FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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今の悪夢と未来の絶望

「ちっ…何だってぇんだ!!」

 

ブレスを放つクォーリ。瓦礫から出てきたマルクは、それを避けようともせずに眺めるように立っていた。

 

「……」

 

ブレスの中にいながら、それでもマルクは動かない。ブレスそのものの存在が認知できていないかのような、それほどまでにじっとしていた。

 

「……ゥ…」

 

「っ!?」

 

そのまま、マルクは歩き始める。1歩また1歩…ブレスを放つクォーリの元へと歩き始める。

その姿に、クォーリ……否、その光景を見ていた観客達もまた異様さを感じ取っていた。

ブレスの中を、悠々と歩くマルクの姿には、立ち向かうような強さを感じなければ、強者の如き強さも微塵も感じられないからだ。

 

「くっ……てめぇ……何だ、なんだ…!」

 

「……」

 

頭を掻き毟るクォーリ。それが見えていて無視しているのか、視界に入っていないのか……マルクは歩みを止めなかった。

 

「そうやって気取ってるやつが苦手なんだよ……俺はァ!!」

 

「………」

 

錯乱したかのように飛びかかるクォーリ。しかし、クォーリの拳が届く前に……()()()()()()()()()()()()()

 

「うごっ!?」

 

「……?」

 

クォーリを地面に叩きつけてから、マルクは首を傾げる。何を思ったのか、そこからクォーリの顔を掴んでいる手に、異様な魔力を溜め込んでいく。

 

「うがァ!?」

 

「……!」

 

そのまま、溜め込んだ魔力を爆発させる。当然、掴んだままなのでクォーリの顔にダメージが入る。

何かに納得したのか、大きく頷きながら再び魔力を貯めて爆発。またもう一度同じように爆発。ひたすらそれを繰り返し始めていた。

 

「……」

 

「うぐ、ぁ……」

 

しかしすぐ飽きたのか、マルクはクォーリをその場で投げ捨てる。クォーリはそのまま地面を転がっていった。

 

「……っ!」

 

「っ!!」

 

マルクは口を大きく開けて、その口に魔力を溜め込む。恐怖を感じるほどに濃く、鉄球かと思うほどに真っ黒な魔力の塊。

質量もあるのか、それを構えているだけでマルクの体が少し地面にめり込んでいた。石タイルの地面を割りながら。

 

「……」

 

「くっ……!?」

 

塊は段々と小さくなる。小さくなるにつれて、感じる重圧も重くなっていく。

マルクの……例え大魔闘演武に出ている魔導士全員の魔力を合わせても、届くかどうかも分からないとも言えそうな魔力。

 

「んな魔力……何処で手に入れたァ!!」

 

「……」

 

答えない、マルクにはクォーリのその疑問は耳にすら届かない。マルクの顔がクォーリに向けられる。

溜め込んだ魔力がクォーリに向かって放たれれば、クォーリは消し飛ぶだろう。

溜め込んだ魔力がこの場で爆発すれば、クロッカスが消えるだろう。それほどまでの魔力なのだ。

 

「くそっ、くそっ!!」

 

魔法を使って、殴ったりブレスを放つクォーリ。だが、それらの攻撃がマルクに届く前に全てマルクが生み出している魔力の球に魔力が吸われてしまっていた。

 

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)なんて目じゃないほどの魔力……んなの、本当に人間じゃ……!?」

 

「……なんだ?この状況。」

 

マルクの後ろから、1人の男がやってくる。ボロボロの体を引きずってくる妖精の尻尾(フェアリーテイル)の1人。ラクサスである。

 

「ラクサス……!?お前はジュラと殴りあってた筈だ!!」

 

「あ?あのバケモンのおっさんは……何とか倒してきた。おかげで体のあちこちが痛てぇがな……」

 

「んだと……!?」

 

ラクサスは、つい先程までジュラと戦っていた。そして先程遂に聖十大魔道であるジュラに、膝をつかせたのであった。

 

「……?」

 

「何してんだお前……そりゃあ滅竜魔法か?とんでもない魔力なのは認めるが……ここではやめとけ……!」

 

ラクサスが、マルクの顎にアッパーを入れる。それだけでマルクが作っていた魔力の塊は、上の方に飛んでいき、花火のように爆発した。

 

「……え、あれ?ラクサスさん?」

 

「なっ……!?」

 

殴られたあと、地面に倒れたかと思えば今まで何も起こらなかった、と言わんばかりにいつもの反応をするマルク。

その反応の違いに、クォーリは困惑していくだけだった。

 

「あれ、俺何してたんでしたっけ………って競技は!?」

 

「安心しろ……終わってすらいねぇからよ。ほれ、とりあえず行くぞ。」

 

「え、どこに……」

 

「お前らは集中しすぎてて、みえてなかったのかもしれねぇが……残ってんのはこいつとスティングだけだ。

んで、今から……全員あいつのところに向かうって話だ。」

 

「なっ……!?お嬢が負けたって言うのか!?」

 

ラクサスの言ったことに、驚くクォーリ。既に残っているのが、妖精の尻尾のメンバーを除いて、二人しかいないということに驚いていた。

 

「当たり前だ……ウチのエルザと戦って、勝てるやつなんざ限られてる。」

 

「クソが……!なら、今ここでお前達2人を倒して━━━」

 

「ふん!」

 

顔面に、1発入れるマルク。既に限界が近かったのか、それだけでクォーリは沈んでしまった。

 

「……あれ、思いの外あっさりと…」

 

「……」

 

マルクの事を見るラクサス。先程までのマルクは一体なんだったのかと思いながら、今のマルクとの違いの差に、内心疑問を抱いていた。

 

「ん……?あれ……」

 

「おい、どうした。」

 

「いや、なんか……体が、ふらついて……」

 

尻餅をつくマルク。そしてさらに、そのまま体を倒してしまう。マルク本人も予想外であり、そして指の1本さえもまともに動かせなくなっていた。

 

「……動けそうか?」

 

「ごめんなさい、無理です……スティング、任せてもいいですか?」

 

「はなから行くつもりだ……後で拾ってやるから待ってろ。」

 

「はい……」

 

大の字で寝転びながら、マルクは空を眺める。いつの間にやら時間は経っていて、既に空は暗くなっていた。

 

「……ウェンディ達は大丈夫かな。」

 

そして、ルーシィ奪還の為に動いたウェンディ達のことを、静かに考えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にこっちであってるのか?」

 

「も、もし嘘なら……もう1回殴ればいい……」

 

「それもそうか。」

 

マルクとクォーリの決着があっさり着く数刻前、ウェンディ達は城の地下を歩いていた。王国直属の部隊、餓狼騎士団を倒して、地下から出るための出入口を教えて貰ったのだ。

そして、その道にしたがって進んでいる……のだが。

 

「アルカディオス様は大丈夫でしょうか?」

 

「大丈夫と言えば大丈夫だけど……」

 

「むしろ溶岩の中で生きてた方が不思議だよ。」

 

「……って、ていうか……誰?」

 

一緒について来ていたマホーグ。そのマホーグが、いつの間にか増えていた同行者の男……獅子宮の星霊レオ、またの名をロキ。

彼に対して指をさしていた。

 

「やぁお嬢さん、初めまして。僕の名前はロキ、どうだい?外に出たらいい喫茶店にでも━━━」

 

ロキの頭に鈍い音が響く。ルーシィが、ロキに拳骨を入れたのだ。対して、喫茶店に誘われたマホーグはウェンディの後ろに隠れて怯えてしまっていた。

 

「怯えさすんじゃないわよ……で、なんでこの人生きてたのよ。」

 

「あ、あぁ……彼…アルカディオスの身につけている翡翠の宝石が、護符の役割を果たしたんだろうね。

それも、かなり強力な………ね。」

 

「翡翠……あのドラゴン!翡翠竜ジルコニス!」

 

「確か姫の名前も……ヒスイ姫…」

 

翡翠という色が、ここまで関係しているのも、何かあるのではないかと思ったが……今考えていても、しょうがないので一行は話をそのヒスイ姫に絞る。

 

「アルカディオスは、ここを出たら姫に会えって言ってたわね。」

 

「エクリプスが正しいかどうかは、自分たちで決めろ……だったわね。」

 

「その姫様にこんなところに落とされたんだけどな!!」

 

「……えく、りぷす?」

 

首を傾げるマホーグ。この中で唯一、状況を全く把握してない彼女がいることを忘れていた一同は、どう説明したものか……と考えながら、結局彼女にも話してしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイ!あれを見ろ!!」

 

リリーが叫ぶ。気づけば、目の前に一つの扉があった。地下にある扉…餓狼騎士団の言うことを信じるならば、確実に出口だろう。

 

「俺に任せろ!!火竜の━━━」

 

鍵が閉まっているかもしれない……と考える一同。それを『壊せば早い』の理論で、ナツが飛び込んでいく。

そのまま吹き飛ばす予定だったが━━━

 

「開いたーっ!?」

 

「なんで!?」

 

「ま、まさか待ち伏せ……!?」

 

勢いそのままに、転んでしまって転がっていくナツ。扉の前まで転がって、ようやく止まる。

そして、扉から現れたのはローブを着た人物だった。

 

「だ、誰……?」

 

「……誰だ?お前……」

 

「……ごめん。力を、貸して……!」

 

すすり泣くような声とともに、突然謝る人物。そして、その声は皆に聞き覚えのある人物だった。

その人物は、深く被っているフードを取って、その奥に隠れている顔を皆に晒す。

 

「━━━ルーシィ!?」

 

「えぇぇぇぇええ!?」

 

フードを被った人物はルーシィだった。しかし、既にルーシィは皆と一緒に行動を共にしている。

フードを被っていたルーシィは、また別のルーシィだった。

 

「ルーシィがもう1人……!?」

 

「ど、どういうことですか……?」

 

「ジェミニ…じゃないですよね。」

 

「ま、魔法で姿と声を真似してる…?で、でもやる必要性は感じないし……」

 

「エドラスとかそういうのじゃ……」

 

ルーシィがもう1人、その事実は一同に衝撃が走った。推測も立てるが、どれも肯定出来るほどの情報が今現在なかった。

 

「…時空を超える扉、エクリプスの事はもう知ってるよね。」

 

「エクリプス……まさか!?」

 

「あんたはエクリプスを使って━━━」

 

「未来から来たの。」

 

「なーっ!?」

 

更に驚く一同。エクリプスを使い、未来から来たと言うもう1人のルーシィの言うことに、驚愕しか感じなかった。

 

「この国は…もうすぐ……」

 

そう言いながら倒れるもう1人のルーシィ。別段、死んだという訳では無いが、意識は既に失われていた。

 

「……わ、訳が分からない…あ、あんたってそんなにポンポン増えるの…?」

 

「そんな訳ないじゃない…何か、気味が悪いよ。何であたしが……」

 

「とりあえず、このルーシィも連れて行くぞ。放ってはおけねぇしな。」

 

未来の自分、何故それが過去である今の時代に来たのか。言いようもない不安が、気持ち悪さとなってルーシィの心に残る。

兎も角、城の地下を抜けた。それはルーシィの救出もほぼ確定で終わったことになる。

だが、予想外の自体が起きる。

 

「まいったな。」

 

「まさか迷子になるなんてね…」

 

「ち、地下から脱出するにしても……城からってなると…迷う。」

 

「めんどくせぇから兵士の中突っ切ろうぜ。」

 

「ダメよ、怪我人もいるのよ?」

 

城の食堂で話し合う一同。城に出たまではよかったが、その城が思いの外広かったため、中庭に出ることすら叶わないでいた。

 

「うぅ……!」

 

「お、目が覚めたか。」

 

「大丈夫?未来ルーシィ。」

 

目を覚ます未来ルーシィ。頭を抑えながら、自身の身に起こったこと……つまり、これから一同に起こることを話し始める。

 

「あたしの記憶だとね…奈落宮を脱出したあと、みんな王国軍にまた捕まっちゃうの。

だから、その前に知らせようと……」

 

「さ、流石に一般兵士に負ける気はしない……けど、私達は負けた……?」

 

「うん……あたし達は、逃走中エクリプスに接近しちゃうの。そのせいで、魔法が使えなくて全員捕まっちゃう。」

 

「そりゃドジだな。」

 

「運が悪かったとしか………」

 

未来ルーシィは、下唇を噛みながら、体を抑える。彼女の身に起こったこと…これから起こることが彼女の身にとって、恐怖そのものだと言わんばかりに。

 

「『あの時』が来るまで……あたし達は牢の中にいた。」

 

「……あの、ルーシィさんはどうして未来からやってきたんですか?」

 

「最悪の未来を変えるため……」

 

「さ、最悪の未来……?」

 

怯えていた未来ルーシィだったが、意を決して話し始める。これから起こる、絶望を。

 

「…この先に待つのは絶望。1万を超えるドラゴンの群れがこの国を襲ってくる。

街は焼かれて、城は崩壊……多くの命が失われる。」


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