大魔闘演武最終日、最終種目『大魔闘演武』の開始を告げる鐘の音が鳴る。始まりは騒々しかったが、いざ始まれば選手達には静かな移動だけが行われている。
「始まりましたね〜、最終戦。」
「やはり分散し、各個撃破の作戦を取るチームが多いね。」
「みんな頑張るカボー!」
実況の説明とともに、映像には各選手の様子が映し出される。
「一人一人が高い戦闘力を持つ
他にも
ん……?あーっとこれは……!?」
実況と共に観客席にも動揺が走る。何故なら、映し出された映像には全く動かない妖精の尻尾の『5人』が映し出されていたからだ。
「ど、どうしたのでしょうかー!?妖精の尻尾!!5人とも目を閉じたまま動いてないぞー!!」
「5人……という事は、一人だけ動いとる、ちゅうことだね。」
魔力を足に貯め、跳ぶ。足が着地する前に魔力をすぐに練り直し、足が何かについた瞬間すぐさま跳ぶ。
それを繰り返しながらひたすらに、マルクは跳んでいた。
「ん?おいトビー!またやってきたぜ!」
「おおーん!!」
「悪いですが……急いでるんで突破させてもらいます!!」
マルクは拳と足に魔力を溜めて、目の前にいた
「早っ……」
「そいっ!!」
マルクは二人の体に魔力を打ち込む。だが、二人は倒れることは無かった……と言うよりも、倒れるのを確認しないまま再度跳んだ。
「……な、なんだ今の?」
「おおーん……?」
あまりの一瞬のことで、ユウカ達はマルクの行動に疑問を持ったが、すぐさま他の敵の探索に行くのだった。
「あれ?君はウェンディちゃんの━━━」
「通ります!!」
今度は
「あー、くそ……魔力の消耗が……!」
「そんなにぴょんぴょん飛び回って、どこに行くというのだ?」
「っ……ジュラさん……」
マルクの着地してきた目の前に居るジュラ。マルクは冷や汗をかいたが、そのままマルクはジュラに飛び込む。
その最中、マルクはこの作戦の事を考えていた。
「先程から、君は誰彼構わず魔力を打ち込み続けている。それがどんな作戦かはわからないが……勝つために必要なことだろう?」
「当たり前ですよ……勝つためにやらないんじゃ、やる必要性もない!!」
「だから……一撃でも入れればいい!!」
「ふ……よほど信頼できる策士がいるらしい……だが、簡単には通さぬぞ!」
ジュラの魔法は強力。素早い上に機動力もあり、そして簡単には打ち消せない硬さと攻撃力も兼ね備えている。
どれだけ近づけても、後一歩というところで届かせられない。
「しかし、誰かはわからないゲッターをどう探す?まさか、それすら最早看破されていると?」
「ウチの策士さんは……とんでもない人ですよ。なにせ、
「なんと……!」
「その岩!!邪魔だから全部『喰らいます』!!滅竜奥義
腕から魔力を放ち、回転しながらまるでドリルのように、足で岩を貫いていくマルク。
そして、ほぼゼロ距離になるまでにジュラの接近ができた。
「はぁ!!」
「筋はいい……がっ!!」
マルクは空高く打ち上げられる。しかし、吹き飛ばされたにも関わらずその表情は微笑みに満ちていた。
「む?」
「これが、本当の戦いだったら……俺は貴方に勝てない。けど、今回俺は……
地面に綺麗に着地するマルク。ジュラへの魔力の打ち込みは、吹き飛ばされる前に終わっていたのだ。
「ってわけで……さよなら!!」
そしてまた、忙しなくマルクは跳んだ。魔力はほんの少しだけジュラから奪っていた。
だが、それもジャンプするだけで使い切ってしまう。
「無駄に時間かけすぎた……ゲッターは見つけ次第、倒す。」
そう呟きを残して、マルクは更にブーストをかける。まともな戦闘は行わず、ひたすらに飛び回るのが作戦なのだから。
「ぜ、全員に俺の魔力を打ち込め?」
「はい、妖精の尻尾が絶対に勝つ為に必要な作戦です。それと、新ルールで増える六人目の打倒、これも含めてください。」
「……それって、具代的にどのくらいの時間で?」
「5分、それが限界です。」
前日の話。マルクはメイビスに、そう作戦を伝えられていた。あまりにも確実性が薄く、不可能に近い作戦。
しかし、メイビスにはそんな無謀はさせる気は無いと、そんな目をしているようにも受け取れた。
「……魔力で無理矢理跳び回れば…」
「それ前提で行ってください。」
「……何故俺なんですか?『倒さない』という前提が、あるのは分かりますが…魔力を打ち込めって言うのは、流石によく分からないんですけど……」
「えっと……」
急にしどろもどろになるメイビス。『答えたくない』のかとマルクは最初思ったが、どうにも『答えられない』という印象の方が強くなってきていた。
「あの、アズマと戦った時に見せた………竜がぶわー!となるあの技を……」
「竜が、ぶわー……?あ、魔龍刻印ですか?」
「っ!!」
それだ!と言わんばかりにビシッと指を指すメイビス。そして、マルクはそれで合点がいった。
要するに、参加者全員に魔龍刻印を打ち込めとメイビスは言っているのだ。
「でも、俺たちを除いても6人目を入れるとなると30人も人がいますよ?流石に5分となると……」
「いいえ、24人です。
「へ?でも……」
「100%の確率で、パピーは少なくとも5人全滅します。そして、6人目は50%以上の確率でカグラと当たり、残りの50%でもジュラ、剣咬の虎のメンバーの誰かと鉢合わせします。
これは5分以内に起こるので無問題です。」
突然、ペラペラと喋るメイビス。マルクは、あまりの勢いに頭に疑問符を浮かべてしまっていた。
「……けど、6人目がバッカスより強かったら?」
「それはないでしょう。忘れましたか?バッカスはリザーブ枠です。わざわざバッカスより強い選手を、今更入れるのもおかしな話でしょう。」
「……あ、そう言えば途中参戦なんでしたっけ。」
「そういう事です。」
だから無視していいと、その意見には納得したマルク。しかし、どうして魔龍刻印なのか、という疑問は残る。
「あの技、とてもじゃありませんが、使いやすい技でもありませんよ?俺の魔力だと、どれだけ打ち込んでも刻印は発動しない上に、他の人の魔力をかなりの量打ち込まないと。」
「それでいいのです。発動するかしないかは、二の次……必要な事は、それを打ち込んだ、という事実ですから。」
「事実?」
「簡単な話です。1人が動き回り、誰ともまともに戦わずひたすら一撃だけを入れて飛び回る……残りの5人は動かずにじっとしている。
もし、そんなことをしているチームがいたら、どう思いますか?」
「まぁ、おかしいと思うし怪しいって思いますよね。」
「えぇ、だから『そう思わせる』という事です。発動すれば相手は魔力の大部分を持っていかれ……」
「発動しなくても、無駄に警戒させて相手を困惑させたり焦らせたりできる……って事ですか。」
「はい。」
『ほかのメンバーが動かない』というのは初耳だったが、今はそこを気にしている場合ではない、と思いマルクは言及しなかった。
「……分かりました、じゃあできるだけ頑張ってみます。」
「では、ルートを教えます。敵のいそうな地点に○を付けますんで、当日はそこに着地して下さいね。」
「はい。」
「それと、6人目の打倒……1人は倒さなくて構いません。クォーリ・クーライ、彼もおそらく参戦するでしょうが……」
「なぜ?」
「やられる可能性の方が高いからです。1%未満の確率で倒されずにすんでいるでしょうが……そして、最後に打ち込む相手もこちらが指定させてください。」
「それは、誰ですか?」
「それは━━━」
「まったく……凄くしんどいな、っと!!」
「くっ……」
「じゃあまた!!」
今度はカグラに不意打ちで魔力を撃ち込んで、跳んでいくマルク。カグラは追いかけようとはせずに、そのまままた他の参加者を探しに行くのであった。
「ほう……妖精の尻尾の小僧か。お主もこんな戦いに━━」
「……今はあんたに構ってる余裕はない。でも、妖精の尻尾の誰かがあんたを倒す。
あんたは……俺達を怒らせたんだから。」
そして、ミネルバと鉢合わせる。感情に任せて、今は動くべきときではないと思ったマルクは、顔を伏せて手に魔力を込める。
「怖い怖い……それで?妾にも無謀に挑むのか?」
「ジュラさんならともかく……流石にあんたになら負ける気はしないよ。」
「ほう……まぁよい、小賢しい手一つで潰れるほど妾は甘くはない。」
両手を広げて、余裕ぶるミネルバ。何をされても、負けない自信があるからだろう……とはマルクは思わなかった。
負けない自信よりも、負けることそのものを想定していない目。自分以外の全てを下に見ているかのような、そんな目をミネルバはしていた。
「舐めてると、痛い目を見るぞ?」
「ハンデから勝つのが真の勝者とも言える、ならば妾はハンデを背負って勝つべきだ。
いや、妾だけじゃない……剣咬の虎全体が、だな。」
「そうか……なら、舐めた結果にせいぜい後悔しないようにな。」
マルクは、ミネルバに魔龍刻印を打ち込む。そして、再び飛んでいく。その後をミネルバは追おうとはしない。
マルクがゲッターであっても、そうでなかろうとも……狩る意味がないと思ったからだ。
「さて、どうなるか……」
その後も、マルクはひたすら回り続けた。ゲッターを倒しつつ、刻印をひたすら打ち込み続けた。
ゲッターは残り1人、クォーリだけが残っている。しかし、今の今まで倒されていないことを考えると、1%未満の確率が当たったようだった。
「……そして、最後に私を狙うか。」
「あぁ、ルーファス……お前を最後にしろとウチのお偉いさんが言ったんでね。」
剣咬の虎、ルーファス。まるで舞踏会にでも出るかのような、鮮やかな格好をした男性。
使う魔法は
「ふふ、しかしあれだけ急いでも……もう君達の場所はわかっている。君がどうしようとも……関係ない。」
不敵に笑うルーファス。どうやら、全員の場所がわかっているにも関わらず、今の今まで狙ってこなかったようだ。
「俺だけでも狙えばよかっただろ?」
「残念、君の居場所は分からなかったんだよ。まぁ、たとえ分かっていたとしても、私は狙わなかっただろうからね。」
「妖精の尻尾が動いたァ!!」
実況の声と共に、頭に指を乗せるルーファス。それは、彼が魔法を使う合図である。
「私の索敵能力を侮ってもらっては困るね。まとめて片付けて差し上げよう……記憶造形『星降ル夜ニ』」
ルーファスを中心として、5つの光が飛んでいく。それらは全て、マルクを除いた妖精の尻尾メンバーに、飛んでいったのだ。
「らァ!!」
そして、マルクは一瞬遅れてルーファスに魔力を打ち込む。ダメージはない、だからこそ『マルクの攻撃が一瞬遅れた』と判断した。
「━━━上空に光を目視してから、2秒以内に緊急回避で回避可能。」
「……?何っ!?受け止めた!?」
マルクが何を言ってるのか、分からなかったルーファスだが、飛んでいった一つがどうやら受け止められたらしい。
「この魔法の属性は雷……同属性持ちのラクサスさんなら、ガードができる。」
「くっ……まさか、君は知っていたのか!?」
「いいや?俺はこれを伝えろと言われてただけだ。どうだ?顔の仮面はともかく……その余裕ぶってる、態度の仮面は外れたか?
まぁどちらにせよ……あんたは手のひらの上さ……じゃあな。」
「ぐぅっ……!」
動き始めた妖精の尻尾。メイビスの指示にて動く彼らは……優勝出来るのか。
『優勝すること』と『ルーシィを取り戻すこと』を達成する為に、彼らは動き続けるのであった。