「━━━おい、あれはマルクじゃ無いのか!?」
「っ!マルクー!」
マルクがアズマにやられてからしばらく経ってのこと。地面で一人、倒れ込んでいる彼を見つけたのはウェンディ達だった。
「酷い傷だ……俺達が戦ったあの男にやられたのか?」
「気がついたらマルクとあの人だけいなくなってたし……多分、そうだと思う。
とりあえず、応急手当しないと……リリー、運ぶの手伝ってくれる?」
そう言ってウェンディはリリーに頼み込む。時間切れで魔力切れでもあるリリーに頼むのも、ウェンディは心苦しかったが、ウェンディとマルクの身長はウェンディより低く、さらに大怪我を負っているとなると、でかくなったリリーに運んでもらう方がいいと判断したからだ。
「少しばかりは魔力の回復も出来ているが……どこまでいけるか分からないぞ?」
「うん……出来れば、ちゃんとキャンプまで運んでから治してあげたいけど……出来る限り安全な場所じゃないと。」
「止めておきなさい……あんたの回復魔法とマルクの体質は合わないわ、徹底的にね。するくらいなら包帯でも巻いた方が幾分かマシよ。」
「何度か聞いていたが……そこまでなのか?」
「魔力を吸っちゃうから、回復魔法の魔力をガンガン吸っちゃうのよ。
幾ら吸うのが魔力だけと言っても、その魔力を初めから吸ってしまってるんじゃあね……
魔法が起こすことまで吸収できないって言うけど、そもそもこういう支援魔法が魔力の塊だってこと忘れてるんじゃないかしら。」
「……ともかく、運ぶぞ。」
リリーは戦闘モードに入って、マルクをお姫様抱っこで運んでいく。マルクは気絶しているので黙ったままだが、その表情が見つけた時からにやけている事に、疑問を覚えるウェンディであった。
そして、マルクがウェンディ達に発見されてからさらにしばらく経って。
エルザは森の中を歩いていた。
姿が見えないウェンディを、探しているのだ。
「ウェンディー!!どこだー!!」
「エルザ・スカーレットだね。」
「何者だ!!」
エルザに声をかける人物。エルザが声のした方向に向き直ると、後ろの木の幹から、ゆっくりと男が生えてくる。
「やっと会えたね。心の強者、
「なんだと……?」
アズマ。マルクを倒し、ミラとも戦い、そして勝った人物……今度の彼の標的は、エルザだった。
エルザとアズマは戦い続けていた。周りの木を土台にして跳び、エルザはアズマを切りさこうとする。
対するアズマも、エルザの剣技を見切ってかわしながらエルザを木で拘束していきながら、追撃を加えていく。
「明星・
「っ!!ぐほおおおお!!」
対するエルザも、アズマの攻撃を読んでアズマに避けられない一撃を入れていく。
だが、そんな一進一退の攻防の中でアズマは楽しそうに笑っていた。
「何がおかしい。」
「お前のような強者を待っていた。楽しいね……お前の武勇はよく聞くね。恐らくは俺と同じ人種、戦いが全て……ただ強者を求めてきた証。」
「……悪いが賛同はできんな。私は強者を求めてなどいない。」
「いいや、求めなければその強さは手に入らんね。」
「……私は、仲間を守れる力があればそれだけでいい。その力と引き換えならば、私は誰よりも弱くていい。」
エルザの言葉に、アズマは驚いていた。だが、決して否定はしなかった。そんな考え方を、全く知らなかったと言わんばかりだった。
「矛盾……しているな。」
「面白いやつだ。お前とは正々堂々やりたかったね。」
「どういう意味だ。」
「
爆発は大地の魔力を木の実に凝縮して起こしていた……だが、この魔法の真の力は、大地に根を張り、その土地に蓄積された魔力を支配すること。」
「土地の魔力を支配するだと!?」
アズマの魔法に驚くエルザ。アズマの表情は、先ほどの楽しそうな顔から一転、まるで仕事をこなすような真顔であった。
「俺が真っ先にこの島に送られた理由はただ一つ。島の魔力を支配下に置くこと。俺の本意ではないのだがね……命令とあらば仕方がない。」
「な、何をした!!貴様……私達の聖地に、何をしたのだ!?」
鳴り響く轟音、それが聞こえてきたエルザ。だが、彼女にはそれが何かを確認出来ない。
彼女にわかることはただ一つ、アズマがした事が限りなく最悪の事態を招いている、という事である。
「マスターハデスはこの島の力をよく知っている……島の中央にそびえ立つ巨木、天狼樹。
「……!お前はその天狼樹を倒したのか!?」
「そうだ。それにより、妖精の尻尾の命の加護が無効化するのと同時に、妖精の尻尾全魔導士の魔力を奪い続ける。」
「そんな馬鹿なこと……出来るわけが……!」
「もう完了しているね。妖精の尻尾は全滅するだろう……だがね、島の魔力をコントロールし、あんたの力はそのままにした。さぁ妖精女王……島中で仲間が瀕死だ。救えるのはあんただけね。
仲間を守る力がいかなるものか…俺に見せてみろ。」
エルザはアズマを睨む。
「……何故、こんな事をする。」
「マスターハデスの命令だ。妖精の尻尾の魔導士を一人残らず消せとの事だね。」
「違う……なぜ私だけが動ける状況を作ったのだ。」
「言っただろう……俺は本気になったお前と戦ってみたい。それだけだね。」
「その言葉に嘘偽りがないのなら、貴様が敗北した暁には皆の力を元に戻してもらうぞ。」
「約束しよう……俺も本来、こんなやり方は好きではない。勝てたら……の話だがね。」
「仲間の命がかかっている……必ず、勝つ!!」
エルザは剣を構えて、アズマに飛び込む。鎧の換装を行い、アズマに一撃を与えに行く。狙うは連撃、一つでも攻撃を当てる。
「天輪・
剣を何本も出して行う攻撃。しかし、出した剣の全てが木によってアズマに届く前に止まっていた。
「
マルクにも見せた攻撃。葉を飛ばして、相手を切り刻む魔法。エルザはそれを全て剣技で弾き落としていく。
「
効かないと分かったのか、アズマは今度は枝で攻撃をしていく。まるで槍のような、素早い突きを繰り出していく枝。葉の剣に続いての枝の剣だったので、エルザはそれをまともに浴びてしまう。
そして、トドメと言わんばかりに枝が巨大な拳の形を取って、エルザを殴る。1度元の鎧に戻したエルザは追撃をかわしていく。
そして、今度は速度重視の鎧に換装して、アズマに向かって飛び込む。
「ぐほぉ……!」
これはかわせなかったらしく、二撃がアズマの体に浴びせられる。その瞬間に、二人は気づくことは無かったが、アズマの体に刻まれて龍がまた少し大きくなっていた。
だが、エルザが近くの枝に乗って、更に追撃をしようとした時は、枝を自分の体を覆うようにして攻撃を防ぐ。
「なっ!?」
すぐに距離を取ろうとしたエルザだったが、足首を誰かに掴まれていた。言わずもがな、身を隠したと思わせておいて、枝の中を移動していたアズマであった。
「タワーバースト!!」
そしてスグにエルザに強力な一撃を与える。エルザは近くの枝に落下するが、まだどうにか動けていた。
アズマは、次にエルザがどうするのか静観していた。
「……きゃ、却下する!ルーシィじゃあるまいし!」
「独り言かね。」
突然何かを却下したエルザ。だが、即座にその鎧を換装させて新たな鎧へと変貌させる……だが、その体には鎧らしい鎧がなかった。
胸に包帯を巻き付け、サラシとして扱っていて、防御能力の一切がなさそうな布地のズボン。
だが、手に持っている刀はアズマの直感に危険信号を鳴らしていた。
「いでよ……妖刀紅桜!!おおおおおおおおおおおおお!!!」
「来い!妖精女王!!」
防御を捨てて攻撃に特化した形。アズマもその一撃を全力を持って防ごうとする。
「何っ!?」
木の枝が伸びて、エルザの体を拘束していく。アズマは拘束していきながらも、攻撃の手は緩めなかった。
「大地に眠りし天狼の魔力を解放する!!
「うああああぁぁぁぁ!!」
島一つ分の魔力を使った広範囲かつ高威力の爆発。エルザを拘束していた周りの木々ごと爆発させてまで放ったそれは、エルザを傷だらけにし、そして爆発させた。
「妖精女王……敗れたり。」
倒れるエルザ。ピクリとも動かなくなった彼女を見て、アズマは満身創痍でありながらも、心底楽しそうな顔をしていた。勝ちを確信した、そんな表情だった。だが━━━
「━━━ぐはっ!げほっ、げほっ!!ゲホッ、ガフッ!!う、く……!」
「ば、馬鹿な……!?天狼島の膨大な魔力をぶつけたんだぞ……!?」
「はぁー……!はぁー……!」
立ち上がるエルザ。刀を支えにして立ち上がる。その表情は、未だ敵を見据えて、倒すべきものとして認識している……まだ諦めていない者の表情だった。
エルザが刀を構えて飛び出す。その一振りをアズマは木を使って防ぐ。だが瞬時に振る向きを変えてアズマの腕に小さく切り傷をつける。エルザが攻めてアズマがその攻めを打ち破らんが如く攻めていく。
「ぐっ!はぁっ……!」
「お前の名は生涯……忘れることはないだろう……!」
木によって再び拘束されていくエルザ。再び天狼島の膨大な魔力をぶつけようとアズマは魔力を貯める。
その行為によって、彼に刻まれた痣がだんだんと着実に大きくなっていく。
「くそっ!!動けっ!!動けぇぇぇぇぇぇ!!」
「これで終わりだァ!!もう1度天狼島の魔力を食らうがいい!!
「うああああ!!!」
再び膨大な魔力によって多大なダメージを受けるエルザ。彼女が諦めかけたその時、
『諦めんのか?エルザ。』
現れたのはナツの姿だった。その他にも、天狼島に来ている妖精の尻尾の全ての魔導士の姿が目に映っていた。
それがエルザに力をもたらした。折られた天狼樹は、妖精の尻尾の魔導士から魔力を吸い続ける。それが、エルザにとっての力となっていく。
「━━━うおおおおおおおおおおおおお!!」
「なっ……!?」
制御下に置いたはずの魔力が、エルザに加護を与えたことに驚くアズマ。しかし、彼はとっさにその攻撃を防ごうと動く。
「ばか、な……!?」
「ぐはぁっ……!?天狼島と、直接繋がってしまった……せいか……!?」
アズマはこれまでのことを思い出す。そして、今更気づいた。攻撃を受ける度に、その魔力を食らってこの痣は成長していたことを。
そして、天狼島と繋がってからはその成長が止まることを知らないかのように大きくなり続けていたことを。
「だが、それでも……!」
「くっ……!?」
しかし、魔力を絞り出したアズマはエルザの攻撃を防ぐ。エルザもこの行動には悔しそうな表情をアズマに見せる。
「ごはっ……!?」
『魔龍刻印、魔力を伴った攻撃ならばなんにでも反応して成長する痣みたいな物です。
ある程度成長したら……つけられた人の魔力を死なない程度にごっそり持っていっていく魔法です。ただ、それだけの魔法です。俺の魔力に反応しないのが欠点なんですけどね。』
「うおおおおおおおおおおおお!!」
痣だったそれは、魔力の塊となってエルザに更に力を与える。ふと思い出したマルクとの会話。
本来、このように魔力を誰かに与える魔法ではないというのに、今回に限りその魔力がエルザに与えられる。
それはエルザにとって心強い仲間からの手助けであった。それはアズマにとって、妖精の尻尾の強さは個ではなく和を、仲間がいるからこその強さなのだと認識させる。
「━━━見事。」
エルザのその一撃は、木の盾どころかアズマが足場にしていた大樹ごと、アズマを切り裂く。
マルクの刻印は、ミラの攻撃を通して成長して、エルザの力となった。この戦い、エルザが勝利したのであった。