「大魔闘演武もいよいよ中盤戦、三日目に突入です。」
「今日は一体どんな熱いバトルを見せてくれるかね。」
「本日のゲストは、魔法評議院よりラハールさんに起こしいただいています。」
「よろしくお願いします。」
「ラハールさんは強行検束部隊大隊長ということですが……」
「えぇ、大会中の不正は許しませんよ。」
大魔闘演武三日目、盛り上がってきている中で恒例のエキシビジョンマッチが始まろうとしていた。
「さて、今回のエキシビジョンマッチですが……なんと!
実況の声で、会場には歓声が広がる。そして、その歓声の中で選手が二人入場してきていた。
「まずは剣咬の虎から!リザーブ枠を使った登場!クォーリ・クーライ!」
若干青みがかった白髪の男、片手を天に突き上げながら登場してきていた。
「そして妖精の尻尾Bからは!マルク・スーリア!!」
「……よし!」
これまた会場は歓声に包まれる。意識を戦闘一色に染めて、今二人の男がぶつかる。
「……お前、
「ん?そうだけ……ですけど?」
自分より年上、一応敬語を使うマルク。だが、男はそんなことはどうでもいいのか、マルクに顔を近づけて言い放つ。
「俺も、滅竜魔導士。けど……お前ら旧世代とは格が違う第三世代の滅竜魔導士。」
「……第三世代?」
「後でお仲間にでも教えて貰った方がいい、例えばナツ・ドラグニル。」
「……」
鳴り響く試合のゴング。マルクは一応出場予定だったミストガン……ジェラールのことをふと思い出していた。
今回はラハール、評議院がゲストとしている以上参加出来ないのもしょうがないことだというのは、マルクも理解しているが……
「まったく……!」
「まずは挨拶替わり!氷竜の領域!!」
クォーリが両手を一気に広げると、冷気のようなものが広がって大魔闘演武の会場……観客席にまで及ぶことはないが、少なくともバトルフィールドはすべて凍りついた。
「こ、これは……うぉっ!?」
「すかさず氷竜の咆哮!!」
全て凍りついてしまったせいで、動きづらくなってしまっているマルク。しかも、ただ凍りついているだけでなく何本か巨大な氷の棘のようなものが、何本も生えていた。
「う、動きづらい……」
「滑って回避たァ幸運!!けどそんなのはいつまでも続かない、一気に凍結!!」
動きづらいマルクに変わって、クォーリはまるでその氷の上を自由自在に滑るように移動していた。
「氷竜の牽制!!」
「っ!足が……!」
クォーリが地面を叩くと、マルクの足元にある氷が一気にマルクの膝下全て凍らせる。
身動きの取れなくなったマルクに対して、クォーリは高くジャンプして巨大な魔力の塊を生み出し、それを氷に変える。
「これが俺の必勝パターン!!滅竜奥義、氷山一殺投《ひょうざんいっさつとう》!!」
「でかっ!?」
まるで氷山のごとき巨大な氷の山。それをクォーリは反対に向け、先端をマルク目掛けて落としていく。
「はっはー!これでジ・エンド!!」
「……な訳ねぇだろうが!」
自分の足の氷を、すべて魔力で粉砕してマルクは一気に滑る。魔力をブーストさせれば、滑って移動できることに気づいたのだ。
「何っ!?」
標的を見失った氷山は、そのまま地面に激突して膨大な冷気を撒き散らす。そのせいで会場の温度は、少し下がっていた。
「……俺の氷は、特殊な氷。スティングやローグも砕くのに、分単位で時間を浪費するはずなのに、いとも簡単に割れる男がいるとは……信じられない。」
「生憎、俺の魔力も特殊な魔力だ。氷にあった魔力を食ってしまえば、全部タダの氷だ…」
「……魔力を、食らう?」
そのワードがスイッチだったのか、クォーリの顔が一気に憤怒の色に染まる。
少し驚いたマルクだったが、それに臆することなく逆に警戒を一気に強めていった。
「最強ギルド剣咬の虎……そのギルド以外に、まるで王の如きその力を持つギルトなどありえない!信じられない!」
「……最強、ねぇ。」
「そんな力は認めない……!絶対に、絶対に!!」
一気にマルクは、クォーリに詰め寄られる。その手はマルクの体に伸びようとするが、同じ要領で魔力を足に貯めて飛ぶことで、距離を稼ぐ。
「そんな方法でいつまでも逃げられると!!氷竜の━━━」
「思っちゃあいないさ、魔龍の━━━」
「「咆哮!!」」
ぶつかり合う二人のブレス。通った地面を即座に凍らすほどの強力なクォーリのものと、魔力を吸収するマルクのブレス。
「ぐっ!?」
「このまま……!」
そんな二人のブレス、マルクの方が段々と押し始めてくる。それを悟ったのか、クォーリは即座にブレスの方向を変更してマルクのブレスの直線上から避けるように動く。
「がぁッ!!」
「ブレスの方向転換とか、無茶するな……!」
「お前を凍らせて剣咬の虎を勝利!!」
「それしか頭にねーのな!!魔龍の尾激!」
逃げたクォーリを追うように、マルクはその足に貯められた魔力でクォーリに攻撃を行う。
「甘い!氷のフィールドは俺の庭!!」
「あっ!しまっ……!!」
勢いよく飛び出してしまったせいで、マルクの足は大魔闘演武のフィールドの地面に突き刺さってしまう。
しかし、一応砂だけなのですぐに抜け出すことは可能である。
「その抜け出す一瞬さえあれば攻撃が出来る!!」
「ぐっ……!」
冷気をまとった拳で殴りつけるクォーリ。魔力を吸収するマルクにとって、その一撃は大したダメージにはならない。
しかし、殴られた部分が少しだけ凍ってしまって、少しだけ焦る必要があるとマルクは即座に思いたった。
「だらァ!」
「おっとおっと……どうしたどうしたー?全くもってのろい攻撃!!」
「くっ……」
マルクはクォーリに拳を振るうが、それは避けられてしまう。マルク自身、クォーリに言われるまでもなく自分の体が鈍くなっていくのを、感じていた。
「ヤジマさん、これは一体……」
「うん……多分、今あそこのフィールドは極寒になってると思うよ。凍ってるんだから当たり前の話なんだけど。」
実況席がそう解説する。実際問題、今のマルクは寒さで動きが鈍っていたのだ。
「ははは……!さーて、そろそろトドメ!」
「……」
自ら出る白い息に、マルクは呆れる。と同時に目の前にいる滅竜魔導士が攻撃力を武器にしている者ではないと、ようやく理解する。
「……寒いなら、動けないなりの戦い方を……!」
「滅竜奥義……!」
拳に先程までの比ではない程の冷気が集まっていくのを、マルクは感じ取っていた。
「
この一撃は、受けるべきではない。マルクは、逃げられない攻撃を防ぐために動く。
「滅竜奥義、紫電魔光壁!!」
ニルヴァーナすらも封じるこの一撃。マルクは自分の目の前にそれを展開して、相手の攻撃が通らないようにする。
「何っ!?」
「今回は、タイムアップまで付き合ってもらうぞ?氷の滅竜魔導士!」
「抜かせトカゲ!!」
防がれたその一撃。だが、ニルヴァーナをも防ぐこの壁は、本来は叩きつけられた魔力を完全にシャットアウトする技なのである。
つまり━━━
「っ……!?」
膝を着くクォーリ。いきなりごっそり魔力が減ったことに対して驚きを隠せないでいた。
「俺の、この技は……叩きつけられた魔力を『全部』吸収する……」
「……
「そういうこと……!け、けど……」
自身の体を抑え始めるマルク。あまりにも、あまりにも寒いのだ。何せ、フィールドそのものが凍っている上に、クォーリの使う技はどれも冷気を伴う。その冷気はフィールドに溜まってしまっていたのだ。
「お前も、寒さで動けなくなってきている……!」
「ちっ……まさか、こんな戦い方をするなんて……」
「それ自体はおまけ……魔力こそ持っていかれたが……それでも貴様を倒せる。」
お互いに膝を着く。特にマルクは、寒さでどうにかなりそうになっていた。
「……氷竜の…!」
「っ!!やば魔龍の……!」
再びブレス体勢に入るクォーリ。いきなりだったが、マルクもそれを対処するようにブレスの準備に入ろうとする。
「……なんて、な!!」
「っ!?」
しかし、クォーリはブレスを放つことは無かった。代わりに、マルクに魔力ブーストで無理やり距離を詰める。
だが、寒さで鈍っているマルクにはその戦法は対処できなかった。
「魔力を奪う魔龍?ただのトカゲが龍ごっこをしてるんじゃ……ねえ!!氷竜の凍拳!」
「がっ!!」
一撃、重たいのがマルクに打ち込まれる。しかしそれだけでは終わらせず何発も何発も殴り続けた。
「お前がっ!!」
顔面、頬、腹、胸……あらゆる所をクォーリは殴りつけていく。
「滅竜魔導士なんて!!」
吐き捨てるように言いながら殴り続ける。マルクが殴られたところは徐々に、氷がまとわりついていく。
「お前は……ただの化物ッ!!」
そして、最後に強力な蹴りをマルクに打ち込んで吹き飛ばす。マルクは壁まで吹き飛ばされてめり込んでいた。
「……魔力なんてもん、食える滅竜魔導士がいてたまるか。そりゃあもうただの化け物。」
「こ、これは……勝負あったかー!?」
観客席が、それで決着がついたと思って騒ぐ。『やはり剣咬の虎は最強だ』と言わんばかりに。
実際、マルクは少ししか動けてなかった。
「へ……当然だ、俺達はセイバー━━━」
「いや、ハマって動けねぇだけだ。あと寒いから体が上手く動かない。」
「……は?」
体をなんとか動かそうとするマルク。打撃を与えられて、氷がまとわりついているところは、『これが証拠だ』と言わんばかりにマルクにすぐに剥がされる。
「……こんなチンケな氷で、俺は倒されねぇよ。もっと冷たくて、綺麗な氷を俺は知ってるしな。」
「……そうか、なら……!これを受けてもそんな口聞けるか!?」
クォーリは完全にブチ切れて、マルクの元へと突っ込んで行く。だが、マルクは一切動こうとはしない。
「氷竜の……吹雪!!」
先程のブレスと似たような構えをとるクォーリ。だが、何かが違っていた。
「がぁッ!!」
マルクとクォーリの間の頭上にうち放たれる魔力。それは雲のように広がっていき、マルクに猛烈な『雪』を当てる。
「俺のもう一つのブレス!この雪はそれぞれ一つ一つが小さな氷の槍!お前の体をこれで穴だらけ!!」
雲のように広がった魔力がだんだんと小さくなってくる。だが、それとは逆にマルクのところには大量の雪が積もっていた。
そして、雲が完全に消える頃にはマルクは完全に見えなくなっていた。
「マルク!!」
「ん……?あぁ、天竜。そういや、同じギルド……ま、今は聞こえてない。」
「しょ、勝者クォーリ・クーライ!」
実況席からの勝利者宣言、妖精の尻尾Aが来ようとしていたが、その前にラクサスが先にやってきていた。
「おい、出られそうか?」
「んむーんむむー」
「まぁこんだけ雪が積もってちゃあ、無理だろうな。今回だけだぞ。」
そう言ってラクサスは雪の塊に向かって、雷の一撃を打ち放つ。雪は簡単に消し飛び、マルクを動けなくしていた瓦礫もすべて吹き飛んでいた。
「いやぁ、助かりました。えっと、あとその……すいませんでした。」
「いい、点数は入らねぇしな。」
「おっと、どうやらマルク選手、本当にまだ動けるみたいです。」
実況からの声、その言葉でクォーリは自身の心に何か怒りめいたものを感じていたのだが……それがわかるやつは今この場に誰一人としていなかった。
「つーか、最後のやつどうやって回避した?」
「身体中から魔力をドバーって……まぁおかげで、魔力すっからかんですけど……」
マルクはそう呟いてクォーリの背中を見る。ダメージはほとんど無かったとはいえ、惨敗も惨敗である。
次戦える時が来るなら……まずあの寒さをどうにかしなければならないと思ったマルクなのであった。