FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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七年後編
再開


「……ク、……て……お…て、マ…」

 

マルクの頭に響く声。マルクはその声を知っている。マルクは、段々と微睡みから覚め始めてくる。

その覚める過程で、マルクは今までの事を思い出し始める。アクノロギアの襲来のことから始まり、初代が天狼島にいたメンバーの魔力を形にして発動させた魔法、妖精の球(フェアリースフィア)

その魔法の発動により、一時的な凍結封印に晒されて自分だけが意識を保てていたこと、魔力を喰らいながら初代マスターメイビスが魔法を解除する手伝いをした。

つまり、声が聞こえるということは、封印が解除されたということである。

 

「……きて、マルク……起きてマルク!!」

 

「………ウェンディ?」

 

「マルク!!」

 

目を開けたマルクにウェンディは抱きつく。ウェンディの頭を撫でながら、ウェンディ以外にもいるメンバーの方に視線を移す。

 

「……何年、ですか?ドロイさん、ジェットさん…」

 

「……7年だよ、この野郎!」

 

見る影もなく太ったドロイが、泣きながら笑っている。その他にいたのはジェットは勿論、銃の魔法を使うビスカとアルザック。そしてマックスとウォーレンだった。

 

「7年ですか……皆さん、初代に会ったんですよね?だからここに来れた。

いえ……探してたのは青い天馬(ブルーペガサス)と、蛇姫の鱗(ラミアスケイル)だったのは知ってますけど。」

 

「お、お前なんでそんなこと知ってんだよ……!?」

 

「話は後にしましょう?まずは……寝てる他の人たちを起こさないと。」

 

「そうだった!レビィ!!」

 

「あ、待てよジェット!!」

 

そう言って、自身の魔法を使ってジェットはものすごい速度で走っていく。

それを追うかのように、ドロイも追っていく。

 

「……というか、ナツさん怪我大丈夫ですか?」

 

「んー、なんか治ってた。痛くねぇし多分大丈夫だろ。俺達も行くぞー」

 

「はい!……ってわけで、ウェンディそろそろ離れてくれると助かるんだけど……動けない……」

 

「ご、ごめん……」

 

少し照れながら、ウェンディは離れる。そして、立ち上がって手を繋いで先に行ったメンバー達を追うのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……全員、無事でしたよ。初代。」

 

「良かった……7年による凍結封印の影響……それが彼ら自身に及んでいなかったのは。」

 

全員が揃ってから、改めて初代メイビスに会う妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバー達。マカロフが一歩出て、メイビスと話し合う。

 

「凍結封印……と、言いますと?」

 

「アクノロギアが現れた……あの時、私は皆の絆と信じ合う心、そのすべてを魔力へと変換させました。皆の思いが妖精三大魔法のひとつ、妖精の球を発動させたのです。

この魔法はあらゆる悪からギルドを守る、絶対防御魔法……しかし皆を封印させたまま、解除するのに七年の歳月がかかってしまいました。

それでも……彼が、マルクが手伝ってくれたおかげでここまで短くなったとも言えます。」

 

「なんと……初代が我々を守って……それに、マルクも手伝ってくれたと……」

 

「……なんか、改めて言われるとこそばゆいですね。俺はただ、魔力食べてただけですし。」

 

「彼はともかく……私は皆の力を魔法に変換させるので精一杯でした。

揺るぎない信念と強い絆は奇跡さえも味方につける……良いギルドになりましたね、3代目。」

 

そう言ってほほ笑みかけるメイビス。その言葉に感動して、マカロフは大泣きをし始めていた。もちろん、嬉し涙の方だが。

 

「……てか、結局マルクだけなんで七年の間の記憶持ってるんだ?」

 

「あぁ……俺初代と同じようになってたんですよ。なんか、凍結封印の影響が変に体に出て幽体離脱しちゃってたみたいで。」

 

メイビスがその場から消え、ゆっくりと妖精の尻尾のメンバー達は船に向かう。

その過程で、マルクは事情を説明していた。

 

「それって……幽霊になってたってこと?」

 

「んー、そうなるのかなぁ……マグノリアにもちょっとだけ行ったけど、新しいギルドが立っていたかと思えば妖精の尻尾が元々あった場所もなんか廃墟になってたし……」

 

「あー……そこまで見てたのか……」

 

「天馬とラミアにはお世話になったみたいですし……久しぶりにジュラさんや一夜さんに会ってみたいなぁ……」

 

「わ、私はあいつに会うのは遠慮しておく。」

 

他愛も無い話も交えていきながら、船へと向かう。その中で、少しだけウェンディはマルクのことが心配になっていた。

 

「……マルク、本当に大丈夫……?」

 

「ウェンディ……いやいや、大丈夫だって。お前が心配してるようなことは、何も無いからさ。」

 

「本人がこう言ってるんだし、本当に大丈夫なんじゃないの?それに、この事で初代に怒ったりするのも筋違いになっちゃうし……どこかへ矛先向けるのだけは止めなさいよ?」

 

「そういうつもりじゃないけど……」

 

「まぁ、幽霊なってたって言われて心配することもあるよなぁ……ま、なんかあったら、何かあったらということで。」

 

ウェンディの頭を撫でながら、安心させるようにほほ笑むマルク。少しだけその顔に不安を取り除かれたウェンディは、同じく微笑み返すのであった。

 

「……どぅえくぃてるぅぅぅ…?」

 

「巻き舌風に言うのやめろ、あと出来て……ない、から…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ギルドはこっちに移転させたんだ、行こうみんな。」

 

アルザックの案内の元、天狼島から帰還したメンバーはギルドへと向かう。その途中で、マグノリアに建てられた新たなギルドを見かける。

 

「あれがマグノリアに建てられた新しいギルドねー……名前は、黄昏の鬼(トワイライトオーガ)……か。」

 

「……俺達はあのギルドに金を借りてるくらいには、財政難だからな……」

 

「まったく……嘆かわしいわい。」

 

髭を撫でながら、マカロフは黄昏の鬼のギルドを歩きながら見る。しかし、今はギルドに帰ることが目的なので仕方なく戻っていくのだった。

そして、今のギルドのある場所に……山を登って向かう。そこには小さな建造物が一つあるだけであった。

 

「……何か騒がしくないか?」

 

「そうですね……ん、これは……」

 

「……多分、黄昏の鬼だろう。」

 

「よーし、んじゃあ入るぞー」

 

軽い調子で、ナツが歩き始める。他の者達もそれに習って歩いていく。唯一驚いていたのは、迎えに来た者達だけであった。

 

「よっ」

 

ナツの軽い言葉で、黄昏の鬼の一人が蹴り飛ばされる。他の者をグレイが凍らせて、そのまた他の者をエルザが峰打ちして、更にまた他の者をガジルが殴り飛ばし、まだ残っている者をマカロフが魔法で巨大化させた拳でげんこつを入れる。

 

「ただいま。」

 

「今戻った。」

 

「みんなー」

 

「さっきまで暴れられたせいでぼろぼろですね……」

 

皆が一人一人帰りの挨拶をしながら、笑顔を向ける。そして、帰ってきた者達の見た目が全く老けていないことに対して、泣きながらも驚いていた。

 

「お、おお……おまえら……」

 

「若いっ!!」

 

「七年前と変わってねぇじゃねぇかー!」

 

「どうなってんだー!!」

 

「えーと……」

 

起きたことを説明し始める帰還組。しかし話を聞いても出ることは喜びの感情だけだった。

 

「大きくなったな、ロメオ。」

 

「……おかえり…!ナツ兄!みんな!!」

 

この言葉だけで、残されていた者達はさらに涙を流す。無論、こんな嬉しいことがあったのならば……妖精の尻尾は宴を始めるのだ、とても盛大に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天狼島からの帰還、そして七年の月日が経ったとはいえ無事に帰還してくれたこと……名目をいっぱい立てて、しかしそれでも宴が楽しいということだけは、全員の共通であった。

天狼島帰還組からの報告の後は、残された者達との楽しい話……

 

「あの……リーダスさんこれ……」

 

「ウィ……俺なりにウェンディの7年間の成長を予測して書いてみたんだ。」

 

「お胸が……」

 

「ん?なんか言った?」

 

ではあるのだが、一部の者は少しだけダメージを負っていた。そして話題が話題なだけに、マルクは混ざれないでいた。

女のことに関しての話題に、特にリーダスの書いたウェンディの7年後の予想図が、ルーシィやエルザと違って一部の大きさが平たいものだったという話題に対して、どうやって慰めてあげればいいのか……マルクは何もわからなかった。

 

「私……大きくなっても大きくならないんでしょうか……」

 

「ウィ?なんか変なとこある?この絵。」

 

「すごいデリケートな話題な分、察してあげた方がいいのでは……ていうか誰ですかこれ。」

 

「ん?マルクだけど。」

 

「やたらムキムキになってる……なんでこんな……いえ、気に入らないとかじゃなくて……」

 

そして、ウェンディとは違いリーダスの描いたマルクの絵は、もはや別人レベルで筋肉が盛り付けられていた。

なぜそうなったのかが、マルクにとっては不思議でしょうがなかった。

 

「みなさんのご帰還…愛をこめておめでとうですわ!」

 

「ん?」

 

入口から聞きなれぬ声を聞いたマルクは、ギルドの入口に意識を向ける。そこには、七年の時間を表すかの如く成長していた蛇姫の鱗がいた。

 

「蛇姫の鱗の人達……みんなやっぱり7年も経つと姿が変わるもんなんだなぁ……」

 

「あれ?幽霊になってみてたんじゃないの?」

 

「いや、見てたけどそんな意識してなかったから……」

 

そんな他愛もない話を続けていく。しかし、七年の歳月を埋めるかのように始まったその宴会だけは長く、ずっと長く続いたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぁー……肩凝った……」

 

「3日間ずっとお祭りだったもんねぇ……」

 

「騒ぎすぎよ、ほんと。」

 

「まぁまぁ……」

 

ウェンディ、シャルル、マルクの3人は帰路につく。三日間の宴会を経て、今ようやく家に帰ろうとしていたところだった。

 

「……そう言えば、ヒルズどうなってるのかなぁ……」

 

「うーん……ラキさんが言うにはまだ潰れてないらしいが……まぁ、行けばわかるだろ。」

 

「ヒルズが潰れてるかどうかじゃないと思うわ。」

 

シャルルは頭を抑えて、軽く溜息をつきながらそう呟く。ヒルズの存在の事よりも大事なことらしい。

 

「どういうこと?シャルル。」

 

「……ウェンディ、家賃の支払い……7年分溜まってるわよ。」

 

「………っ!!」

 

しまった、という顔でウェンディは驚愕の表情になる。これにはマルクも苦笑いしか浮かべられなかった。

 

「確かヒルズの家賃って……」

 

「10万よ、それでもなんとか仕事してへそくりを貯められる分とかは稼げていたんだけど……」

 

「7年だと……凄い金額になるな……へそくり、そんな溜まってるか……?」

 

「マルク……しばらくマルクのいえにとまらせてぇ……」

 

「住む場所変えても家賃は発生するわよ、ウェンディ。」

 

「うぅ!」

 

「……ま、まぁ……確認してくれば……いいんじゃないか?稼げそうなお仕事も……探さないといけないし……」

 

優しく宥めながら、マルクは半泣きのウェンディをヒルズへと連れ帰っていく。

しかし、マルクも内心こう思っていた。『七年の間に俺の家どうなったんだろう』と。

 

「……お金、無くなってたら一緒に仕事行こうな……」

 

「うん……」

 

そう言って、マルクはウェンディをヒルズまで送ってから、自宅へと帰る。

その日、マルクの家とヒルズのウェンディとシャルルの部屋から二人の悲鳴が響いたという……


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