FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

55 / 134
最終日

「いよいよ!いよいよやって参りました!魔導士達の熱き祭典!大魔闘演武最終日!泣いても笑っても今日!優勝するギルドが決まります!!」

 

その声と共に観客が沸き上がる。大魔闘演武最終日として、まだ始まったばかりで既に観客の熱はヒートアップし続けていた。

 

「実況はおなじみ私、チャパティと……解説には元評議院のヤジマさん。」

 

「よろスく。」

 

「スペシャルゲストにはなんと!大魔闘演武公式マスコットキャラクターのマトーくんにお越しいただいております!」

「よろしくカポー」

 

「今日は審判のお仕事はよろしいのですか?マトーくん。」

 

「今日は大丈夫カボ!みんな頑張るカボー!」

 

「さぁ、そろそろ出場チームが入場してくる頃です。」

 

実況の声とともに、フィールドの門が開いてそれぞれのチームが入場してくる。

 

「現在6位、大逆転なるか?猟犬改め仔犬、四つ首の仔犬(クワトロパヒー)

続けて青い天馬(ブルーペガサス)蛇姫の鱗(ラミアスケイル)人魚の踵(マーメイドヒール)!!」

 

6位、5位、4位、3位、の順でそれぞれのチームが入場してくる。未だその場にいる全員が、諦めたような表情はしていなかった。

 

「そして現在2位、このまま王座陥落となってしまうのか?再び最強の名を手にするのか!?剣咬の虎(セイバートゥース)!!」

 

その声とともに入場してくるセイバーの5人、しかし全員の格好が今までとどこか違っており、表情や雰囲気もまるで違っていた。

 

「おや?何か雰囲気が変わりましたね?」

 

「気合を入れ直スたのかね?」

 

「かっこいいカボー!」

 

そして、観客席には、クォーリがいた。今フィールドにいるメンバーを見下ろすような視線で、実につまらなそうな表情でフィールドを見ていた。

 

「……ふざけんなよ、スティング……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、四日目の試合に遡る。スティング、ローグ、クォーリが妖精の尻尾(フェアリーテイル)のナツ、ガジル、マルクに負けたその日の夜の話。

 

「スティング、ローグ、クォーリ……あのザマはなんだ。」

 

クロッカスガーデン、剣咬の虎が止まっているホテルにてギルドメンバー全員がその場に集まっていた。

 

「……言葉もありません、完敗です。あの滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)……マルク・スーリアに俺たちは敗北した。

魔力を吸うだけだと侮って、逆にやり返された。」

 

「それが最強ギルドに所属する者の言葉か?ア?」

 

セイバーのマスターが立ち上がる。最強ギルドが敗北する、その事だけがセイバーのマスターを怒らせていた。

 

「誰があんなみっともねぇ姿晒せと言ったよ。誰が敗北してこいと言ったよ……最強ギルドの名を汚しおってからに!!」

 

マスターが起こした風圧で、三人が吹き飛ばされる。他のメンバーは、ただ傍観しているだけだった。

 

「貴様らに剣咬の虎を名乗る資格はないわ!!消せ!!ギルドの紋章を消せ!!我がギルドに弱者はいらぬ!!負け犬はいらぬ!!」

 

殴る蹴る、三人にひたすら暴力を振りかざしていく。しかし、それを止めようとする小さな影がひとつ。

 

「まぁまぁマスター……スティング君もローグ君も、クォーリ君だって頑張りましたよ……」

 

エクシード、レクター。スティングの相棒である彼は、スティング達に対する暴力を止めようと、震えながら声をかける。

 

「今回は負けちゃったけど……僕はスティング君を誇りに思います。」

 

「レクター……」

 

「僕は思うのです、人は敗北を知って強くもなれるって……スティング君は今回の戦いで、多くの事を学びました。」

 

しかし、セイバーのマスターはレクターを見て怪訝な表情を浮かべるだけであった。

 

「……誰だうぬは。」

 

「い、嫌だなぁマスター。僕だってここにセイバーの紋章を入れたれっきとした……」

 

服をまくり、背中にある紋章を見せるレクター。だが、それを見た瞬間にマスターの表情が怒りに変わっていく。

 

「なぜに犬猫風情が、我が誇り高き剣咬の虎の紋章を入れておるか……!きえぇぇぇぇえい!!」

 

レクターに向けて、魔法が放たれる。全く考えてもいなかったことに、誰も助けに行くことは不可能であり、またレクター自身も避けることは不可能であった。

 

「レクター!!」

 

「スティング、く……ん━━━」

 

そして、その一撃でレクターの姿はその場から消えていた。流石の行動に、他のメンバーも動揺を隠せなかった。

 

「あ、ああ……レクターが、消えちゃった……」

 

「フロッシュ!!」

 

「ローグぅ……」

 

ローグが、セイバーのもう1人のエクシードであるフロッシュを庇う。しし、その行動は眼中に入ってないのかマスターは気にしていなかった。

 

「目障り目障り……猫が我がギルドの紋章など入れてからに……」

 

「あぁぁぁぁぁあああああ!!」

 

「やかましいぞスティング!!」

 

涙を流しながら、声を荒らげるスティング。しかしマスターにはそれは一切、理解ができなかったのか一蹴するだけであった。

 

「なんてことを!!あんたはなんて事を……!」

 

「黙れぃ!!たかが猫1匹━━━」

 

瞬間、その体にスティングの悲しみの一撃が放たれ、貫かれていた。それは一人を除いてメンバー全員にさらなる驚愕を与えていた。

 

「ぐはぁ!!あがが……!」

 

「よくも、よくもレクターを……!」

 

倒れ込むマスター、

 

ざわつくメンバーだったが、一人スティングに近づく者がいた。ミネルバである。

 

「それで良い。父上の恐怖統制は今ここで終わりを告げよう。父上の力をも超えるスティングこそ、新たなるマスター候補に相応しい。」

 

「ミネルバァ!貴様何を言って━━━」

 

立ち上がるマスター……否、元マスター・ジエンマ。しかし、立ち上がったその瞬間に両手足が、貫かれていた……()()()()()()()()()()()()

 

「立つんじゃねぇよ負け犬……つくづく思っていたが……あんたは、ナツ・ドラグニルより弱い。

そこで一生そうしてろ、負け犬。」

 

「そうだな、負け犬などいらんのだろう?持論に従うならば。」

 

「むぐ……!」

 

両手足を貫かれ、身動きの取れなくなったジエンマを、クォーリはさらに上から凍らせて、完全に動けなくする。

そこからミネルバが、ジエンマをどこかへと飛ばしたのであった。

 

「スティング……そなたになく、ナツというものにあるもの。それこそが思いの力だ。」

 

「思いの、力……」

 

「知らず知らずのうちに父上に感化されていたようだな。『仲間などいらぬ』『力こそすべて』

だがそなたの本質は違う、レクターを思う気持ちが力になる。そなたはその力を手に入れたのだ、そなたはナツをも超える。」

 

『仲間の力を手に入れた』と言うミネルバ。しかし、スティングにとってそれは今更なものでもあった。

 

「お嬢……俺は、もう……」

 

「案ずるな、レクターは生きておる。妾の魔法で別の場所へと飛ばした。」

 

「ほ、本当か……お嬢……」

 

「レクターが、生きてる……」

 

嬉しそうに頬を緩めるフロッシュ。スティングも、その事実に嬉しそうに喜んでいた。

 

「ありがとう!ありがとうお嬢!!早くレクターを元に戻して……本当に、うぐ……ありが、とう!」

 

「━━━甘えるな。」

 

しかし、ミネルバから与えられたのは絶望の言葉だけであった。

 

「大魔闘演武にて優勝するまでは、レクターは渡さん。」

 

「何言ってんだよお嬢!頼むよ……今すぐレクターを返して……!」

 

「妾は父上とは違う。しかし、剣咬の虎のあるべき姿が天下一のギルドであることに変わりはない。

そなたは、手にいれた力を証明せねばならん。勝つことで、民に力を誇示せねばならん。

愚かな考えは、起こすでないぞ?レクターの命は妾が握っていると思え。」

 

「……」

 

一連の流れを見ていたクォーリ。その表情は、他のメンバーと同じような驚愕の表情ではなく、スティングの様な絶望の表情でもなく、ましてやミネルバの様な黒い笑みを浮かべているでもなかった。

 

「……仲間の、力。」

 

それは、仲間という言葉に対しての呆れた表情だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「剣咬の虎は最強のギルド……ジエンマは、それについていけなかっただけだ。

だが……仲間の力?そんなもん……とうの昔に捨てたんだよ。」

 

最終日最終種目の為に、クォーリは専用のバトルフィールドへと向かう。後ろから、妖精の尻尾(フェアリーテイル)の入場の歓声が聞こえてきたが……恐らく出るであろう人物にしか、彼の興味はいってなかったのであった。

そして、時同じくして妖精の尻尾の入場。

 

「そして現在一位!七年前最強と言われていたギルドの完全復活の日となるか!?妖精の尻尾入場ー!!」

 

入場してくる妖精の尻尾。しかし、そのメンバーに観客は呆然としていた。なぜなら━━━

 

「おや!?こちらはなんとメンバーを入れ替えてきたぁー!!」

 

ナツがおらず、代わりにジュビアが入っていた。その事で他のチームにも動揺が走っていた。

 

「タッグバトルであれだけ活躍したナツがいない……とは一体!?」

 

「ウム…何かあったのかねぇ?」

 

だが、観客席にいる他の妖精の尻尾のメンバーは変わらず、皆を応援していた。

そして、その一番前にはマカロフとメイビスが立っていたを

 

「考えましたね、6代目。」

 

「結局こうするしかなかった……大魔闘演武で優勝すれば、ルーシィを合法的に返してもらえるかもしれん。

だが、全てを信じることはできぬゆえ……それだけの策では、足りないのです。

皆が大会に夢中になってる、今が好機。我々も普段通り、チームを応援するのです。」

 

「その裏で、別働隊がルーシィの救出に向かう。二正面作戦という訳ですね。」

 

「頼んだぞ、ガキども……!」

 

メイビスの視線が、後ろにいるマルクに向かう。その表情は、ただ『出来るのか?』という、メイビスの思いがあった。

 

「ナツさん、ウェンディ、ミラさん……そんでもってエクシード隊の皆が頑張ってるんだ。俺も、出来ることをこなしますよ。」

 

「では、お願いします。」

 

そして、マルクは最終種目の為に一度席を外す。その表情には、全てを背負った様な……そんな表情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「己が武を…魔を…そして仲間との絆を示せ。最終日、全員参加のサバイバルゲーム。

『大魔闘演武』を開始します!」

 

実況の声と共に、最終日に相応しい盛り上がりを見せる会場。そのまま、実況は種目の説明に移る。

 

「バトルフィールドは、なんとクロッカスの街全域。各ギルドのメンバーは、既に分散してもらってます。

街中を駆け巡り、敵ギルドのメンバーと出会ったら戦闘となります。相手を気絶、戦闘不能にするとそのギルドに直接1pが加算されます。

又、各ギルドにはそれぞれリーダーと、可能ならばゲッターを設定してもらいます。これはどちらも他ギルドにはどれが誰なのか分かりません。」

 

「スかし……ゲッターは『6人目』のメンバー。五人になっとるとこは、ゲッターがいないもんだと考えるべきなのかね。」

 

「はい、その考えでいいです。しかし、今回はどのギルドも六人目を持ってきてますね。

っと、リーダーとゲッターについての説明を行います。

リーダーは、倒されると倒した相手に5p……つまり、簡単に言えば五人分の点数が入ることになります。

そしてゲッターですが、こちらはすぐに倒してもポイントは入りません。しかし、ゲッターがゲッター以外の誰かを倒した場合、その点数はチームに加算されず、ゲッターの持ち点として加算されます。」

 

「持ち点を持ったゲッターが、他のゲッターに倒されるとどうなるんだい?」

 

「そのまま持ち点の移動になりますね。その時点でどちらも持ち点があった場合は、加算式で増えていきます。」

 

「これ、ゲッターの要素いるかい?」

 

「最後まで緊張感を持ってほしいからだカボー」

 

そこでルール説明は一旦区切られる。そして、再び実況が流れる。

 

「えー、これで最多Pの理論値は、ゲッターが自分以外のメンバーを倒していた時の場合は54p、それを抜きで考えると45pですね。」

 

「どちらにしても一発逆転出来る可能性があるカボー」

 

「チーム一丸となって動くか、分散するか……戦略が分かれるところだね。」

 

そして、妖精の尻尾のメンバーが集まっている場所。

 

「よいか、私達は優勝するしかないんだ。」

 

「ルーシィさんを取り戻すために、ですね。」

 

「ナツさん達が無事救出してくれれば……」

 

「それに越したことはねぇがな……」

 

ルーシィを取り戻すために優勝する。しかし、それだけのために優勝するわけでないことは、全員承知の上である。

 

「だとしても、優勝にはもうひとつの目的もある。」

 

「7年間、苦い想いをしたギルドのヤツらのためにもな……」

 

そして、円陣を組む妖精の尻尾。どちらにせよ、優勝しなければならないのだ。ギルドの為にも。

 

「「「行くぞ!!」」」

 

「「「オオッ!!」」」

 

「栄光なる魔の頂きは誰の手に!!大魔闘演武!!開始です!!」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。