FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

28 / 134
攻めと守り

「う、ぐ……」

 

「あ、マルク……ダメだよまだ寝てないと……」

 

「……ここは……?」

 

「キャンプ地……いいから寝てて?」

 

目を覚ましたマルクが最初に見たのは、傷だらけで倒れるミラ達の姿だった。

そして、少し離れた場所にはマルクの知らない人物(ラスティ)が倒れていた。

 

「……今は、どんな状況なんだ……?」

 

「今ここに倒れている四人と、マスターとカナが負傷……今はここでチームを二つに分けて、悪魔の心臓(グリモアハート)を攻めに行くチームと守るチームの二つに分ける、という話をしていた。」

 

「フリードさん……

っ!そ、そう言えば……メスト……彼はどうしたんです……!?」

 

「あ?あー、多分評議員止めてくれてんじゃねーのかな。」

 

マルクは一通り話を聞いてから、立ち上がろうと体を動かす。しかし、未だその体には痛みが残っていた。

 

「ぐっ……!?」

 

「ま、マルク!無茶しちゃダメだよ!!」

 

ウェンディが支えるが、その表情は苦悶に染まっていた。それでも、マルクは攻めのチームの方に行きたかったのだ。

 

「お前は休んどけ、俺達の方が動けるんだから無茶するもんじゃねぇよ。」

 

「……すいません。」

 

「いいんだよ、ウェンディ守ったそうじゃねぇか?それで十分だと思うぜ。なー?」

 

「オモウゼオモウゼ」

 

マルクの頭を軽く叩きながら、後ろからビックスローがマルクを慰める。いざという時に力を出せないのが、マルクは悔しくてしょうがなかった。

 

「……空、荒れてきたわね。」

 

「雷……やだね。」

 

荒れる天候、まるでこれから起こる事への前兆のようなものをマルクは感じ取っていた。

 

「……さてと、ハデスを倒しに行くぞ。ルーシィ、ハッピー。」

 

「あいさー!」

 

「あ、あたし?」

 

「同じチームでしょ!」

 

「分かってるけどフリードとかの方が……」

 

「俺はここで術式を書かねばならん。守りは俺たちに任せとけ。」

 

「私もナツさん達と行きます。」

 

「ちょっとウェンディ……」

 

「ナツさんのサポートくらい出来ると思うし……」

 

そして、攻めのチームと守りのチームのメンバーが決まる。

攻めのチーム:ナツ・ドラグニル、ルーシィ・ハートフィリア、ウェンディ・マーベル、そして三人のエクシードのハッピー、シャルル、リリー

守りのチーム:フリード・ジャスティン、ビックスロー、レビィ・マクガーデン、リサーナ・ストラウス

である。

 

「行くぞ!」

 

「「「おう!!」」」

 

ナツの号令により、攻めのチームは悪魔の心臓の戦艦目掛けて走っていく。それを見届けたあと、マルクは再び立ち上がる。

 

「……行くのか?」

 

「……ナツさん達なら、ハデスを倒せるって信じてますよ。けど、なんていうか……」

 

「目覚めているのに、何も出来ないのは嫌か?」

 

「……はい。なら、守りのチームにいろって話にはなるんですけどね……」

 

「いや、お前の力はナツ達を守る力になれるだろう。だが、こういう時には俺は痛み止めの術式でも体に書くが…」

 

「俺の体に術式は書けませんもんね……なら、そこら辺の薬草でも適当に塗りつけておきますよ……ない、ってことは無いでしょうし……」

 

「……既にしているものに、かける言葉ではないが……『無茶をするなよ』マルク。」

 

「……はい、ありがとうございますフリードさん。」

 

最後に礼だけを言ってマルクは歩き始める。一人で、段々と歩き続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャンプ地も見えなくなり、森の中を歩き続けるマルク。そこに一つの人影を見つける。その人物は、マルクの目の前で止まる。偶然鉢合わせたかのように、その顔には驚愕の色を浮かべていた。

 

「……まさか、アクノロギア……いや、違う……少しだけ……」

 

「なんだ、何言ってるんだあんた……いや、この島にいるのは俺達と……悪魔の心臓だけのはず……」

 

「……僕は、そのどちらでもない。」

 

「なんだと……?じゃあ、あんたいったい誰だ……妖精の尻尾(フェアリーテイル)の聖地で、何をしている。」

 

目の前の青年は、マルクを見据える。黒い髪に、黒い瞳……触れば折れてしまいそうなその弱々しさの中に、膨大な闇があるかのような。そんな不思議なものをマルクは感じ取り、同時に最大に警戒していた。

 

「……この島じゃなくても、人がいなければ良かった。僕は、命を奪ってしまうから……」

 

「命を……?あんたは、あんたはいったい誰だ……」

 

「……名前は明かさない。君が僕を望まないというのなら、僕は何も干渉しない。マスターハデスの様に、僕を一切望まないのなら……僕は君に一切の手出しはしない。

この島からもすぐに去ろう……」

 

「おい!質問に━━━」

 

「但し……この島から去るというのなら、早くした方がいい。アクノロギアがすぐにそこまでに迫っている。」

 

そう言って目の前の青年はマルクの目の前から去る。追いつくことは叶わないが、けれどマルクは嫌な予感のようなものが更に膨れ上がった……そんな直感めいたものを感じていた。

 

「……早く、行った方がいいな。ナツさん達の手助けをしてやらないと……」

 

そう言ってマルクは歩き出す。何もしない、と言った青年の言葉を信じるならば、今はマスターハデスの所に向かう方が賢明だと判断したからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……」

 

悪魔の心臓の戦艦にまで辿り着いたマルク。グレイが作ったであろう氷の階段を登っていって、船へと向かう。

歩くだけでかなりの時間を労してしまっていたマルク。しかし、傷の痛みにも慣れてきて、体も痛みを無視すればかなり動けるまでになっていた。

 

「待ってて……ください……!」

 

一段、一段階段を上っていく。登る動きが段々と早くなり、駆け足で登っていく。魔力も十分だとは言えないまでも、かなり回復はしてきているので、少しくらいの手伝いなら……とマルクは考えていた。

 

「着い、た━━━」

 

そして、登りきった直後にマルクが見た光景。ウェンディの着ていた服が宙に舞っている光景だった。

一瞬が膨大に感じるほどに、マルクの感情はその一瞬で昂った。マルク以外の全員が、ウェンディの服を見る。それだけでそこには元々ウェンディがいたのだろうと判断が出来る。

目の前にはナツ達の他に年老いた男が一人。マスターハデスその人だろうと、予測はついた。ならば、ウェンディはどこに行き、マスターハデスはいったい何をしたのか。

マルクはそれを考える前に、既に行動していた。回復していた魔力を全て足に回す。

 

「━━━━━━━━━━━」

 

まるで爆弾が爆発するかのように、加速するその一瞬だけに魔力を全て使う。

 

「むっ!?」

 

弾丸のごときその速度をもって、マルクは一番離れていたにも関わらず、マスターハデスの目の前に一瞬で現れる。

 

「━━━あああぁぁぁぁアアアアアァァァァァァAAAAAAAAAAA!!」

 

「ぐぅっ!?」

 

渾身の1発。マルクの攻撃はマスターハデスを殴り飛ばす。だが、不意を突かれたマスターハデスも、咄嗟に自身の魔力で作られた鎖を使ってマルクを繋ぐ。

投げ飛ばそうとした瞬間に、マルクはその魔力の鎖を噛みちぎり、自身の糧とする。

 

「魔力の鎖が……!?」

 

「━━━━!!」

 

吼えるマルク。次第に、顔のところにまるでドラゴンの鱗のような模様が浮かび始めてくる。ドラゴンフォース、滅竜魔導士だけが使える技。ある意味では、切り札的なものだが……マルクは意識してこれを使えるほどに、未だ強くはなっていなかった。

 

「この殺気……怒り、憎しみ……そして何よりも殺意……正しくドラゴン、いや……人を食らうべくして現れた、化け物といったところか……」

 

最早言語らしい言語を喋らなくなったマルク。しかしマスターハデスの放つ魔法を尽く喰らい尽くしていき、その度に補充した魔力を十全に使って攻撃だけに回していく。

 

「マルク!マルク!!」

 

聞こえるウェンディの声、しかしマルクの耳には届かない。マスターハデスを殺すために不必要な感覚を全てシャットダウン、つまりは無視していた。

そもそも、聞こえたところで怒りに我を忘れたマルクに思考するほどの余裕は残っていなかった。

 

「ふん……お仲間が呼んでいるぞ……!」

 

「っ!!」

 

顔を強く蹴られるマルク。しかし、空中で一回転をして着地をして落下を防ぐ。

そう、その一回転した時に、唯一マスターハデスを見るためだけに残していた視覚だけが『ウェンディを捉えた』

 

「……ウェンディ?」

 

「なんで、なんでここに……ううん、そんな事より……私、無事だから……ね?」

 

先程までの怒りはどこへやら、マルクは急激に理性を取り戻す。ウェンディが無事だと分かり、怒りの元が消えたのだ。

 

「無事って……」

 

「ホロロギウムよ、自動危険察知モード?ってのが発動してウェンディを助けてくれたのよ。」

 

事情を説明するルーシィ。その説明で、マルクもほっとして胸を撫で下ろす。

 

「これがマカロフの子らか。やはり面白い。」

 

「お前じっちゃんと知り合いなのか!?」

 

「何だ、知らされてないのか?今のギルドの書庫にすら私の記録は存在せんのかね……私はかつて2代目妖精の尻尾のマスター、プレヒトと名乗っていた。」

 

マスターハデスから告げられる事実に、この場にいる全員が驚いた。なぜ2代目が三代目を襲うのか、なぜ未だ存命しているのか。

 

「うそつけ!!」

 

「私がマカロフを三代目ギルドマスターに指名したのだ。」

 

「そんなのありえるか!!ふざけたこと言ってんじゃねぇ!!」

 

ナツがマスターハデスに飛び込んでいく。しかし、マスターハデスは即座に魔法を発動させて、ナツの周りを囲む。

そして、それは即座に爆発する。

 

「ぐぉわっ!!」

 

マスターハデスは指を滑らすように動かして、そのままグレイ、ウェンディ、マルクのいるところを爆破させる。

 

「うああ!!」

 

「きゃああ!」

 

「ぐううう!」

 

そしてそのまま、エルザの腕とルーシィの腕を鎖で繋いで、二人をぶつけて拘束。そのままその鎖を爆発させる。

だが、未だ健在だったナツがその隙を突いてマスターハデスへと突っ込んでいく。

 

「パァン」

 

「がはっ!」

 

だが、マスターハデスはまるで子供が手で銃の形を取るかのように手を銃のような形にする。そしてその指先から、魔力で出来た弾丸をナツの足に撃ち込む。

そのまま滑りこけたナツを視線から外して、グレイとウェンディに照準を向ける。

 

「パン、パン」

 

「がはっ!?」

 

「ウェンディ!ぐっ!?」

 

ウェンディのは、マルクが盾となって防ぐ。しかし、それだけでは足りない。圧倒的な力を持つマスターハデス、その力に皆が翻弄されてしまっていた。

 

「フハハハハ!私は魔法と踊る!!」

 

魔力で出来た弾丸を連続で当ててくるマスターハデス。全員が吹き飛ばされ、撃ち抜かれ、そして傷を負っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妖精に尻尾はあるのかないのか?永遠の謎、故に永遠の冒険……ギルドの名の由来は、そんな感じであったかな。

しかし……うぬらの旅はもうすぐ終わる。メイビスの意志が私に託され、私の意志がマカロフに託された。しかし、それこそが間違いであった。マカロフはギルドを変えた。」

 

ナツを踏みつけながら、マスターハデスは淡々と語る。後悔も、期待も……何も感じていないかのような淡々さで。

 

「変えて何が悪い!」

 

「魔法に陽の光を当てすぎた。」

 

「それが俺たちの妖精の尻尾だ!!てめぇみてぇに死んだまま生きてんじゃねぇんだ!!命かけて生きてんだコノヤロウ!!変わる勇気がねぇならそこで止まってやがれ!!」

 

「……やかましい小鬼よ。」

 

再び手で銃の形を取り、ナツに魔力の弾丸を打ち込む。しかし、一度では終わらなかった。何度も何度も何度も……連続して撃ち込んでいく。殺そうと思えば、一瞬で事足りるはずなのにまるで苦痛を味わせるかのように連続で打ち込んでいく。

 

「恨むなら、マカロフを恨め……マカロフのせいでうぬは苦しみながら死ぬのだ。」

 

「よせぇ!!」

 

「はぁ……はぁ……じっちゃんの、仇……だ……」

 

「もうよい。消えよ。」

 

「やめてぇーーー!!!」

 

弾丸所ではない強力な魔力の塊を当てようとしたマスターハデス。しかし、それは戦艦に落ちてきた落雷により、阻止される。

 

「━━━こいつがじじいの仇か、ナツ。」

 

落雷から、一人の男が現れる。雷を纏った魔導士、ラクサス……妖精の尻尾を破門にされた、マスターマカロフの孫である男。

 

「…()()?」

 

そして、間髪入れずにラクサスはマスターハデスに向かって頭突きを入れる。強力な助っ人が現れた事で、マスターハデスとの戦いは未だ行方がしれないものとなったのであった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。