FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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アクノロギア

黒き竜アクノロギア。突如とした現れたそのドラゴンは、悪魔の心臓(グリモアハート)との戦いで疲弊していた妖精の尻尾(フェアリーテイル)を襲った。

すべての行いが、破滅をもたらすそのドラゴンに皆は逃げるしかなかった。だが、アクノロギアは逃がすまいと彼らを追いかける。

追いつかれてしまうのを防ぐために、マスターであるマカロフが残った。死を覚悟するほど、アクノロギアの力は凄まじく同時に恐ろしいものであった。

 

「ラクサス!離せ!」

 

マカロフを残して逃げる妖精の尻尾。しかし、ナツだけは逃げたくないとラクサスに抱えられながら、暴れていた。

 

「行って……行ってどうなる…」

 

「じっちゃんを助ける!じっちゃんが俺らを守るんなら、俺らがじっちゃんを守ってもいいだろうが!!」

 

「……勝つ気か?あのドラゴンに。」

 

「勝つか負けるかじゃねぇんだよ……じっちゃんを助けるんだ!じっちゃんを助ければ、問題ねぇ!それであのドラゴンが邪魔してくるならぶっ飛ばしてやる!!

みんなで、みんなで帰らねぇと意味がねぇんだ!!」

 

ナツの言葉を聞いて、全員が立ち止まる。全員、考えていることが同じなのだ。このまま黙って引き下がって入られない、マカロフがいなければなんの意味もない、誰一人欠けてはならない。

皆が、心の中でそう思い続けていたのだ。

 

「俺は!じっちゃんを助けに行くからな!!」

 

そう言ってナツはラクサスが掴んでる腕を無理やり振りほどいて、船とは逆方向に走り出す。

それを見て、すぐに他の者達もナツを追って走り始める。皆が考えを改めた。マスターの思いを無駄にしない、のではなくマスターも一緒に連れて帰る、という考えに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナツはアクノロギアの所まで走っていき、体をよじ登っていく。振りほどかれようとしても、決して離すことはなく。

 

「じっちゃんを返せ……!」

 

「ナツ……」

 

「かかれー!!」

 

エルザの声に続いて、皆がいっせいにアクノロギアに攻撃を仕掛ける。しかし、どれだけ攻撃し続けても攻撃が通じている様子はなかった。

逆に、アクノロギアが腕を一振するだけで全員が吹き飛ばされていた。

 

「みんな無事か!?」

 

「くそっ!!」

 

「攻撃が全く効いてねぇ!!」

 

「遊んでるんだ……俺達なんか、攻撃する対象でもないっていうのか!!舐めやがって!!」

 

皆が悔しがってる中で、アクノロギアが一際高く、空高く羽ばたく。雲を突き抜け、空高くへと。

 

「飛んだ!!」

 

「帰ってくれるのかなぁ……」

 

「油断しちゃダメよ。」

 

空高く飛んだアクノロギアは、静止してその首を天狼島に向けて口に魔力を貯め始める。

 

「ブレスだーッ!!」

 

「島ごと消すつもりじゃないでしょうね!?」

 

「防御魔法を使えるものは全力展開!!」

 

「はい!!」

 

フリード、レビィが文字の魔法で防御を展開、その他の防御魔法を使える者達も加勢する。

マルクも、防御魔法こそ使える訳では無いものの、自身の魔法であれば魔力を吸収して威力を弱めてくれると思い、ある分のありったけの魔力で防御を貼るつもりだった。

 

「俺たちはこんなところで終わらねぇ!」

 

「うん!絶対諦めない!」

 

「皆の力を一つにするんだ!ギルドの絆を見せてやろうじゃねぇか!!」

 

全員が手を繋いでいく。魔力を受け渡すために。妖精の尻尾に帰るために、みんなで帰るために……手を繋ぎ、魔力を送る。

 

「みんなで帰ろう……」

 

手を繋ぎ防御魔法を張る妖精の尻尾。その上から、アクノロギアはブレスを放つ。とてつもない威力のそれは、天狼島を飲み込むほどの大爆発を起こした。

それは、海面すらも抉り大きな穴を開けた。爆発が晴れた場所に、天狼島は存在せず……海は空いた穴を埋めるかのようにそれを水で覆い隠す。

覆い隠した後は、まるで何事も無かったかのように海は平穏を取り戻す。

X784年12月16日天狼島、アクノロギアにより消滅。これが、評議院の出した結果だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、ぐ……いって……なんか、体が軽いような……?」

 

マルクは目を覚ます。近くにはウェンディとシャルルがいたが、他のみんなの姿が見えない。

起き上がってからマルクは周りを探索するように歩き始める。

 

「ウェンディとシャルルは無事みたいだったからよかったけど……あの攻撃で、無事ったのに皆とはぐれてるって事は……吹き飛ばされたのかな。まぁ、すごい威力だったし。」

 

独り言をブツブツと呟きながら、マルクは島全体を回っていく。回っている内にナツ、グレイ、エルザなど……他の妖精の尻尾のメンバーも全員見つかった。

しかし、誰一人として起こそうとしてもまったく起きる気配がなく、仕方ないので一旦ウェンディ達の所へと戻ってくるマルク。

 

「ふぅ……俺だけがこうやって起きてるのも変な話だよな……ナツさんやグレイさんまで気絶してるのは……声掛けただけとはいえ起きる気配がないんだもんな。」

 

そう言いながらマルクはふと周りを見渡す。ウェンディ、シャルル、そして()()()()()()()()()()()()()

 

「……うん!?何で俺の体が!?」

 

マルクはそのことを最初幻覚だと思っていたが、それにしてはやけに現実感のようなものがあって、本当の肉体のようだと思っていた。

 

「━━━その体は、ちゃんと貴方のものですよ。少しだけ魔法の不備があって……今は魂と体が離れちゃってる状態です。」

 

「あぁなるほど所謂幽体離脱……誰だ!?」

 

「こんにちわ、3代目妖精の尻尾のマルクさん。」

 

「あぁどうもご丁寧に……ってそうじゃなくて。」

 

急に現れた謎の少女。自身の身長ほどに長そうな金の髪、そして全体的にふわふわしているかのようなその見た目に、マルクはついつい流されてしまっていた。

 

「私ですか?私は初代妖精の尻尾マスター、メイビス・ヴァーミリオンです。」

 

「……はい!?初代!?」

 

「はい、初代です。」

 

必然的に、2代目妖精の尻尾マスターで、現悪魔の心臓(グリモアハート)マスターであるマスターハデスですら、延命装置である魔力供給装置が必要なのに、目の前にいる少女はそれよりも歳上なのである。

マルクは、そのことに驚いていた。そうなるとここで動けている貴方は一体誰なんですか、と内心に疑問不安が入り交じっていた。

 

「もうひとつ言うと、私も貴方と同じ……のようなものです。つまり、幽霊です。」

 

「幽霊見えた理由が自分も幽霊になったからって嫌な理由だ……って違う違う!そのことも少しくらいは大切かもしれないが!色々なこと……教えてくれないか!?なんで俺がこんなことになっているのかもそうだが━━━」

 

「皆さんが起きない理由、それとあなたがそうなっている事への理由……そのふたつは違うようでいて、実際は同じものが原因で起きています。」

 

先程までのにこやかな顔はどこへやら、真面目な顔でメイビスは語り始める。

 

「貴方達がアクノロギアに攻撃される瞬間、貴方達の思いと魔力を借りてとある魔法を発動させました。

あらゆる攻撃から外敵を守る魔法、妖精の球(フェアリースフィア)という魔法です。」

 

「……つまり、その魔法で俺達は無事だったということか……でも初代、それなら何故このようなことに……」

 

「……凍結封印、よほど強固でいけなかった妖精の球は天狼島そのものを封印してしまいました。

よって、中にいる者達の時間を完全に止めてしまっています。」

 

「……ナツさんたちが起きない理由が、それなんですね。そもそも起きようがなかった……と。

じゃあ俺が幽体離脱した原因は?」

 

「あなたの体の性質です。貴方は魔法を吸収すると聞きました、しかしその魔法を吸収したとしても、その魔法が起こした事象までは防げない……そうですね?」

 

「は、はい。」

 

戸惑いながらも、マルクはメイビスの質問に答えていく。

 

「その性質、そして妖精の球という魔法が合わさって、あなたの体『だけ』を凍結封印してしまったのです。

それによって、魂と体の別離は起こってしまった……申し訳ありません、私が至らないばかりに……」

 

「いえ……初代が守ってくれなかったら、俺達は今頃天狼島と一緒に死んでいました。初代が助けてくれたんです……俺達は、礼を言う方の立場です。」

 

「……ありがとうございます。」

 

「……そう言えば、その凍結封印って……どのくらい封印されるんですか?」

 

「っ!え、えーっとそれは……」

 

マルクの質問で急に歯切れが悪くなるメイビス。マルクは首を傾げたが、メイビスですらいうことが難しいのだろうと自己解釈していた。

 

「そ、それは、ですね……?」

 

「それは?」

 

「…その、ものすごく強固に作ってしまったので、解除するように動かなければ……どれだけ頑張っても、年単位としか……」

 

「えっ」

 

メイビスの答えに、マルクは困惑していた。年単位、と来たからだ。1年でも恐らく残された妖精の尻尾のメンバーは、全員が死んだと思うだろう。しかも、年単位なので何十年と経過する場合もあるわけだ。

 

「……まぁ、経ってしまうのはしょうがないです。俺達がこうやって守られているのは、初代のおかげなんですから。」

 

「時間を早める方法が……もう一つだけあります。それを行ったとしてもどれくらい減るかわかりませんが……」

 

「それは?」

 

「マルク……あなたの体の性質を利用させてもらいます。いえ、正確にはあなたの魔力でしょうか。」

 

そう言われて、マルクは自分の体のことを思い出してすぐに合点が行く。

 

「魔力を吸収する性質……それを使うんですね?」

 

「はい、しかし妖精の球の魔力を吸収するので……あなたの魔力や体に何らかの不備が生じる可能性が━━━」

 

「やりますよ。俺の力、どんと使ってください。」

 

「……ありがとうございます。貴方は、特に何もしなくていいと思われます。あなたの中の魔力も、凍結封印の影響を受けていないので働いてくれるでしょう。」

 

そう言われて、やることが決まったあとに、ふとマルクは思った。『年単位であるならば、自分はこれからどうすればいいのか』ということである。

 

「少し寝づらいでしょうが……基本的に動いて寝て、の繰り返しでいいと思いますよ。

貴方の体はまだ生きています、精神的な疲れであっても休んで回復させるべきかと。」

 

「あ、なるほど……にしても魔力が使えるのに魔法が使えないってかなり不便になりそうだなぁ……魔法の特訓も出来ない、ってことだし……」

 

ぼそっと呟くマルク。それを気にしたのか、メイビスはニッコリと微笑みながらマルクの手を握る。まるで大人を引っ張る子供のように。

 

「何なら私が天狼島を案内してあげます。それだけでもかなり暇を潰せると思いますよ?」

 

「……なら、よろしくお願いします初代。」

 

こうして、初代妖精の尻尾マスターと未だ入って1年も経っていない新人というコンビが生まれる。

妖精の尻尾へ帰るために、マルクもこの凍結封印の中でやる事をしなければと考えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はじめの1年は、精神体に慣れるのに苦労をした。まず飯が食べられない。そもそも体の時間が中途半端とはいえ、止まっているのだから栄養摂取の必要性はまったくないが、それでも『何かが食べたい』という欲求は出てくる。味というのは、心を豊かにすると書庫で読んだ本に書いてあったとマルクはその時思い出していた。そして、精神体の睡眠時間が肉体との睡眠時間より長いことを知った、この頃は1日である。

次の1年でマルクは魔力の質が変わっている事で、その魔力が何なのかを調べることが多くなった。とは言っても魔法は使えないので精神を研ぎ澄ましてほんのちょっとだけそれを確認する、というものだったが。睡眠時間が伸びていた、五日ほど眠るようになった。

さらに次の1年で妖精の球から出ることに成功した、と言っても精神体だけの話だが。海の上を歩くことができるようになったというのは、新鮮な気分だとマルクは感じていた。この頃には半月程寝るようになっていた。

四年目でようやくマグノリアに到着するまでに精神体の扱いに慣れていた。しかしこの頃には精神体における睡眠時間が飛躍的に増え始めていた。2ヶ月程である。

5年目で妖精の尻尾が弱体化しているのを知った。皆を探すのにリソースを割きすぎたのだろう、どうやら借金もしているようだったが、マルクにはどうすることも出来なかった。睡眠時間、半年。

六年目は、寝ていた。1年間ずっと眠っていた。故にマルクは五年目以降の歴史を知らない。

そして、結局七年が経過したのであった。


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