「俺達もギルドに戻ろうぜ。」
「皆にどうやって報告しよう。」
「いや……みんな気づいてねぇんだろ?今回の件。」
「しかしミストガンのことだけは黙っておけんぞ。」
話し合いをするナツ達。表面上真面目な話をしているが、光景的には随分奇妙なことになっていた。
ナディのが移ったのか、ナツ、エルザ、グレイ、ルーシィの4人は高速で腕を上下に振っていた。
「みんな……手……」
「ちょ、ちょっと待て……」
「どうしたガジル……お前も真似してーのか。」
「それに価値があるならな!!」
「あ、やっぱり真似してたんですねそれ……」
ガジルは辺りをキョロキョロ見渡し、誰かを探しているようだった。
「リリーはどこだ!?パンサー・リリーの姿がどこにも見えねぇ!!」
「━━━俺ならここにいる。」
そう言いながら、草むらから姿を現したのか……何故か等身が他のエクシード達とほとんど同じになってしまったようだ。
「ちっちゃ!!」
「随分可愛くなったね…」
「どうやらアースランドと俺の体格は合わなかったらしいな。」
「あんた……体、何ともないの?」
「今のところはな……俺は王子が世話になったギルドに入りてぇ、約束通り入れてくれるんだろうな……ガジル。」
「もちろんだぜ!!
「ガジルさん……泣く程ですか……」
マルクが泣いて抱きつているガジルに苦笑いしながら、ふとリリーが先程から持っている縄の先に気づく。
「パンサー・リリー、その縄……何だ?」
「あぁそうだ……それとは別に、怪しいヤツを捕まえたんだ。来い。」
リリーはそう言って縄を引っ張る。引っ張られた人物はバランスを多少崩しながら、草むらから出てくる。
「ちょ……私、別に……!怪しくなんか……!きゃっ!!私も
「リサーナ……」
それは、二年ほど前に死んだという事になっていたエルフマンや、ミラジェーンの妹であるリサーナの姿だった。
「なんなのこのネコ!!てかエクシード?」
「パンサー・リリーだ。」
「何だてめぇ、俺のネコにケチつけようってのか?ア?」
「リサーナって……ミラさんの妹、でしたよね……でも、もう居ないって……」
「そんなまさか…」
「リサーナ!?」
困惑する面々。既に死去しているはずの人物が、蘇ったのだから無理もなかった。しかし、マグノリアでおっても死者蘇生の術なんてのは、マルクは聞いたことがなかった。
「なんで……」
「もしかして……エドラスのリサーナが……」
「こっちに来ちゃった訳〜!?」
「ど、どうしよう……」
どうするべきか考える一同。しかし、そんな中でリサーナはなにかに気づいたかのように、ナツに視線を向ける。そして、一瞬の間とともに━━━
「ナツ!!」
「どわー!!」
抱きついた。何の躊躇いもなく、一切の躊躇も無く、まるで懐かしの恋人にあったかのような、強烈に飛び込んで抱きついた。
「また会えた……『本物』のナツに……!ハッピー!私よ!リサーナよ!!エルザとグレイも久しぶりだね!!うわぁ懐かしいなぁ……その子達は新しいギルドのメンバーかしら?もしかしてルーシィ……と『小さい』ウェンディ?そっちの男の子はエドラスでは見かけなかったけど……はじめまして!だよね?」
正にマシンガントーク。矢次早に喋って周りを置いてけぼりにしていくリサーナ。しかし、このリサーナの反応でグレイが何かに思い至ったのか、驚きを隠せない、というような表情を浮かべながらリサーナに指を向ける。
「ちょっと待て……お前、まさか……
「……うん。」
「っ!!!」
「なっ……!」
「うそぉ!?」
「えええーっ!?」
「生き返ったのかー!!!」
「うわーい!!」
リサーナのことで驚いたり、喜んだり……そしてナツとハッピーが喜びで抱きつこうとした時、一旦冷静になったエルザが二人の首根っこを掴んで阻止する。
「ま……待て!お前は二年前に死んだはずだ。」
「……私、死んでなんかなかったの。
二年前……ミラ姉とエルフ兄ちゃんと3人で行った仕事の最中、私は意識を失った。多分、その時アニマに吸い込まれたんだと思う。
当時、アースランドには小さなアニマが沢山あったんじゃないかな。」
「ミストガンが潰して回っていると言ってたあれか……」
「エドラスで目が覚めた私は妖精の尻尾を見つけて驚いた。皆、少し雰囲気は違ってたけど……私の知ってる人達がそこにはいた。しかも、みんなが私をエドラスのリサーナだと思い込んでいたの。多分、本物のエドラスのリサーナは……」
『恐らく』の事実に少しだけ顔を俯かしたリサーナ。しかし、すぐに話を続け始める。
「……既に、死んでいるんだと思った。ギルドの雰囲気がね……そんな感じだった。
私は本当のことが言えなかった。エドラスのリサーナのフリをしたの。最初は戸惑ったけど……みんなに合わせて、自分の魔法を隠し……エドラスの生活にも慣れてきて……2年が経ったの。今年の事なんだけど……六日前に、エドラスの妖精の尻尾にアースランドのナツとハッピーがやってきたの。」
「なんであの時言わなかった!!」
「……言えなかったの。エドラスの、とはいえ……ミラ姉とエルフ兄ちゃんを二度と悲しませたくなかったから……もう、エドラスで生きていこう、って思ってて……だけど、エドラスの全魔力がアニマに吸われて…元々アースランドの人間だった私も……」
「例外じゃなかった……って訳か?」
「……うん。」
グレイの続けた言葉にリサーナは苦笑しながら頷く。しばらく沈黙していた一同だったが、不意にナツが立ち上がってリサーナに手を伸ばす。
「行こう、リサーナ。」
「い、行くって……どこに?」
「お前の家族……ミラと、エルフマンのいるところに決まってんだろ?折角生きていたんだ……早く会いに行ってやらねぇと。」
「っ!!う、うん!!」
リサーナはナツの手を握る。それに少しだけ安堵した一同はリサーナを連れて、リサーナの墓がある場所……カルデア大聖堂にある墓地に向かうのであった。
「姉ちゃん、そろそろ行こう。」
「もう少し……」
リサーナの墓に佇む二人の人物。エルフマン、ミラジェーン。リサーナの兄、並びに姉である二人はリサーナの墓参りに来ていた。
リサーナの命日、その日には必ず花を置くために出向く。そして、今日がその日だった。
「ミラ姉〜!!エルフ兄ちゃーん!!」
そして雨の中、駆け抜ける
リサーナはミラジェーンに抱きつき、二人をエルフマンが泣きながら抱きしめる。死んだと思っていた者が、生きていた。嬉し涙を流しながら二人はリサーナを暖かく迎え入れるのであった。
「ただいま……!」
「おかえりなさい……!」
この日、リサーナ命日だったこの日はリサーナが帰還した祝いの日となった。中身のない空っぽなお墓に、兄と姉は行く必要がなくなったのであった。
「━━━で、この騒ぎ。」
翌日、妖精の尻尾はお祭り状態だった。何せ、死んでいたはずのリサーナが帰ってきたのだ。仕事をする気も起きずに、飲み食いのどんちゃん騒ぎだけをしていた。
「マルク、あーん。」
「あー」
因みに、マルクは両腕を負傷していたのであの後思い出したかのように病院に行った。しばらく両腕を使うもんじゃない、とやたらと怖い医者に激昂されたのが、マルクは軽いトラウマになっていた。
「……いやほんと、エルザさんが一緒に病院いってくれて助かった……家までくる必要があったのが疑問だけど。」
「……エルザさんって、あんまりそういうこと気にしないのかな……」
顔を真っ赤にしながらウェンディとマルクは顔を俯かせていた。一人で病院に行くくらいならなんとでもなったが、両腕が壊れているので着替えすらままならないのだ。
「……結局、どうするの?」
「なんか、マスターが来ることになった。流石に両腕が使えないんじゃどうしようもないだろうって。」
「家に来たら良かったのに。」
「いや……女子寮って男子禁制だろ?」
「女の子の格好すればいけるんじゃない?」
「本気じゃないよな……?」
二人が会話していると、突然にガジルがものすごく嬉しそうな声を出しながら叫んでくる。
「コラァ!!
「……あんたもえらいやつに目ぇ付けられたわね。」
「あぅ……」
「望むところだァ!!」
「望まないでよ……」
二人がお互いの相棒の自慢話を繰り広げる中、エクシード組は大人しくしていた。
そして、いつの間にやら本人達の方が喧嘩していた。何故か関係のないエルフマンとグレイが混ざっていたが。
「……なんか、随分と久しぶりなんだよな。こういう騒がしい感じ。」
「マルクずっとエドラスで一人だったもんね。」
「……それは、言われると寂しさを思い出しそうだ。」
騒がしく喧嘩する周りを見ながら、静かにマルクとウェンディは談笑していた。
それを、じっと見つめるハッピー。
「………どぅうえくぃてるぅぅ…」
「巻舌風に言うんじゃない……そういや、結局これ泊まりなのかな。」
「さぁ……?」
「……リアクション薄いと、オイラちょっと寂しいなぁ。」
宴がなし崩し的に終わり、皆がギルドで寝静まった頃。マルクは一人ギルドの外へと出ていた。
じっと、夜空を見上げながら星を眺めていた。
「……よう、そんなところで何してんだ?」
「あ……ギルダーツさん。」
「子供はもう寝る時間だぞ……って言っても全員家に帰らないでこれだからな。
全員素行不良だな、こりゃあ。」
「寝てなかったんですね。」
「そりゃあ騒ぎ倒してねぇからな。俺とマスターはまだ起きてるよ……で、話ってなんだ?」
微笑んだ顔のまま、ギルダーツはマルクの目を見る。マルクは真剣な表情で、少し聞くのを躊躇ったが……ギルダーツの目を見返して話を始める。
「……黒いドラゴン、のことを教えてください。」
「……ナツが言ってたな、確か……お前の育ての親のドラゴンが、目の敵にしてる……って奴か?」
「はい……わかる事が、あるかもしれないから。」
ギルダーツは、少し頬を掻く。話しづらい、のではなくあまりにも話すことが少ないゆえの行為だった。
「……俺は一瞬でやられた。それだけだぞ?ただ一つわかることといえば……あれは人間が勝てる相手じゃない、って事だけだ。」
「……人間が、勝てる相手じゃない。」
「……だが、ドラゴンなら勝てる。ドラゴンを滅する魔導士、って言いたいならそいつを倒さなきゃならんからな。
俺から言えることはそれだけだ。」
「……そうですか。いや、確かにその通りだ。ドラゴンなら……
「よせやい、俺は何も話せてねぇよ……怪我、早めに治せよな。」
「……はい!」
ギルダーツは手を振ってギルドの中へと戻っていく。マルクは再び空を見上げる。
ナツを育てた火竜イグニール、ウェンディを育てた天竜グランディーネ、ガジルを育てた鉄竜メタリカーナ。
あったことの無い3体のドラゴン。しかし、それはとても優しく育ててくれたのだろうと、マルクは予測する。
だからこそ不思議なのだ。自分の親、イービラーを含めた4体のドラゴン。それらは全員優しいはずなのに、何故黒いドラゴンだけは人類を攻撃するのか、を。
「……けど、もし妖精の尻尾を襲うのなら……ウェンディに、危害を加えるのなら……そのドラゴンは、俺が倒さないといけない。」
一つの覚悟を胸に、マルクはもっともっと強くなろうと、誓うのだった。