FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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未来

1万のドラゴン、そしてそのドラゴンの群れにこの国は滅ぶ。その滅びの未来から来た未来のルーシィは、そう語った。

 

「な、ん、じゃ……そりゃー?!」

 

「声が大きいぞ。」

 

あまりのことの大きさ、そして異質さにナツは叫んだ。そして、その動揺はここにいる他のメンバーにも広がっていた。

 

「そ、そんなに大量のドラゴン……どこ、から?」

 

「でも、来ることには違いないんですよね……」

 

「とにかくこうしちゃあいられねぇ!!戦闘準備だ!!」

 

「戦うの!?」

 

未来ルーシィからの情報で、困惑する一同。しかし、その一同を見て未来のルーシィも困惑していた。

 

「みんな……信じてくれるの?」

 

「ウソなのか!?」

 

「違う!!けど、こんな話……誰も信じないんじゃないかって……」

 

未来ルーシィの言葉に、ナツは首を傾げる。今の未来ルーシィの言葉は、ナツにとっては……否、マホーグを除いた全員にとって首を傾げるような言葉だったのだ。

 

「何でルーシィの言葉を疑うんだよ……?」

 

「……ひ、ひとついい?」

 

「え?な、何?」

 

マホーグが、未来ルーシィに目線を合わせる。喋り方こそ、たどたどしいものの、マホーグの目は真剣そのものだった。

 

「……わ、私達は捕まったって言った……し、城も崩壊したって言った……つ、つまり……それって……」

 

「っ……」

 

未来ルーシィは顔を伏せる。城の牢屋に幽閉されていて、その城そのものが崩れる。

それはつまり、必然的に城の崩壊に巻き込まれたということであり━━━

 

「死んじまうのか!?」

 

「オイラ達死んじゃうの……?」

 

「……何日たったか覚えてない。目を覚ましたあたしは…エクリプスの事を思い出した。

起動方法なんて分からなかったけど……無我夢中で扉を開けた。過去に戻れるかもしれないって信じて。

そしたらね……本当に過去に戻っちゃったんだX791年7月4日に。」

 

「4日ってつい最近じゃない……エクリプスってそんなちょっとしか過去に行けないの?」

 

「分からない……一部壊れていたから、そのせいかもしれないし……」

 

一同が会話する中、マホーグは考える。どうしても、彼女の頭の中で1万のドラゴンというのが、違和感しかなかったからだ。

しかし、未来ルーシィの言っていることが嘘だとしても、嘘をつくメリットが無い。思いつかないのだ。

 

「……ね、ねえ…」

 

「ど、どうしたのまた……」

 

「い、1万のドラゴン……滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)が足りない……って言うのはわかるけど……す、数日で困窮するほど……強かったの?」

 

「……うん。スティングも、ローグも…ガジルも……みんなやられちゃった…」

 

「なんだよ、ルーシィの言葉を疑ってるのか?」

 

ナツが、マホーグを軽く睨む。それでウェンディの後ろに隠れるマホーグだったが、ナツの質問に対してはなんとか答えていく。

 

「そ、その言葉を……疑ってるんじゃなくて………い、一万も……ドラゴンを揃えた、って言うことが……疑問……」

 

「どういう事ですか?」

 

「ど、ドラゴンって言うのは物凄く強い……って言うのはわかる。

け、けど……仮に今この世界にいるとして……な、なんで一万も揃える必要があったのか……って。」

 

マホーグの言葉に、納得とさらなる疑問が出てくる一同。未来ルーシィも、それに関してはわからないらしく、申し訳なさそうに顔を伏せていた。

 

「確かに……1000もいれば…いいえ、100入れば世界なんて簡単に潰せるでしょうに。」

 

シャルルも、マホーグの言葉に同意する。しかし、ならば1万のドラゴンという数そのものに何かしらの理由があるのか、と考え始める。

 

「……ドラゴン以外の、強い怪物はいた。ただ……ドラゴンしか相手にしてなかった。」

 

「強い……怪物?」

 

ウェンディが聞き返す。怪物、という曖昧な表現が気になったからだ。しかし、未来ルーシィは首を横に振る。

 

「本当に、それくらいしか言葉がなかった……アクノロギアでも無い、真っ黒な何かが……1万のドラゴンが現れた日からいた。それでも、みんな死んでいくことには変わりなかった……」

 

泣きそうな声を上げながら、未来ルーシィは声を絞り出す。怪物は、希望たりえないのだと声を殺していた。

 

「……今、色んなこと考えててもしょうがねぇな。

で、ルーシィ……えーっと未来ルーシィ!」

 

「は、はい!」

 

「……俺達は、これからどうしたらいい?」

 

城の中、突っ着れば早いだろうが怪我人であるアルカディオスがいる以上無理はできない。

となれば、これからのことを知っている未来ルーシィに話を聞いて、危険を上手く回避出来るのではないか?とナツは思ってそう聞いた。

 

「……街は、大魔闘演武を撮影している魔水晶(ラクリマ)が至る所に配置されてる。

地下を通ってジェラール達と合流して欲しいの……今、対策を練ってもらってるはずだから……」

 

「練ってもらってるって……」

 

「ごめんね……私は未来から対策を持ってきたわけじゃないの。あの事態をどうすれば回避出来るのか分からないの。」

 

未来ルーシィは、顔を伏せる。『役に立てない』『何も出来ない』と言った類の、自分に対する失望に溢れているかのような顔。

 

「本当……ごめん、これじゃああたし……なんのために、来たのか。今日までどうしていいかもわからずに街をウロウロしてた……」

 

「いや……俺達がなんとかする。ありがとうな、俺達の未来のために……必ず未来を変えてやる。」

 

未来ルーシィの額に、自分の額を合わせるナツ。それだけで、未来ルーシィは少し安心したかのような顔になる。

 

「い、行くなら……早く行こう。」

 

「そうだな、行くとするか。」

 

そして、マホーグの催促で未来ルーシィの言う通りに地下を通ることにしたナツ達なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ど、どこに行く気?」

 

ナツ達と一緒に向かうはずだったマホーグ。しかし、一人の男の後ろに、今は立っていた。

 

「……流石にごまかせないか。しかし、ユキノ軍曹は止めなかったようだが。」

 

「な、何でもかんでも…責任感じる人、なんか……無視しても……いい。」

 

アルカディオスだった。ボロボロの体も、翡翠の宝石の加護によって少しはマシになっているのか、今は立って歩いていた。

 

「……ま、まだ話してないこと……ある、よね?」

 

「ほう……なぜ、そう思ったのか聞かせてもらえないか?」

 

「あ、貴方の目は……覚悟が、決まってる目……い、今の状況でする目にしては……ちょ、ちょっと違和感がある。

貴方は、今戦う訳でもない……のに。」

 

「ふむ……それが、君になんの関係があるんだ?」

 

アルカディオスは、表情にも一切隙を見せない。アルカディオスの戦士の目に、マホーグは少し怯えたが……自分の大剣に身を隠しながら話を続ける。

 

「い、1万のドラゴンの大軍……その話を聞いてから、貴方の様子が……変、だった。

未来の、ルーシィ・ハートフィリア……の話を、彼女自身を……疑っていた。」

 

「よく見ているものだな……」

 

「顔色を、伺ってないと……死ぬ、生活してた、から……」

 

アルカディオスは黙る。考え込むような仕草をする。今この場で、マホーグを始末しよう……というのはまず無謀なのでしないだろう。

ならば、語る事が重要な機密だった場合のパターンかもしれない。そう考えたマホーグは、すぐさま付け足す。

 

「重要な事……き、機密は喋らないで……けど、それ以外で…重要な事は、言ってほしい。」

 

「……詳しくは言えないが、私は…少なくとも姫様の方が知っておられるが……1万のドラゴンの事は、私達は既に知っていた。

それの対策も……既に準備は終えている。姫様が言うには、使い方を教えてもらったようなものらしいが。」

 

「……対策を、()()()()()()()()

 

マホーグは首を傾げる。未来ルーシィは、対策を持ってきたわけではない、と聞いている。

しかし、対策は持ってきていた……持ってきてもらっていたのだ。

 

「……それと、その方法を姫が教えて貰ったのは4日より前だ。」

 

「未来の彼女は……よ、4日に来たって……」

 

「そう、ズレているのだ。色々と。だから私は……聞かねばならないのだ、姫様に。」

 

「………な、なら…いい。」

 

「さぁ、早く行くがいい。君も脱出した方がいいだろう。」

 

「……」

 

無言で頷いて、マホーグはその場を後にする。しかし、疑問は残ったままだった。

対策を持ってきていないと言った未来ルーシィと、対策を持ってきてもらった姫様。4日に来たと言っていた未来ルーシィと、4日以前に来ていた未来の人物。

 

「ぁ……は、初めから……1人じゃ、なかった…?」

 

マホーグが行き着いた答え。未来ルーシィが嘘をついていないのだとすれば、()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……じゃ、じゃあ…もう1人は何のため、に……?」

 

仮に、もう1人未来から来た人物がいるのだとすれば、何のために来たのか。未来ルーシィが、一切話さなかったことを考えて…マホーグはさらに混乱する。

 

「る、ルーシィ・ハートフィリアが……知らない、人物?それとも…話したくない、人物…?」

 

どれだけ考えても、答えが定まらない。未来の人物がもう一人いるのは、彼女の中で既に確定している。

しかし、未来ルーシィがその人物の事を話さなかったことが分からなかった。

 

「ジェラール……ジェラール・フェルナンデス……」

 

未来ルーシィが、協力を仰いだ人物。過去、評議院にエーテリオンを投下するなどして、投獄。その後脱獄して消息不明になっていた人物。

 

「……怖い、けど…話し、聞かないと……」

 

『協力しているのなら、この街の近くにいるはずだ』と考えたマホーグ。とりあえず、彼を探そうと思い立ってそのままナツ達が向かった方向へと走っていくのだった。

 

「……あれ、そう言えば…どこに、向かえば地下に……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何、これ……!?」

 

「私の植物よ!可愛いでしょ。」

 

「ウェンディー!!」

 

その頃、先に地下道へと潜っていたナツ達。未来ルーシィの助言により、王国兵たちに捕まらない道を進んでいた筈なのだが、何故かこの場に王国兵が集っており、正面突破しかできなくなっていた。

そしてさらに、時間が経って回復したのか……餓狼騎士団まで参戦し始めていた。

 

「このままじゃ持たないぞ!!」

 

「諦めろ罪人よ!!」

 

「もー怒った!!処刑だ!!全員まとめて処刑だ!!」

 

ナツが、ブチ切れてそのまま特攻をかけようとしたその時、『異常』が起こった。

 

「うわぁ!?なんだこれ!?」

 

「何事!?」

 

「影が人を飲み込んで……!?」

 

突如発生した謎の影に、王国兵も餓狼騎士団も飲み込まれていく。ナツ達は飲み込まれずに済んでいたが、その異常さに呆気に取られていた。

 

「王国兵がみんな、影の中に……」

 

「誰かいるぞ!気をつけて!」

 

「お前、誰だ。」

 

影の中から現れた人物。半分は白、半分は黒の髪を持っており、右目は黒髪によって隠れていた。

長く、白い髪は1つに束ねられてこそいたが……その人物は、男だった。

 

「━━━影が伸びる先は、過去か…未来か、人の心か……懐かしいな、ナツ・ドラグニル。俺はここより先の時間から来た……ローグだ。」

 

「……ローグ?」

 

「あの剣咬の虎(セイバートゥース)の!?」

 

男の正体はローグだった。未来ルーシィ以外にも未来から来た人物。その事実に、皆驚いていた。例外なく、未来ルーシィもである。

 

「王国兵を一掃して……助けてくれたのかい。」

 

「なんか雰囲気変わったなおまえ。」

 

「何しに来たの?未来から……」

 

「……扉を、開くため。」

 

「エクリプスのこと!?」

 

シャルルの問に、ローグは素直に答える。警戒こそしていたが、見知った顔であることと、一応王国兵を倒してくれたこと……それがナツ達に少しの安心を与えていた。

 

「エクリプスには2つの使い方がある。ひとつは、過去や未来への移動……もう1つは攻撃用兵器E(エクリプス)・キャノン。1万のドラゴンを倒せる唯一の手段。」

 

「じゃあ話ははえぇな!味方ってことじゃねぇか!」

 

「やったー!ドラゴンを倒せるんだね!!」

 

「未来は救われるんですね!」

 

喜ぶナツ達。しかし、未来ローグの顔は曇っていた。『それだけでは救われない』と言うかのように。

 

「いいや、話はそれほど簡単ではない……俺は、今から7年後の未来から来た。

その未来では、世界はドラゴンによって支配されている。生き残っている人類は1割にも満たず、エクリプスも今ほどの力を持っちゃあいない。

今、この時代で扉を開かねば意味が無いのだ。」

 

「だから扉を開けてぶっぱなすんだろ!?ドーンって!

単純じゃねぇか。」

 

「しかし、7年前……現代で扉を開くのを邪魔するものがいた。そいつのせいで、扉開かなかった。1万のドラゴンに対して、E・キャノンを発射できなかった。

この世界を、破滅へと導く者がいた……」

 

言葉を切って、ローグは俯く。が、再び顔を上げてナツ達に顔を向ける。

 

「俺はそいつを抹殺するために、ここにいる。」

 

「物騒ね……その人にも事情を話せば分かってくれるんじゃないかしら?」

 

「何も殺す必要は無いだろう。」

 

シャルルとリリーの言葉に、未来ローグはそんなことは不可能だと首を横に振る。

 

「大きな時の接合点では…言葉で行動を制御することが出来ない。たとえ今説得できたとしても、そいつは必ず扉を閉める。そう決まっているのだ。」

 

「決まっている?」

 

「運命からは逃げられない。生きる者は生き、死ぬ者は死ぬ。扉を閉める者は扉を閉めるのだ。

何があっても、生きている限り絶対に。」

 

「よくわかんねぇ言い回しだな。で?その扉を閉めたやつってのは誰なんだよ。」

 

ナツの言葉で、未来ローグはとある方向へと視線を集中させる。その言葉がトリガーとなったのか、はたまた初めから狙っていたのか。

その視線の先に━━━

 

「お前だ!ルーシィ・ハートフィリア!!」

 

「え?」

 

向けられた魔力。刃のように鋭いそれを、未来ローグはなんの遠慮もなしに向ける。

そして、その直後に……血飛沫が上がったのであった。


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