聖十大魔道序列四位、イシュガルの四天王と呼ばれるウォーロッド・シーケン。その彼が、
ナツとグレイを指名していたが、あの二人だけでは心配という事で、ルーシィやエルザ、ウェンディとマルク、そしてシャルルとハッピーが着いていくことになった。
そして、のどかな平原を超えた先にウォーロッドの家は、存在していた。
「ごめんください、魔導士ギルド、妖精の尻尾の者です。」
「……しー、静かに。」
家の中は、大量の草木が育てられていた。余程の植物好きなのか、水をやりながら、低い声で喋り始める。
「草木は静寂を好む……理解したなら、その忌々しい口を閉じよ。」
ルーシィ、ウェンディは口をさっと手で覆う。他の者も口を閉じてじっと黙っていく。
「……なんてな。」
と、声が聞こえた瞬間。辺り一面に花が咲き始める。しかも、一瞬で大量に、である。
「冗談じゃよ、冗談!ぷふー!草木も花も人間の声は大好きなんじゃ!!わはははは!!」
急に高い声で喋り始めるウォーロッド。そのいきなりの変容に、一同は驚いていた。
そして、そのウォーロッドの見た目は……木だった。
「いやぁ、よく来てくれたね。妖精の尻尾の魔導士達よ。ナツ君とグレイ君というのはどちらかね?」
そう言いながら、ウォーロッドはハッピーとシャルルを手に乗せて驚いた表情を見せる。
「ややっ!予想より猫っぽいな!!」
「……」
「冗談じゃよ、冗談!!わはははっ!!ぷふっ…」
ウォーロッドの余りのテンションの高さに、一同は段々と呆れ始める。というか、疲れ始めていた。
「テンションの高いおじいさんね…」
「う、うむ……」
「おっと、喉が渇いた。うはははははっ!!」
喉が渇いた、と言いながらウォーロッドはじょうろの水をそのまま口に流し始める。正直、テンションが高すぎて異様にしか見えなくなってきた。
「あああああ……」
「何だこのじいさん…なんだ、なんなんだ……」
「失礼ですが、貴方が聖十大魔道のウォーロッド・シーケン様ですか?」
話を切り替えようと、エルザがウォーロッドに問いかける。その質問に対し、ウォーロッドは真剣な顔で返事をする。
「いかにも!ワッシこそがウォーロッド・シーケン……冗談だけどな。」
「えーっ!?」
「……というのは冗談じゃ。」
ルーシィとウェンディがずっこける。エルザも肩透かしをくらったのか、軽くずっこけていた。
「……疲れるじいさんだ。」
一同は、1度外へ出て話し始める。外にはテーブルと人数分の椅子があったので、全員が座りウォーロッドの話を聞いていく。
「ワッシは引退してから、ずっと砂漠の緑化活動を続けてきた。」
「引退?ウォーロッド様も昔はギルドに?」
「はっはっはっ!いいギルドじゃったよ。
ワッシは、緑の魔法を持って砂漠の広がりを食い止める。慈善活動といえば聞こえはいいが、実はただの趣味じゃ。」
「趣味でも、素晴らしいことだと思いますけど?」
「ありがとう、そう言われると悪い気はせんの。
……そんなわけで、何年もあちこちの砂漠を旅しておるのだがね。この前奇妙な村を見つけてのう。文献によれば、そこは『太陽の村』永遠に燃え続ける炎を守護神とし、信仰していた村だった。」
「永遠に燃え続ける炎?」
『炎』という単語にナツは引っかかりを覚える。つい最近、長く燃え続けている炎に出会ったような気がしたからだ。
「そう……だが、その村は凍りついていた。天災なのか人災なのか……人も動物も植物も、建物も川も……村を守護する永遠の炎さえも凍りついていた。」
「炎が凍りついて!?」
「そんな……」
本来、そのようなことはありえない筈だが、ここに来てまで冗談を言うわけもないのか、茶化すことは無かった。
となると、とんでもない氷の魔導士がその村を凍らせたことになる。
「その村で何があったのかはわからん。だが、氷の中で村人は生きておった。」
「氷の中で、生きてるなんて……」
「どういうことなの?」
「生きた村人が凍りついている。放ってはおけん、その村を救ってほしい……それが、ワッシの依頼じゃ。 」
「なるほど!それなら簡単だ!!俺の炎で全部の氷溶かしてやる!!」
ナツは乗り気だったが、グレイはいまいち乗り切れなかった。氷を溶かすのが仕事ならば、凍らせるグレイは役割がないと言われているようなものである。
無論、それがただの氷ならば、の話だが。
「そういう事なら俺はいらねぇだろ。」
「いいや、あれはただの氷ではない。きっと君の力も必要になる。」
「……?」
『ただの氷ではない』という言葉に疑問を抱くグレイ。だが、依頼である以上断るわけがないので、それ以上は追求しなかった。
「……お言葉ですが、ウォーロッド様。貴方ほどの魔導士ならば、ご自分で解決できる事件では……」
突然、エルザが声を上げる。聖十大魔道が依頼するというのならば、S級ほどでないにしろ、それが聖十大魔道に解決できない事案という事である。
しかし、凍った村をどうにかする……というのは聖十大魔道ならば、簡単に解決出来るのではないか?エルザはそう思っていた。
「ふむ……君達は、何か勘違いしているのかもしれんな。」
「勘違い?」
「あぁ……聖十大魔道と言えど万能ではない。評議院勝手に定めた10人に過ぎん。
この大陸には、ワッシ以上の魔導士は山ほどいるし、大陸を出たらそれはもうワッシとても小さな存在。
現にワッシは攻撃用の魔法はほとんど知らぬ。若者と武力で争っても、勝てる自信もない。」
「ですが……」
「誰にも、得意不得意はある。それを補い合えるのが仲間、ひいてはギルドであろう。」
ニッコリと、微笑みながらウォーロッドはそう答える。そう、誰にでも不得意なことがあるのだ。だからこその仲間、だからこそのギルドであるとウォーロッドは答えたのだ。
「……仰る通りです。」
「その依頼引き受けた!」
「おう!」
「あたし達に任せてください!」
やる気を出す一同。先程まで喧嘩をしていたナツやグレイまでもが、拳を合わせてやる気を出すほどに。
それを見て、ウォーロッドは満足げに微笑む。
「それでその村はどこにあるんですか?」
「ここから二千kmほど南じゃ。」
「馬車乗り継いでいかないと厳しそうですね……」
「なーに、移動くらいは手伝ってやろう。そこに集まって、荷物も忘れんようにな。」
ウォーロッドが、杖で指した場所に集まる一同。何が起こるのかと、ワクワクしながらも緊張していた。
「回れ右……というのは冗談じゃ。」
「「「オイ!!」」」
そう言われたから、つい回れ右をしてしまった一同だったが、ウォーロッドは冗談好きというのをすっかり失念してしまっていた。
「…………」
「何か生えてきた……」
呪文を唱えていくウォーロッド。すると、足元から芽が生えていき、それがだんだんと大きくなっていく。それは、その場にいた妖精の尻尾のメンバー一同を、全て乗せることが出来るほどの大きさだった。
「え?」
「なにこれ…!?」
「うわっ……!?」
「頼んだぞ……妖精の尻尾の若者達よ。」
芽は大きくなり葉となる。そして弦は幹となり、それらがまとまって木となって行く。
それは加速度的に大きくなっていき……ウォーロッドの家から離れるのは一瞬だった。
生えた木は、凄まじい速度でその巨体を伸ばして一同を運んでいく。
「早っ!?」
「すげぇけど確かにはえぇ!!」
喜んでいるのか、驚いているのか……それすら判別できないくらいには、テンションが上がっていた。
伊達に、聖十大魔道という選ばれた10人の中でも、序列四位という地位に選ばれた者の魔法である。
「まるで乗り物ですね。」
「落ちるわよ。」
「……思いの外落ち着いてるなウェンディ。」
「シャルルと一緒に飛んでる時……よりは早いけど、でも純粋に驚きの方が強いから…かな?」
かなりの速度で飛んでいるので、向かい風が凄まじく髪の毛が揺れる揺れる。
だが、やはり感動もあるのだろう。これほどまで強力な魔法……大自然を操る魔法というのは、類を見ないからだ。
「これと列車どっちが早いんだろ……」
そう呟くマルク。真面目に考えても、素人にはわかるはずもないのだが、それを考えたくなるほどには早かったのだ。
「何分くらいしたらつくんだろ?」
「……案外、10分もかからなかったりしてな。にしても、本当にすごい人だな。木をここまで正確に、しかも早くでかく使える魔法なんて……」
「ラキさんとか、ドロイさんも似たような魔法使うよね。」
「あの二人には悪いけど……うん、文字通り桁が違うよ。」
「着いたのか…?」
「あっという間だったな。」
「すごい魔法ですね。」
木が降り立った場所、一同はそこに足を踏み入れる。その辺はまだ凍ってはいないのだが、少しだけ肌寒く感じる程度であった。一人を除いて。
「……」
「マルク?どうしたのそんなに震えて……」
「い、いや……大丈夫…」
「顔真っ青だぞ?お前大魔闘演武の時に、
顔を真っ青にして震えるマルク。彼自身も、なぜ自分が震えているのか理解出来なかったが、この場がとても不快感あるものだと何故か感じていた。
「寒くは、無いんです…ただ、ここにいると不安になるというか…恐怖を感じるというか……」
「私は何も感じないけど……」
「ここで休んでいくか?」
「い、いえ……行きます。」
この場にできるだけいたくないのと、自分だけ何もしないと言うのが嫌になり、マルクは頑張って一同について行くことにした。
「見て、岩肌が凍りついてる。」
「村はこの先ね……」
道を進んでいくと、次第に凍っている面積が大きくなっていく。そして村が見えてくる頃には、辺り一面氷の世界だった。
しかし、肌寒さは変わらなかったので普通の氷ではない、と改めて思い知らされた。
「本当に建物も何もかも凍りついてる。」
「何があったんでしょう…」
「ウォーロッド様の話では人も…ということだったが……見当たらないな。」
入った村を探索する一同。しかし、巨大な建造物ばかりが見えてくるだけであり、村人というのが一向に見えてこない。
「て、ていうかこの村……建物デカすぎじゃないですか?」
「うん……大きいものを作るのが、好きな村の人達だったのかな。」
「……ん?」
何かに気づいたナツ。隣にあった巨大なものを恐る恐る見上げる。それにつられて他の者達も視線を上にあげる……そして、真実が見える。
見上げた巨大なものは……
「でかー!!でかっ!!でかっ!!でかっ!!ちっさ…でかー!!ここは巨人の村なのかー!?」
「あの…今、私の方見て何か言いました?」
巨人、巨人、巨人、ルーシィの胸、ウェンディの胸……それらを見ながら、ナツは驚き続けた。
『そう言えば大事なことを伝えるのを忘れていたような……冗談だけど』
「とか、あの人は思ってるんでしょうね……」
「……まぁ、巨人の村ってのも確かに驚きだけど、やっぱり氷漬けってのがな……」
「驚いたな……こんなに大きい人間がいるとは。」
ナツ程でもないが、やはり驚く一同。巨人というのも、この世界にひいるものなのだと、しみじみ感じていた。
「犬も大きいです。」
「犬、なのかしら……」
「少なくともこの見た目で猫はないだろう。」
「とにかくはえーとこ助けてやらねぇとな!俺の炎で溶かしてやらァ!!」
「ナツー!頑張れー!!」
自分の炎で氷を溶かそうとしはじめるナツ。だが、どれだけ炎を当てても、その部分すら溶けることは無かった。
「どうなってんだこりゃあ……」
「あい……」
「木のじーさんが普通の氷じゃねぇ……って言ってたけど…」
氷を触るグレイ、その異質な氷を前に、違和感としか言いようのないものを感じていた。
「なんだ、この氷の感覚は……今までに感じたことの無い魔力。」
「お前の魔法でも溶かせないのか。」
「そう簡単にはいかないかぁ……」
「ま、まだ魔力を感じるなら……俺の魔力を使えば……」
魔力を奪えば、例えどんな氷であっても溶けるだろう…と考えたマルク。その手に魔力を込めて、巨人の足にくっつける。
「い゛っ!?」
激痛を感じて、後ずさりをするマルク。その手は、あの一瞬で真っ赤になっていた。
「ま、マルク大丈夫!?」
「あ、あぁ……なんで、こんな痛いんだ…?」
「俺が触った時は何ともなかったんだがな……」
「まぁ、マルクは特殊だからな……何かあるのだろう。」
「━━━おや、先客か?これは参ったね。」
唐突に聞こえてくる声、見れば後ろには三人の男が立っていた。
「超女子供ばかりだと?」
「ドゥーンドゥーン。」
突如現れた3人の男。この男達の正体、そして氷漬けになった村人、巨人の村……後者2つに驚きながらも、あとから現れたこの3人と妖精の尻尾一同は睨み合うのであった。