FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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三日目競技パート

「さぁ、エキシビションマッチで場が温まってきたところで!三日目の競技は伏魔殿(パンデモニウム)!参加人数は各チーム1人です!」

 

「あー……まだ体冷えきってるよ……」

 

「あ、マルクおかえりー」

 

マルクが観客席に戻ると、リサーナが手を振ってマルクの帰りを歓迎する。

マルクはリサーナの隣に座って、試合の行く末を見守り始める。

 

「誰が出るんですか?」

 

「Aチームはエルザ、Bチームはカナがリザーブ枠で出るみたい。」

 

「へー……」

 

他のギルドからは、人魚の踵(マーメイドヒール)ミリアーナ。

大鴉の尻尾(レイヴンテイル)からはマルクとウェンディとシャルルの魔力を奪った張本人、オーブラ。

青い天馬(ブルーペガサス)からは、情報戦が得意な魔導士のヒビキ。

剣咬の虎(セイバートゥース)からは黒雷の使い手、オルガ。

蛇姫の鱗(ラミアスケイル)からは聖十大魔道の1人のジュラ。

四つ首の番犬(クワトロケルベロス)からはノバーリ。

計8人が出場することになった。

 

「昨日は休暇の為、失礼しました。それではこれより、パンデモニウムのルールを説明いたしますカボ。」

 

マスコットキャラ兼審判係のマトー君がそういった途端、フィールドに大きな建造物がものすごい勢いで展開されていく。

 

「邪悪なるモンスターが巣食う神殿、パンデモニウム。」

 

「でかー!?」

 

「モンスターが巣食うだと?」

 

「そういう設定ですカボ、ただの。

この神殿には、100体のモンスターがいます……と言っても我々が作り出した魔法具現体、皆さんを襲うようなことは無いのでご安心を。」

 

マトー君の説明でざわついた観客だったが、すぐに安心し始める。

 

「モンスターはD・C・B・A・Sの五段階の戦闘力が設定されています。

内訳はDクラスから順に50体、30体、15体、4体、1体となっています。

因みにDクラスのモンスターがどのくらいの強さを持っているかといいますと……」

 

魔水晶映像(ラクリマビジョン)にDクラスの一体が表示される。目はなく、全身が刺々しい見た目の四足モンスター。それは近くの石像に走って駆け寄ると、爪の一撃で粉々に粉砕するほどだった。

 

「こんなのやらこんなのより強いのやらが100体渦巻いているのがパンデモニウムです。カボ。

クラスが上がる事に、倍々に戦闘力が上がると思ってください。Sクラスのモンスターは聖十大魔道と言えど倒せる保証はないですカボ。」

 

「む……」

 

「皆さんには順番に戦うモンスターの数を選択してもらいます。これを挑戦権と言います。

例えば3体選択すると、神殿内に3体のモンスターが出現します。三体のモンスターの撃破に成功した場合、その選手のポイントに3点が入り、次の選手は残り97体の中から挑戦権を選ぶことになります。

これを繰り返し、モンスターの数が0または皆さんの魔力が0になった時点で競技終了です。」

 

「数取りゲームみたいだね。」

 

マトー君の説明を聞いて、ミリアーナがそう呟く。数取りゲームと言う割には自身のことも考えなくてはいけない、というのがネックではあるが。

 

「そうです、一巡した時の状況判断も大切になってきます。

しかし、先程も申し上げた通りモンスターにはランクがあります。これは挑戦権で一体を選んでも五体を選んでもランダムで出現する仕様になっています。」

 

「……こっちの方に出てたらよかったかな。」

 

「え?なんで?」

 

説明を聞いて、マルクがそう呟く。リサーナはそれを疑問に思って聞き返していた。

 

「だって、『魔法具現体』なんですよ?」

 

「……多分、倒した扱いにならなくてルール違反扱いされるんじゃないかな。」

 

「……ですよね。」

 

リサーナの言葉でマルクは再びフィールドに目を向ける。

 

「モンスターのクラスに関係なく、撃破したモンスターの数でポイントが入ります。

一度神殿に入ると、挑戦を成功させるまで退出は出来ません。」

 

「神殿内でダウンしたらどうなるんだい?」

 

「今までの自分の番で獲得した点数はそのままに、その順番での撃破数は0としてリタイアとなります。それでは皆さんくじを引いてください。」

 

協議の説明を聞いて、全員が難しい顔をしている。ルールこそ分かりやすかったが、勝つには相当考えなければいけないからだ。

 

「……結構頭使いますねこの競技。」

 

「うん……欲張りすぎても、かと言って一体ずつ選んでもダメ。魔力を使いすぎないようにしつつ、回復も視野に入れておかないといけない。」

 

「ある意味、エルザさんが出てくれて助かったかもしれませんね……」

 

そして、全員がくじを引き終える。エルザが一番、カナが8番という並びになっていた。

 

「この競技……くじ運ですべての勝敗がつくと思っていたが……」

 

「くじ運で?い、いやそれはどうでしょう?戦う順番より、ペース配分と状況判断力の方が大切なゲームですよ。」

 

「いや……これは最早ゲームにならんな。」

 

エルザは軽く微笑んだ後に、すぐに顔つきを凛々しいそれに戻す。くじ運で勝敗が決まる……その言葉を、実行するとは運営委員ですら思いつかないだろう。

 

1()0()0()()()()()()()()()()()()()()()()1()0()0()()()

 

エルザのセリフで、会場は息を呑む。マトー君が必死に止めようとするが、エルザはそれを無視してパンデモニウムの中に入っていく。

 

「━━━換装。」

 

その姿は圧巻だった。大剣を振るい、槍で薙ぎ払い、剣で切り刻む。斧で断ち、刀で裂く。

鎧を次々に変えて、緋色の髪を持つ女騎士は城で舞う。妖精女王(ティターニア)はここにあり、と見せつけるために剣舞を舞う。

傷だらけになっているにも関わらず、その姿に皆見惚れていた。そして━━━

 

「し、しし……信じられません!なんと、たった1人で100体のモンスターを全滅させてしまったァーっ!!これが七年前最強と言われていたギルドの真の力なのか!?

妖精の尻尾(フェアリーテイル)Aエルザ・スカーレット圧勝ー!!文句無しの大勝利ー!!」

 

『妖精の尻尾最強女魔導士、エルザ・スカーレット』この名前をこの競技で思い出した者は少なくはなかった。

鳴り響く歓声に、熱が冷めることがないのが伺える。

 

「……よく戦えましたよねあれ。」

 

「そうだねー……あれ?というか100体戦う必要って……」

 

「本当なら51体倒せば確実な勝利は決まってました。けど……100体倒しに行ってこそのエルザさんだと思いますよ。」

 

「……そうだね、エルザならそれくらいしちゃうもんね。」

 

苦笑しながら、マルクもリサーナも傷だらけのエルザと、それに駆け寄るAチームを見る。

観客席にいる妖精の尻尾のメンバーも、エルザに対して惜しみない拍手を送っていた。

 

「パンデモニウム完全制圧!妖精の尻尾A10p獲得!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくしてから。

パンデモニウムはエルザの一人勝ちとなってしまったため、残り七チームについての処遇が、協議されていた。

因みにエルザは勿論医務室行きである。

 

「えー、協議の結果。残り七チームにも順位をつけなければならないということになりましたので……いささか味気ないのですが、簡単なゲームを用意しました。」

 

魔力測定器(マジックパワーファインダー)、略してMPF。

この装置に魔力をぶつけることで、魔力が数値として表示されます。その数値が高い順に、順位をつけようと思います。」

 

マトー君が説明する中、青い天馬のヒビキとカナが何やら喋っていた……のだが、この時点で既にカナは何十個の樽の酒を飲み干していた。

まだ足りないのか、酒瓶を直飲みしていた。

 

「カナさんもう呑んでる……って言うかあの酒樽どこから……」

 

「うーん……大丈夫かなぁ……」

 

妖精の尻尾が心配する中、魔力測定が始まるのであった。

 

「挑戦する順番は先程の順番を引継ぎますカボ。」

 

「じゃあ私からだね!行っくよー……キトゥンブラスト!!」

 

ミリアーナから放たれたロープ。それから繰り出される一撃により表示された数値は365。

 

「比べる基準がないと、この数値が高いかどうかわかりませんね。」

 

「この装置は我々ルーンナイトの訓練にも導入されています。この数値は高いですよ、部隊長を任せられるレベルです。」

 

ミリアーナの番が終わり、次は四つ首の番犬のノバーリ。その数値は124と少し低めだった。

 

「━━━僕の番だね。」

 

そして、黄色い歓声と共にヒビキが現れる。だが、彼の魔法は古文書(アーカイブ)。情報戦を主とする彼の場合、荷が重く95という数値になっていた。

 

「あぁ……なんてことだ……」

 

「続いては大鴉の尻尾、オーブラ。」

 

「……魔力を奪った奴か。」

 

MPFの前まで歩くオーブラ。その姿を見てマルクは悔しそうな顔をする。何も抵抗できなかった、ウェンディ達を守れなかった屈辱が胸に溢れてきていたからだ。

 

「……」

 

オーブラから黒い使い魔のようなものがMPFに突っ込んでいく。そして、体当たりをするがそれに表示される数字は、4であった。

 

「なっ!?」

 

「手加減してる……?」

 

「これはちょっと残念ですが……やり直しは出来ませんカボ。

えー、現在の順位はこのようになっています。」

 

映像に映し出される文字。1位ミリアーナ、2位ノバーリ、3位ヒビキ、4位オーブラ。暫定一位でミリアーナがトップに躍り出ていた。

 

「やったー!私が一番だ!みゃー!」

 

「━━━そいつはどうかな。」

 

「ここでオルガ登場ー!!すごい歓声です!!」

 

剣咬の虎オルガ。片腕をあげ、観客の声に答えているかのような仕草。もはや自分が一番であることに確信を得ているかのようだった。

 

「120mm黒雷砲!!」

 

今までの4人と比べても破壊力が違う魔法。強烈な炸裂音を鳴らしながらMPFにその数値が表示される。

その数字、3825。ミリアーナの約10倍であった。

 

「さ、三千……!?」

 

「私の10倍ー!?」

 

「最強最強ナンバー1!!」

 

自作の歌を歌うオルガ。そのオルガの次は聖十大魔道の1人であるジュラであった。

 

「さぁ……それに対する聖十のジュラはこの数値を越せるかどうかが注目されます。」

 

「本気でやっても良いのかな?」

 

「勿論ですカボ。」

 

ジュラは両手を合わせ、目を瞑る。その瞬間に膨大な魔力が膨らんだのを、マルクは感じ取って、無意識に体を震わせた。

 

「鳴動富嶽!」

 

表示された数値は8544。ミリアーナの10倍あったオルガの記録を、さらに倍以上膨らませたのだ。

 

「……あれに勝てるのって、エルザさんくらいですかね……」

 

「……どう、だろう。」

 

唖然としながら、マルクとリサーナはジュラを見る。今現在の最強は、彼なのではないかと疑うほどに。

 

「こ、これはMPF最高記録更新!!やはり聖十の称号は伊達じゃなーい!!」

 

「……あ、ギルダーツならいい勝負かも。」

 

「あぁ……」

 

「最後の挑戦者は妖精の尻尾B、カナ・アルベローナ。ジュラの後とはなんともやりヅらいでしょうが……頑張ってもらいましょう。」

 

そして、ジュラの後にカナが前に躍り出る。既にベロンベロンに酔っていた。しかし、カナの魔法は攻撃性の低いカードを使う魔法。

直前のジュラやオルガのような攻撃に特化した魔法で無い以上、4桁は厳しい……そう、全員が思っていた。

 

「━━━さ、ぶちかますよ。」

 

カナが来ていた上着を脱ぎ捨て、上半身が水着のような格好になる。しかし、その腕には見覚えのない紋章が彫られていた。

 

「……あれって━━━」

 

マルクがその正体を探ろうとした瞬間、カナは腕を上げて大きくその詠唱を刻み始める。

 

「集え!!妖精に導かれし光の川よ!照らせ!!邪なる牙を滅するために!!妖精の輝き(フェアリーグリッター)!!」

 

とんでもない魔力量、ジュラやオルガとは比べ物にならないそれをカナは叩きつける。

表示された数値は9999……つまり、MPFが表示される限界を超えて、カンストしてしまったのである。

 

「な、なんということでしょう……MPFが破壊、カンストしています。な、なんなんだこのギルドは……競技パート1・2フィニッシュ!もう誰も妖精の尻尾は止められないのか!!」

 

「止められないよ!!何たって私達は妖精の尻尾だからね!!」

 

カナがそう言うと、観客が興奮でさらに湧き上がる。三日目競技パートの結果は、妖精の尻尾の二チームがトップに躍り出たという結果で、終わったのであった。


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