三日目競技パート、
第一試合、
「ワ、ワイルド……」
「元気最強?」
得意のロープを扱う魔法により、相手を雁字搦めにして戦闘不能にしたミリアーナの勝利。
続けて第二試合。
「
「うわあああ!!」
ルーファスの魔法、
記憶したものをそのまま映し出す、または複数を組み合わせて合わせ技として放つ記憶造形は、やはり強力な事が証明された。
「試合終了ー!イヴ、あのルーファスに大健闘でしたが届かない!勝者、剣咬の虎ルーファス!」
そして、試合は第三試合へと移る。
「……しかしまた随分と思い切ったな、マルク。」
「十分囮になるだろうと思ってさ、俺の力は。エキシビションマッチで俺の力見せておいた甲斐があった。」
「奴らからしてみれば、魔力を食らうなんて力は放っておかないだろうな。」
バトルパートが始まる前にマルクはリリーと共に大魔闘演武の会場を歩き回っていた。
リリーがいるのはいざと言う時の保険と、通信役であるウォーレンの声を聞くためである。
「……多分、あいつらはまた卑怯な手を使う。けど同じ方法を使えば、確実に怪しまれる。
「さて、引っかかってくれるかどうか……む?」
その時、リリーとマルクが目の前から歩いてくる人物に気づく。見覚えはあった、レイヴンにいたリザーブ枠の1人であるマホーグ・オロシであった。
「や、やっぱり……来てた……こ、来ないで!!」
「さて、なんで来て欲しくないんだ?」
「あ、あ、貴方が私を食べるからに決まってる!!」
「……食べる?」
「い、イワン様が……言ってたもん……貴方が私達の邪魔をして……みんな殺して食べちゃうって!!」
マルクは溜息をつきながら、マスター・イワンに少し腹を立てていた。『人肉なんて食うわけないだろ』と。
「だ、だから……先に殺されないように……殺せって!!」
「っ!リリー!」
「分かっている!」
一瞬でマルクの目の前までくるマホーグ。勢いよくマルクの体を切り裂こうとした大剣を、リリーが咄嗟に自分の剣で防ぐ。
「ひっ!筋肉猫おばけ!!」
「筋肉猫おばけ……!?」
「来ないで来ないで来ないで!!」
振り回される大剣、何故かその力にリリーは押されていた。リリーよりも素早く振り抜き、リリーよりも力強い一撃が連続で叩き込まれていく。
「くっ……オォッ!!」
「っ!」
反撃でリリーは剣を振り抜く。しかし、マホーグはそれを予測していたかのように、その一撃をかわす。
「ぬぅ……!」
「リリー下がれ!多分こいつ攻撃が当たらねぇ!!」
「そ、そそ……そう……よく、分かったね……私に……危害は加えられない……そういう『眼』を持ってるから……」
「眼……危害を予知する、未来予知のようなものか。」
リリーが軽く推理するが、それは余計に相手の強さを確認できるだけだった。
「……けど、それだけでは体が動きについてくるはずがないと思うがな。」
「か、簡単な話……動けるように、体に筋肉を増強する魔法をかけてるだけ……移動は、ショートワープでいい……
そ、それに……この武器は相手の魔法を無条件で、そ、相殺できる……から、私には……危害を加えられない……」
ペラペラと自分の魔法を喋るマホーグ。余裕ぶっているのか、はたまたそうでないかは分からないが、相手は四つの魔法を同時にこなす逸材ということだけは、判明した。
「……相手の攻撃を眼で予知し、筋肉に無理やり動けるようにさせて、強力な一撃を当てる。
確かに、これは厄介だ。」
「そ、そそ……そうでしょ……だから……死んで!!」
「……死んでたまるか。それに、危害を加える相手に危害を加えようとすんなら……その『眼』で俺のことを見てみろ。」
マルクの体を上下に真っ二つにせんと、マホーグの剣が振られる。マルクはそれを見切って、肘と膝で挟んで剣を受け止めた。
「え……な、なんで……」
「……悪いが、あんたは剣を振ることに慣れなさすぎだ。振っても振っても、その太刀一つ一つがリリーやエルザさんにまるで及ばない。」
「け、剣なんて覚えたらそれこそ本気で殺しにかかられる!私は自分の身を守れるならそれでいい!!」
「……なら、満足するまで俺とやればいいさ。」
「こ、殺されたりなんか……しない……」
マルクから何とか剣を抜いて、マホーグは再び切りかかる。だが、剣が振られる度にマルクはそれを受け止めていく。
「……な、なんで……なんでなんでなんでなんで!!」
「……何をそんなに怖がってる?その怯えは……俺やリリーに大してじゃないだろ?」
「あ、当たり前!!世の中全部全部…みんな怖い!!」
マホーグは涙を流し始める。少しだけそれに驚いたマルクだったが、振られる剣を受け止め続けるためにすぐに切り替える。
「イワン様も、研究所の人間も、親も……みんなみんな怖い!!」
「……研究所…?」
「フレアお姉様がボコボコにされてて!私をいっぱい痛くして!私を捨てた!人は簡単に人を傷つける!!」
「……」
マホーグの慟哭。剣は激しさを一層増していくが、振っているというよりは振らされている、と言っても過言ではない形になっていく。
「見えない、何も見えない見えない!あんたが攻撃するのが分からないのが怖い!あんたの中が怖い!あんたそのものが怖い!」
「マルク!!」
「手を出すなよリリー、絶対にな。」
剣は変形し、大槌となる。斬るよりも殴る事を優先させたその変形に、マルクは内心焦り始めていた。
「こ、これなら受け止めても問題ない……そのまま魔力で吹き飛ばせる……反撃なんてさせない……」
「……イワンのことを怖がるなら、なんでレイヴンにいる?なんで抜けようとしない?」
「さ、最初は……優しいフリをされた……けど、けどけどけど!!あの人も他と一緒だった!!」
受け止めるではなく、かわす方に集中し始めるマルク。一撃一撃が、床を抉り、壁をひび割れさせ、天井に穴を開ける。
「フレアお姉様は何も悪くない!何も悪くないのに殴ろうとした!!あの人は優しいのに!!」
「……そうだな。」
「で、でも逃げたら……逃げたら殺されちゃう……そんなの嫌だ、嫌嫌嫌嫌!!」
再び形を変えて、今度は細長い形になる。まるで槍のような形だった。マホーグははそのままマルクに向かって、突進していく。
「……っ!!」
「え━━━」
「なっ……!?」
マルクは隙を見て、最低限の動きだけで避ける。服は少し穴が空いてしまったが、ダメージは無かった。
しかし、マホーグやリリーが驚いているのは、そこじゃなかった。
「痛くされるのは怖いだろう、暴力を振るわれるのは怖いだろう、捨てられたのはさぞかし怖かっただろう。」
「え、ぁ……」
頭をポンポンと撫でながら、まるで赤ん坊をあやすかのようにマルクはマホーグを抱きしめていた。
マホーグは困惑しきっていたが、剣を手放してくれた。
「……俺はお前を食べないよ。人間が人間を物理的に食うわけないじゃん。」
「……痛く、しない?」
「しないよ。
「っ……」
「でも、流石にこんな怯えてる相手に振るうものは何もない。」
「ぁ……」
少しだけ離して、マルクはマホーグに笑いかける。マホーグはそれだけで安心したのか、そのまま倒れる。
「……い、今お前何をした?」
「え?いや……怖い怖いって言うし……子供っぽいと思ったから、抱きしめて人肌の温度であやしてやればいいかなって。」
「いや、なぜそいつが気絶したのかということだが。」
「……緊張の糸が切れたんじゃないかな。あんだけ暴力を振るわれることと、他人に対しての警戒が強いんだ。
その警戒が解けたら、そりゃあ相手が目の前にいても眠っちまうもんじゃないのか?」
リリーは複雑そうな顔をしていたが、ともかくマホーグの襲来はこれで回避できたと言うのが、よく分かった。
「ともかく、こいつを憲兵に引き渡せば任務は終了だな。」
「……まだ引き渡すのはやめないか?」
「何故だ?場外乱闘を仕掛けてきたんだぞ?」
「いや、『魔法を潰せる』ってやつを場外乱闘に選んだんだ。これはレイヴンが何かしらの行動をするだろうさ。」
「妨害かルール違反か………それは分からないが、そのせんが確実になったということだな。」
マホーグをおんぶして、マルクは来た道を戻っていた。リリーもそれに付いていく。
「どこに行く気だ?」
「医務室。ちょっと気になる事がある。」
「気になること……四つの魔法をほぼ同時に使いこなせる、その魔力量か。」
「あぁ……最悪、体をいじくっている可能性もあるしな。」
異世界エドラスにいた、もう一人の自分のことを思い出しながらマルクは返事をしていた。
「……だから、ポーリュシカさんに見てもらおうと思っている。 」
「なるほど、了解した。ならば俺は、マスターにそのことを伝えに行こう。」
「頼むよ。試合見れるように頑張らないとな。」
リリーと一旦別れてから、マルクはマホーグを医務室にいるポーリュシカの元に連れていくのであった。
「……いや、この子は体をどこも改造されてないよ。綺麗な体のままさ。」
「……となると、純粋な魔力量だけで魔法を4つも……」
「だが、これに関してはこの子の苦しみもわかるねぇ……あんたの言う通り純粋な魔力量だけだが……とんでもない大きさだ。」
「というと?」
「魔力量だけでいうなら、マカロフ以上だ。けど、それを使う体に魔力量の大きさが毒となって襲い続けてる。」
マホーグを見て、ポーリュシカはマルクにそう伝える。体が成長すると、その成長に合わせて魔力も大きくなっていく。
しかし、希に生まれた時から体に負担がかかるほど大きな魔力を背負っている子供が生まれることがある。それが、マホーグだった。
「でも、魔力量で苦しんでるようには……」
「そうだろうね、あんたがさっき言ってた『眼』が、ほぼ常時発動しているとしたら……そのとんでもない魔力も、常に消費されるから幸いにも魔力が毒にならずに済んでいる……と言ったところかね。」
「……じゃあ、研究所って言うのは…」
「魔力が生まれつき多い子供、特殊な魔力や魔法を生まれつき持っているもの……そんな子供たちを集めた実験施設のことだろう。」
今は安らかに寝てるマホーグの顔を見て、マルクは同情を向ける。いけないことだとは分かっていても、悲しみを向けてしまっていた。
「……とりあえず、試合を見に行きな。第二試合が今さっき終わったところだ。」
「えっと……妖精の尻尾は?」
「まだどちらも出てないよ。ほら、行った行った。」
ポーリュシカに催促され、マルクは渋々部屋から出る。マホーグのことが頭に引っかかったが、武器を取り上げた今は大丈夫だと思い、そのまま観客席に向かうのであった。