FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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一時の勝利

「アイスメイク……シールド!!」

 

最終種目『大魔闘演武』で、ルーファスとぶつかったグレイ。1日目の雪辱を晴らす為に、本気でルーファスを倒そうとしていた。

 

「シールド……記憶、そして忘却。」

 

「っ!盾が消え…ぐあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

しかし、ルーファスの攻撃を盾で防ごうとしたグレイだったが、その盾を消されてしまい、攻撃が直撃してしまう。

ルーファスの魔法、記憶造形(メモリーメイク)は自分の記憶にあるものを組み合わせるだけでなく、記憶した相手の魔法も消すことが出来るのだ。

 

「この戦いは、私が君に詩う鎮魂歌(レクイエム)…記憶しておきたまえ、君は私に勝てない。」

 

「そいつァ…どうかな。」

 

「脱いだー!!脱いだ!!脱いだー!!」

 

服を脱ぎ捨て、上半身裸になるグレイ。まさかの行動に観客も驚きを隠せないでいたが、しかしそのまま試合は見続ける。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の紋章を刻んでるからには……同じ相手に2度はやられねぇ……」

 

「ほう、何か策でもあるのかね?」

 

「…アイスメイク━━━」

 

「記憶。」

 

限界突破(アンリミテッド)!!」

 

グレイは即座に作り出した氷の武器を、2本手に取る。その間にもうさらに2本作り出される。

それだけでは終わらず、4本…8本…16本……その数はとんでもない速度で増えていく。

 

「なんという造形の速さだ……!記憶が、追いつかない……!!」

 

「覚えたかい……一斉乱舞!!」

 

「ぬあぁぁぁぁ!!」

 

そして、作られた氷の武器達は一斉にルーファスのところへと飛んでいく。

それは、確かにルーファスにダメージを与えていた。だが、ルーファスはそれではまだ足りなかった。

 

「しかし!!氷属性だけなのが惜しい!!私はその氷を滅する炎を憶えている!メモリーメイク『燃ユル大地ノ業』!!」

 

完全に凍りきる前に、ルーファスは記憶から炎を作り出す。その炎は氷を溶かして、グレイの元に伸びていた。

 

「……俺はもっと熱い炎を、覚えている…!」

 

だが、その炎を突っ切って……グレイが現れる。炎を超えてきたので、最早ルーファスの目の先鼻の先であり、ルーファスがどのような造形をしようとしても……追いつくことは無い。

 

氷魔剣(アイスブリンガー)!!」

 

「ぐあぁぁぁぁ!!」

 

二刀の氷の刃がルーファスを切り裂く。ルーファスは倒れ、被っていた帽子は宙を舞い……グレイの手に。

 

「グレイだー!!妖精の尻尾が勝利ーっ!!ルーファス敗れるー!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「胞子爆弾リンカ・レンカ。」

 

「きゃああああ!!」

 

「……煩い。」

 

場所変わって、王宮地下。そこではウェンディとマホーグが、餓狼騎士団の1人であるコスモスと戦っていた。

 

「貴方……その子を、助けようとしないのね?」

 

「…そ、そもそも…仲間でもなんでもない……し、それ以前に…自分の事くらい、出来ないのなら……魔導士、失格。」

 

「あら、怯えてばかりの貴方が言えるのかしら?」

 

「わ、私が怯えるのは…危害を加える大人が、いるから……だ、だから……消えて…!」

 

「本当に……可憐。」

 

コスモスが起こす爆発の胞子を、ひたすら避け続けるクォーリ。ウェンディに対して辛辣な意見を言うが、事実大したダメージをウェンディは負っていなかった。

 

「け、けど……貴方は、そこまでの危害……加え、られない。」

 

「……なんですって?先程から、殺そうとしているのにも関わらず?」

 

「……そ、その程度じゃ…怖くもなんともない。き…消えてほしい、とは思ってるけど……あの、大人達に比べれ、ば……まだ、マシ。」

 

「可憐……と思っていたけれど、思いの外強いのね。儚い花びらを持っていると思っていたら、強靭な棘を持つ薔薇のような子……可憐。」

 

コスモスが言っていることは完全に無視して、マホーグはじっとコスモスを見る。

彼女の使う花の魔法は、マホーグが尽く大剣で壊しに行ってるのだが……決定的な一撃が入れづらかった。

 

「……め、めんどくさい…!」

 

ショートワープを繰り返して、フェイントで前と見せかけて後ろから攻撃を仕掛けにいくマホーグ。

しかし、当たったと思われた攻撃は彼女自身が花びらと消えて手応えがなかった。

 

「貴方のその目……魔眼の類かしら?私の攻撃が全く当たらないわ。」

 

「危険、予知……けど、あ…当たらないのは……そっちも同じ……」

 

「私は花……どこにでもいるもの。」

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

「わ、私の事は……心配、しないで………自分の、事だけ…か、考えてて。」

 

「は、はい!!」

 

ウェンディに視線を向けずに、言葉だけを投げかけるマホーグ。お互いに一撃が決まらない、というのが2人にとってネックである……とマホーグは思っていた。

 

「けど……もうおしまい。眠る時間よ『マクラ・カムラ』」

 

「こ、これは……」

 

「けほっけほっ!」

 

だが、コスモスにとってはその一撃はいらないのだ。既に、ウェンディ達の足元には大量の花が咲き乱れていた。

その花から大量の胞子が溢れていた。

 

「この胞子の睡眠効果により眠ってしまったら、貴方達は二度と目を覚まさない……そういう死の魔法。

さぁ眠れ、永遠に……」

 

辺り一面に睡眠効果のある胞子が放たれ、土煙のようにウェンディ達を隠していく。

コスモスはそれをずっと観察するだけ。

 

「ふふ……これだけの量、10秒もあれば眠ってしまうこと。

さぁさ……そろそろ可憐に眠りに落ちてしまったかし……らぁっ!?」

 

コスモスの頭に、重い一撃が入る。そして、地面に強烈に叩きつけられたことで、余計に顔にダメージが入る。

 

「あ、貴方って……ば…馬鹿なの?」

 

「な、何で…貴方はさっき眠りに……」

 

「しょ、ショートワープ……目の前で使ってたのに……」

 

「そ、それでも!!マクラ・カムラの胞子を少しでも吸い込んでしまえば……」

 

マホーグは、胞子が未だ漂う空間に目を向ける。コスモスもつられて、その空間に目を向ける。

 

「……状態異常耐性付加(エンチャント)リレーゼ。」

 

「え?何で!?」

 

胞子が晴れたところに、目を開けているウェンディの姿があった。彼女もまた、眠りに落ちていなかった。

 

「私に、状態異常系の魔法は効きません。みんなのサポートが、お仕事だから。」

 

「だ、だから私も起きてる……い、いなかったら……本当に、眠ってた。あ、あと……もう逃げられない、よ。」

 

「……けど、私はサポートだけじゃない。戦わなきゃいけない時、誰かを守るためには……私は天竜になります。

滅竜奥義!!」

 

「な、何これ!?風が、私の花が散っていく!!」

 

ウェンディとその隣のマホーグ、そしてコスモスを中心として風が吹き荒れる。

これが、ウェンディの覚えた滅竜奥義。

 

「照破・天空穿!!」

 

「きゃああああ!!」

 

ウェンディの滅竜奥義が、直撃してコスモスは吹き飛ばされる。しかし、まだ足りないのか手足をじたばたさせながら、コスモスは何とか体勢を立て直そうとする。

 

「━━━ざ、残念。」

 

「えっ…」

 

コスモスの腹に、ショートワープしてコスモスに追いついたマホーグの武器がヒットする。大剣ではなく、変形させた後の大槌で殴り飛ばしただけだが。

 

「がはっ……!?」

 

「こ、殺しはしない……けど…む、むしゃくしゃしたから……ね。」

 

吹き飛ばした直後に、再びショートワープして追いつき二撃目。また追いついて三撃目…四撃目……そして。

 

「五、撃目ェェェェエエエエエ!!」

 

コスモスは、最後のマホーグの一撃で、壁を貫通して吹き飛んでいく。その追撃の多さにウェンディはドン引きしていたが……何も突っ込まないでおいた。

 

「……あ。」

 

「……ま、またすごい偶然……」

 

開けた壁の穴を通ってみると、同じように倒されたと予測できる餓狼騎士団を中心に、ほかのメンバーも集まってきていた。

全員が全員、壁に穴を開けるほどの勢いで敵を倒していったのだ。

 

「さて、と……出口を教えなきゃ処刑だぞ。」

 

「悪……」

 

ナツが指の関節を鳴らしながら、餓狼騎士団に尋問…もとい拷問をしかけていた。

主に、答えなければ頭に拳を叩きこむという単純明快なものだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くはっ、くはっ……はは、はははははは!!」

 

「なーにがそんなにおかしいんだよ。今負けてるのはお前の方だぞ。」

 

「確かに勝負としては負けてる……俺はな。

だが……ここから勝てれば、まだ……!」

 

「魔法を片っ端から食われて、氷も俺にはろくに効いてない……その上でまだ俺に勝てる気でいるのか?」

 

大魔闘演武の試合で、戦い続けるクォーリとマルク。その試合は一方的とは言わないまでも、クォーリはマルクにダメージを与えられずにいた。

 

「当たり前当たり前……仲間の力を信じてる…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「……あ?何言ってるんだお前。」

 

クォーリが突然発した言葉に、マルクは困惑するしかなかった。頭が狂ったんじゃないか、とさえ。

 

「……何で、お嬢に怒りを向ける?」

 

「それは、ルーシィさんを傷つけられたからで…」

 

「嘘だ。お前はこれっぽっちもそんなことを考えちゃあいない。」

 

マルクのことばを遮って、クォーリはマルクに指をさす。遮られた事で、マルクは少しイラッときていた。

 

「お前は、ルーシィ・ハートフィリアに天竜を写してんだヨ。

『もしあの時の試合に出てたのが天竜だったら』ってな。」

 

クォーリがそう宣言する。その言葉を聞いて、マルクはつい思い浮かべてしまったのだ。ミネルバに一方的に攻撃されるウェンディを。

 

「ぁ……」

 

「なんてー傲慢!勝手に写し取って勝手にキレる!憤怒する相手を間違えている!

何が仲間!何が絆!!そう唱えるやつが1番の自己中!」

 

「だ、黙れ!!」

 

マルクが慌ててクォーリの言葉を遮る。だが、それに対してクォーリは口角を上げる。

 

「お前には、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)って称号は似合わねぇよ。

どちらかと言えば……そう、悪魔だ。」

 

「悪魔、だと?」

 

「ところ構わず他者の魔力を喰らい続ける!魔力の暴飲暴食を続ける!勝手に写し取って勝手にキレる!傲慢の憤怒!

悪魔のような身勝手さ!!何が妖精の尻尾、何が妖精!お前に似合うのは悪魔の尻尾……悪魔の尻尾(イービルテイル)だよ!」

 

高笑いをするクォーリ。それに対してマルクは黙ったままだった。そして、高笑いをし続けるクォーリに一歩ずつ近寄っていく。

 

「……それで、終わりか?」

 

「何だ?またキレたのか?悪魔と呼ばれたことか?本質を言われたことか?本音をばらされたことか?

お前が何にキレようと、事実は変わらなぐっ!!」

 

マルクは腕を伸ばし、クォーリの首を掴む。しかし、首を掴まれてもクォーリは気味の悪い笑顔を浮かべていた。

 

「……黙ってろよ、お前。」

 

「ハッ!ようやく触れてくれたな!これなら直接、お前の体内を凍らせてやれるぜ!!」

 

そう言って、クォーリはマルクの腕を掴んで、一気に魔力を注ぎ込む。

すると、マルクの腕から何本もの氷の棘が生えてくる。腕を突き破ってきた、というわけではなかったが……文字通り芯から凍らされているので、それだけでマルクの腕は機能しなくなり、クォーリの首から離れてだらんと垂れ下がってしまう。

 

「……」

 

「もう二度とその腕は使えねぇ!!この試合の中だけじゃねぇ、二度とだ!もう片腕しか残ってねぇが……それでもまだやるってか!?」

 

「………」

 

日差しが傾いてきたのか、マルクの後ろから光が差し込む。逆光かつ、マルクの顔が影で見えづらいこともあり、クォーリは今のマルクの表情が判別出来ないでいた。

特に彼にとっては、問題は無かったが。

 

「へっ……何も言い返さねぇつもり……っ!!」

 

クォーリは、後ろからとんでもない殺気を感じ取り、咄嗟に横に避ける。誰の殺気、なんてことは全て後回しだった。

その直後、その場を何かの衝撃波が襲っていた……それは、マルクを飲み込んでいた。

 

「一直線の綺麗な傷跡……カグラの奴か。あの不倶戴天っつー剣を抜いた様だな……危ねぇな……あんなもんに当たったら、どんだけ頑丈な鎧でも真っ二つだ。」

 

通った先を見ながら、クォーリはそう呟く。今の今まで相手していたマルクがいた場所を見つめる。

マルク本人は斬撃に吹き飛ばされて、衝撃波とともに建造物の壁に突っ込んでいた。

 

「……今のを食らってりゃあ死んだな。ま、死んだらこの程度のやつって事になるし……別に構うこたァ……」

 

建物から流れる血。その量は明らかな致死量を超えていると、クォーリは判断した。

踵を返して、帰ろうとすると……瓦礫の音が鳴った。崩れる音ではなかった。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「……なんだ、この音。」

 

バリッ、ゴリッ……その瓦礫の音は、段々と大きくなっていく。クォーリは恐る恐る、マルクの吹き飛ばされた先を見る。

パッと見た感じでは、何も判断が付かなかった。だが、何かが起きていると……クォーリは判断した。

 

「……ガァッ!!」

 

そして、しばらくその音が続いたかと思えば、瓦礫から腕が出てくる。瓦礫を押し出すように、そしてそのまま吹き飛ばすようにほかの瓦礫をまとめて吹き飛んだ。

 

「……おいおいおい、建物一個分の瓦礫だぞ?何で()()()()()()()()()()()()()()()()()()……!?」

 

「……」

 

瓦礫から出てきたのはマルクだった。彼は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。睨むではなく、眺めると言った方が正しいと言わんばかりに。

 

「んだよ……何で傷がついてねぇ!?あの量の瓦礫に乗られて、なんで無傷だなんで瓦礫が減ってんだ!!」

 

「……」

 

クォーリは叫ぶ。マルクは、大声で叫ぶクォーリを眺めながら、腕に魔力を貯める。

その魔力の質は、今動いている全魔導士が感じ取っていた。『嫌な魔力』だと。


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