バトルパート3回戦、
幻を使い見えないところでの五人がかりでの攻撃をかいくぐり、ラクサスはレイヴンを圧倒。
そしてレイヴンは五人がかりで攻撃したこと、アレクセイの正体がギルドマスターイワンだったこともあり、ルール違反で退場となった。
「協議の結果、大鴉の尻尾は失格となりました。大鴉の尻尾の大会出場権を三年間剥奪します。」
「当然じゃ。」
実況も少し困惑している様子だったが、気を取り直して次の試合へと望む。
「さて、なんとも後味の悪い結果となりましたが……続いて第四試合。本日最後の試合です。
妖精の尻尾Aウェンディ・マーベル対
「ウェンディィィィイイイイイイ!!」
「煩い!!」
「おい誰かマルク止めろ!フィールドに乗り込みかねないぞ!!」
やたらテンションの高いマルク。それもそうだ、彼にとっては待ちに待ったウェンディの試合なのだから。
しかし、内心は傷ついて欲しくないと思ってもいるのだが。
「きゃう!」
「あ、あの大丈夫ですか?あう!」
二人とも、どこか同じ部分があるのかフィールドに出た途端にコケてしまっていた。
会場も、先程の困惑した雰囲気はどこへやら和やかな空気に変わっていた。
「これはなんとも可愛らしい対決となったぞー!!オジサンどっちも応援しちゃうピョーン!」
「あんたキャラ変わっとるよ。」
「ん……?」
マルクは一瞬止まる。大魔闘演武のこの会場で、何か気になる魔力を感じ取ったからだ。
だが、それがどこにあるのか全く判別できてないので、心に引っかかりながらもウェンディの試合を見守ることにしたのであった。
「大魔闘演武三日目最終試合、妖精の尻尾Aウェンディ対蛇姫の鱗シェリア!試合開始です!!
これは可愛らしい組み合わせになりましたー!!オジサンもううっれしィー!!」
「……あの実況そういう……」
「マルク、実況〆に行くのだけは止めておきな。」
マカオに止められ、マルクは一旦収まりウェンディ達の方に視線を向ける。
「行きます!
ウェンディお得意のエンチャント。それにより、攻撃力と速度を増した天竜の翼撃は、乱気流と言わんばかりの豪風が吹き荒れる。
「よっ……」
「かわした!?」
しかし、シェリアは見事にそのすべてをかわしきり、自身も構える。
「天『神』の……
「うわっ……!」
ウェンディに襲いかかる黒い風。ウェンディと同じような風の使い方に、黒色の風。
それが何を意味するかは、自ずと答えが出てくる。
「すごい!これ避けるんだね!!だったら……天神の舞!」
「うわああああ!!」
避けたのも束の間、ウェンディはシェリアの風によって持ち上げられ、上空に吹き飛ばされる。
「まだまだ!!」
シェリアが追撃しようと跳び上がってウェンディに迫ろうとした瞬間、ウェンディはその場でなんとか吹き飛ばされるのを止めてから、カウンターを行う。
「天竜の鉤爪!」
「うっ……!」
そして、二人は同時に地面に着地し、そして同時に
「天竜の━━━」
「天神の━━━」
「ウェンディと同じ……いや、同じであった全く異質のこの魔法…まさか!!」
「━━━咆哮!」
「━━━怒号!!」
ぶつかり合う風と風。2つのぶつかり合いが、会場全体にとんでもない暴風を巻き起こす。
「━━━天空の、
「ウェンディ!!」
立っていたのはシェリア。最早違和感さえ覚えるほど無傷で、シェリアはボロボロになっていた。
「な、なんと!可愛らしい見た目に反し二人ともすごい!凄い魔導士だーっ!!」
「今のぶつかり合いでも無傷とか、どんだけ力の差があるっていうんだよ!!」
「いや、おかしい……ウェンディと同じ魔法なのに……
違和感を持つマルク。滅神魔法は、一概に滅竜魔法の上位互換という訳では無いが、概ねそのような魔法である。
つまり、ウェンディと同じ風ということは使える魔法の種類も当然似通ってくるのだ。
「リオンから聞いてたんだ、妖精の尻尾にあたしと同じ魔法使うコいるって。
ちょっとやりすぎちゃったかな?ごめんね、痛くなかった?」
「……平気です、戦いですから。」
「折角だからもっと楽しもっ!ね。」
しかし、答えに行き着く前に二人の戦いは過ぎていく。神殺しと竜殺しの戦いが。
「私、戦いを楽しむって……よく分からないですけど……ギルドのために、頑張ります。」
「うん!それでいいと思うよ。あたしも『愛』とギルドの為に頑張る!」
そして、シェリアの魔法がウェンディを吹き飛ばす。既に傷だらけで満身創痍のウェンディ。しかし、彼女はギブアップをするほど精神はヤワではなかった。
「同じ風の魔法を使う者同士!シェリアたんが一枚上手かー!?」
「正スくは『天空魔法』な。」
「う、うう……!スウゥゥゥ……!」
吹き飛ばされたウェンディ。尻餅はつくことなく、踏みとどまった。そして、魔力を溜めるために空気を食べ始める。
「あ!やっぱり空気を食べるんだね!じゃああたしも……いただきまふぅ……!」
「こ、これは……ウェンディたんシェリアたん何をしているのでしょう?気のせいか、酸素が少し薄くなった気がします。」
「━━━滅竜奥義!」
「出た!ウェンディの滅竜奥義!」
ウェンディとシェリアを中心として風が吹き荒れ始める。それは竜巻となり、二人を閉じ込める暴風の牢獄となる。
「照破……」
「風の結界!?閉じ込められた!?」
その風の牢獄も、時期に消える。天を穿つ一撃のために必要なだけだったのだから。
「━━━天空穿!」
シェリアを吹き飛ばし、風の牢獄は無くなる。だが、その強大な一撃によってシェリアの体はボロボロになってしまっていた。
「やった……!」
マルクは自分のことのように喜び始める。明らかに誰が見ても完璧な決着。この結果に、誰もが納得しかけた。
「シェリアダウーン!勝者━━━」
「あぅ〜ごめんね!ちょっと待って……まだまだこれからだから!!ふぅー、やっぱすごいねウェンディ!」
だが、立ち上がったシェリアの体には傷一つついていなかった。服こそ数カ所敗れてしまっているものの、それは服だけの話でありシェリア自身にはなんの傷もついていなかった。
「……天空魔法の、回復……自己回復できるんだ……!」
「はぁ!?つまりウェンディがどれだけダメージを与えても、向こうは回復してくるってのか!?」
『自己回復』はウェンディができない事だった。あくまでも他人を治療し、その体力を回復させるのがウェンディの魔法なのだから。
「はぁ、はぁ……はぁ……」
「降参しないの……かな?あたし、戦うのは嫌いじゃないけど……勝敗の見えてる一方的な暴力は『愛』がないと思うの。」
「うくっ……うぅ……!」
「ウェンディ……!」
『今すぐ飛び出したい』『代わりに戦ってやりたい』と思うマルク。だが、我慢して止まっていた。
あれは彼女が望んだこと、Aチーム一つ目のリザーブ枠として彼女が出ることを望んだのなら、それは止めてはいけないとマルクは考えていた。
「降参してもいいよ……ね。」
「……出来ません。私がここに立っているということは、私にもギルドの為に戦う覚悟があるということです。
情けはいりません……私が倒れて動けなくなるまで、全力で来てください!!お願いします!!」
「……うん!それが礼儀だよね!」
「はい!」
「じゃあ……今度はあたしが大技出すよ!この一撃で楽にしてあげるからね!!『滅神奥義』!!」
瞬間、シェリアの魔力が膨大に膨れ上がる。異常な程に膨大で、暴風など生易しいと感じるほどの。
『これが直撃すれば今のウェンディは死ぬ』と、直感的にマルクが感じるほどに。
「全力の気持ちには全力で答える!!それが『愛』!!」
「おいおいおい!あれやべーぞ!!あんなの受けたらウェンディが死んじまう!!」
「天ノ叢雲!!」
放たれる神をも屠る一撃。そのうねりは神の一撃の体現である、と錯覚するほどに強力な一撃。
「━━━ウェンディィィィイイイイイイ!!」
マルクが叫ぶ、滅神奥義はうねりをウェンディに伸ばし……
「よけた!?」
「いや……
「ほっ……」
「ああそうか、あのシェリアって子の自己回復は自分の体力まで回復できないんだ。」
カナが、真面目な顔でそう告げる。ウェンディの回復は、相手の傷も体力もまとめて回復が可能である。自己回復は、不可能になっているが。
「あっ……
「そういう事、相手の魔法に勢いをつけさせて無理やり外させた……やるねぇ、ウェンディ。」
「なんて戦法!凄い!!」
「天竜の砕牙!」
ぶつかり合うシェリアとウェンディ。互いが互いの天空魔法をひたすらぶつけ合う。その確固たる意思がなせる理由は信念か、意地なのか、それともまた別のものなのか。
「ぶつかり合う小さな拳!その執念はギルドの為か!?」
「っ……!」
見入る観客達、少女達の思いはその拳に、その背中に乗るにはあまりにも大きい。
ウェンディが攻撃し、シェリアが回復する。傷の回復ができないウェンディは傷ついていく。
「……頑張れ…!」
『止められない』『止めちゃあならない』
ウェンディの思いを邪魔してはいけないと、マルクは必死に耐える。ずっと見守ってきたつもりだったが、マルクすらも知らない間にウェンディは強くなっていた。
そして、誰にも止めることが許されない状況は━━━
「━━━時間切れ!試合終了、この勝負引き分け!!両チームに5pずつ入ります!!この試合おじさん的にベストバウト決定ー!!」
「ウェンディ……!ウェンディ……!」
「なんだいマルク、ボロ泣きじゃないのさ……でも、気持ちはわかるよ。」
その涙は、悲しみではないとマルクは分かっていた。だが、その涙が流れたのは一体どんな理由か……少なくとも、それは嫌なものではなかった。
「痛かった?ごめんね?」
「いえ……そればっかりですね。」
笑い合うウェンディとシェリア。先程までぶつかりあっていた者達とは思えないほど、微笑ましいものだった。
「楽しかったよ、ウェンディ。」
「わ、私も少しだけ楽しかったです。」
「ね!友達になろうウェンディ。」
「は、はい……私なんかで良ければ……」
「違うよ!友達同士の返事……友達になろう、ウェンディ。」
シェリアの言葉で、一瞬だけキョトンとするウェンディ。しかし、伸ばされた手を見てすぐにウェンディも同じように手を伸ばす。
「うん!シェリア!」
「なんと感動的なラストー!オジサン的にはこれで大会終了ー!!」
「これこれ……『三日目』終了じゃ。」
「皆さんありがとうございました。」
その日の夜、酒場で妖精の尻尾は騒いでいた。飲めや食えや、そして試合のことでの大騒ぎ。
「ウ゛ェ゛ン゛デ゛ィ゛ー!」
「ま、マルク……恥ずかしいよ……」
ウェンディに抱きついているマルク。わんわん泣きながら笑顔になっていた。そしてウェンディは抱きつかれてることに赤面して顔を真っ赤にしていた。
「いやぁ、確かに凄かったなぁウェンディ。」
「マルクがいつ試合妨害に入らないかとひやひやしたぜ……特に、相手の子の技が使われた時とかよ。」
「お゛お゛ぉ゛ん゛!」
「ラミアの犬っぽい人みたいな声を出すなよ。」
「滅多に見ないわねこんなマルク……」
グレイとルーシィが苦笑いでツッコムが、マルクは全く気にすることなくずっと抱きついていた。
「ていうかあんた、いつまで抱きついてるつもり?」
「……ずっと?」
「殴り飛ばすわよ?!あんたお風呂の時とかも入ってくるつもり!?」
「ひゃう……!そ、それは恥ずかしいよ……」
「……っ!」
『それもそうだ』という顔になるマルク。やっと理性が戻ったのか、ようやくウェンディから離れる。
ウェンディの顔は未だに真っ赤になっていたが。
「まったく……」
「……どぅえくぃとぅえるぅぅぅうう……?」
「巻舌風に言わないで欲しい……」
と、一悶着あったものの……試合結果に喜ぶこの騒ぎはまだ続いていくのであった。