「……っ!?ウェンディ下がれ!!」
「え……きゃっ!?」
マルクに押し飛ばされるウェンディ、地面に倒れ込むが倒れ込む瞬間に見えた小さな黒い影が、マルクに襲いかかってるのが見えた。
「な……魔力、が……!?」
「マルク!?マルク!!」
黒い影とぶつかって意識を失うマルク。マルクの顔色が倒れる直前と比べて明らかに悪くなっている。原因は明確だった。
突然襲いかかってきた黒い小さな生物。あれに触れられただけで終わりなのだと、ウェンディは感じ取っていた。
「シャルル!ギルドの皆を━━━」
マルクを放ってはおけない、しかし助けを呼ばないことにはどうにもならない。
ウェンディはシャルルに咄嗟に頼み込んで、ギルドの方に飛んでもらおうとしていたが━━━
「━━━え?」
目の前には既に謎の生物が、そして視界の端には倒れるシャルルが。予想以上の速さと機動力。マルクの魔力を吸ったその直後には既にシャルルの魔力も吸っていたのだ。
「そん、な━━━」
そして、ウェンディもその場で意識を失った。あの生物は一体何なのか、それを考える時間すらもウェンディには用意されてなかったのであった。
「……ぅ…」
「起きたかい。」
マルクが目を覚ますと、そこは見慣れない部屋だった。そばにはベットがもう1つ。ウェンディが寝ていた。
そして、ベットの間にはポーリュシカが椅子に座ってマルクを見ていた。
「……ここは?」
「大魔闘演武……会場の医務室さ。」
そう聞いてマルクは勢いよく起き上がる。大魔闘演武の医務室という事は、つまり会場が既に使える状態にあるということである。
「だ、大魔闘演武は!?」
「落ち着きな……一日目が終わったところだよ。と言っても……
「妖精の尻尾が……2つ?」
「……
映像を見てマルクは全てを知った。ラクサス、ミラジェーン、ミストガンに扮したジェラール、ガジルにジュビア。それらのメンバーがBチームとして参加していること。
そして、マカロフの息子であるイワンが作り上げた闇ギルド、
そして、グレイやルーシィに恥をかかせたこと。場外からの参加は本来認められていない。しかし、目を掻い潜って試合の中でその妨害を実行していたこと。
「……今から、参加って出来ますか?」
「……リザーブ枠というのがあるね。前までは1つだったらしいが……今回は2つ。
AチームとBチーム、どっちかに着くかはあんた自身で考えな。」
「……ルールとか、今から把握しておきます。」
大魔闘演武、プログラム表。
一日に競技パートとバトルパートの二つがある。競技パートは、チーム内からチーム自体が1人を選んで参加し、競技を発表し、競技を行って1位~8位までの順位をつけて、その順位によってポイントが割り当てられる。
バトルパートは主催者側がチーム内から自由に選び、選手を決める。A~Hまでの八チームがそれぞれ2チーム1組、例えばAとBの対戦、CとDの対戦、EとFの対戦、GとHの対戦といった風に1日に四戦行い、勝てば10ポイント、負ければ0ポイント、引き分けの場合は両方に5ポイントずつ割り振られるというものである。
「……そうそう、二日目から競技パートの前にエキシビジョンマッチが行われることになったらしいよ。競技パートのように各チームから選手が自由に選べて、バトルパートのようにランダムで対戦が組まれるらしいね。」
「……つまり?」
「あんたの運が良ければ、あんたの魔力の大半を持っていったやつと戦うことが出来るってわけさ。ま、本当に運が良かったらだけどね。」
「大鴉の尻尾……!」
ウェンディに視線を向け、マルクは拳を握る。側においてあった服を持って医務室から出ようとする。
「あんた、もう回復したのかい?」
「あいにく、魔力切れを起こしていてもすぐに回復できる体なんですよ。他の人と比べてね。」
「……あんたは、ほぼまる一日寝ていた。それは魔力を補充させていたからかい?」
「多分、そうじゃないですかね……ウェンディをお願いします。それと……ありがとうございました。」
そして、マルクはポーリュシカに礼を言った後に、部屋を出るのであった。
大魔闘演武二日目。
エキシビションマッチに出たのは青い天馬《ブルーペガサス》のイヴと蛇姫の鱗《ラミアスケイル》のトビー。トビーの爪は一度でも当たれば大抵の者ならばピンチに陥ってしまうのだが、如何せん爪なので当てづらいという欠点がある。
「というか20超えて弟キャラってなんだよ!!」
「そこにキレられるとは思わなかったよ……僕もちょっとそろそろどうかな、とは思ってるけどね。」
そして、イヴの魔法は雪の魔法。その魔法で、初日はかなりの大金星を上げかけていた。
だが、そもそもの魔法の相性が悪かったのか……
「アオォーン……」
「ふぅ、危なかった。」
1度目のエキシビションマッチはイヴの勝利。得点は入らないが、イヴに対しての黄色い声援は入っていた。
そして本番の競技パート『
「この競技は連結された戦車の上から落ちないようにゴールを目指すというものです。」
実況、チャパティ・ローラのルール説明の元、競技が始まる。解説には元評議院ヤジマ、日替わりゲストに週間ソーサラー記者のジェイソンが入った実況席は戦車の映像を見る。
「ただス、普通のレースじゃないんだよなぁ……」
「COOL!COOL!!COOL!!!」
「足元の戦車は常に動いているため、一瞬の気の緩みがミスへと繋がります。クロッカスの観光名所を巡り、ゴールであるここ、ドムス・フラウに一番に到着するのはどのチームか!?
会場の皆さんには
「COOL!!」
しかし、妖精の尻尾のメンバーたちはその光景を見て唖然としていた。観客席も似たようなことになってるが、実況席はそのまま実況を続ける。
「それにしてもヤジマさん、こんな展開誰が予想できたでしょうか?」
「うーむ……」
その反応も、選手席にはいない妖精の尻尾達が同様の反応を示していた。
「……ナツさんの事だし、予想しなかったってことじゃないと思うけど━━━」
「なんと!先頭より遥か後方、妖精の尻尾Aナツがグロッキー状態です!それだけではありません。そのすぐ近くで妖精の尻尾Bガジルと
「━━━あの二人に対抗したかったのかそうでないのか、どっちにしろこういう結果になるのはわかってたと思うんですけどね……」
乗り物に弱いナツ。その近くでガジルとスティングがナツと同じように、乗り物酔いを起こしていた。
「どうなってる?何でガジルが……」
「ナツのキャラ取らないでよね……」
「セイバーの人まで……」
「……
「え、じゃあマルクも?」
「……そう言えば、修行の帰りの時気分が悪かったような気がします。」
「さぁ、先頭集団の方を見てみましょう。こちらは激しいデッドヒートが繰り広げられています!」
映像が打って代わり、先頭集団の残りの五人の方に代わる。
先頭から順に、大鴉の尻尾からは服も髪も目も真っ黒で、文字通り名で体を表しているクロヘビ。
|青い天馬からは旧知の仲である一夜。
|蛇姫の鱗からは波動使いのユウカ。
それと加えて先程の3人で合わせて8人である。
「波動……あの中だと魔法が打ち消されるってグレイさん達から聞きました。」
「先頭パートでぶつかる場合、波動に気をつけなければいけないということか。」
マルクとリリーがその場で解説する中、一気に先頭集団に動き始める。
「出たー!リズリーの重力変化!波動をかわして戦車の側面を走るー!!」
ユウカの波動ブースト。戦車のルール上、一応は競走なので自身の速度を上げられるこの技はとても相性がいいと言える。
だが、その波動をかわすために、リズリーは自身の魔法である『重力変化』を使って戦車の側面を走る。あくまでも戦車の上部表面しか、波動は広げられてないのでかき消されることもないということだ。
「重力変化か……そう言えば
「ブルーノート……だったっけ?ギルダーツさんが倒したっていう、あの。」
悪魔の心臓の1人ブルーノート、ナツ達を苦しめた相手だとマルクは聞いていた。そのブルーノートと似たような魔法を使うリズリーを見て、少しだけリリーは考え込んでいた。
「━━━俊足の
「うわぁ……」
魔法をかき消されないためには、それ相応の対策が必要……そんなことはマルクも分かっていた。だが、一夜のお世辞にも整っているとは言いづらい顔で、瓶を2つ鼻の穴に入れて魔法によるバフをかけるのは、言いようのない嫌な気持ちになっていた。
「ほぉう……頑張ってるなぁ……魂が震えてくらァ……俺も少しだけ、頑張っちゃおうかなぁ……よいしょオオオオオオオオ!!」
映像ラクリマから聞こえてくるバッカスの声。その直後に轟音が響き渡る。バッカスがやったことは、足を振り上げて勢いよく振り下ろしただけ。だが、その動作だけで━━━
「こ、これは!!バッカスのパワーで戦車が!!崩壊!!」
会場にいる者達は、全員がバッカスのパワーに驚いていた。蹴りでもなんでもない、四股踏みのようなその一撃だけで大きな戦車が破壊されたのだから。
「おっ先ぃー!!落ちたら負けだぜ!!」
「あんなパワー……しかも、あれだけのパワーを持っていて、技術と器用さが必要な戦闘技術も持っている……」
「ガジルの鋼鉄の鱗と言えど……あの一撃はかなり堪えるかもしれんな……」
リザーブ枠として出るかもしれないと考えてるマルク。しかし、魔力だけを食らうマルクとは勿論、相性の悪い相手なことは、確実であった。
「わははははははは!!震えてくらァ!!」
そして、そのまま勢いよく走り抜けてバッカスはクロヘビを追い越して一位を獲得。
「そのまま一着でゴール!四つ首の番犬10p獲得!続いて2着!大鴉の尻尾クロヘビ!三着リズリー!四着ユウカ!五着一夜!」
「さて、残るは……」
「滅竜魔導士達か……」
映像はまたうってかわり未だゴールをしていない……滅竜魔導士達にシフトする。
「残るは情けない最下位争いの3人ですが……」
映し出された映像からは、仲良く三人全員乗り物酔いを起こしている滅竜魔導士達がいた。
魔法は使えない、ずっと乗り物酔いを起こしている……それが面白いのか、それを見て観客達は笑っていた。
「うおおおお……!前へ、進む……!」
「カッコ悪ぃ…力も出せねぇのにマジになっちゃってさ……」
「進むぅぅぅ……!!」
何がなんでも進もうとするナツとガジル。そんな様子を見てスティングは呆れの眼差しを向けていた。
「……一つだけ聞かせてくんねーかな。何で大会に参加したの?あんたら……昔の妖精の尻尾からは想像できねーんだわ。ギルドの強さとか、世間体的な物気にするとか……
俺の知ってる妖精の尻尾はさ、もっとこう……マイペースっつーか、他からどう思われようがきにしねーつーか……」
「━━━仲間の為だ。7年も…ずっと、俺たちを待っていた……どんなに苦しくても、悲しくても……バカにされても耐えて耐えて……ギルドを守ってきた……仲間の為に、俺達は見せてやるんだ。
妖精の尻尾の生きた証を!だから前に進むんだ!!」
ナツから絞り出される言葉。その言葉に、観客席にいる妖精の尻尾のメンバー達のほとんどは、涙していた。
マルクとリリーは泣きこそはしなかったが、その言葉に嬉しさを感じていた。そして━━━
「ゴール!!妖精の尻尾Aナツ!6位!2P!妖精の尻尾Bガジル!7位!1P!剣咬の虎スティングは、リタイアにより0Pです!」
一般の観客席から沸き起こる拍手、ナツとガジルに向けられたその拍手にマカロフは涙し……その隣にいた初代も嬉しそうな顔を浮かべていた。
「そう言えば初代いつから……」
「昨日からだな。暇だから天狼島を抜け出してきたと。」
「初代……」
競技が終わったあとに出される疑問。マルクはリリーの言った答えに、初代に対して苦笑いを浮かべていたのであった。