「魔龍の……翼撃ッ!!」
「ムゥ……ッ!!」
激しい戦闘を行うマルクとアズマ。二人は移動しながら、時折ぶつかるという戦い方をしながら森の中へと入っていっていた。
「子供と侮っていたが……覚悟だけしかない無謀さが取り柄だと勘違いしていたが……人は見かけによらない、とはこの事だね。」
「余裕ぶってんじゃ━━━」
「余裕など見せない。手加減はするがね。」
アズマの魔法により、何度も爆破させられるマルク。だが、魔法そのものが彼にとってあまりダメージを与えられない。マルクは自分の体のことを度外視しながら、アズマに攻撃を叩き込んでいく。
「なるほど……魔法ではダメージは少ししか与えられないときた。となれば肉弾戦……だが、怒ってる中でも冷静なのだね、君は。私の拳よりも遠い範囲からの攻撃。尚且つ、木を使ってまるで猿のように飛び跳ねている。これでは私の拳はなかなか当たらないだろう。」
「滅竜奥義━━━」
本気の一撃をぶつけようと、魔力を放出するマルク。だが、その攻撃は━━━
「ならば、これでどうだろう。」
「っ!?木が、体にまとわりついて……!?」
滅竜奥義を発動させようとしたマルクだったが、その体は周りの木々がマルクの体を縛ることで、不発に終わった。
「俺の魔法は
「━━━だから、どうしたァ!!」
「なんと……」
マルクは魔力を体中から噴き出させて、体を拘束していた木々を全て吹き飛ばす。当然、こんな無理をすれば魔力はすぐに空になる。だが、それでもマルクは魔力の出し惜しみをしなかった。
「面白い……!覚悟、いや信念……『俺を倒す』という明確な目標、信念の元、俺に向かって来るか!」
「滅竜奥義!!紫電魔光殺!」
マルクの上から刃状の魔力が形成される。それは段々と伸びていき、巨大な刃状の魔力となる。
「オラァ!!」
「まとめて……このあたりの木々を切り裂くつもりか!俺ごと!!」
楽しそうに声をだしながらアズマはその攻撃をかわす。周りの木々は殆どが切断されていき、地面になぎ倒されていく。
「ちっ……」
「それほどまでに、あの少女を傷つけられたことが琴線に触れたようだね……だが、
いるだろう?このギルドにもそういう者が。」
「ラァっ!!」
一方的に語りかけるアズマを無視して、マルクはまだ攻撃を仕掛けていく。魔力が枯渇しようとも関係ない、と言わんばかりの激しい攻めをしていた。
「ふんっ!!」
「魔龍の咆哮!!」
例えアズマが木を操作してマルクの攻撃を防ごうとしても、その魔力を完全に吸い取りながら、木々を破壊していく。
「ふむ……こうなってくると俺の方がジリ貧になりそうだ……無論、
「ぐっ……!また木が……!こんなのすぐに吹き飛ばして……!」
そしてまたマルクは木々を吹き飛ばしてアズマに飛び込んでいく。だが、まるで力を失ったかのようにその拳はアズマに届くことは無かった。
「魔力の使いすぎだね。その魔法、そして魔法そのものが通じないというのは確かに脅威だ。
しかし、ダメージは蓄積する上に魔力の出し惜しみなしで全てを全力でこなしていればそうもなるだろう。未だ、戦いなれていないのが良くわかる。」
「はぁー……!はぁー……!」
「吸収するよりも、使う量が多ければそうなってしまうのは分かりきっていたことだ…もう少し、戦いに対しての知識をつけておくべきだったのかもしれないね。」
「知る……かァッ!!」
「おっと……まだこんなことが出来る魔力が残っていたか。」
マルクの渾身の一撃も、アズマには届かなかった。だが、それでもまだマルクは立ち上がっていた。
「魔力が残っていようとも、一度に使う魔力の量を減らさなければ、先程のように、一瞬でも意識が飛びかねないぞ?」
「はぁ……はぁ……魔力が無くても……殴り飛ばす……」
「呆れた根性と褒めるべきか、戦いの優劣もわからない阿呆と罵るべきか……だが、その真っ直ぐな思いだけは……褒められるべきことなのだろう。」
「はぁはぁ……魔龍の逆鱗!!」
「おっと……そんなフリでは━━━」
「だらァ!」
「うぐっ!?」
かわされた直後に、マルクは渾身の力を込めてアズマの腹に拳を入れる。鳩尾にでも入ったのか、アズマは軽くよろめいていた。
「なるほど……拳を叩き込む……魔法ばかり使うものだから、ただのパンチでこうなるとはな……面白い……!」
「まだ、まだァ!!」
「ならばもっと打ち込んでこい!力尽き果てるまで!体朽ち果てるまで!俺を倒したいのなら、全身全霊の力を持って殺しにかかるほどの勢いで来い!!」
アズマは更に楽しそうに叫ぶ。明らかにダメージは通っているはずなのに、そのダメージをものともしていないアズマ。それを見て、再度目の前の男の恐ろしさを、マルクは痛感していた。
「━━━だからって、負けるわけにゃあいかねぇんだよ……!」
再び飛び込むマルク。それに対し、アズマも本気になったのか、マルクに対してまだ見せていない魔法を使う事にした。
「
「これは、葉が……!?」
周りの木々の葉たちが一斉にマルクに襲い掛かる。一方向からでなく、四方八方から一斉に、である。
しかもかなりの速度を出しているため、マルクでは防ぎきれなかった。そして、マルク自身もその葉を防ぎ切ることが出来ないと直感で感じ取っていた。
「なら突っ込む!!」
「面白い!!」
葉の刃によって体中を切られていくマルク。しかしどれだけ血が出ても、全てを無視して突っ込んでいく。
そして、すぐにアズマの目の前まで駆け抜ける。
「魔龍の━━━」
「タワー━━━」
そしてマルクは口の中に魔力を貯める。同時にアズマは別の魔法を使う。二人が魔法を放つ瞬間は、同じだった。
「咆哮!」
「バースト!!」
燃え盛る火柱、紫の魔力の渦。二人は渾身の魔力で互いを攻撃し続ける。アズマから逃がさないために、マルクはアズマの体を掴んでゼロ距離でブレスを当て続ける。
アズマもマルクから離れるためにタワーバーストを使い続ける。
「うおおおおおおお!!」
「おおおおおおおおおお!!」
二人は声を上げる。相手を魔力切れまで追い込むか、相手を爆発で倒し切るかの勝負。
そして、長いようで短い……時間にして10秒にも満たない時間で、勝敗が決した。
「がっ……!」
先にマルクが膝をついた。ブレスは消えたが、タワーバーストは続いていた。
アズマは、それを見てニヤリとほくそ笑む。
「俺じゃあ……だめだってのか……!だが、なら……!これでも、食らえ…」
ボロボロになりながら、マルクはアズマに拳を入れる。アズマも、これは回避しないで受けた。腰の入ってないパンチなど、避ける必要性がないと判断したからだ。
事実、マルクのパンチはアズマにダメージを与えていなかった。
「あとは……頼ん、だ……」
マルクはそのまま倒れる。そこでようやく、アズマは魔法を止める。血まみれ、更にタワーバーストの影響で体のところどころが焼けているマルク。
最後に倒れたその姿を見てから、何事も無かったかのようにアズマはその場を後にする。
「子供でも……ここまで俺を楽しませてくれるとはな。油断していたら……負けるかもしれないな。」
そう呟いて歩き始めるアズマの背中には、小さな紫の紋様が浮かんでいた。だが、アズマ自身もそれに気づかないで自分の任務を遂行していくのであった。
「子供や女ばかりではまるで力が出せんね。」
次にアズマが出会ったのはミラジェーンとリサーナ。しかし、ミラジェーンは試験の時に既に魔力を消耗していたため、サタンソウルを使えないでいた。
「ミラ姉!サタンソウルを!!」
「そう何度も使える魔法じゃないのよ。」
「姉妹?まさか……お前はあの魔人ミラジェーンか!?」
「昔の話よ。」
「ミラジェーンが本気になれば滅茶苦茶強いんだから!!」
「そうか……一度、本気になった魔人と手合わせ願いたいものだがね。」
ミラの二つ名を知り、興味が湧いたアズマ。既に、リサーナのことは眼中に無いようだった。
「どうした?本気になれんのかね。」
「あんたなんか私の魔法で十分よ!!」
「ダメよリサーナ!逃げた方がいいわ……この人、ものすごく強い……!」
「こんなことは、したくないのだがね。」
アズマが手を向けると、地面から木が生えてきてそれがリサーナを拘束する。リサーナを拘束した木には、三桁の数が表示されていてそれが段々と減っていっていた。
「3分後、大爆発を起こす。おっと……外から余計な力は加えんほうがいい。解きたければこの俺を倒すことだ。」
「卑怯者!!」
「あの魔人と戦えるのなら、俺は何でもするがね。」
即座にミラはサタンソウルを使用する。だが、魔力がほとんど無いのですぐに決めるつもりで速攻に出た。
「ぐほぉ……!これだ……この感覚……!最高だね!!」
ミラの蹴りによって、軽くダメージを負うアズマ。だが、すぐさま反撃に転じる。
「ミラ姉!私のことはいいから集中して!」
無情にも減っていく数。タダでさえ、マトモに残っていない魔力を振り絞って戦っているためにミラは最小限の力で速攻で決める必要があった。
だが、魔人となったミラの肉弾戦にも追いつき、そのうえ魔法で木を使って拘束する事さえもしてくる。
肉弾戦ではほぼ互角、しかもアズマは木を操作して
そしてトドメにミラの魔力を使っての攻撃は、ほとんど防がれてしまうのであった。
そしね、そうこうしている内にリサーナのカウントは20秒を切っていた。
「ミラ姉!」
「何をするつもりかね!?」
ミラは、アズマから離れてリサーナの近くにくる。そして拘束している木を掴んで、
「悔しいけど、あいつを倒すだけの魔力が残ってない。今の私には無理だわ……でも、私は信じる。あいつを倒せる人がギルドに必ずいるって信じてる。
だから……お姉ちゃんは降参しちゃうけど……心配しなくていいわ、リサーナ。
アズマが呆然と見続ける中、木のカウントは0となって爆発した。大きな爆発の中からは、リサーナを抱き抱えるミラとミラによって爆発から逃れられたリサーナがいた。
アズマは、その光景を少し眺めたあとにその場を立ち去っていったのであった。
「涙が俺の
「何の
「っ!いや……ただの
その後、アズマは同じ
「ふむ……強者と戦った証だね。」
「強者?ダメダメ♪このギルドにはいないよ。俺の心は震えない……」
「侮ってはいかんね……
「信念を刃に……か。まるでウチのメルディの様だな。」
そこまで喋ってから、ラスティはアズマの異変に気づく。明らかに異常な
「アズマ、君には刺青を入れる趣味があったのかい?それも、そんなまるで竜の様な……」
「何?」
そう言ってアズマは自分の体を見る。確かに存在しているのだ、腹部に横一線に通る黒い線が。
そして、アズマには見えていないが背中には
「……しかしラスティ、何故竜だと思った?俺にはただの線にしか見えないが。」
「東洋の竜……いや、『龍』は俺達が知っているドラゴンの様に胴体がないような見た目らしい。正確には、蛇のような見た目をして羽もないのに飛ぶのだとか。」
「博識だね……それにしても、竜……あの少年か……」
「おや、心当たりでもあるのかい?」
ラスティの問いかけに、少し高めの崖にいたアズマは飛び降りて歩き始める。
「少しだけだね。今となっては関係がないことだろう……俺は、まだこのギルドの強者と戦ってくることにするよ。」
「無駄だろうけど、頑張る事だ。」
そうして二人は別れる。歩き続けるアズマの体には、刻まれた竜の刻印が静かにアズマの体でとぐろを巻いているのであった。