間にか召喚していたロキが、ドレイクを後ろから強襲してルーシィに向かって投げつける。
「魔龍の逆鱗!!」
「天竜の翼撃!」
マルク、ウェンディのそれぞれの一撃でララは吹き飛ばされる。そしてそれにならい他のふたりも……
「髪しぐれ千鳥!」
「ルーシィキーック!」
「&バルゴキィーック!!」
そして、3人は遥か彼方へと吹き飛ばされる。それを見てから、一同は勝ちを確信したのであった。
「やったわね!」
「……うん。」
微笑むフレア。今回の勝利は、全員の力で勝ち取った勝利なのであった。