FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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1分

真っ赤に染まる。綺麗な花の色も、地面の色も、エクリプスであっても……全てが等しく真っ赤に染まる。

そこにいる人もドラゴンも全てが真っ赤に染まる。赤く紅く赫く。胸を抉り、腹を裂いて、噛みちぎり食い荒らす。

そこに転がっているのは、自身を翡翠の竜と語るしていたジルコニスだった。

 

「マルク、お前は……!?」

 

驚きを隠せないラクサス。だが、そのラクサスを無視して黒い怪物は新たなドラゴンに牙を剥く。

 

「悪魔だったか小僧!ジルコニスを倒したのは褒めてやろう、だが自我を忘れるようでは……あっしには勝てん!!」

 

蛇のように動き回り、黒い怪物を拘束する紫電竜ヴァレルト。その長い体を使った拘束は、完全に動きを縛ったかのように見える。

だが、怪物は体に力を込めてヴァレルトを引き剥がそうとし始める。

 

「何っ!?くっ……!?」

 

「……!」

 

体をちぎられると感じたヴァレルトは、拘束を緩ませて一旦離れようとする。だが、怪物はそれを許さなかった。

 

「何っ!?くそ、離せ!!ぐが、はっ……!?」

 

咄嗟にヴァレルトの体を掴み、握りつぶしながら地面に叩きつける。それに、ヴァレルトは確かなダメージを負っていた。

 

「……kエろ━━━」

 

怪物が拳を振り上げ、地面に叩きつけようとした。だが、その瞬間に訪れたのは『運命が戻る時であった』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

怪物が現れた時同じくして、行動を共にしていたクォーリとマホーグは満身創痍になっていた。

 

「そこの家の物陰と屋根、瓦礫の中からも1匹……」

 

「はぁ、はぁ……」

 

ただただ、ひたすらなまでの魔力の消耗。魔力量だけなら他の群を抜いているマホーグでさえも、魔眼で見せられ続けている未来の映像と、消費され続ける魔力で既に何度か吐いてしまっていた。

 

「おい、あと何匹だ……」

 

「……」

 

「……おい?」

 

「……わかん、無い。見えなくなった……」

 

「……は?」

 

つい聞き返してしまうクォーリ。だが、その言葉の意味はすぐに理解出来ていた。

問題は、その言葉が出てしまった意味そのものにある。

 

「……尽きたか、魔力。」

 

「うん……けど、魔眼は…それでも、私の危機を意地でも見せようと、して……」

 

倒れるマホーグ。その倒れた光景を見て、クォーリは視界に入った小型を

凍らせながら、口角を上げて笑みを浮かべる。

 

「は……魔力量だけが取り柄の奴が、魔力の枯渇で死ぬなんざ……滑稽滑稽。」

 

どれだけ凍らせても現れる小型。早く移動できればよかったが、マホーグは初めから魔眼の処理で、ショートワープするのも一苦労であり……つまりはそういうことである。

 

「……あー、駄目だ。ドラゴンフォースもアイスドライブもこいつらにァ勿体ねぇ。」

 

そして、クォーリ達を囲うように現れる大量の小型。クォーリのその手は震えていた。

小型に対する恐怖ではない……力が込めようとして、震えているのである。

 

「ちっ……俺も魔力が空か。」

 

両手を下ろして、その場に腰を下ろすクォーリ。その顔には、諦めしか無かった。

 

「ダメだな……畜生。」

 

そして、小型がクォーリ達に向かって飛んできたところで━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「━━━今、のは?」

 

「何だったの…あれ………」

 

マルクとウェンディは並んでいた。ジルコニスの目の前に、その2本の足で立って。

まるで、先程までのことは夢だったかのように、なかったことになっていた。

 

「俺が、怪物……?」

 

「……マルク。」

 

「……いや、気にしてなれない。ジルコニス…うん、まずはジルコニスを倒さないといけないんだ。

行こう、ウェンディ。」

 

「う、うん……」

 

首を左右に振り、今の一瞬の夢を振り払うマルク。そして、行動をなぞるかのように、ジルコニスに突撃していく。

 

「紫電魔皇殺!」

 

ジルコニスが振るった腕を、滅竜奥義で弾くマルク。しかし、夢で見たその後のことを思い出す。

ウェンディが、ジルコニスを吹き飛ばした直後にジルコニスに空中に打ち上げられた事を。

 

「っ……!」

 

「照破・天空穿!!」

 

ウェンディがジルコニスの下から滅竜奥義を当てる。夢と同じように、ジルコニスは打ち上がる。

 

「しゃがめウェンディ!!」

 

だが、夢と違うのはマルクが駆け寄ったことである。まだ、魔力に余分はある。

命を使い切る覚悟で、先程よりも力と魔力を込める。

 

「滅竜奥義……魔光絶闇激!!」

 

ドリルのように回転しながら、振るわれようとするジルコニスの後ろ足に魔法を当てるマルク。

そして、それは綺麗に弾かれてジルコニスはただ自分だけ空へ打ち上げられることになった。

 

「……あの夢の通りになった。」

 

「あれ……何だったんだろ…」

 

すぐさま戦いに気を戻す2人だったが、あの夢が現実だったのか、はたまた違うものなのかは、分からないままなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……今の、なんだ。」

 

「私達が死ぬ、夢?え、縁起でもない……」

 

頭を振るマホーグ。クォーリも頭を抑えて、今見た映像に不快感を示す。自分達が死ぬところなんて、見せられても不快感しかないのだが。

しかし、たかが夢幻と決めてしまうには、現実味がありすぎた。

 

「だが、俺達が一緒に見てたってことは……ここは危ねぇってことだな。おい、運んでやるから敵の少なさそうな場所に行くぞ。」

 

「そ、そんな所、どこに……」

 

倒れているマホーグにも分かるように、向かう方向に指で指し示す。その方向にはつい先程まで観客で賑わっていた大魔闘演武会場があった。

 

「闘技場だ。簡単に壊れそうにもねぇ屋内なら、多少はてめぇもマシになんだろ。」

 

マホーグを担ぐクォーリ。そのまま氷で足場を作りながら、瓦礫や家屋を飛び越えて闘技場に、一直線で向かい始める。

 

「わ、私のことはいいから……ドラゴンを………」

 

「てめぇを運んだら考えてやる……ん?」

 

直線移動の先、クォーリは見慣れた2つの人影と見慣れない2つの影を目撃する。

 

「ん?おー、クォーリじゃねぇか!!」

 

「お前今までどこに……」

 

「げっ……」

 

そこに居たのは、同じ剣咬の虎(セイバートゥース)であるスティングとローグであった。

そして見慣れない影は2頭のドラゴンだった。

 

「……」

 

「……んだよ。」

 

「お前、少女誘拐はダメだろ。」

 

「まずはてめぇから氷漬けにされてぇ様だなスティングゥ!!」

 

スティングは、クォーリに抱えられたマホーグを見て、本気で戒める。その事にブチ切れたクォーリだったが、マホーグを落とすようなことはしない。

 

「こいつ今から危なくねぇ場所に運ぶから、てめぇらとは共闘できねぇ!!しばらく自分達だけで頑張っといてくれ!!」

 

「あー?まぁ、いいけどよ。ちゃんと戻ってこいよ?」

 

「……約束はできねえよ。」

 

そのまま2人の場所を通り過ぎるクォーリ。離れてからしばらくして、マホーグがぼそっと呟く。

 

「……素直じゃ、無い。」

 

「そんだけ元気があるなら捨てていくぞ。」

 

「あ、待っ、それだけは……それは死ぬ、ほんとに死ぬから……」

 

「なら黙ってろ。」

 

そして、そのまま2人は小型を軽く処理していきながら、闘技場へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウェンディ!!」

 

「うん!!」

 

「何をしようとも無駄だ!!」

 

ジルコニスと戦い続けるウェンディとマルク。ジリ貧になりつつはあるが、それでもドラゴンとの戦いになんとか耐えていた。

 

「魔龍の咆哮!!」

 

「天竜の砕牙!!」

 

「ぬぐぅ……!」

 

2人の攻撃に、なかなか決め手を出せないでいるジルコニス。人間が見ても、イラついてるのがはっきりわかる表情になっていた。

 

「人間如きが!!小童共が!!」

 

「……もしかして、さっきの夢をこいつ、見てないのか?」

 

ふと、疑問に思ったことを呟くマルク。ウェンディが見ていたので、自分だけが見ていたものだけでない、そして恐らくそこで戦っているラクサスもそれは同じだろう。

 

「多分……見てないと思う。」

 

「だよ、な……」

 

記憶に鮮明に映る猟奇的な光景。確かに、ジルコニスはあの怪物に負けたのだ。

あれだけやられて、最後に殺される。そこまでされておいて、全く無反応というのもおかしい話なのである。

 

「……気にしてても、しょうがないか。

とりあえず、行くしかない!」

 

「そう、だね。」

 

空元気、でもないがマルクがどこか無理しているであろうことは、ウェンディはなんとなく感じ取っていた。

だが、あのことを今掘り返す必要もなく、またこれ以上マルクを追い詰めるようなことはしないほうがいい……と、考えたのでこの場での追求は全くしないと決めたのであった。

 

「け、けど、どうするのマルク。」

 

「何が。」

 

「……私、ドラゴンがこんなに強いなんて初めて知ったよ。」

 

「それは、俺もそうだよ。子供の頃は漠然と強いってことしか知らなかった。

でも、だからこそ━━━」

 

「燃えてきた?」

 

「その通り!」

 

微笑むウェンディ。すっかりナツの影響を受けてか、困難な状況になっても、2人は全く弱気にならなくなっていた。

それどころか、この状況でどうやって敵を倒すか……その事ばかり考えていた。

負けることなんて、一切考えてなかった。

 

「ぐぅ……む?」

 

「ん?」

 

睨みつけてきていたジルコニスが、突然視線を上に向ける。その視線は、自分たちの後ろを見ているようだったが……

 

「マルク、あれ!!」

 

ウェンディが指し示した方向に、視線を向けるマルク。その先では、空を飛んでいたドラゴンの1匹が落ちてきていた。

 

「ってあれ、乗ってるのナツさん!?」

 

そしてそれは、エクリプスに向かっていき……大きな轟音と共に、エクリプスを完全に破壊することとなった。

 

「エクリプスが、壊れた……」

 

「ドラゴンは、あの扉から来て…全部、過去からやってきた。じゃあ、あれが破壊されるってことは……?!」

 

「━━━ぬおおおお!?」

 

答えを言い切る前に、答え合わせが始まる。エクリプスが壊れた直後から、この時代に現れたドラゴン達の体が総じて光り始める。

ジルコニスも例外でなく、苦悶の声を上げながら体を光らせていた。その体は、徐々に透けていった。

 

「ドラゴンが……」

 

「消えていく……」

 

「人間ごときが、人間如きがァ!!」

 

しかし、ジルコニスは最後の足掻きと言わんばかりに未だに暴れようとする。

だが、その場に新たな人物が現れる。

 

「ごめんなさい……」

 

「え、誰……」

 

「危ないですよ!?」

 

ヒスイ・E・フィオーレ。この国の、姫である人物。今この場にその人物が現れていた。

 

「時をつなぐ扉を建造したのは私です。あなた方の自然の時の流れを乱してしまった。

あなたは400年前に生きる者。我々は現在に生きる者。本来、争うべき理由が全くないもの同士……それを歪めてしまったのは私です。」

 

「何だ貴様は……」

 

「ヒスイ・E・フィオーレ。」

 

「ヒスイ……?」

 

ヒスイ姫の名前に引っ掛かりを覚えるジルコニス。それもそうだ、ヒスイ…翡翠というのは、彼の体の色なのだから。

 

「そう、あなたの体の色と同じ翡翠です。」

 

「同じ、だと?」

 

「同じです……『翡翠の竜』」

 

ジルコニスは、その呼び名に対して顎を撫でる。どうやら、少し気に入ったようだった。

 

「翡翠の竜……悪くない響きだな…ん?うわっ!!ちょっと待て!!くそっ、はめられた!!オレは━━━」

 

最後に、何かを言いかけていたがジルコニスはそれで消滅する。マルクは、なんとなく視線をずらす。

ラクサスと戦っていたヴァレルトの方に、視線をずらす。だが既にヴァレルトも姿を消していた。

 

「……終わっ、た?」

 

「みたいだな……」

 

座り込むウェンディと、倒れ込むマルク。勝利を得れた……という訳じゃないが、少なくとも戦いは終わったのだ。

 

「……」

 

マルクは天を仰ぐ。ドラゴンは、倒せなかった。滅竜魔導士と名乗っておいてこのざまである。

だが、今のマルクは自分が滅竜魔導士かどうかさえも怪しかった。そう考えられるほどに、夢の出来事が脳裏にこびりついていた。

 

「いや……違うよな。夢なんかじゃ……ないんだ。」

 

現実に起こったこと、きっとあれはそういうことである。だが、何かしらの要因で無かったことになった……マルクはそう感じていた。

 

「うん、夢なんかじゃなくて……私達、勝てたんだよ。」

 

「勝った?」

 

「だって……どっちにしても、ドラゴンを負い返せたんだもん。」

 

「……それも、そうだな。」

 

微笑むウェンディ。そしてそれに微笑みかえすマルク。今このときで、漸くドラゴンとの戦いが終わったのであった。


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