「……だーめだ、全く動く気がしない。」
クォーリを倒したマルク。顔に一撃、拳を叩き込んだだけで倒れた彼を、少し疑問に感じていた。
しかし、倒したことには変わりはない。ポイントが入らなかったということは、クォーリもまた1人も倒していなかったことになる。
故に、やったことは正真正銘の掃除。1番消耗していたのか、終わったあとは体が全く動かなくなっていた。
「ウェンディ達は……大丈夫かな。」
ルーシィを助けに行ったウェンディ達を心配するマルク。全員、心も体も強いことはわかっているので、捕まっていたりすることは無い……と思っている。
「……ウェンディ達は、多分大丈夫だと信じて……問題は、俺だな。体全く動かないけど、どうしたらいいだろうこれ。」
傷はない、特に疲労は感じている訳では無いが、何故か体は動かなくなっていた。脱力して、持ち上げるのすら一苦労なレベルである。
「うーん……てか、俺途中の記憶抜けてるよなー……何してたんだろ。」
途中、クォーリに煽られていた事までは覚えているマルク。今となっては、何も思い出せないが……きっと、覚えていない間に何かがあったんだろうと考えていた。
「━━━決着!!」
「お?」
「大魔闘演武優勝は……
実況と、遠くから聞こえてくる花火の音。妖精の尻尾が、優勝したことを知らせるものだった。
「……みんな、勝ったんですね……ああ畜生!行きたい!!体動けぇぇ!!」
みんなのいる方に向かおうとするマルク。しかし、指の1本さえ全く動かせないほどに、弱っているのでは無理な話だった。
「あー畜生!なんか、俺だけ仲間はずれみたいになってるじゃないかぁ!!」
吠えるマルク。しかし、その声は虚空に響くのみで、返事をする者は誰一人としていないのであった。
王宮地下。未来からやってきたルーシィが、ジェラールと合流するために、王国兵と鉢合わせないようにした道をナツ達は進んでいた。
しかし、そこには王国兵が待ち伏せをしていた。仕方なく、正面突破で挑むナツ達。
だが、圧倒的な数の王国兵に、段々と圧倒されていく。その時、王国兵達は全て謎の影に飲まれていった。
その影を発生させたのは、未来ルーシィと同じく未来からやってきたローグであった。
未来のローグは、1万のドラゴンを倒す為に、時間を超える扉であるエクリプスの魔力を使って、倒す作戦を立てていた。
だが、未来のローグはこの現代において、扉を開くのを邪魔する者がいると語った。
そして、未来からやってきたのはその人物を殺すためでもあると語る。
ナツが、それが誰なのかを聞いた瞬間に、未来ローグは現代のルーシィに攻撃を仕掛けたのであった。
「がはっ……」
「ちょ、ちょっとあんた……!?」
ルーシィは倒れた。しかし、倒れたのは未来からやってきたルーシィの方だった。
「ルーシィが2人だと!?」
驚くローグ。しかし、間髪入れずにその驚きの隙を突く者がいた。
「ふっ……!」
「ぐっ!?マホーグ・オロシか!!」
「あ、あんた……誰…?」
大剣の一撃を浴びせようとするマホーグ。しかし、何とか未来ローグはそれを防ぐ。
「ふん……所詮、知らなくても関係の無いことだ。貴様もここで殺す!!」
「こ、殺しにくるなら……わ、私が……殺さ、ないと。と、というか……何でルーシィ・ハートフィリアを……」
「そいつが扉を閉めるからだ。閉められては、未来は終わる。」
「扉……?」
状況をイマイチ飲み込めないマホーグ。だが、彼女の頭の中で分かったことがある。
もう1人の、未来ルーシィの他にやってきた未来の人物が、目の前の男であると。
「……あ、貴方と…そこに倒れてる、ルーシィ・ハートフィリアは…別の未来から来た、人物……?」
「さぁな……少なくとも、俺はルーシィ・ハートフィリアが未来から来たことなぞ、知らなかった。」
「で、でしょう……ね!!」
切りかかるマホーグ。未来ローグは余裕でその攻撃を避けながら、マホーグにその攻撃を当てようとする。
だが、マホーグも魔眼の効果で攻撃を先読みして避け続ける。
「……」
「余所見をしている余裕があるのか!?」
未来ルーシィの方に視線を向けるマホーグ。未来ローグは、その隙を突いて、攻撃を加えていく。
「ルーシィやだよォ……死なないでよ……」
「あたし、は…この時代の……ううん、この世界の人間じゃ……ない。この世界の『あたし』は……仲間と一緒に生きていく。
だから、悲しまないで……」
「悲しいよ!どこの世界から来ようと、誰がなんと言おうとルーシィはルーシィだよ!!仲間なんだよォ!!悲しいに決まってるじゃないか!!」
泣き叫ぶハッピー、未来から来たルーシィだとしても、それはルーシィなのだ。仲間である彼らは、当然のごとく悲しんでいた。
「あ、あなた、は……本気で…ルーシィ・ハートフィリアを殺そうと……?」
「当たり前だ……だが、あの死にかけのルーシィ・ハートフィリアには…いや、俺とは別の未来のルーシィ・ハートフィリアは閉めた自覚がなかったようだが。」
鍔迫り合いながら、舌打ちをする未来ローグ。それを見ても、マホーグはそのまま鍔迫り合いを続ける。
妖精の尻尾に協力するのは、偶然出会ったから…その程度でしかない。しかし━━━
「目、目の前で人が殺されるのを見て……そのまま立ち去れる、ほど……私は、心が強く、無い……!」
「はっ…
「私は……フレア姉様以外は、嫌い!!」
「ふん……どうでもいい。俺はルーシィ・ハートフィリアを殺す。扉を閉められてはかなわないからな。」
「……何が、扉よ。あたしは絶対そんな事をしない!!なのに……!」
ルーシィが、叫びながら未来ローグを睨む。今のやりとりの間に事切れたのか、未来ルーシィはピクリとも動かなくなっていた。
マホーグは、偶然見えたルーシィの右手に入っている妖精の尻尾の紋章が、未来ルーシィには無いのが妙に印象強く残っていた。
「今は……な。だが、数時間後にはお前は扉を閉める。」
「あたしは扉なんか閉めない!!滅茶苦茶な事言って……あんた、何が目的なの!?」
「扉は閉まる……そう決まっている。お前が生きている限り……!」
苛立っているのか、歯ぎしりをし始める未来ローグ。この決定的な二人の食い違い。未来がどう分岐したのか……扉は、閉めるべきなのかどうなのか。
「未来のあたしが閉めないって言ったんだ!あたしは自分を信じる!!」
「お前の言葉に真実などない!全ては運命によって決まっていることだ!!」
だが、その分岐は冷静に考えられるほどの時間はない。そして、何より……今の目の前にいるローグを、信用することは一同はできなかった。
「運命なんか焼き消してやる!!ルーシィの未来は誰にも奪わせねぇぞ!!」
ナツが、ついに我慢の限界を迎えたのか、未来ローグに殴りかかる。防がれたものの、吹き飛ばすこと自体には成功していた。
「ルーシィ!!ここから離れろ!」
「でも……!」
「ここはナツに任せよう!!」
ロキが、ルーシィの手を掴んで引っ張っていく。ナツ以外の全員がそれに着いていく。
未来ローグはそれを追おうとしたが、ナツが防いでいくのであった。
「……ね、ねぇ…」
「え、何?」
逃げながら、マホーグはルーシィに話しかける。話しかけられるとは思ってなかったため、走りながらルーシィは返事をする。
「た、多分…貴方は扉を閉める……と思う。」
「っ!!あ、貴方もそんなことを……!」
「ち、違う!べ、別に悪い意味じゃなくて……食堂、で……み、未来の貴方が言ってたこと……覚えてる…?」
「食堂で……?1万のドラゴンの話?」
少し膨れながら、ルーシィは答える。だが、その答えにマホーグは首を振る。
「そ、そっちじゃなくて……
「あ……確か、城が崩壊するまで捕まってたんだっけ……」
「そ、そう……で、でももう1人の未来の……ローグが言ってたのは、あなたが扉を開けたって……」
「……何が言いたいの?」
「……あの男は、未来の貴方が……み、未来の貴方『だけ』が来た世界の……未来なんじゃ、ないかって……」
マホーグの言葉にイマイチ理解ができないルーシィ。それを察してか、マホーグもなんとか説明しようとするが、言葉に出来ないでいた。
「あぁ……ルーシィ、多分彼女はこう言いたいんだ。
未来の君が来た未来では、1万のドラゴンがやってきた。その時ルーシィ達は城の牢にいたから扉を閉めることが出来なかった。
けどもし……未来のキミだけが来た世界があったとしたら……多分、僕達はあのまま外に出ることが出来たんだと思う。
そして、君が扉を閉めるような何かがその時起こった……って事なんじゃないかな。」
ロキの説明に、ブンブンと首を縦に振るマホーグ。しかし、そうなると分からなくなることが出てきてしまう。
「……何で、扉を閉めようと思ったんだろう?」
「そ、それは……分からない。け、けど…エクリプスは……凄い、魔法。も、もしかしたら……何か、デメリットみたい、なのが………」
「……クル爺に、調べさせた方がいいのかしら。」
「その方がいいだろうね。エクリプス……あれがどんな魔法なのか、僕達はもう少し知っておいた方がいいと思う。」
クル爺……南十字座の星霊であり、情報を調べる時は彼に限るのだ。眠っているような状態で、ありとあらゆる事を調べることが出来る星霊。
「そう言えば……大魔闘演武どうなったんだろ。」
「……け、結果が気になる?それとも……男?」
「お、おと!?」
咄嗟に言われたことで顔を赤くするウェンディ。マホーグは、少し怯えながらも、からかうのが面白いのか小さく笑っていた。
「……」
「ナツなら大丈夫だよ。何だかんだ、いつも勝ってきたじゃないか。」
「…うん、ありがとうロキ。」
慰められて、小さく微笑みながらルーシィ達は、そのまま外へと向かうのであった。
「な、何で人があんなに……?」
「扉が開きそう……だからでしょうか。」
外に出れたルーシィ達。しかし、目の前で行われているのは扉を開いている場面だった。
ルーシィ達は、その光景につい茂みに身を隠してしまう。
「し、しかも……あの騎士…」
「……隠れている必要は無い、出てきなさい。」
遠くにいる甲冑を身にまとった男、アルカディオスに気配を悟られてしまうルーシィ達。
恐る恐る、茂みの中から出てくる。
「わ、私達……変なことはしない、から……と、というかなんであんたが、そっちに……」
「色々と事情が変わったんです。」
マホーグの疑問に、大臣が答える。アルカディオス、大臣、姫の3人が揃っているということは、つまり計画において協力することになった、という事だろう。
「妖精の尻尾……この度は申し訳ありませんでした。今は緊急事態の為、正式な謝罪は後日改めて。」
「わ、私は妖精の尻尾じゃないけど……」
ぼそっと呟かれる言葉。しかし、姫の言う通り今は緊急事態なのでそれに対するツッコミは無かった。
「それと、大魔闘演武優勝おめでとうございます。」
「優勝!」
「皆さん……やったんですね!」
妖精の尻尾の優勝を知らなかった一同。その報せは、正しく吉報というものなのだろう。
「何で扉を開いてるの?まだドラゴンは来てないのに。」
「ドラゴンの事を……」
「えぇ、彼女らも事情は知っています……そう言えば、未来からやってきた君は?」
未来ルーシィの結末。その事を言うには、ルーシィもウェンディもまた悲しみが溢れてきそうで、語れそうにもなかった。
「こ、殺された……未来から来た、もう1人の男に……」
代わりに、マホーグが答える。その事に姫もアルカディオスも驚いていたが、マホーグはそのまま疑念を抱いた目で2人を……姫を見る。
「ほ、本当にこの魔法は……大丈夫、なの?」
「………どういう、ことでしょうか?」
「も、もう1人の……未来の人物は……ルーシィ・ハートフィリア、が…扉を閉める……から、み…未来のルーシィ・ハートフィリアを、殺した。
げ、現代のルーシィ・ハートフィリアと……間違えて。」
「……それが、エクリプスの事とどう関係が?」
姫も、マホーグを見る。体を更に震わせるか、マホーグはそのまま語っていく。
「み!……未来の、ルーシィ・ハートフィリアは……扉を閉めなかった。そ、その時の彼女は……牢に、閉じ込められていたから。
け、けど……もう1人の方は、扉を閉じたって……言ってる。つ、つまり……ルーシィ・ハートフィリアが、『この扉に異常がある』と思ったから……閉めたんじゃないかって……私は、思う。」
「……なるほど。」
「……でも、開くしかない……?」
「そう、ですね…たとえこの扉に異常があったとしても、1万のドラゴンを相手にできるほど、魔導士達も丈夫ではないでしょう。」
「……本当に倒せるんですか?1万のドラゴンを。」
姫に対して、ルーシィはその疑問を投げかける。姫は、それに縦にも横にも首を振ることは無かった。
「確実、とは言いきれないでしょう。しかし、陛下もそれに対する策を講じているはずです。」
段々と外れていく扉の錠。それが、今完全に取り払われ……扉が開く━━━