「我が名は大魔王ドラグニル!!この世界の魔力は俺様が頂いたァ!!貴様らの王は俺様が仕留めたァ!!特別、命だけは助けてやったがなぁ!!」
黒いマントを取り付け、仮装用の角を取り付けたナツ。ハイテンションそのままに高笑いしながら、エドラスの城下町の一軒家の屋根の上で、丸太に括られた王を見せしめとして、住民に見せつけていた。
「レッドフォックス!マーベル!!スーリア!!我が下僕達よ!!街を破壊せよ!!」
その声とともに、ガジルは鉄竜剣で建造物を切り裂いていき、ウェンディは頑張って驚かそうとする。マルクもなるべく人に当たらないように、尚且つスレスレの所にブレスを吐いていた。
「……わざわざ、街破壊する必要あるんですかね……ま、
マルクはナツを見てぼそっと呟く。何故ナツ達がエドラスの街を破壊しているのか。その理由は十数分ほど前に遡る。
「……なるほど、王子……ミストガンがアニマを逆展開して魔力を逃がしてるわけか。相当無茶する人だったんだな……」
「そうだよ。でも、それだけじゃあ足りないんだ……『この世界から魔力を消し去った悪役』と『魔力が無くても生きていけるということを証明する英雄』が必要なんだよ。」
ドロマ・アニムを倒して、浮遊島の落下を目撃したナツ達。その原因が、ドロマ・アニムにある起動している間の永久的な魔力吸収ではなく、誰かが開いたアニマに魔力が吸い込まれているため、ということに気づいた。
そんな時、エクシードの一人でありエクスタリア国務大臣であるナディがナツ達の前に現れたのだ。彼は、ミストガンとパンサー・リリーの会話を盗み聞きしており、それをナツ達に伝えに来ていたのだ。
「んで……その役目を俺達にしろって事か……」
「う、うん……悪いんだけれど……多分、この世界で悪役を貫ける人はいないと思うんだ。だから━━━」
「いいぜ、思いっきり暴れていいんだな?」
「えっ」
「ギヒッ……適当に建物の一つや二つぶち壊しゃあ悪役としては充分だからな。
なんなら建物は積極的に壊していくのもありかもしれねぇな。」
思いの外ノリノリのナツとガジル。そして、それを見て呆れているウェンディとマルク。
ナディもナディでこんな簡単に承諾してもらえるとは思っておらず、逆に会話の内容で心配するハメになっていた。
「……ま、建物壊す云々はともかく。たしかにこの世界に悪役を貫ける人はいないだろうな……だったら、俺達がやるしかないか。」
「それと……もう一つだけ言っておいた方がいいことがあるんだ。」
「ん?何だ?」
「……ぎゃ、逆展開されたアニマは『この世界にあるすべての魔力をアースランドに送り返す』んだ。
つ、つまり……体内に魔力を持っている者達も━━━」
「全員送り返される、って訳か。なら丁度いいじゃねぇか……そん時までに決着付けられれば、あとは適当に苦しんでるだけで悪役が消えていく構図になるんだからよ……ギヒッ。」
ガジルは悪役の笑みを浮かべながらそれを協力を承諾し、ナツもまたガジルと似た理由で承諾、ウェンディとマルクもやる事自体は理解しているので承諾するのだった。
「もっと街を破壊するんだー!!下僕共ー!!」
「下僕下僕うるせぇぞコノヤロウ!!」
「いいからやるのじゃ。」
「口調変わってんじゃねぇか!!」
街を破壊し、高笑いをあげ、いかにもな格好をしているナツ達を見て、逃げ惑っていた街の人達も、少しづつ夏に注目し始める。
「あいつらが……!あいつらがエドラスの魔力を奪ったのか!!」
「大魔王ドラグニル!!」
「許さねぇ!!魔力を返せー!!」
「やだね……俺様に逆らうものは全員━━━」
ナツが威力弱めのブレスを吐こうとした時、城の方から一人の男が声を上げる。
「よせーーー!!ナツーーー!!」
「……俺様は大魔王ドラグニルだ。」
「馬鹿な真似はよせ……王は倒れた、これ以上王都に攻撃など━━━」
「ファイアー!!」
ナツは弱めのブレスで建造物の壁の一部を破壊する。それだけでも、街の人の恐怖を煽るには十分だからだ。
「俺様を止められるかな?エドラスの王子さんよォ……」
ナツの言葉で街の人達に動揺が走る。
「来いよ!来ねぇとこの街を跡形もなく消してやる……!」
「っ……!!ナツ!!そこを動くな!!」
「ナツではない、大魔王ドラグニルだ。」
ミストガンは、地面に降り立ってナツに迫る。自分の魔法を構えながら走り迫る。
「王子……?この人が……?」
「あの魔王とか言うやつと戦うつもりなのか?」
「相手は火を吹くような怪物だぞ……」
ミストガンの姿を見ても街の人々は不安に煽られる。ミストガン自身も、ナツの行動に呆れていた。
「バカ者め。お前のやろうとしていることは分かってる。だが、この状況を収集できるわけがない……眠れ……!」
様々な思いが渦巻く中、ミストガンは得意の魔法を使おうとする。しかし、発動する前に魔力はアニマに吸われ使うことが出来なかった。
「どうした!?魔力がねぇと怖ぇか!」
「くっ!!」
「そうだよなぁ!!魔法は力だ!!!」
ナツは力の限りを込めて足場にしていた建造物を殴る。多少回復した魔力を使ったため、その建造物は完全に壊れて崩れ落ちた。
「きゃー!!」
「なんだこの破壊力は!?」
「魔法……!?」
街の人々はそれでさらに逃げ惑う。力のを見せつけるにしては、やりすぎな感じが否めなかったが、しかしこれぐらいしてこそ……ともマルクは思っていた。怪我しないように細心の注意を払いながら、だが。
「ナツさんやりすぎですよ!!」
「いいんだよ。これで強大な魔力を持つ『悪』に、魔力を持たない『英雄』が立ち向かう構図になるんだ。」
「それに……怪我しないように敵度に魔法打っておけば、威嚇しながら人の安全も守れるだろうさ。」
そう言いながら3人はナツを見守る。崩れた瓦礫をバックに、ナツとミストガンは睨み合っていた。
「もうよせナツ。私は英雄にはなれないし、お前も倒れたフリなどこの群衆には通じんぞ……」
「……勝負だァ!!」
「ぐ!!」
そうして二人での殴り合いが始まる。ナツが殴れば罵倒が飛び、ミストガンが殴れば歓声が飛ぶ。
しかし、それを手伝うことは許されない。この茶番のもう一つの目的、ナツが考え出した
英雄が悪役を倒して、混乱を沈めるのと同時に、ここから離れれば二度とエドラスに行けないことを察してのミストガンの壮行会。
「……殴り合いで壮行会なんて、いかにもナツさんらしいと言うか……」
「ギヒッ、ありゃあいい意味での馬鹿だからな。ま、俺ならもっと緊張感溢れるものに出来ただろうがな。」
「……ミストガンのことをよく知らない俺達がするんじゃなくて、眠らされていたとはいえ、顔馴染みのナツさんがやるからこそ意味がある……って言って辞退しましたもんね、大魔王役。」
「けっ、そんなんじゃねぇよ。」
ガジルが素直じゃないことに苦笑しながらも、マルクはナツを見る。街の人々には聞こえないナツとミストガンの会話。
そして、それに終止符を打つかのように……ミストガンとナツはクロスカウンターを決める。
最後に立っていたのは………ミストガンだった。
「王子が勝ったぞー!!」
「やったー!!」
「スゲー!!」
「王子ー!!」
「ステキー!!」
そしてナツが倒れると同時に、ナツ……否、体内に魔力を持っている
「始まった……」
「さーて……派手に苦しんでやるか。」
「何だ何だ!?魔王達の体が……!?」
そして、そのあとに体が光り始めた者達の体がアニマへと吸い寄せられて浮かび始める。
「ぐわぁぁぁぁぁ!!!」
「きゃああああ!!」
「うああああ!」
「ぐおおおおお!!」
それっぽい反応をしながら、ナツ達は天へと登っていく。その様を見た街の人々は魔王が倒されたから空に流れていくものだと、勘違いをしていたが、それを訂正することは真実を知る者は誰もしなかった。
消える一瞬の直前、4人の滅竜魔導士はミストガンに向かって自分達なりの笑顔でミストガンを見送ったのであった。
「んがっ!」
「きゃっ!」
「ぐおっ!」
「ひー!」
地面よりも少し高い位置から投げ出されたナツ達。全員が積み重なるように落ちてきて、そして全員が落ちて少し呆ける。帰ってくる時は、一瞬なので嬉しさよりも若干の戸惑いがあったからなのかもしれない。
「……帰ってきたぞーっ!!」
「そうだ妖精の尻尾!!」
グレイの一言で全員がマグノリアの街を確認する。グレイとエルザは確認していなかったが、飲み込まれたあとのあの真っ白な空間だった場所がちゃんと戻っているのか、それの確認が一番大事だったからだ。
「元通りだ!!」
「マグノリアの街も!!」
「やったぁ!!」
元通りになったマグノリアの街。それを見て喜ぶ面々だったが、エルザはまだ安心しきっていなかった。
「まだ喜ぶのは早い。人々の安全を確認してから━━━」
「大丈夫だよ。」
「一足先にアースランドに着いたからね。」
「色々飛び回ってきたんだ。」
「ギルドも街の人もみんな無事だったよ。」
エルザの言葉を遮り、現れたのはエクシードの面々。しかし、いきなり現れたエクシード達に全員が言葉を失っていた。
「みんな
「アースランドってすげぇな!魔力に満ちてる!!」
「━━━なんで、なんでエクシードがアースランドに!!」
事情を知らない滅竜魔導士達が、と言っても主にウェンディとマルクがシャルルに事情を説明する。
「冗談じゃないわよ。こいつらは危険!!エドラスに返すべきよ。」
だが、説明してもシャルルは頑なにこうだった。そしてシャルルの言葉でエクシード全体が落ち込んでいた。
「まぁまぁ……」
「エクスタリアも無くなっちゃったんだし許してあげようよ。」
「イヤよ。」
そんなそっぽを向き続けるシャルルに、エクシード達が謝罪をし始める。
「石を投げつけたのは謝るよ。」
「ごめんなさい。」
「でも俺達帰るところがないんだ。」
「これから改心するよ。」
「もう許して。」
「……石を投げつけた?」
エクシード達の言葉の一部にマルクが反応したが、ウェンディが軽くなだめてそのまま話を続ける。
「そんな事はどうでもいいの!!貴方達は私に滅竜魔導士を抹殺する使命を与えて、アースランドに送り込んだ!!」
「そうさ!!女王はおいら達の卵を奪った!!忘れたとは言わせねぇ!」
「あ、おじさん。」
とあるエクシードの言葉により、ざわつき始めるエクシード達。エクスタリアの女王であるシャゴットが軽く沈む中、恐らくシャゴットよりも歳上であろうエクシード達が前に出る。
「まだきちんと説明していませんでしたな……」
「これは6年前の話になります。」
「シャゴットには未来を見る力があるのはもう、お話しましたね?
ある日、シャゴットは地に堕ちるエクスタリアを見たのです。今思えばエドラスの魔力枯渇による自然落下だったのじゃが……当時は原因を人間の仕業と思っていた。
人間と戦争をしても勝てないことはわかっておった。ワシらは会議の末、100人の子供をエドラスから逃がす計画を立てたのです。」
「逃がすだと!?」
「その計画はエクスタリアの民にも内密に行われました。表向きは、異世界の怪物滅竜魔導士を倒す為の作戦だということにしました。
勿論、滅竜魔導士に恨みがあった訳ではありません。」
「分かっています。そういう設定が必要だったって事ですよね。」
「それに、本当の事を言ってたらきっとパニックになっていたと思うわ。」
女王に文句を言い立てた白いエクシードは、ものすごく複雑そうな顔をする。今まで怒りの対象だったものが、実は自分の子供を逃がす為にしてくれた事だと知ってどうしたらいいのかわからなかったからだ。
「人間達のアニマを借り、私達の作戦は成功しました。しかし、たった一つだけ計算外のことが起きたのです。」
「それはシャルル……貴方の力。」
「っ!?」
「貴方には私と同じ様な予言の力があったのです。」
「え……?」
「しかし、それは無意識に発動しているようで、あなたの記憶を混乱させたのです。避難させた100人のエクシードのうち……貴方一人だけが。
恐らく、エドラスの断片的な未来を予言してしまった。そして、それを指名だと勘違いしてしまったのです。」
「そんな……」
シャゴットの言葉でシャルルは驚きを隠せないでいた。自分の使命が、不幸が積み重なった結果の勘違いだったということが。
「じゃあオイラは……」
「元々そんな使命はなかったのですよ。本当に不運に不運が重なり、あなたは自分の『ありもしない使命』を作り出してしまった。」
「ぼきゅは君が自分の力を知らないことをいいことに、さもぼきゅたちが操っているように言ってみたんだ……ごめんね……」
「全て女王様の威厳を演出するための猿芝居……本当に申し訳ない。」
表情が驚愕の色に染まったシャルル。自分の今までが覆されるような気分になっていた。
「たくさんの不運と民や人間に対する私の虚勢があなたを苦しめてしまった。いいえ……6年前、卵を取り上げた全ての家族を不孝にしてしまった。
だから私は貴方に剣を渡したのです。悪いのはエクシード全てじゃない……私一人です。」
しかし、そのシャゴットの言葉に他のエクシード達は反論を始める。
「それは違いますよ女王様!」
「女王様の行動は全部私達を思ってのこと。」
「俺達だって自分達の存在を過信してた訳だし……」
「折角アースランドに来たんだ!六年前に避難させた子供たちを探しましょう!!」
「おぉ!僕達にも新しい目標が出来たぞ!!」
「今度は人間と仲良くしよう!!」
「新しい始まりなんだー」
「はは……前向きな奴らだな。」
エクシード達の発言により、シャゴットは感動していた。その前向きさは、エクシード全体のそれだと考えると、とても前向きな種族という事だが、それを見てマルクは自然と微笑んでいた。
「みんな……」
「いいわ……認めて上げる。」
「シャルル……」
「でも何で私にあんたと同じ力があるわけ?」
「ゴホッゴホッ!!」
「ど、どうしてかしらね……」
「なーんか怪しいわね……」
シャルルの疑惑の目。シャゴットと同じ白い毛色、そしてシャゴットと同じ未来予知の能力。
これらだけでも既に結果は見えているのだが、シャルルにはまだ分からないようだった。
「わ、私達はとりあえずこの近くに住もうと思います。」
「いつでも会えますね。」
「何嬉しそうにしてんのよ。」
「そう……いつでも会えるわ、シャルル。」
シャゴットはシャルルを抱きしめる。それに対してシャルルは抵抗することなく、それを受け入れていた。
「みなさん本当にありがとう。」
「また会いましょー」
「元気でねー」
「おーう!またなー!!」
「またねー」
「とりあえずバイバーイ。」
そう言って、エクシード達は飛んでいく。この近くに住むのであれば、いつでと会える。
前向きで自由気ままな猫のような種族、エクシード。彼らの本当の歴史はある意味、これからなのかもしれない。