ナツ達が帰還してはや2週間が過ぎていた。その間に、雑誌や新聞にそのことが乗ってフィオーレ中がその情報で溢れていた。
そんな中、ナツ達はロメオからとあるギルドのことを聞かされていた。
「セイバートゥース?」
「剣咬の虎、セイバートゥースさ。それが、天馬やラミアを差し置いて現在フィオーレ最強の魔導士ギルドさ。」
「聞いたことねぇな。七年前はそんなに目立ってなかったんだ。」
「って事はこの7年で急成長したのか。」
「ギルドのマスターが変わったのと、ものすごい魔導士が5人加入したのが強くなったきっかけだね。」
たった5人、片手で足りるような人数が加入しただけで変わるようなものなのか?と疑問に持つ者もいれば、それを楽しみに待つ者もいた。
「たった5人でそんなに変わるものなの?」
「俺達が天狼島ごと消えてた時のことの逆が起きてる、といえば話は簡単でしょうけどね……マスター変更でギルドの方針が変わったのもありそうだ。」
「ほおう、いい度胸じゃねぇか。」
「因みに私達のギルドは何番目くらいなんですか?」
「それ聞いちゃうの?」
「ウェンディ、聞くまでもないでしょ……」
「え?」
ウェンディのその質問で、一部が苦い顔をする 。ウェンディとしては何気ない質問のつもりだったのだが━━━
「最下位さ。」
「超弱小ギルド。」
「フィオーレ1弱いギルド。」
「ああああ……ごめんなさい……」
その言葉で落ち込むウェンディ。マルクが慰めていると、ナツが楽しそうに笑いながらテーブルに登る。
「かーはっはっはっ!そいつはいいっ!!面白ぇ!!」
「は?」
「だってそうだろう!?上に登る楽しみがあと何回味わえるんだよォ!!燃えてきたァー!!」
ナツのその言葉で、グレイは呆れていたが内心は同意していた。そして、周りのみんなもナツの言葉に呆れつつも笑顔で同意していたり、そのまま同意していたり……ともかく、ナツの言葉を否定する者はいなかった。
「ねぇ、あんたらギルダーツ見なかった?」
「なんだよ、いつもパパが近くにいねーと寂しーのか?」
「バカっ!!」
カナがギルダーツの行方を聞くが、それをグレイが茶化す。しかし、父親との話題は今はあまり挙げないのが暗黙の了解になっていた。
「あ!悪ぃ……」
「ううん、いいよ気にしなくて。」
ルーシィの父親は、七年の間に死去。その事をついこの間知ったルーシィ。周りもその話題に触れることはしなかったが、今回グレイはつい口を滑らせてしまっていた。
ルーシィ本人は、何とか立ち直ったようで気にしていなかったが。
「ギルダーツならマスター……いや、マカロフさんと呼ぶべきか……」
「マスターでいいんじゃない?」
「マスターと旧
「じゃ、今の内に仕事行っちまうか!」
そう言って、カナは酒樽を担いでそのまま仕事へと向かう。旧妖精の尻尾、今は山奥の小さな小屋にギルドを移しているが、七年前まで使っていた大きな建物に二人はいると聞いて、少しだけマルクは疑問を感じていた。
「旧妖精の尻尾かぁ……」
「マルク?なにか気になることでもあるの?」
「いや……何でわざわざあそこに向かったのかなって。」
「忘れ物でもあったとか?」
「………うーん、マスターに帰ったら聞いてみようかなぁ。」
と、少し考えようとしていた矢先に、突然大声が響き渡る。どうやらナツとマックスが口喧嘩のようなものを広げていたらしい。
「マックス!やるかぁ!?」
「だからその手合わせするって今から言ってるじゃねぇか……」
「どうしたんですか?」
気になったマルクは、二人の間に入ってわけを聞き始める。
「いやな、上に登る楽しみを味わうためにはまず強くならないといけないぞって俺が言ったんだよ。」
「俺達なら余裕でいけるって言い返してやったんだ!」
「だったら今から俺と手合わせするか?って話になって……」
「今この状況と……でも何で急に手合わせを?」
マルクが質問すると、マックスはニヒルに微笑みながら少しキメ顔で伝える。
「簡単だ……七年って歳月がただ俺たちを弱くしただけだと思うなよ……って事だ。」
「それ前から考えてました?」
「バレた?」
「とりあえずマックス外でろやぁ!!」
ナツに引っ張られて、マックスも外に出る。ほかの面子は、少し顔を見合わせたあとにそれぞれ二人の後を追うように外に出るのであった。
ありえない可能性ではなかった。しかし、七年前から取り残されていた天狼島帰還組はその可能性を考えられなかった。
七年という月日、それがあまり現実味のない事として認識していたのか、それともただ単純にありえないと自負していたのか。
だが、現実はすべて目の前に起こっていることで完結しているのだ。
「マ、マジ……で?」
「俺らだって7年間何もしてなかった訳じゃねぇ。それなりに鍛えてたんだ。」
地面に尻餅をついているナツ、そして立っているマックス。七年前まではありえなかったその光景が、目の前で起きていたのだ。
「ナツさんが……」
「マックスに勝てないの?」
「もう一度だオラァ!!うおおおおおお!!」
激しくラッシュを決めに行くナツ。しかしその全てをマックスは避けていく。掠りもせず、まぐれでもなく。淡々とかわしていく。
その合間に、周囲の砂を使うマックスの魔法が使われる。
「
「うあぁ!!」
砂の一撃が、ナツを吹き飛ばす。確かにナツはマックスに押され気味ではあったが、ただ負けるだけで終わる気がなかった。
「燃え尽きろぉ!!」
炎を出して、ナツはマックスの砂を吹き飛ばし返す。その砂達は周囲に散って軽い砂煙が上がっていた。
「うわぁ! 」
「ちょっとぉ!!」
「ケホケホ!」
「ナツー!頑張れー!!」
ギャラリーが砂煙に困惑している中、そのナツはそのままの勢いでマックスに向かう。
「火竜の……鉄拳!!」
「
しかし、ナツの攻撃はマックスに封じられてしまう。後一歩足らず……という状況が生まれてしまっていた。
「ぬうぅ……!」
「七年前とは違うぜ……!」
「信じらんねえ!あのマックスが!!」
「ナツを押してんのか!?」
「ひょっとして俺達もナツに……」
ギャラリーが沸き立つ中、ナツは魔力をどんどん使っていく。そのままの勢いで━━━
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!モード雷炎竜!!」
「っ!?」
「まさか!」
「ハデスとの戦いに見せた……!?」
雷と炎を纏う雷炎竜。その攻撃力、速さは火と雷が一つになった故に生まれたもの。単純計算で言えば
「雷炎竜の━━━」
「ちょ、なんだよそれ……!」
「咆哮ォォ!!」
口から出されるブレス。ハデス戦の時のような超火力は望めないが、それでも山の地表を少し削りかなり遠くまでそれが続いていた。
「……何処まで山削った?」
「あい……見えないよ。」
「クソォ!あのときほどのパワーは出ねえな!!」
「いつの間に自分のモノにしたの!?」
「今。」
「ま、参った……降参だ……あんなの食らったら死ぬって……」
雷炎竜の力を見せつけられ、ナツに降参を申し出るマックス。それを見た他の取り残された組も、ナツに対して七年前と同じような力の差を感じていた。
「次はどいつだ。」
「ヒィー!!」
「やっぱつえぇ!!」
「バケモンだァ!!」
「かーっかっかっかっ!」
笑い声をあげた瞬間に倒れるナツ。元々雷炎竜自体が、とてつもなく魔力を消耗する為に、すぐ倒れてしまうようだった。
「やっぱり魔力の消費量がハンパないんだ。」
「ナツ、それ実践じゃ使わない方がいいよ。」
ルーシィとハッピーがナツを労る中、ウェンディとマルクはマックスに称賛の声を上げていた。
「でもマックスさんも凄いです。」
「確かに……滅茶苦茶強くなってましたもんね。」
「世辞なんかいらねぇよ二人とも。」
しかし、ナツと一応は互角にやりあったマックスの力を見て、シャルルが疑問の声をあげる。
「だけど、そのくらいの力があったらオウガに好き勝手やられることもなかったんじゃないの?」
「そうかもしれねぇが……」
「金が絡んでたからなぁ。」
「力で解決する訳にもいかんでしょ。」
「マスター達はやっちゃったけどね。」
「……だな。」
それらとギルドによる損害賠償や暴力などが積み重なった結果、マカロフ、エルザ、ミラの3人でオウガを潰したという話。ギルドとしては未だ残っているが、もはや逆らうこともないだろう。
「しかし、こいつァ思ったより深刻な問題だぞ。」
「グレイ!」
「元々バケモンみてーなギルダーツやラクサスはともかく、俺達の力はこの時代についていけてねぇ……」
「確かに……ナツでさえあのマックスに苦戦するんだもんね。」
「あのマックスさんに。」
「さっきのは本当に世辞だったのか!?」
「なんか一気に魔力を上げられる方法ないかなぁ……」
「つーわけで。」
「帰れ。」
とある森の中、巨大な木の幹を家としている者がいる。妖精の尻尾の顧問薬剤師のポーリュシカという女性である。
しかし、いざ訪ねてみるとその扉は話を聞く前に閉じられてしまった。
「ポーリュシカさん、なんかいい薬とかないんですか?」
「一気に力が100倍になるのとかー!」
「流石に都合よすぎかぁ……」
ルーシィ、ナツ、グレイの3人がそれぞれの反応を示す中、ウェンディは何かが気になっているような反応をしていた。
「どうしたのウェンディ?」
「ううん……」
「気分悪かったらおぶってやるからな?」
「うん、ありがとう━━━」
マルクに礼を告げようとした瞬間、ポーリュシカの閉じた扉が再び開く。
「お!?」
「人間は嫌いなんだよ!!帰れっ!!帰れーっ!!しーっしーっ!!」
出てきたかと思えば箒を振り回して追い返そうとするポーリュシカ。その剣幕に押されて全員が一旦元来た道を戻っていく。
「失礼しましたー!!」
「なんだよあの婆ちゃん!!」
「じーさんの昔の恋人━━━」
「違うわボケ!!」
追い返される中、ウェンディはポーリュシカの方に視線を向ける。その様子が、マルクには気になったのであった。
「もぉー、誰よポーリュシカさんのとこ行こうって言い出したの〜…」
「ルーシィ……」
「とんでもねぇばーさんだな。」
全力で走って逃げてきた一同。息を切らせながら、一旦離れたところで休憩していた。
「人間嫌いとは聞いていたけど……あそこまでとはね。」
「オイラ猫なんだけどなぁ……」
「何であの人顧問薬剤師なんてやってるんだ……」
それぞれが疑問を持つ中、ウェンディだけが黙って肩を震わせていた。心配になったマルクは近づいて慰めようとするが━━━
「ウェンディ、大丈夫……ウェンディ!?」
「ちょ、どうしたの!?」
近づいて確認すれば、ウェンディは涙を流していた。ポーリュシカが原因だとすぐさま理解したマルクは、殴り飛ばそうと心に決めてしまう。
「あんのばっちゃん!ウェンディを泣かしたなぁ!!」
「違うんです…懐かしくて……」
「なつ、かしい……?」
ウェンディの言葉で、殺気立っていたマルクも少し落ち着く。シャルルやマルク、ウェンディはポーリュシカと会うのは一応初めてではあるのだ。しかし、ウェンディは懐かしいと言った。それが疑問となったのだ。
「ウェンディは会ったことあるの?」
「ううん……今さっき、初めてあったはずなのに……懐かしいの……あの人、声が……匂いが、
ウェンディから発せられる衝撃の言葉。この自体は一体どういう事なのか……衝撃と、その疑問だけが一同にはあった。