FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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月蝕

日付が変わる鐘の音。それが告げられたと同時に、7月7日へと日付は変更される。

7月7日、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)達に魔法を教えたドラゴンが消えた日。そんな日に、1万のドラゴンがやってくる。

過去や未来を行き来することが出来る扉、エクリプス。その魔力を放出することによって、1万のドラゴンを焼き払うという作戦。

その日を祝うためか、はたまた呪うためか……月は真っ赤に染まっていた。

 

「……1万のドラゴン。」

 

「回復したばっかりだけど、大丈夫なの?」

 

「大丈夫ですリサーナさん、一応…動けます。」

 

近くの木にもたれながら、マルクは空を見上げる。妖精の尻尾(フェアリーテイル)は中央広場を死守するために、今この場にはルーシィを救出に向かったナツ達以外の妖精の尻尾メンバーが揃っていた。

 

「……ウェンディ達は、無事でしょうか。」

 

「無事だよ、ナツもいるし……ミラ姉だって!!」

 

励ますリサーナ。それに少しが元気が出たのか、マルクは微笑んでから立つ。

と、その時だった。突如、妖精の尻尾が陣取っていた中央広場を横切るように来た謎の衝撃波によって、建造物が粉砕されていった。

 

「え!?」

 

「い、今のは……城の方!?っ……ウェンディ!!」

 

マルクは、城の方角から来たそれに、城の方にウェンディがいるような気がした。

ただの勘ではなく、嫌な予感と共に。

 

「ま、マルク!?」

 

リサーナが止めようとするが、その静止を聞かずマルクは進んでいく。そのままマルクを止めようとするが、ラクサスがリサーナの肩を掴んで止めるのを防ぐ。

 

「ら、ラクサス?」

 

「城の方にドラゴンがいるなら、1人くらい向かっても問題ねぇだろ。何せ、妖精の尻尾に滅竜魔導士は4人もいるんだ。1人くらい貸し出してやろうや。」

 

「た、確かに滅竜魔導士ウチには多いけど……」

 

しかし、マルクの向かった方に視線を戻せば、既にマルクの姿は見当たらなくなっていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、は……?」

 

少し歩いていたところで、マルクは空を飛んでいる何かを見つける。すぐにそれが何かを理解した。ドラゴンである。

そして、その数は8頭いた。

 

「8頭……の、ドラゴン…!」

 

そして、ドラゴン達は一斉にバラけて飛び始める。恐らく、この国にいる魔導士達を殺すつもりなのだろう。

そして、そのうちの1匹がマルクの元へと飛んでくる。

 

「ほう……人間が一人でいるとは珍しい。群れることしか脳が無い連中だと思っていたのだがな。」

 

「…そうかよ。ただ、はぐれているだけだ。そういうあんたは……ドラゴン、か。」

 

「あぁ……あっしはドラゴン、名を『紫電竜ヴァレルト』…見て分かる通りだが、ドラゴンだ。」

 

「……」

 

「あっしを随分熱烈に見てるようだが……どうした?ドラゴンを始めてみた恐怖でチビったか?小童め。」

 

「そんなんじゃねぇ……それと、ドラゴンを見るのはこれで3体目だ……!」

 

手に魔力を込めるマルク。しかし、紫電竜ヴァレルトと名乗ったこのドラゴン……その姿形、そして口調がとあるドラゴンと一致していた。

 

「おい、一つだけ聞かせろ。」

 

「人間なんぞの質問に……答える義理はない!!」

 

蛇のように長い体、羽が無くとも飛ぶその姿。匂いこそ違えど、その姿は正しく彼の育ての親であるドラゴン、イービラーに酷似していた。

 

「そうか、よ!!」

 

「ぬぐっ……!」

 

体をうねらせて、ヴァレルトはマルクを食らおうと口を開けながら突っ込んでいく。

だが、マルクは軽くジャンプして、魔力を込めた拳をヴァレルトの上顎に叩き込む。

 

「……くははっ!人間にしてはやりおる!!しかし惜しい!惜しいかな!仮に滅竜魔法を十分に使えていたとしても、貴様の力では殺すことは愚か怯ませることも難しいだろう!!」

 

「ドラゴンからのありがたい助言……受け取っとくよ。だったら、俺の滅竜━━━」

 

「あっしの力を徐々に出してやろう!全力を出すまでに生きておれよ!!」

 

「っていきなりかよ…!」

 

そのまま1人と1体は、戦いを始める。しかし、マルクがどれだけヴァレルトを殴ろうとも、当の本人にはダメージは一切通っていなかった。

硬い鱗、鋭い爪と牙、そして何より長い体とそれを生かせる戦い方。強さも、経験も、その全てがマルクを上回っていた。

 

「がはっ……!?」

 

マルクの体は吹き飛ばされ、地面を転がる。完全に力を発揮できていない上に、ヴァレルトの硬さが彼の想像を遥かに上回っていたのだ。

 

「ふむ……まだ、2割も出てないのだがな。まさか、ここまで貧弱だとは……む?」

 

唐突に、ヴァレルトは空を仰ぐ。空には、一体のドラゴンが飛んでいた…が、何かの爆発音とともに苦しそうな声を上げる。

 

「━━━聞こえるかァ!!滅竜魔法ならドラゴンを倒せる!!」

 

「ナツ、さん…?」

 

「滅竜魔導士は8人いる!!ドラゴンも8人いる!!今日、この日のために俺達の魔法があるんだ!!今、戦うために滅竜魔導士がいるんだ!!行くぞ!!ドラゴン狩りだ!!」

 

「……ほう、あの炎…相当な手練と見た。余程良いドラゴンに滅竜魔法を教わったのだろう。

マザーグレアに、苦悶の声を上げさせるとは。」

 

ヴァレルトはゆっくりとマルクに視線を戻す。上を向いている間に、立ち上がったマルクが、ヴァレルトを見上げていた。

 

「貴様はどうかな?あっしを傷つけることは出来るか?」

 

「さてね……やってみなきゃ、わかんね!!」

 

「くははは!!楽しませてくれよ人間!!」

 

ヴァレルトは、戦いを楽しんでいるのか、高笑いをしながらその魔力を放出する。

紫色の電光、夜だと言うのに昼だと勘違いするほどの明るさ。ヴァレルトの属性は雷だというのが、すぐに分かる。

 

「我が(イカズチ)!我が光!!その身で味わい焦がすがいい!!」

 

「っ……熱っ!!」

 

ヴァレルトから発生した紫電は、周りの木々を一瞬で燃やし焦がしていく。

凄まじい程の電力。まともな体なら、浴びただけで重症となるだろう。だが、それを目の前にしてマルクは笑っていた。

 

「む……?笑うか、笑うのか。恐れを抱きすぎて心が壊れたか?はたまた、壁を目の前にして恐れることを知らない愚か者か?」

 

「どっちでもない……ただ、力が出ない時に食う飯は美味そうだ、って話だ。」

 

凄まじい魔力は、マルクにとっては餌も同然。その現実をヴァレルトは知る由もなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドラゴン……ドラゴンだぁ?面白くねぇ面白くねぇ……今更、出てきたところで……」

 

「あ、貴方は…戦わないの?」

 

「……それはテメーも一緒だろ、クソカラスギルド。」

 

「け、剣を咬んでも壊せない、強がることしか出来ない幼虎に何言われても……笑いの種にしかならない。」

 

街の外。クロッカスから離れた平野で、クォーリはただ1人街の外を眺めていた。

マルクに負け、気がついた後に特に理由もなくここまで来ていたのだ。

そして、そこにマホーグも来ていた。ドラゴンが現れてから、城からここまで素早く移動してきたのだ。

 

「んだと……?」

 

「だ、だってそう…ま、マルクに負けただけで拗ねて……馬鹿らしい…」

 

「てめぇ……女だからって…!」

 

「あ、貴方程度なら……私は余裕で倒せる。けど、倒せない存在だっている。」

 

「……あ?」

 

クォーリは、イライラしながらマホーグを睨む。彼自身でも、もはや何に対してイラついているのかは全くわかってなかった。

 

「ど、ドラゴンは……滅竜魔導士でしか、倒せない。どれだけ強くても、滅竜魔法がなかったら……ダメージを与えることすら難しい。」

 

「……だから、俺に戦えってか?」

 

「ドラゴンを、1人1体で倒せない………400年前にいた、と思う滅竜魔導士は、ドラゴンと争えるほど強かった……けど、今の人間では……」

 

「400年前と違って、争いの最中にいるわけじゃない……だから、400年前と比べて、弱くなってるってか?」

 

「そ、そう……」

 

怯えるマホーグ。だが、面と向かって話している彼女を見て、クォーリも段々と冷静になっていく。

 

「だから、1人でも滅竜魔導士がほしい……そういう事か?」

 

「そう……ドラゴンは8体。そして、あなたが加われば……()()()()()()9()()

 

「……計算、間違えてないか?剣咬の虎(セイバートゥース)が俺を含め3人、妖精の尻尾が第2世代含め5人だ。」

 

「う、ううん……あと一人、ついさっき……来た。」

 

「あと一人、だと……?」

 

「じぇ……と、とある人物が…評議院に頼んで、そいつを、牢から引っ張り出してきた……」

 

牢、そこから出されるのは基本的には囚人だけである。そして、そこから出される滅竜魔導士……その正体は、クォーリも知っていた。

 

「まさか……」

 

「……元六魔将軍(オラシオンセイス)が1人…毒竜の、コブラ。」

 

生唾を飲むクォーリ。ナツに負けたとはいえ、強力な滅竜魔導士であることに変わりはない。

 

「……だったら、余計に俺が参加する意味合いはねーだろ。

剣咬の虎の滅竜魔導士3人を倒した妖精の尻尾の滅竜魔導士の3人、プラスそこに治療系の魔法が使える天竜とお前らレイヴンを全滅させた雷の滅竜魔導士。

剣咬の虎の滅竜魔導士2人に、三大闇ギルドの元メンバーである滅竜魔導士が出張ってくる……」

 

「……」

 

「これでどうして俺が参加するってことになる?そもそも、俺はマルク・スーリアに負けてんだ。あいつより強いナツ・ドラグニルや、ガジル・レッドフォックスが負ける相手なら、俺も勝つこたァねーだろ。」

 

「……うる、さい。」

 

「は?え、おいお前何を━━━」

 

マホーグは、イライラした様子でクォーリの胸ぐらを掴み、そのまま自身の魔法であるショートワープを繰り返して街に近づき始める。

 

「て、てめぇ!!何のつもりだ!!俺はまだ行くともなんとも……!」

 

「黙れ。時間が、無い……から、早く行ってもらわないと……困る…!」

 

真剣な表情のマホーグに、クォーリはこれ以上の糾弾をしなかった。だが、だからといって彼自身が折れてクロッカスの街に戻ろうと思ったわけでもなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……扉を閉める者がいる、と言ったな。」

 

「あ?」

 

マルクがヴァレルトと戦い、マホーグがクォーリを説得しているその頃。飛んでいるドラゴンの上で未来ローグとナツは激闘を繰り広げていた。

 

「扉を閉めた……勿論、ルーシィ・ハートフィリアを殺すことも目的だった。

だが、それだけじゃあ足らない……1万のドラゴン?そんなもの、扉を閉められた時点で存在していない。」

 

「何が言いてぇ。」

 

「世界を支配したのは1匹のドラゴン………お前らも見た、ドラゴン━━━」

 

「……アクノロギア。」

 

「そうだ、アクノロギアによって、7年後……未来は支配される。だが、例えドラゴンの王であっても、簡単に世界は滅ぼせない。

下地があったんだよ……」

 

ドラゴンの上で、未来ローグは天を仰ぐ。その顔は笑みも浮かべず、ただただ感情のない顔であった。

 

「下地?」

 

「……一体の怪物がいた。全てを食らう暴食の怪物……いや、悪魔と言うべきか。」

 

「悪魔……」

 

ナツは過去に何度か悪魔という存在に出会ったことがある。しかし、未来ローグのその口ぶりから察するに、文字通りの怪物だったということも伺える。

 

「その悪魔の正体………そいつも、ここで始末しなければならない。もう1人のルーシィ・ハートフィリアは語ったか?黒色の怪物のことを。」

 

「しらね、忘れた。」

 

「ふん……まぁいい、そいつも……アクノロギアに世界を支配させた原因の一つだ。」

 

「だから?」

 

「くく……つくづく………つくづくお前達は何かを壊さなければいけないのか?」

 

顔を俯かせ、笑いをこらえる未来ローグ。その表情は、狂った者のそれだと、ナツは直感的に感じ取っていた。

 

「……誰だ、そのバケモンってのは。」

 

「……滅竜魔導士とは名ばかり、奴に滅竜魔導士の力は初めからない。真似事真似事……育ての親がドラゴン?笑わせてくれる……」

 

「……」

 

「……マルク、マルク・スーリア。あいつが怪物、俺のいた未来で…各地で暴れ周り、最終的にアクノロギアに瞬殺されて終わった男。

傍迷惑なんだよ!!1万のドラゴンが入ればアクノロギアは倒せた筈だ!!だが、ルーシィ・ハートフィリアは扉を閉じてマルク・スーリアは目につくものを破壊していった!!

そんなに、そこまで壊したいか!!フロッシュも、フロッシュも━━━」

 

吠える未来ローグ。しかし、その様子を見てもナツは黙ったままだった。その雰囲気に、未来ローグは疑問を抱く。

 

「……驚かないのか。いや、それともはじめから正体を知っていて黙っていたか…」

 

「ちげぇよ。ただ…マルクはそう簡単に人や街を傷つけるやつでもねぇって俺はわかってるからな。」

 

「ふん……単なる仲間意識か…いいだろう、だったらお前達をまとめて殺す!!そしてアクノロギアを殺し俺がドラゴンの……地上の王となる!!」

 

「させるか、よ!!」

 

炎と影が、再び激突する。ドラゴンと人、人と人がぶつかり合う混戦したこの状況は、一体どこまで続くのだろうか。


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