マルク達が生活費を稼ぐために、仕事に来た場所。受けた依頼は村を荒らしている猪達の退治だった。
しかし、巣だと言われた場所にはマルクはガジルと共に向かったが、猪がおらず、代わりに床の下に謎の
そして、突然村に現れた猪達から逃げてきたウェンディ、シャルル、リリーと合流してこの猪たちを撃退、逃げた猪達を追って再び村に入った一同だったが、村人達は猪達のことを認識しておらず、猪達も姿を消すという不思議な出来事となった。
仕方なく、マルク達はその日は一旦泊まって休むことにしたのであった。
「……」
「どう、しようか…」
そして、翌日。借り受けた家にて一同は円を組んで話し合いをしていた。しかし、どうにもこうにも進展がなかった。
情報は多いとは言えないものの、決して少ないというものではない。しかし、それが一つの事柄に関係していることなのか、はたまた全く別の問題なのか……そういうのを全く判断出来ないでいた。
「……マルク達が見つけたっていうラクリマ、その魔力は吸ったんだよね?」
「あぁ。吸った後に一旦村に戻ろうとしたらウェンディ達が猪に追われていた。」
「リリー達の方は特に進展はあったのか?」
「お前達とほぼ似たようなものさ、ガジル。怪我人の治療を手伝っていたら、知らず知らずのうちに猪に囲まれていた。」
ウェンディ達が味わった疑問『村人はいつ声もなく避難したのか』
初めにウェンディが囲まれていた時、怪我の治療に専念していたウェンディが集中していたせいで聞こえなかった、というのなら話は早いが、それをシャルルやリリーが見逃すはずがない、というものであった。
そして、囲まれた時と同じように村に猪が逃げた時も特に悲鳴らしきものを聞き取っていなかった。
「……ガジル、お前はなにか引っかかっているようだな。何か分かっているのか?」
「……あくまで推測だ。
けどよ、俺ァ思うんだよ。村人達が猪なんじゃねぇのかってな。」
「……流石にそれは突拍子も無さすぎじゃありませんか?喋れる動物もいるから知能とかの話はしませんけど……流石に人間に化けれる様な種族がいるとは……」
「種族じゃなくてもよ、それっぽいものがあるじゃねぇか。あの遺跡のラクリマだ。」
「……あれが、どうかしたんですか?」
「ありゃあ隠してあった床の脆さからも考えて、かなり長い間眠ってた代物だ。つい最近……少なくともここ一、二年の代物じゃねぇ。
だが、それ以上の年月が経っているくせに魔力が衰えてる様子はねぇ。ありゃあ、多分何かしらの魔法の『基盤』だ。」
ガジルの推理に、マルクとウェンディが首を傾げる。しかし、エクシード組の二人はなんとなく理解をしていた。
「要するに、そのラクリマとやらが何かしらの魔法の発動に必要な魔力を補っていて、それが猪達を人間に変えているというのか?」
「そういうこった。」
「でも、それなら……ここの人達は皆猪に戻るんじゃないんですか?」
「だからよ……
「っ!」
ガジルが思いの外考えられていることに、マルクは失礼ながら驚いていた。ガジルはナツとおなじで、考えるよりも先に殴るタイプの人間だと思っていたからだ。
「おい、お前今ものすげぇ失礼な事考えてたろ。」
「いや、全くそんなことはありませんよ?」
ガジルの言ったことにマルクは目を背ける。しかし、すぐに真面目な顔に戻ってガジルの話を改めて理解する。
「……ということはやっぱり、この村の人が猪?」
「かも知んねぇな。なんで俺達を遺跡に向かわせたのかは謎だが……ま、その辺は自白させりゃあ済むだろうよ。
殴ってわからせりゃあそれで十分だ……ギヒッ…」
「そんな事しなくてもいいですよ……俺にいい考えがあります。」
「あ……?」
マルクが親指を立てて、外に出る。何をするか分からない一同だったが、自信満々な以上、一旦マルクに任せてみよう……ということになったのだった。
「……今からこの村一帯に魔力の壁を張ります。ちょっと四人にはきついかも知れないので……少しの間だけ村の外にいてください。人間になったイノシシというなら……魔力を吸い取ってその魔法を解いてやれば済む話ですからね。」
「魔力の壁?」
「正確にはおれの魔力が詰まった部屋みたいなものですけどね。これやると、俺の魔力がガンガン減るわ範囲にいる人達の魔力もガンガン減るわで……」
「分かった、しばらく出ていよう。何かあったなら、この信号弾を打ち上げてくれ。」
「あぁ……」
マルクはリリーから信号弾を受け取る。そして、4人が村の外に出たのを確認してから目を瞑り、魔力をゆっくりと放出していく。
魔法、と言うにはあまりにもおざなりなものだが、放出するだけでなくそれを村全体を囲うように作っていかなければならないので、集中していかなければならない。
リリーから渡された信号弾だが、使う暇があるのかどうかだけが彼の不安の種であった。
「……む?信号弾が打ち上がったな……色は…緑か。」
「赤が敵襲……要するにイノシシ共が現れた時のやつだったが…色から察するに、現れなかったって事か?」
「そうらしい…一旦マルクの所へ戻ろう。」
しばらくしてから、信号弾が打ち上げられる。色は緑、警戒することはあれど、イノシシが人に化けている事は無い、ということへの決定打でもあった。
そして、その信号弾を見てからガジル達はマルクと合流するのであった。
「……駄目ね、リリーと一緒に少し見回したけどマルクの言った通り、イノシシなんて村には湧いてないわ。」
「ちっ……じゃああの時逃げた猪共はなんだってんだ?」
「イライラするなガジル。もどかしいのは分かるが、焦っても何も始まらん。」
「わーってるよ。」
しかし、手詰まりなのも事実。猪達はいったいどこに消えたのか?その疑問だけが頭の中をぐるぐるしていた。
「……そう言えば、ずっと気になってたことがあるんです。」
思い出したかのように、声を上げるウェンディ。その言葉に、マルクは聞き返す。
「気になってたこと?」
「この村の人達って、あまり村から出ようとしなくて……いえ、村から出ないのはわからなくもないんだけど、その……
「……言われてみれば、確かにそうだな。」
「あ?どういうことだ?」
ウェンディとリリーの言っていることがいまいち理解できないガジルに、リリーが少し悩んだ後に説明を始める。
「ウェンディは、俺達以外この村から出入りしているものを見ていない……という事だろう。」
「んだよ、それの何が変なんだ?」
「ガジル、村の外に生えている木……あれがなにか分かるか?」
リリーの指差す先には、美味しそうな樹の実がなっている木が生えていた。
「ただの果物だろ?それが一体━━━」
ここで、ガジルもリリーの言わんとしてることが理解できたのか、口を噤む。
「……この村、
「そうだ……この村…畑がダメになってるのはわかるが、
猪に襲われる前ならば別に違和感はなかっただろうが……畑がダメになっているのに、外の果実に手を出さないというのは、少しおかしいのだ。」
村の外に生えている果実。数自体も決して少なくなく、生えている分だけでも村全員を補える程にはその実はなっていた。
毒があるからたべないのか、となるがいくつか虫食いになっていたり齧られたあとがあるものもあるので、毒の線も薄かった。
「……少し、話を聞いてみた方が良さそうですね、これ。」
「あぁ……村長に話を聞きに行くか。」
「村の人達から話は聞かないんですか?」
「余計につついて変な誤解を招きたくないからな……いや、誤解というより村人が暴走して、俺らに襲いかからないとも言えなくなってきてるし……それに、村の歴史を一番知っている村長に聞くのが容易いだろう。」
ウェンディの疑問を軽く説明して解消させて、改めてマルク達は村長の家へと向かう。お世辞にも広い村とは言えないので、村長の家という村で一番大きなものを見逃すこともなかった。
「……お話聞いてくれてありがとうございます。早速ですが……質問をしても宜しいでしょうか?」
「構わんよ。この村に関しての出来事なら……大体は答えられる。ボケて忘れてたりしなければの話じゃがな!はっはっはっ!」
村長の言葉に少しだけ呆れるものの、それどころではないのでさっさと話を進めよう……マルク達はそう頭を切り替えることにした。
「単刀直入に聞くぜ……この村はなんだ。」
「……なんだ、と申しますと?」
「畑がダメになったってのに、毒がある訳でもないのに村の外の果実に手を出さない。俺達が最初に猪の姿を見たのは村の中……そんでもって遺跡に住処を作っている猪共はどこにもいない。
俺達の以来は猪共の退治だ。だが、その肝心の猪が……この村の村人って可能性が出てきてる。
それを抜きにしたとしても……少なくとも、ここがただの古びた田舎の村だってのは通じねぇぜ。」
「……ふむ、なるほど。」
ガジルの言葉に、村長は髭を撫でるだけ。否定もしなければ肯定もしない。その様子をマルク達はじっと見据えていた。
「……そうですな。バレてしまったのならしょうがない……」
「やっぱりこの村は……!」
「えぇ……貴方達の予想通りと言うべきなのでしょうな。しかし……2日、そう……昨日と今日…これだけいれば間違いなく……
そう言いながら、村長は両手を掲げる。何かをすると睨んだマルクとガジルが先制攻撃で攻撃するが、攻撃したものは先程まで村長が来ていた服だけだった。
「消えた!?」
「いや……まだだ!!」
「━━━その通り。」
再び姿を現す村長。しかし、その体は人間のものとは違い黒い靄のような不定形なものへと変貌していた。
「てめぇ……何もんだ!!」
「はて……わしは何じゃったか……この村にいる人間に、恨みを抱いていたことだけしか覚えておらなんだ……しかし、そうだ……思い出した……醜く、ただ突進するだけしか脳がない猪という生物に姿を変えさせて、その肉を食らうことが使命……それが我が使命……」
「ちっ……ありゃあ何だ!?魔法か!?」
「確かに魔法です!なら俺の魔法で………!」
魔力を込めて長老だったものを殴るマルク。それはすぐに姿を消したが、すぐさま蘇る。
「ふはは……無駄よ、無駄無駄……我が怨念は消え去らん……」
「怨念だと……!?」
「あぁ……そうだ思い出した……この村は一度滅んだ……馬鹿な国だったか、それともギルドだったか……何かに滅ぼされ、そして住んでいた者達は呪いを受けた。
醜い猪の姿に変えられる呪い……定期的に訪れるそれに、一人また一人と耐えきれずに死を選んだ……残った者は儂だけ……しかし、わしは気づいた……村人にかけられた呪い……それが、村人達の死体によって土地に根付いた癒されることのない怨念になっていた事を……」
「……畑はダメになってたんじゃねぇ、元々駄目になってたってことか。」
「怨念に気づいてからは、わしは死んだ……しかし、肉体は滅べど村の怨念は消えなかった。
山に入る者を無意識的に山へ誘い、そこに入ったものを皆呪いの餌食にしていった……数を増やせたところで、ギルドや国に依頼を出した……馬鹿な者達が、次々と我が村の一人となっていった……」
そして、靄はマルク達に視線を向ける。表情は分からないはずなのに、マルクはその視線には笑みが含まれている様な気がした。
「そして……貴様らにも既に準備は整っているはず……呪いは時間が経つ事に重くなっていく……その呪いを、噛み締めろ……!」
「くっ!?」
光り輝き出す靄。それに目がくらんで、その場にいる全員が目を瞑った。無意識的に、それがイノシシに変える呪いなのだということを全員が感づきながらも、それを止めることが出来ないのであった。