FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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クロッカスの街を

「うーん……」

 

「どうするのよ、ウェンディ。」

 

クエストボードの前で悩むウェンディ。今出揃っているクエストの中で、何を受けるか悩んでいるのだ。

 

「モンスターの討伐に、草むしり…」

 

「洞窟で秘宝を取ってこい、って言うのもあるわよ。」

 

しかし、どれもこれもクエストの難易度が少し高めだったりと……ウェンディとシャルルの組み合わせで行くなら、妥当なのが草むしりくらいしかなかったのだ。

 

「でも、この草むしりって……」

 

「えーっと……『とある山奥に生えている雑草の一部には、寿命を伸ばすと噂の根っこがある。それを探してほしい』……範囲が山なのね。広すぎるわ!!」

 

「……あれ?」

 

「どうしたのよウェンディ。」

 

ウェンディは、クエストボードにあった一枚の紙を指さす。シャルルもウェンディの肩に乗って、その紙をよく見る。

 

「見てシャルル。『私の服を着て街を歩いて欲しい』だって。」

 

「怪しい依頼書ねぇ…」

 

「でも流石に、今の妖精の尻尾(フェアリーテイル)を騙そうって人いるかなぁ…?」

 

「まぁ、前に受けたのは最弱の時だったものね。」

 

「とりあえず受けてみよっか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で……男女の2人組が受ける前提だったから、誘ったんだな俺を?」

 

「うん。でも良かったの?レビィさんと調べ物してたみたいだけど……」

 

「気分転換がてらに行ってこい、ってレビィさんに言われたからな。折角だから、好意に甘えたんだよ。」

 

依頼にあった場所に向かうウェンディとマルク。今は、クロッカスの街を歩いていた。

 

「ゆっくり見る機会無かったし…時間があれば3人で歩こうか。」

 

「そうだね〜」

 

楽しそうな顔を浮かべるウェンディ。それを見て、マルクも釣られて笑顔になっていた。

 

「……っと、ここが依頼にあった場所だな。」

 

「し、失礼します!」

 

ドアをノックしてから、マルクとウェンディは依頼主のいるところに入る。入った部屋には━━━

 

「あら……あらあらあら。まさか、大魔闘演武に出場してた二人が参加してくれるなんて。」

 

「貴方が、この依頼を?」

 

「えぇ、えぇえぇえぇ。そうなのよ。私が依頼主、名前は……カトリーヌでいいわ。」

 

明らかに偽名なのは確定だ。しかし、依頼主である以上無碍にはできない為、改めて依頼の話をし始める。

 

「私、所謂デザイナーなのよ。で、今度貴方達くらいの年頃の子達の服を作ろうと思ってて。

それで……ならいっそのこと着てもらえばいいと思った訳よ。」

 

「それなら、名指しの依頼書を出せばよかったのでは?」

 

「それでも良かったけれど……他にも色々、色んな年頃の子の服を作ってるのよね。

だから、誰でもよかったわけ。」

 

「なるほど。」

 

依頼主、カトリーヌは掛けてある服を一つとってそれを2人に見せる。どうやら、それが今回着る服の様だった。

 

「この服と……こっちの服、この2つを着て街を歩いてちょうだい。それが今回の私からの依頼よ。」

 

「わ、分かりました。」

 

少し食い気味に話してくるカトリーヌ。しかし、服のデザインは存外まともであり、2人が素直に可愛いやかっこいいと思える服だった。

 

「ちゃんと衣装部屋も用意してあるから。」

 

「はい。」

 

こうして、2人は服を着て移動することになったのであった。因みに、シャルルが来るのは予想外だったらしく、彼女の服は用意されてなかったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく……エクシード用の服も欲しいものだわ。」

 

「ハッピーってそういや服着てないな…」

 

「そう言われてみれば……」

 

クロッカスの街を歩くウェンディ達。大魔闘演武の時も歩いていたが、あの時は色々あって、ちゃんと見れていない店なども多くあった。

 

「あ、そこのケーキ屋さん寄ってもいい?」

 

「練り歩くなら何してもいいって言ってたもんな…しかもこの服、報酬とは別にくれるみたいだし。」

 

「太っ腹だよね〜……」

 

そう言いながらケーキ屋に入店する3人。席は空いていたので、簡単に座ることが出来た。

 

「美味しそうだなぁ……」

 

「高い…って程でもないか。丁度いい値段だ。」

 

「まぁ私は、紅茶に合うケーキがあればそれでいいわ。」

 

和気藹々とする3人。その姿を、影からじっと眺める者がいた。マホーグである。

 

「……」

 

その視線は獲物を射殺すかのような目をしつつも、根底にはマルクのことだけがあった。

おかげで、その異質さを目の当たりにした町民が全てそこを避け始めていたが。

 

「っ!?」

 

「マルク?どうしたの?」

 

「い、いや……なんか、悪寒が…この服別に薄着って訳でもないのに……」

 

「風邪でも引いた?」

 

「そんなことは、無いと思うけど……」

 

その悪寒の正体が分からないまま、とりあえずウェンディ達はそのケーキ屋を後にするのだった。

そして、今度はとある場所に立ち寄る。

 

「劇か……」

 

「あ、今ラブストーリーやってるんだって!見に行かない!?」

 

「ウェンディがいいなら、俺はどこにでもついて行くよ。」

 

「でもあんたこういうの疎そうよね。」

 

「いやいや、きっとそんなことないって……」

 

道すがら、見つけた劇を見に行くことにした3人。ウェンディも少女なので、恋愛ものなどの話にはどうにも滅法弱いようだった。

 

「……」

 

「マルク?どうしたの?」

 

「いや……劇一覧に書いてあった『1分の過去や未来』ってタイトルが妙に引っかかって……」

 

「うーん……どんなお話なんだろう。」

 

「ちょっと気になるわね……」

 

建物内の廊下を歩いていく3人、ふと気づくと目の前に見慣れた赤毛…否、紅の髪の色が目に入る。

 

「……エルザさん?」

 

「ん?おぉ、なんだお前達か。なんだ、劇を見に来たのか?」

 

「えぇ、まぁ……依頼内容でここら一体を歩いてほしいって依頼だったんで。」

 

「……ウェンディ、ウェンディ。」

 

ウェンディに手招きをするエルザ。首を傾げながらも、ウェンディはエルザに近づく。

すると、エルザはウェンディと共に少し離れた後に耳打ちで話し始める。

 

「……ウェンディ、デートの誘いはもう少しストレートな方が相手に伝わりやすいぞ。」

 

「ひゃい!?う、嘘じゃありませんよ!本当にそういう依頼なんです!!2人で受けに行ったんですよ!!」

 

顔を真っ赤にするウェンディ。エルザがなんと言ったのか、マルクには聞こえなかったが、どうにもエルザが依頼内容を疑ってる事だけは伝わってきていた。

 

「ウェンディー、どうしたー?」

 

「へ!?う、ううん!何でもないよ!!」

 

しかし、疑っているだけならば、ウェンディがあそこまで大きな声を出すことはないと思いもしたので、とりあえずマルクはウェンディに声をかけた。

 

「……本当なのか?いや、すまない……ウェンディが嘘をつくとは思ってないんだが、その依頼内容が不可思議すぎてな……」

 

「……正直、簡単すぎるなぁって思ってはいます。この服を着ながら…というのを含めても、簡単すぎますし……これで本当にいいのかなって。」

 

「指定された服を着ながら…か。依頼主がどんな人物か、聞いたか?」

 

「は、はいデザイナーさんだと。」

 

エルザは、それで納得したのか少し笑みを浮かべる。ウェンディはその理由がわからないので、また首をかしげていた。

 

「なら仕方ないな。私が昔受けたクエストにも、デザイナーがいたが…やはり、変なクエストを出す人物だったよ。」

 

「え、で、デザイナーさんってみんなあぁなんですか?」

 

「あれは、自分の世界を他人に表す職業だからな。多少違和感のある依頼の方が多いだろう……しかし、悪い者はいないはずだ。」

 

微笑みながら、明後日の方向を見るエルザ。過去にやはりデザイナーが出した依頼を受けたのだろう。

どこか、嬉しそうな表情だった。

 

「さて、ウェンディ達も見るなら一緒に劇を見るとしようか。」

 

「は、はい!マルク、行こう!!」

 

「……俺おいてけぼり感あるなぁ。」

 

「今更でしょ……」

 

そのまま、ウェンディ達のところに向かうマルクとシャルル。どうにも、シャルルはウェンディとエルザが何を話していたのか分かっているらしく、エルザとのことを会話にしていた。

 

「……ウェンディと何話してたんですか?」

 

気になるので、マルクはエルザに聞こうとするが、エルザは自分の唇の上から指一本立ててジェスチャーをする。普通ならば『静かに』という意味合いのジェスチャーだが、このタイミングで行うということは『話せない』の方の意味合いが強い。

つまり、何を話していたかは秘密ということである。

 

「……気になるなぁ…」

 

ぼそっと呟くマルク。しかしそれを呟いても話の内容がわかるはずもなく。少し気になりながらも、劇を見に行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……まさかあんなに感動するとは。」

 

「あぁ、良かったな……」

 

「ま、まぁまぁじゃないかしら……」

 

「シャルル、泣いてるよ……」

 

感動して、涙を流す一同。劇の内容が、とてもいいものだったのも相まって、かなり満足出来ていた。

 

「……っと、もう夕方か。3人とも、クエストはいつまでするんだ?」

 

「……そう言えば、いつまでか聞いてない…」

 

「でも、そこまで長い間しろ、ってわけじゃないでしょう。一旦戻ってみない?」

 

「そうだな……エルザさん、ではまた後で。」

 

「うん、お前達も気をつけてな。」

 

そして、その場でエルザと別れた3人は一旦依頼主のところへと戻っていく。夕日に照らされるクロッカスもまた、綺麗な街並みなのがまた少し感動できるところであった。

 

「……で、戻ってきたわけだけど。」

 

「置き手紙だけが置いてある……」

 

「とりあえず読んでみましょ、私達宛じゃなかったら問題ないだろうしね。」

 

「それもそうだな……えーっと━━━」

 

『拝啓、ウェンディちゃんとマルクくん。

この手紙を読んでるってことは、仕事終わってここに戻ってきてるのね。だいたい夕方くらいかしら?

戻ってきているのなら、多分クエストの話ね。既に報酬は妖精の尻尾の方に預けてあるわ。後で誰か大人の方と一緒に引き出してもらいなさい。

服もあげるわ。私はこれでも仕事が忙しいのよ、だから貴方達にちゃんと渡せなくてすまないと思っているわ。

又機会があったら仕事、頼むわね。』

 

「━━━だって。」

 

「妖精の尻尾に振り込まれてる……?」

 

「まぁ、少し面倒になっただけね。払われないよりはマシよ。」

 

手紙を読んだ後に、少し首を傾げるマルク。というのも、疑問に思っているのだ。『何故戻ってくるのが夕方』という前提で置き手紙を出しているのか、ということである。

 

「……どこかで見てた?いや、まさかな……」

 

「マルクー?どうしたのー?」

 

「早く帰らないと夜になっちゃうわよー」

 

「分かってるー!」

 

とりあえず、そのことは一旦頭の隅に置いてからマルク達はギルドへと戻るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミラさーん、昨日やった仕事の報酬振り込まれてるって話なんですけどー」

 

「電話で聞いてるわよ。でも、2人ともどんな仕事したの?」

 

「へ?依頼書見せた奴ですけど……」

 

ミラは、少し困り顔になりながらとあるトランクを取り出す。どうやら、昨日の間に引き出してくれていたらしい。

だが、問題は報酬を払って使われているのがトランクという点である。

 

「……これだけ、あるんだけど。本当に街を歩くだけ?」

 

「へ……えー……はへぇっ!?」

 

札束、札束、札束。トランクいっぱいの札束がぎっちり詰め込まれていた。確かに、この報酬額は破格すぎた。

 

「で、でも依頼書に書いてあった報酬額とは違うような……」

 

「それがね……向こう側が『思った以上に成果を出せた』って言ってて……上乗せしてきたのよ。」

 

「10……100………1000倍?」

 

困惑するマルク。ウェンディに後で報酬額を渡すつもりで、先に受け取りに来ていたのだが、頭の中で大量の数字が飛び交っていた。

 

「あ!マルク!!ちょうど良かった!!」

 

「る、ルーシィさん?き、聞いてください1が100とか10000になりました……」

 

「へ、何を……うわ何このお金!?ってそうじゃなかった!!これ見なさいよ!!今週の週刊ソーサラー!!」

 

ルーシィは慌てながら、週刊ソーサラーのとあるページを開いてマルクに見せる。

マルクも最初は、なんなのかよく分かってなかったが、開かれたページには見覚えのある服を着た男女が映っていた。

 

「……『今の流行りはこれ!かわいい系コーデとかっこよさでカップル度アップ!』……?

これ、まさか……」

 

「そうよ!目線入ってるけどこれあんた達じゃない!!しかもこれ超有名ブランドの!!」

 

「……ま、まさかデザイナーって言ってたけど……昨日の依頼主って…」

 

「多分そうよ!!ここの社長は顔を出さない事で有名だから、あんた達顔を見たことになるのよ!!」

 

顔を見せない社長の素顔、とんでもない大金の報酬額、隠し撮りされていた事実。

それらが相まって、マルクの頭はオーバーヒートしかけていた。だが、これだけは伝えておきたかったのか、ミラに視線を向けて一言。

 

「お金……預かっててください。」

 

「そうね、流石に……ね。」


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