FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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ただひたすらに

大魔闘演武最終日、最終種目『大魔闘演武』の開始を告げる鐘の音が鳴る。始まりは騒々しかったが、いざ始まれば選手達には静かな移動だけが行われている。

 

「始まりましたね〜、最終戦。」

 

「やはり分散し、各個撃破の作戦を取るチームが多いね。」

 

「みんな頑張るカボー!」

 

実況の説明とともに、映像には各選手の様子が映し出される。

 

「一人一人が高い戦闘力を持つ剣咬の虎(セイバートゥース)はやはり分散しています。

他にも二人一組(バディ)で行動する者や、3人1組(スリーマンセン)もあります。

ん……?あーっとこれは……!?」

 

実況と共に観客席にも動揺が走る。何故なら、映し出された映像には全く動かない妖精の尻尾の『5人』が映し出されていたからだ。

 

「ど、どうしたのでしょうかー!?妖精の尻尾!!5人とも目を閉じたまま動いてないぞー!!」

 

「5人……という事は、一人だけ動いとる、ちゅうことだね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔力を足に貯め、跳ぶ。足が着地する前に魔力をすぐに練り直し、足が何かについた瞬間すぐさま跳ぶ。

それを繰り返しながらひたすらに、マルクは跳んでいた。

 

「ん?おいトビー!またやってきたぜ!」

 

「おおーん!!」

 

「悪いですが……急いでるんで突破させてもらいます!!」

 

マルクは拳と足に魔力を溜めて、目の前にいた蛇姫の鱗(ラミアスケイル)のユウカとトビーに向かって飛び込む。

 

「早っ……」

 

「そいっ!!」

 

マルクは二人の体に魔力を打ち込む。だが、二人は倒れることは無かった……と言うよりも、倒れるのを確認しないまま再度跳んだ。

 

「……な、なんだ今の?」

 

「おおーん……?」

 

あまりの一瞬のことで、ユウカ達はマルクの行動に疑問を持ったが、すぐさま他の敵の探索に行くのだった。

 

「あれ?君はウェンディちゃんの━━━」

 

「通ります!!」

 

今度は青い天馬(ブルーペガサス)のレン、イブ、ヒビキのイケメン三人組。しかし、先程の二人と同じように魔力だけを打ち込んで更に跳んだ。

 

「あー、くそ……魔力の消耗が……!」

 

「そんなにぴょんぴょん飛び回って、どこに行くというのだ?」

 

「っ……ジュラさん……」

 

マルクの着地してきた目の前に居るジュラ。マルクは冷や汗をかいたが、そのままマルクはジュラに飛び込む。

その最中、マルクはこの作戦の事を考えていた。

 

「先程から、君は誰彼構わず魔力を打ち込み続けている。それがどんな作戦かはわからないが……勝つために必要なことだろう?」

 

「当たり前ですよ……勝つためにやらないんじゃ、やる必要性もない!!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それがマルクがメイビスから与えられた作戦だった。

 

「だから……一撃でも入れればいい!!」

 

「ふ……よほど信頼できる策士がいるらしい……だが、簡単には通さぬぞ!」

 

ジュラの魔法は強力。素早い上に機動力もあり、そして簡単には打ち消せない硬さと攻撃力も兼ね備えている。

どれだけ近づけても、後一歩というところで届かせられない。

 

「しかし、誰かはわからないゲッターをどう探す?まさか、それすら最早看破されていると?」

 

「ウチの策士さんは……とんでもない人ですよ。なにせ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「なんと……!」

 

「その岩!!邪魔だから全部『喰らいます』!!滅竜奥義魔光絶闇激(まこつぜつあんげき)!!」

 

腕から魔力を放ち、回転しながらまるでドリルのように、足で岩を貫いていくマルク。

そして、ほぼゼロ距離になるまでにジュラの接近ができた。

 

「はぁ!!」

 

「筋はいい……がっ!!」

 

マルクは空高く打ち上げられる。しかし、吹き飛ばされたにも関わらずその表情は微笑みに満ちていた。

 

「む?」

 

「これが、本当の戦いだったら……俺は貴方に勝てない。けど、今回俺は……()()()()()()()()。」

 

地面に綺麗に着地するマルク。ジュラへの魔力の打ち込みは、吹き飛ばされる前に終わっていたのだ。

 

「ってわけで……さよなら!!」

 

そしてまた、忙しなくマルクは跳んだ。魔力はほんの少しだけジュラから奪っていた。

だが、それもジャンプするだけで使い切ってしまう。

 

「無駄に時間かけすぎた……ゲッターは見つけ次第、倒す。」

 

そう呟きを残して、マルクは更にブーストをかける。まともな戦闘は行わず、ひたすらに飛び回るのが作戦なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜ、全員に俺の魔力を打ち込め?」

 

「はい、妖精の尻尾が絶対に勝つ為に必要な作戦です。それと、新ルールで増える六人目の打倒、これも含めてください。」

 

「……それって、具代的にどのくらいの時間で?」

 

「5分、それが限界です。」

 

前日の話。マルクはメイビスに、そう作戦を伝えられていた。あまりにも確実性が薄く、不可能に近い作戦。

しかし、メイビスにはそんな無謀はさせる気は無いと、そんな目をしているようにも受け取れた。

 

「……魔力で無理矢理跳び回れば…」

 

「それ前提で行ってください。」

 

「……何故俺なんですか?『倒さない』という前提が、あるのは分かりますが…魔力を打ち込めって言うのは、流石によく分からないんですけど……」

 

「えっと……」

 

急にしどろもどろになるメイビス。『答えたくない』のかとマルクは最初思ったが、どうにも『答えられない』という印象の方が強くなってきていた。

 

「あの、アズマと戦った時に見せた………竜がぶわー!となるあの技を……」

 

「竜が、ぶわー……?あ、魔龍刻印ですか?」

 

「っ!!」

 

それだ!と言わんばかりにビシッと指を指すメイビス。そして、マルクはそれで合点がいった。

要するに、参加者全員に魔龍刻印を打ち込めとメイビスは言っているのだ。

 

「でも、俺たちを除いても6人目を入れるとなると30人も人がいますよ?流石に5分となると……」

 

「いいえ、24人です。四つ首の仔犬(クワトロパピー)のメンバーには打たなくて結構です。」

 

「へ?でも……」

 

「100%の確率で、パピーは少なくとも5人全滅します。そして、6人目は50%以上の確率でカグラと当たり、残りの50%でもジュラ、剣咬の虎のメンバーの誰かと鉢合わせします。

これは5分以内に起こるので無問題です。」

 

突然、ペラペラと喋るメイビス。マルクは、あまりの勢いに頭に疑問符を浮かべてしまっていた。

 

「……けど、6人目がバッカスより強かったら?」

 

「それはないでしょう。忘れましたか?バッカスはリザーブ枠です。わざわざバッカスより強い選手を、今更入れるのもおかしな話でしょう。」

 

「……あ、そう言えば途中参戦なんでしたっけ。」

 

「そういう事です。」

 

だから無視していいと、その意見には納得したマルク。しかし、どうして魔龍刻印なのか、という疑問は残る。

 

「あの技、とてもじゃありませんが、使いやすい技でもありませんよ?俺の魔力だと、どれだけ打ち込んでも刻印は発動しない上に、他の人の魔力をかなりの量打ち込まないと。」

 

「それでいいのです。発動するかしないかは、二の次……必要な事は、それを打ち込んだ、という事実ですから。」

 

「事実?」

 

「簡単な話です。1人が動き回り、誰ともまともに戦わずひたすら一撃だけを入れて飛び回る……残りの5人は動かずにじっとしている。

もし、そんなことをしているチームがいたら、どう思いますか?」

 

「まぁ、おかしいと思うし怪しいって思いますよね。」

 

「えぇ、だから『そう思わせる』という事です。発動すれば相手は魔力の大部分を持っていかれ……」

 

「発動しなくても、無駄に警戒させて相手を困惑させたり焦らせたりできる……って事ですか。」

 

「はい。」

 

『ほかのメンバーが動かない』というのは初耳だったが、今はそこを気にしている場合ではない、と思いマルクは言及しなかった。

 

「……分かりました、じゃあできるだけ頑張ってみます。」

 

「では、ルートを教えます。敵のいそうな地点に○を付けますんで、当日はそこに着地して下さいね。」

 

「はい。」

 

「それと、6人目の打倒……1人は倒さなくて構いません。クォーリ・クーライ、彼もおそらく参戦するでしょうが……」

 

「なぜ?」

 

「やられる可能性の方が高いからです。1%未満の確率で倒されずにすんでいるでしょうが……そして、最後に打ち込む相手もこちらが指定させてください。」

 

「それは、誰ですか?」

 

「それは━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まったく……凄くしんどいな、っと!!」

 

「くっ……」

 

「じゃあまた!!」

 

今度はカグラに不意打ちで魔力を撃ち込んで、跳んでいくマルク。カグラは追いかけようとはせずに、そのまままた他の参加者を探しに行くのであった。

 

「ほう……妖精の尻尾の小僧か。お主もこんな戦いに━━」

 

「……今はあんたに構ってる余裕はない。でも、妖精の尻尾の誰かがあんたを倒す。

あんたは……俺達を怒らせたんだから。」

 

そして、ミネルバと鉢合わせる。感情に任せて、今は動くべきときではないと思ったマルクは、顔を伏せて手に魔力を込める。

 

「怖い怖い……それで?妾にも無謀に挑むのか?」

 

「ジュラさんならともかく……流石にあんたになら負ける気はしないよ。」

 

「ほう……まぁよい、小賢しい手一つで潰れるほど妾は甘くはない。」

 

両手を広げて、余裕ぶるミネルバ。何をされても、負けない自信があるからだろう……とはマルクは思わなかった。

負けない自信よりも、負けることそのものを想定していない目。自分以外の全てを下に見ているかのような、そんな目をミネルバはしていた。

 

「舐めてると、痛い目を見るぞ?」

 

「ハンデから勝つのが真の勝者とも言える、ならば妾はハンデを背負って勝つべきだ。

いや、妾だけじゃない……剣咬の虎全体が、だな。」

 

「そうか……なら、舐めた結果にせいぜい後悔しないようにな。」

 

マルクは、ミネルバに魔龍刻印を打ち込む。そして、再び飛んでいく。その後をミネルバは追おうとはしない。

マルクがゲッターであっても、そうでなかろうとも……狩る意味がないと思ったからだ。

 

「さて、どうなるか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後も、マルクはひたすら回り続けた。ゲッターを倒しつつ、刻印をひたすら打ち込み続けた。

ゲッターは残り1人、クォーリだけが残っている。しかし、今の今まで倒されていないことを考えると、1%未満の確率が当たったようだった。

 

「……そして、最後に私を狙うか。」

 

「あぁ、ルーファス……お前を最後にしろとウチのお偉いさんが言ったんでね。」

 

剣咬の虎、ルーファス。まるで舞踏会にでも出るかのような、鮮やかな格好をした男性。

使う魔法は記憶造形(メモリーメイク)……自信が記憶した魔法を、オリジナルの魔法に変えるものである。

 

「ふふ、しかしあれだけ急いでも……もう君達の場所はわかっている。君がどうしようとも……関係ない。」

 

不敵に笑うルーファス。どうやら、全員の場所がわかっているにも関わらず、今の今まで狙ってこなかったようだ。

 

「俺だけでも狙えばよかっただろ?」

 

「残念、君の居場所は分からなかったんだよ。まぁ、たとえ分かっていたとしても、私は狙わなかっただろうからね。」

 

「妖精の尻尾が動いたァ!!」

 

実況の声と共に、頭に指を乗せるルーファス。それは、彼が魔法を使う合図である。

 

「私の索敵能力を侮ってもらっては困るね。まとめて片付けて差し上げよう……記憶造形『星降ル夜ニ』」

 

ルーファスを中心として、5つの光が飛んでいく。それらは全て、マルクを除いた妖精の尻尾メンバーに、飛んでいったのだ。

 

「らァ!!」

 

そして、マルクは一瞬遅れてルーファスに魔力を打ち込む。ダメージはない、だからこそ『マルクの攻撃が一瞬遅れた』と判断した。

 

「━━━上空に光を目視してから、2秒以内に緊急回避で回避可能。」

 

「……?何っ!?受け止めた!?」

 

マルクが何を言ってるのか、分からなかったルーファスだが、飛んでいった一つがどうやら受け止められたらしい。

 

「この魔法の属性は雷……同属性持ちのラクサスさんなら、ガードができる。」

 

「くっ……まさか、君は知っていたのか!?」

 

「いいや?俺はこれを伝えろと言われてただけだ。どうだ?顔の仮面はともかく……その余裕ぶってる、態度の仮面は外れたか?

まぁどちらにせよ……あんたは手のひらの上さ……じゃあな。」

 

「ぐぅっ……!」

 

動き始めた妖精の尻尾。メイビスの指示にて動く彼らは……優勝出来るのか。

『優勝すること』と『ルーシィを取り戻すこと』を達成する為に、彼らは動き続けるのであった。


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