FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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過去

「……魔龍の咆哮!!」

 

「ぐううう!?」

 

闇ギルドの者達を滅竜魔法で倒し、戦い続けるマルク。ウェンディに手を出す、と言った彼らに対してマルクは一切の情けをかけるつもりはなかった。

敵を薙ぎ倒しながらも、逆上している中で冷静な思考回路。その冷静な部分でマルクは思い出していた。

自分が滅竜魔法を恐れて使わなくなった理由を。

 

「魔龍の、逆鱗!!」

 

「ぎゃああああ!!」

 

敵を薙ぎ倒していきながら、マルクは一心不乱に戦い続ける。魔力を刃のようにしたものを腕にまとわせながら、敵を切り裂いていく。

血を出す敵を見ながらあの日のことを思い出す。彼に取って力はトラウマだった。

 

「何かを破壊するしか!無いのなら!!」

 

しかし、守りたいと無意識に願ったもの。ウェンディを守るためならば彼は鬼にでも悪魔にでもなるつもりだった。

 

「な、なんだこいつ!?バカみてぇにつえぇ!!んだよ!補助の魔法しか使わないんじゃなかったのかのこいつは!!

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)なんて話聞いてねぇぞ!!」

 

「な、何でだ!なんで魔法も効かねぇ!?当たってんのに!当たってんのに!!」

 

「……俺は、相手の魔法を食らう。食えない魔法こそあるが……無力化することくらいなら出来る。

俺の魔力は独特でな……一定の魔力量の魔法なら……効かないんだよ。俺に攻撃通したいなら……もっと魔力が多いやつを連れてくるんだな……!」

 

「こ、攻撃魔法が通じねぇんじゃ勝てるわけねぇだろ!!こんな化け物に勝てるわけねぇ!!」

 

そう言ってバラけるように散っていく闇ギルドのメンバー達。それを見ながら、マルクはその場に座りこんだ。

手には、まだ殴った後の感触が残っていた。浴びた血の生々しさも残っていた。

 

「……はぁ、はぁ……!くそ、まだ思い出したくねぇのに……!」

 

マルクは必死に、浮上しかかった記憶を頭の中から消そうとする。しかし、それを理性で抑えるのは少し難しいものがあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約六年前。

七年前に育ててくれたドラゴンが居なくなったマルクが行き着いたギルド、化猫の宿(ケットシェルター)

そこにやってきて約一年が経過した頃の話。

 

「おじさん達なにしてんの?」

 

まだ8歳であったマルクは森の中を散歩するのが日課だった。それまで人の悪意に晒されたことがなく、その時も何故自分達のギルドの周りに見知らぬ人間がいるのか不思議でしょうがなかった。

 

「お……こんなところにガキがいやがるぜ……適当な動物捕まえて売りさばくつもりだったが……こりゃあ人身売買の方でも収穫がありそうだな。」

 

「だな、俺達もツイているぜ……何でこんなところにガキがいるか分からねぇが、こいつの親に見つからない内にズラかろうぜ。」

 

大人の男二人。その二人が話し合っている中で、マルクは二人の後ろにある大量の動物の死体を見つけた。

小さいながらも、それがいいことだとは思っていなかった。当時はそれが悪質な密売の為の動物達だった事は知らなかったが、いいことではない以上、未だ小さいながらの正義感を振りかざそうとしているマルクがそこにはいた。

 

「悪い事しちゃいけないんだぞ!!」

 

「ガキがなんか言ってるぜ。」

 

「関係ねぇよ、眠らせて連れていくとしようぜ。」

 

そう言って、男は杖を向けてマルクに魔法をかけようとする。しかし、一向に眠らない。

不思議に思った男がさらに強めに魔法を使う。しかし眠らない。

 

「……な、なんで魔法が効かねぇ!?これ特注で買った高級品だぞ!?」

 

「へへ……俺に魔法は効かねぇよ!!魔龍の砕牙!」

 

そう言ってマルクは男に向けて魔法を放つ。だが、小さいながらに理解していなかった。

男は魔導士ではなかったのだ。魔法こそ使うが、それはあくまでもマジックアイテムによる魔法。男本人の魔法ではないのだ。

故に、マルクはただの人間に魔法をぶつけたようなものだった。

 

「ごばっ……!?」

 

「ひ、ひいいいい!?」

 

今まで魔法で動物を攻撃したことはあった。しかし、森の動物達が人間より頑丈なのは当たり前である。

そのせいで、いつもの本気でマルクは魔法を放っていた。そして男の吐いた血をマルクは浴びていた。

 

「え……?」

 

攻撃を受けた男はそのまま倒れた。動かなくなったのだ。幼いマルクでも、自分が何をしたのかよく理解出来ていた。

魔導士であっても、直撃の魔法を食らってしまったらただじゃあ済まない。それが魔導士ではなく、魔法に特に耐性のない、戦闘なれしていない人間に使ってしまっていたのだ。

 

「ぁ……あ……!」

 

その事が頭に残っていた。こびり付いていた。使う度に脳裏によぎって傷痕を深くする。

それでも誰かを守るためなら、と。自分の大切なものに手を出す敵を倒す為なら、と。トラウマをかざし続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁー……はぁー……」

 

倒れる闇ギルド。全滅を確認した頃に、ようやくマルクの頭がスッキリし始める。

そして脳裏に、その日の全てが思い出される。血の匂い、血の味、血の生温かさ。相手を殺してしまったのだという恐怖心と罪悪感。

 

「……なんで、なんでこんなに……いつもならまだ、不鮮明なのに……何だ、あれ……」

 

記憶に困惑するマルクの目に映る巨大な黒い光。それが天に向かって伸びているのがしっかりと目に焼き付いていた。そして、それがとんでもない魔力だと言うのも同時に感じ取っていた。

誰かの魔法かあるいは━━━

 

「……ニル、ヴァーナ……!?」

 

誰かの魔法にしても、今感じているとてつもない魔力を10秒以上出せる魔導士はいないとマルクは知っている。

そんなことは、聖十大魔道であるジュラでさえも不可能だろうと言う事だけは理解していた。

 

「ニルヴァーナがどんな魔法なのか……俺には分からないが……行くしかない、か……」

 

マルクはニルヴァーナとおぼしきものへと向かっていく。震える体に鞭を打ち、未だ鮮明に蘇る記憶を思い出さないように一心不乱に走り出す。

しばらく走っている内に嗅いだことのある臭いがしてきていることに、マルクは気がついた。

 

「……ジュラさん!?」

 

「おぉ、マルク殿か。無事で何よりだ。」

 

そう、ジュラである。そしてもう一人、ジュラ以外にもそこにはとある人物が立っていた。

マルクは最初、それが誰かはわからなかった。だがすぐに記憶の中にあった一人の人相と一致した。

 

「って何で六魔将軍(オラシオンセイス)のホットアイが此処に!!」

 

「やはり……こういう反応ですよネ。」

 

「ま、待てマルク殿。彼がここにいる理由も含めて……あの立ち上る光、ニルヴァーナの事について話そう。

それが、今この現状を語るには一番いい説明となる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニルヴァーナ、光と闇を入れ替える超魔法。

それを発現させるだけで周りにいる善と悪で揺れ動くものを強制的に反転させる魔法。

『本当は悪いことなんじゃないのか?』と考える善のものは悪となり、『誰かを守りたい』と考える悪のものは善となる。

負の感情によって悪になり、善の感情で善となる。ニルヴァーナはそれを制御することが出来る魔法。

六魔将軍のホットアイは弟の為に金を欲していたが、心のどこかで罪悪感を感じており、それがニルヴァーナの手によって善へと引き戻された。

だが、ブレインはそれとは逆。善の者を悪に……正規ギルドを全て悪の道に落とす事で壊滅させようというのだ。

 

「……光と、闇に……」

 

「貴方は滅竜魔導士とジュラから聞きましたヨ、それもかなり特殊な。

たとえ魔法が効かない体質だとしても……恐らく何かしらの影響か出るかも知れませんから……気をつけて下さいネ。」

 

「何かしらの、影響……」

 

いつもなら不鮮明で終わるはずのあの日の出来事。やたら鮮明に思い出せてしまったのはそういう事なのだろうか、とマルクは思った。

そして、ニルヴァーナを止めるためにマルクはジュラ達と一緒に光の柱へと向かっていった。

 

「……けど、既に発動したものなんて一体全体どうやって止める気なんですか?あれだけの超魔法……壊せば解決する、ということも無いでしょうし。」

 

「ここから見えるのは光の柱だけ……ならば根元になにかあってもおかしく無いでしょうネ。

もしブレインが発動しているならブレインを倒し、何かしらの装置であるなら、ありったけの魔力を使って破壊してでも止めるべきなのですヨ。」

 

「装置か……光と闇を入れ替える魔法……誰がいったいそんなものを作ったのやら……」

 

「今話していてもしょうがないだろう。

一刻も早く、ニルヴァーナの元へと向かわなければな。」

 

ジュラのその言葉に二人は頷いてニルヴァーナの元へと走っていく。

そして、走り続ける中マルクはニルヴァーナのことも気になっていたが、それ以上に、ウェンディが今どこにいて何をしているのか、無事なのか……色々と気になって仕方がなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく走って。魔力の柱が黒色から白に変わってもなお走り続けて、だいぶ近づいてきたかと思っていたその時の事であった。

地面が揺れて、三人は何事かと足を止めた。

 

「な、なんだこれは!?」

 

「こ、この揺れ……ただの地震じゃないですネ……!」

 

「何か、来る!」

 

そして、光の柱から巨大な街のようなものが現れる。全員が目を疑った。そして現れたものに付属している『足』が地面の中から現れる。

ジュラ達3人の足元にもそれがあったらしく、全員投げ出されないようにつかまるだけで必死だった。

 

「捕まっていて下さいデス!」

 

「うむ!」

 

「はい!」

 

超魔法ニルヴァーナ、その力の根源、装置の役割を果たしていたのは巨大な歩く装置であった。

三人は、足を伝ってニルヴァーナの中心……まるでどこかの街並みのような場所に向かっていった。

 

「…なんだここは?」

 

「街みたいね……」

 

「その通りデスネ。幻想都市ニルヴァーナ。」

 

「そなた達もここにいたとは心強い。」

 

そして、街に入った3人がしばらく歩いていると、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のルーシィとグレイが居た。

だが、やはりホットアイの存在が悪目立ちしたらしく━━━

 

「リオンの所のオッサン!」

 

「それに化猫の宿のマルク!」

 

「……と六魔将軍!?えぇ!?」

 

「まぁ、普通驚きますよね……この人には。」

 

「案ずるな、彼は味方になった。」

 

「世の中愛デスネ。」

 

「うっそぉ!?」

 

「あのオッサン悟りの魔法でも使えんのか!?」

 

確かに、『金が大事』と言っていた男がいきなり愛に目覚めて味方になっている事なんてそうそうあるものでもないだろう。

ある意味では、逆にそれがニルヴァーナの凄まじさを物語っていたのかもしれないが。

そして、話の腰を戻すかのようにホットアイはここの街の話をし始める。

 

「ここはかつて古代人ニルビット族が住んでいた都市デス。今から400年前、世界中で沢山の戦争がありました。

中立を守っていたニルビット族はそんな世界を嘆き、世界のバランスをとるための魔法を作り出したのデス。光と闇を入れ替える超魔法。その魔法には、平和の国ニルヴァーナの名が付けられました、デスネ。」

 

ホットアイが話したその内容に、各人各様の反応をする。だが、マルクだけは街並みの隙間から見える景色で、向いている太陽の方角で、何か嫌な予感がし始めていた。

 

「皮肉なもんだな……平和の名を持つニルヴァーナが今、邪悪な目的のために使われようとしてるなんてよォ……」

 

「でも、最初から『光を闇に』する要素なんて付けなきゃいい魔法だったのにね。」

 

「仕方あるまい……古代人達もそこまでは計算していなかったのかもしれん。強い魔法には強い副作用があるものだしな。」

 

三人の話が頭に入ってこなかった。心臓が高鳴り、息が荒くなり始める。

気づけばマルクは走り出していた。

 

「って!?ちょっとどこ行くのよ!!」

 

四人が追いかけようとしたその瞬間、背後に現れる人影。それは六魔将軍が一人、ミッドナイトだった。

 

「ホットアイ……父上を裏切ったのかい?」

 

「違いマスネ!ブレインは間違っていると気が付いたのデス!!」

 

ミッドナイトは乗っていた建物から一旦降りて、ホットアイを睨みつける。

 

「父上が間違っている……だと?」

 

「人々の心は魔法でねじ曲げるものでは無いのデス。弱き心も、私達は強く育てられるのデスヨ。」

 

その言葉に対してミッドナイトが行った返答は、『魔法での攻撃』であった。

ミッドナイトが振るった腕の直線状にあったものが全て切れていた。

だが間一髪、ホットアイが地面を陥没させたことでグレイ達は助かっていた。

 

「ジュラ!早く行くデスネ!彼のことも心配ですが……恐らくニルヴァーナは中央の王の間にいるブレインが動かしているはずデスネ!!

……そして、私の本当の名前はリチャード、デスネ。」

 

「敵に真の名を明かすとは……本当に堕ちたんだねホットアイ。」

 

そして六魔同士の戦いが、今ここに始まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、一人走っていったマルクは、景色が良く見えるところ……即ち高い塔の上部などに登って確信していた。

 

「この、方向……化猫の宿がある方角……なんで、なんで化猫の宿が狙われるんだ!!」


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