「国防大臣殿!これはなんの真似ですか!?」
突如、エクリプスの扉の前で王国兵に囲まれたナツ達。王国側であるアルカディオスとユキノすらも囲ってる兵士達の中から、明らかに地位が高そうな人物が現れる。
「それはこちらの台詞だ。極秘計画……超国家機密を部外者に漏らすなど言語道断。」
「部外者ではない!知っているでしょう、この作戦において重要な役割を持つ者達です。」
「それは貴様の独断で決められるほど……簡単なものではない。」
「あなたは単にこの計画に反対なだけでしょう!!今すぐこんなふざけたマネはやめていただきたい!!」
「反対に決まっておるわ!!歴史を変えるなど!!その危険性を少しでも想像出来んのか小僧がァ!!」
不意に、大声を出す国防大臣。しかし、過去を変えるという事は、未来が丸々変わるという危険性も伴う。
例え足跡ひとつ残すにしても、未来は大きく変わってしまうだろう。
「アルカディオス大佐を、国家反逆罪の容疑で拘束する!!並びにユキノ・アグリア、ルーシィ・ハートフィリアも拘束!!それ以外の者は追い出せ!!」
「何!?」
「ちょっとあたしまで……」
何故か拘束対象に選ばれたルーシィ。流石に仲間は捕えられてたまるものかと、全員が抵抗をしようとする……が。
「てめぇら……ルーシィを巻き込むんじゃ……!」
「よせっ!!ここで魔法を使ってはならん!!」
「ぐあ……!?」
魔法を発動させようとしたナツ。しかし、突如エクリプスが起動してナツの魔力を全て吸い取ってしまう。
「言ってなかったかね?大魔闘演武は魔導士の魔力を微量に奪い、エクリプスへ送るためのシステム。
こんなにエクリプスの近くで魔法を発動すれば、全ての魔力が奪われてしまうぞ。」
「それを狙ってわざわざここで……!」
「騒ぎは起こさんでくれ、魔法の使えん魔導士など、我が王国兵の敵ではないのだから。」
魔法で抵抗できない、そして相手が武器を持っているとなると一同に抵抗する術はなかった。
「ちょっと!!離してよ!!」
「貴方達!アルカディオス様の部下ではないのですか!?」
「ルーシィ!」
「ユキノさん!!」
王国兵に捕えられるルーシィとユキノ。そして、アルカディオスも捕えられてその他の者達は皆城の外へと追い出された。
「私とて本意ではないことを、理解していただきたい。全ては国家のため……だが、一つだけ助言することもできよう。
陛下が
心優しき陛下ならば、仲間の処遇についても配慮してくれるやもしれん。」
そうして、一同はルーシィを人質に取られたまま帰らざるを得なかったのであった。
「ルーシィが王国兵に捕まった?」
「よくわからん計画の関係者にされちまったのか?」
翌日、大魔闘演武は休日というわけで試合は一切無いが……AB両チームとマカロフで集まって話し合いをしていた。
「つまりなんだ?大魔闘演武で優勝しなきゃルーシィを取り返せねぇのか?」
「その話も信用していいのか分からねぇがな。」
「だからんな事ァどうでもいいんだよ!!俺は今すぐ助けに行くぞ!!」
「落ち着いてよナツ、相手は王国なんだよ?」
暴れているため、柱にロープで括りつけられてるナツ。今すぐ助けに行くことも可能ではあるが、それは無策で飛び込むのと同じことである。
「王国相手故に迂闊なことは出来んが……向こうもまた国民をぞんざいに扱うことも出来んじゃろう……エクリプス計画とやらが中止されるまでの人質と考えるべきか。」
「……だが、腑に落ちねぇな。それほどの国家機密を知っちまった俺達を解放する意味がわからん。」
「これ以上隠し通せんと判断したか。」
「グレイ達は大魔闘演武の出場者……仮に全員捕まえていたら、明日の試合に出られなくなって、足がつくわね。」
「王国としても魔導士ギルドは敵に回したくないと思います。」
冷静に話し合う一同。しかし、やはりナツだけがヒートアップしていた。
「だーっ!!ごちゃごちゃ言ってないで助けに行くぞー!!」
「落ち着け。」
拳を巨大化させて、ナツの体にげんこつを入れるマカロフ。その表情は、真剣な時の彼そのものだった。
「家族取られちゃ祭りどころじゃねぇわい……皆、同じ気持ちじゃ。」
マカロフの言葉で、ようやく黙るナツ。すると、ミラが何かに気づいたかのように周りを見渡す。
「ねぇ……マルクとウェンディはどこ?」
「二人なら上にいるわ。と言っても……どうにもマルクが苦しそうに寝てたから、起こしてから来るって言ってたのだけど……来ないわね。」
マルクは夢を見ていた。周りには誰もいないクロッカスの街で、目の前にクォーリが血まみれになって倒れていた。
自分の手が血まみれになっているが、それに対して夢の中の自分は何も思うところがなかったようだった。
「……なんだこの夢。」
暗転し、次は城の前だった。空を覆い尽くす何かがいてそれと懸命にみんなは戦っていた。
だが、次々と殺されていった。ルーシィと、レビィが生きてるのが確認できた。夢の中の自分はどこかと、視線を巡らせて気づいた。
『黒い巨大な何か』がいた。それは空を覆い尽くしている何かと戦っていたが……同時にその場にいた人々を殺して食らっていた。
「っ……」
また暗転、今度は先程と似たような場面だった。クォーリが目の前にいて、自分がその前に立っている。
但し、今度はクォーリは血まみれになっていなかった……が、何か怯えたような表情をしてマルクを見ていた。
それと、周りの建物が根こそぎ崩壊していた。
「なんでさっきと……」
マルクの意志に関係なく、再び暗転。今度もまた空を覆い尽くす何かがいた。
だが、違う部分は……その場にアクノロギアがいた事だった。
「っ!!」
アクノロギアは、空を覆い尽くす何かを次々と殺していった。同時に魔導士達も殺されていった。
そしてまた、黒い巨大な何かがいた。今度はアクノロギアと戦っていた。
『━━━んだ。』
「え……?」
突如聞こえてくる声、夢の中ではなく、頭の中に聞こえてくる声。
『━━━が死んだ。』
「誰の……俺の、声……?」
『ウェンディが━━━』
『━━━死んだ。』
瞬間、マルクの心臓が一際大きく脈打つ。しかし、それが気にならないほどに、マルクは今の一言で心を揺れ動かされていた。
『━━━に殺された。』
『瓦礫に押しつぶされた。』
『━━━に食われた。』
『アクノロギアに殺られた。』
「はぁ、はぁ……!」
どす黒い何かがマルクの体を侵食していく。心か、それともまた別のなにかか。
『━━━ニクイ、ナラ……カラダ……ヲ、ヨコセ。』
声が変わる。その声がどこから聞こえてくるのか、催した吐き気と頭痛で気にすることも出来ない。
『オマエノ、チハ……オマエ、ノジャナイ……』
「俺の、血……?」
その言葉と共に、体にあった不快感はすべて消えた。しかし、同時に視界が真っ赤に染まった。
口と鼻から何かが流れ出ていた。眼球の奥から何かが溢れてきていた。手足の指に、違和感があったので手を見てみた。
「っ……血゛……?!」
口から溢れてきているものも、眼球の奥から溢れてきているものも、鼻や手足の指……正確には指と爪の間から、血が溢れ出ていた。
『ソノ、体…を、貰うぞ……!憎きドラゴンの子よ……!』
喋り方が流暢になってくる。溢れ出た血は何かの形状を成しはじめて、手足が確認できるようになる。
そして、『それ』は引きずるような歩き方から段々と小走りに走ってきて、飛び込んでくる。
「っ!!魔龍の━━━」
『グゲッ!?』
不意に、それを弾き飛ばすように何かがやってくる。
黒い体、4本の細い手足。そして蛇のように長い体に、生えている立派な角。その姿をマルクは知っていた。
「……イー、ビラー?」
「……」
マルクを育ててくれたドラゴン、イービラー。イービラーはマルクに近づいて、顔を……目線をマルクと同じところまで下げる。
「……マルク、理性を忘れちゃあならんぜ。」
「へ?な、なんだよ急に……というかここどこだよ!!」
「あっしが言えるのはここまででな……マルク、怒るのはいいが……絶対に理性を忘れるな。
止めてくれる者を、一緒に連れていけ……絶対だぜ……」
そう言って、イービラーは吹き飛んだ血の塊を手で持ってどこかへと運んでいく。
「待てよイービラー!!おい、聞いてんのか!おい━━━」
「━━━ルク、マルク!起きてってば!!」
「ん、んん……ウェンディ……?」
マルクは目を覚ます。そして、すぐさま体の異変に気づいて飛び上がる。
体中が汗だくになっていたのだ。
来ていた服に汗が染み込んでいて、とても満足に着れるような代物ではなくなっていた。
「あぁ、もう……気持ち悪い……」
「ねぇ、大丈夫?」
「ん?あ、あぁ……ちょっと汗まみれだけど着替えればなんとか━━━」
ウェンディは、マルクが言葉を言い終える前に回り込んで、マルクの前に立つ。その目は、不安に満ちているとわかりやすいものだった。
「服じゃないよ……あれだけ苦しんでるマルクを見るの初めてだもん……」
「……そうか?」
「だって、マルクって私に戦うところ見せようとしないよ?いっつも一人で戦ってる。」
「そんなこと無かったと思うが……」
確かに、ウェンディと離れ離れになることが多かった、と今更ながら思えてきた。
「そんなことあったでしょ?」
「はい……」
「……何か、不安になってることとかあったら話してね?」
「……うん、ありがとうウェンディ。」
ニッコリと微笑むマルク。そしてその後、ウェンディは一旦部屋から出る。兎にも角にも、着替えなければいけないからだ。
「……でも、なんでイービラーが…」
マルクの見た夢。夢というには、余りにも鮮明で本能を刺激されるような危機感もあった。
クォーリを半殺しにして、空を覆い尽くす大量の何かと戦う黒い何か。
「……考えても、仕方ない。今は、皆ルーシィさんを助けに行く話をしてるはずだし……俺も行かないと。」
そう言って、マルクは着替えて部屋を出る。頭の隅に置いておけない程強烈なものを、しこりとして残しながら……
「それと……先程運営からとある通達が来た。」
「んだよ、まだ俺たちに何か言いたいことでもあんのか?」
マルクが起きてから、マカロフは便箋を見せる。大魔闘演武主催から送られてきた通知の様だった。
「それで、それには何が書いてあるんですか?」
「うむ……最終戦の5人全員参加、その競技の仕様を今変更する、とな。」
「競技の変更?んで今更……」
ラクサスが、不満そうに愚痴る。あまりにも突発的で、理解不能なことであった。
「仕様と言うたが、強制はせんそうでな……5人に可能ならば+一人の追加をして欲しい、らしい。」
「メンバーの追加って……それルール変わってきませんか?」
「どうにも……その追加する一人というのは、倒した相手の選手のポイント分、自身のポイントが上がっていく……というルールを追加したらしい。
持ち点そのものは、その役割を果たすプレイヤーは0点……だとかなんとか…」
マルクの疑問に、エルザがしどろもどろ答える。どうにも、他のメンバーにもうまく伝わっていないようだった。
「次の試合のルール自体はもう出てんだっけか?」
「いいや、にも関わらずこれだけが送られてきた。」
「ルール説明は、いつも通り直前に行う感じか……」
「まぁよい……元から救出メンバーと、大魔闘演武のメンバーは決まっておったわ。」
そして、マカロフはルーシィ救出メンバーと大魔闘演武に出場するメンバーを、発表したのであった。