FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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魔食

マルクは走っていた。ニルヴァーナの街の一番真ん中に位置する場所へと向かって。

そこで誰かが戦っている音が聞こえたからだ。正確には真ん中近くだが、それが空を飛んでいるのも確認できた。滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)の聴覚で、誰が戦っているのかもすぐに分かった。

ナツである。ナツが、コブラと戦っているのだ。

ナツならば、コブラが相手でもなんとかなるかもしれない…とそう感じたマルクはコブラを任せて中央へと向かう。

 

「ニルヴァーナを操るとして……それが化猫の宿(ケットシェルター)に向かってて……あぁもう頭ん中ぐちゃぐちゃだ!!

けど、きっといるはずだ……わざわざナツさんがあそこに行ったって事は……多分、コブラだけじゃなくて誰か他にいたんだ……」

 

残っている六魔将軍(オラシオンセイス)はホットアイ、ミッドナイト、コブラにブレイン。

ホットアイはこちらの味方なので実質残り三人と言うことになる。そして恐らくはブレインが中央の塔にいるはずだ、とマルクは考えていた。

 

「━━━━━━━━━━━━!!」

 

突如聞こえる怒号。竜が叫んだかのような声、誰の声かはすぐに分かった。ナツだ。

コブラを倒したのか、はたまたまだ倒れていないのか……マルクには判別はつかなかったが、聞こえた向きはかなり中央の塔に近い場所だったので、ナツと合流するのをついでとしてマルクは走っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……む?貴様は……」

 

「ナツさん!?」

 

マルクが着いた時には、既にその場所にはブレインと何故かとても体調が悪そうなナツがいた。

ブレインが何かしたのかと考えたマルクだったが、考えるよりも早くナツの所へと向かっていっていた。

 

「ふん……滅竜魔導士か……自分に合った属性のものを喰らい、それを自らの力とする魔導士。

常闇回旋曲(ダークロンド)。」

 

だが、ブレインは冷静に魔法をマルクに向ける。まるで何かを試すかのように。

 

「この男……ナツ・ドラグニルは炎やそれに準ずるものを喰らい自分の力とする炎の滅竜魔導士。

そしてコブラは毒を喰らい自らの力とする第二世代の滅竜魔導士……」

 

対するマルクも魔法を避けて、時折少しだけ魔法を食らいついて攻撃が当たらないようにしていきながら、ナツの元へと向かう。

 

「だが……貴様が食らうのはなんだ?」

 

「ナツさん!しっかりしてください!!」

 

即座にナツの襟を掴んでブレインから離れようとする。ブレインはそんな隙を見逃してなるものか、と言わんばかりに間髪入れずに魔法を唱えていく。

 

常闇奇想曲(ダークカプリチオ)……特定の属性があるというのならば、この二つを食うということはそれに準ずる属性の滅竜魔導士………だと普通は考える。これだけを見ればな。」

 

飛んでくる魔法、明らかに当たるのはまずい類いのものだと感じ取ったマルクは、ナツを地面に投げ捨ててなんとか回避行動を行う。

 

「だが、明らかに属性の違うものも食べている。そうだ、貴様はジェラールの魔法を……食っていた。

滅竜魔導士とは思えない異質さ。だが、少し考えた……そもそも滅竜魔導士という魔導士そのものが規格外のものなのだ。」

 

「……何が、言いたい?」

 

「貴様は……()()()()()()()()()()。無論、全てを食らえるというのなら末恐ろしいものだが……おそらくは食えない魔法もあるのだろう。

何かしらの制約があると見た。」

 

「……」

 

マルクはそれに答えずに、ブレインを睨みながらナツを担ぐ。わざわざ敵に情報を与えるほど、馬鹿ではないということだ。

 

「まぁ答えることはないだろうな……しかし……これからその答えを試せばいいだけだ!!常闇回旋曲!!」

 

再びマルクに襲いかかるブレインの魔法。ナツを抱えたままでは避けきれないと判断したのか、倒れているナツの目の前に立って、ブレインの魔法に()()()()()

 

「んがっ……あぐッ……!もがっ、もご……!」

 

「ほう、大した食欲だ。しかし、これだけの魔力……果たして貴様の腹に入りきるかな?」

 

「んがっ……うぐっ……!」

 

徐々に顔色を悪くしていくマルク。ブレインはそんなマルクの様子を見てニヤリと笑みを浮かべていた。

自分の考えが、確信に変わったとでも言わんばかりに。

 

「ふははは!やはりな!貴様は魔法を食うことだけは出来るが、()()()()()()()()()()()()()()()!!食いすぎれば、食あたりを起こしたかのようにそうやって倒れるのだ!」

 

「んぐぁ……!」

 

膝をついてしまうマルク。しかしそれでも尚ブレインの魔法を食べ続ける。一瞬でも気を抜けばナツが巻き込まれてしまうからだ。

 

「しかし……先程から食べてばかりで滅竜魔法を一切使おうとしないな。何故使わない?貴様の滅竜魔法は、こちらの魔法を吸収できる性質だろう。

使えば有利に戦えるかもしれんぞ?」

 

マルクは一心不乱に食べ続ける。答えてしまえば終わり、気を抜いたら終わりというその状況はマルクにとってかなり危険なものであり、何を言われても、答えるわけにはいかなかったからだ。

 

「ふん……大方、小さい頃にでも魔法で人を殺めてしまったのだろう?小さい頃から、そのレベルになるまでの魔法を使えるものはかなり少ないが……しかし、その少数の者達の中のさらに一部に、そういう者達はいる。

死ぬとは思わなかった……殺すつもりじゃなかった……とな。」

 

「っ!!」

 

「そういう者達は魔法にトラウマを持つ。自殺を選ぶか、はたまた魔法の必要としない場所に住み、職業も魔法を使わなくともいいところに行くか……だが、ニルヴァーナはそんな者達の心のトラウマを抉り、闇へと落とす!正規ギルドの潰し合いこそが目的だが、そうやって魔法を忌避したものにも影響を与え、血で血を洗う凄惨なものへと変わる!!

光が潰れ闇が支配する!ニルヴァーナは、光を飲み込む!!」

 

『そんなことはさせない』とでも言うかのように、マルクはブレインを睨みつける。

だが、それでも……やる気だけでは足りないものもある、とでも言うかのように段々とマルクの体調は悪くなっていく。

 

「潰れろ!光の者よ!!」

 

マルクは腕を突きそうになる……が、それをする前にブレインの魔法が途切れた。

見れば、マルクの周りは岩で囲まれていた。

 

「……大丈夫か、マルク殿。」

 

「ジュラ、さん……」

 

「……ナツ殿も、ネコ殿も……それにマルク殿も……体調が悪そうだな。」

 

「ナツさんと、ハッピーは……コブラと戦って、あいつ毒使うらしいですから、毒を食らって……多分、別々の場所に落ちてたから……ハッピーは無事で……俺は、ちょっと魔法を食いすぎて……吐きそうです……」

 

幸いにもマルクから離れていたそのお陰でブレインの攻撃を免れたハッピーを横目で見ながら、口に手を当てて魔力を吐き出さないようにしていた。

 

「うぼ、うぼぼ……」

 

「……それ以外にも理由がありそうだが。」

 

「あいつは乗り物に極端に弱いんだ。」

 

「早く、こいつ倒して……これ、止めてくれ……うぶ……」

 

「お前のためじゃねーけど、止めてやんよ。」

 

その言葉を聞いて、ブレインが意味深な笑みを浮かべる。馬鹿なことを言っているものを、嘲笑うかのように。

 

「止める?ニルヴァーナを?出来るものか……この都市はまもなく第一の目的地、化猫の宿に到達する。」

 

明かされる目的、マルクを除く全員が驚きの表情を浮かべる一方でマルクの内では、やはり、と言ったような確信と、自分たちのギルドが狙われたことへの怒りが混ざりあっていた。

 

「シャルル達のギルドだ……何で……?」

 

「目的を言え、何故マルク殿達のギルドを狙う。」

 

「超反転魔法は一瞬にして光のギルドを闇に染める。楽しみだ……地獄が見られるぞ。」

 

ジュラの質問には答えず、笑いながら目的だけを語るブレイン。しかし、ジュラから突然、ブレイン以上の魔力を感じた。

 

「聞こえなかったか?目的を言え。」

 

「うぬのような雑魚に語る言葉は無い!われは光と闇の審判なり、ひれ伏せぇ!!」

 

「困った男だ……まともに会話もできんとはな。」

 

淡々と話し続けるジュラ。だが、ブレインを除いて、この場の全員がジュラに対して少しの恐怖を感じていた。

淡々と話し続けるからこそ、今のジュラからはある一つの感情だけをひしひしと感じることができるからだ。

 

「消え失せろ蛆虫共が!!」

 

ジュラがブレインに手を向けると……瞬間、()()()()()()()()()()()()。周りの建物を破壊しながら、ブレインは吹っ飛んでいく。

それに、全員が驚いていた。

 

「……な、なんだこの魔力は……!?」

 

「立て。化猫の宿を狙う理由を吐くまでは寝かさんぞ。」

 

「も、もしかしてこのオッサン……」

 

「滅茶苦茶強い……!?」

 

「これが、聖十の魔導士の力……!?」

 

「……なるほどな、少々驚いたが……聖十の称号は伊達ではないということか。」

 

自身も驚いていたが、すぐに冷静さを取り戻すブレイン。そのまま立ち上がってジュラを見据える。

 

「化猫の宿より近いギルドはいくらでもある。わざわざそこを狙うからには特別な目的があるのだろう?」

 

「これから死ぬ者が知る必要はなかろう……常闇回旋曲。」

 

「……岩鉄壁(がんてつへき)!」

 

闇の塊とでもいうべき魔力が、ジュラに襲いかかる。しかし、ジュラは冷静に、魔法を見据えて同じく自身の魔法をぶつける。

 

「かかったな!常闇奇想曲!」

 

目の前の魔法は囮。ブレインはすぐに後ろに回ってジュラに向けて魔法を放つ。

しかし、ジュラはそれさえも読んでいたかのように、目の前に出した壁を後ろにまで曲げて防ごうとする。

 

「岩が曲がった!?」

 

「馬鹿め!常闇奇想曲は貫通性の魔法!その岩ごと粉砕してくれるわァ!!」

 

「ふん!」

 

ジュラは貫通された岩を、瞬時にまた曲げて地面に常闇奇想曲の接触部分を叩きつける。

すると、常闇奇想曲は曲がって空へと飛んでいった。

そして、それに驚いたブレインの隙を突くかのように、ジュラは操っていた壁を壊し、破片をブレインに向けて飛ばす。

 

「ぐぁっ!な、なんだこれは……!?」

 

飛ばされた破片はブレインに当たり、ブレインを閉じ込めるかのように身体にくっつく。

そして、最終的にブレインは全身を岩の破片によって覆われてしまっていた。

 

「……覇王岩砕(はおうがんさい)!!」

 

「うあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」

 

「六魔の一人を……こんな、無傷で一方的に倒すなんて……」

 

「さぁ、ウェンディ殿達のギルドを狙う訳を言え。」

 

ブレインはボロボロになって倒れる。ジュラはそんなブレインに近づき、化猫の宿を狙う理由を聞き出そうとする。

しかしそれでも、ブレインは答えようとはしなかった。

 

「ま、まさか……この私が、やられる……とは……!ミッドナイトよ…あとを頼む……六魔は、決して倒れてはならぬ……六つの祈りが消える時……あの方が……!」

 

「あの方……?」

 

ブレインはそう言い残し、気絶する。そしてブレインの顔の模様が一つ消えたことが、グレイの気にかかったが、それをルーシィは気のせいだと驚きつつも否定した。

 

「みなさーん!大変ですー!」

 

「っ!ウェンディ……無事、だったのか……よかった……うぷ……」

 

マルクはウェンディの無事を確認すると、自分が大量に魔力を食べていた事を思い出して、ついでに吐き気も思い出していた。

 

「この都市、私たちのギルドに向かっているかも知れません!」

 

「……らしいが、もう大丈夫だ。」

 

「え……ひゃっ!?」

 

ウェンディは倒れているブレインを見て軽く驚いていた。無理もないだろう、敵の頭目が傷だらけで倒れているなんて普通は驚くものだ。

 

「蛇使いも向こうで倒れてるしな。」

 

「じゃあ……」

 

「恐らくニルヴァーナを操っていたのはこのブレインよ、それが倒れたってことはこの都市も止まるってことでしょ?」

 

安心するウェンディ。しかし、シャルルの方は何かが引っかかっているかのような、難しい顔をしていた。結局の所、いくつか謎が残ってしまっているからだ。

 

「……気に入らないわね、結局化猫の宿が狙われる理由は分からないの?」

 

「まぁ深い意味はねぇんじゃねーの?」

 

「多少気になることはあるが……これで終わるのだ。」

 

ジュラが安心しきっているが、それどころではないとナツが態度で訴え始める。

 

「お、終わってねぇよ…早く、これ止めてくれ……うぷ……!」

 

「ナツさん!?まさか毒に……それに、マルクも!」

 

「お、俺は…魔法の食べ過ぎだから…ナツさんとハッピーを治してやってくれ……」

 

「オスネコ!だらしないわよ!!」

 

「あい……」

 

ウェンディがナツとハッピーを治療している間、グレイ達は情報の整理をし直す。

 

「デカブツが言ってたな……制御しているのは王の間だとか。」

 

「あれか!?」

 

「あそこに行けばニルヴァーナを止められるかも……」

 

「は、早く行きましょう……!」

 

「あんたは……休んでなさいよ……」

 

魔力の食べすぎでふらついているマルク。ルーシィに軽く止められてたが、結局全員で王の間に向かうことになったのであった。


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