「発射中止だーっ!!」
「エルザ……貴様!何の真似だエルザ!」
エルザ・ナイトウォーカーの姿から一転、光り輝いたかと思えば、その姿は鎧に自身の大切なギルドマークを掲げる
「私はエルザ・スカーレット、アースランドのエルザだ。」
「悪い、危なかった。機転を利かせてくれて助かった。」
「かっかっかっ!これぞ作戦D!騙し討ちのDだ!!」
エルザは、エドラスの王の首に剣を押し当てて兵士達を脅す。竜鎖砲、巨大ラクリマが置いてある浮遊島にぶつける事で、エクシードたちの街であるエクスタリアに浮遊島をぶつけてエドラスに永遠の魔力をもたらすという魔法。
しかし、これが成功してしまえば
たが、この竜鎖砲を逆に巨大ラクリマそのものにぶつけたらどうなるのか、エドラスにおける滅竜魔法はラクリマになった者達を戻すことが可能であり、今ナツ達はそれを行うために王を人質に取ったのだ。
「照準をラクリマに合わせろ。」
「言うことを聞くな!今すぐ撃て!!」
「うぅ……ど、どうする?」
「卑怯だぞテメェら!!人質を取るなんてー!!」
兵士達はそこにいるアースランドの妖精の尻尾のナツ、グレイ、エルザに向かって言い放つ。
「それがどうした。」
「オレ達は仲間のためなら何だってするからよォ……」
「早くしないか。」
ぐっと押し当てられる剣。永遠の魔力よりも、兵士達は当然自分達の王を選ぶ。
「くそぉ……!やれ!陛下が危ない!!」
「ワシなどよい!!撃て!!エクシードを滅ぼすために!!」
「照準変更!巨大ラクリマに変更だ!!」
「ばかものが!永遠の魔力を不意にする気かぁー!!」
そして、今この瞬間に竜鎖砲が発射される……そのタイミングで、二人の乱入者が現れる。
「スカーレットォォォ!!!」
「なっ……!」
「ナイトウォーカー!!」
一人はエドラスのエルザ、エルザ・ナイトウォーカー。エルザ・スカーレットに装備を剥ぎ取られたためか、その体には一枚の布だけを羽織っていた。
だが、武器である槍は携えたままだった。そして、ナイトウォーカーは壁から飛び降りて、エルザに向かってその槍を向ける。
だが、もう一人の乱入者がそれを阻止しようと横から現れる。
「させるかァ!!」
「何っ!?」
「マルク!」
現れたマルクは、飛び降りるナイトウォーカーの槍を持っている腕目掛けて蹴りを入れる。
「ぐっ!」
「邪魔はさせない……!」
「邪魔……するなァァァ!!」
「なっ!?」
だが、蹴りを入れられて槍を手放したナイトウォーカーは、なんとそのままエルザに向かって、足を伸ばす。要するに、槍で攻めるつもりだったのを、蹴りに変更したのだ。
しかも、蹴られた腕の痛みを抑えながらマルクを無理やり吹き飛ばした。
「くっ……!」
「陛下の拘束が解けた!!今だ、照準を戻せ!!」
「マズイ!!」
ナイトウォーカーの蹴りにより、エルザは一時的に王の拘束を解くことになってしまう。
それにより、竜鎖砲の照準は再び浮遊島へと向けられる。
「まだ終わってないぞォォ!スカーレットォォォ!!!」
「ナイトウォーカー……!こんな時に!!」
「━━━撃てぇぇぇぇぇぇいい!!」
そして、竜鎖砲の発射ボタンが押されてしまう。その直線上には浮遊島と……マルク・オーグライが変貌した小型のドラゴンがいた。
「待て!!そのドラゴンは━━━」
竜鎖砲のエネルギーは貯められ、巨大な鎖の様な魔法が浮遊島に向けて発射させられる。
それは、一瞬でドラゴンを貫き、浮遊島を接続する。貫かれたドラゴンは、悲鳴を出すこともせずそのまま鎖に吸収されるように、消えていった。
「カバーセット!そして接続も完了しました!!」
「エクスタリアにぶつけろぉ!!」
「━━━お前ええ!!」
「やめろおおお!!」
悲痛な声を出すナツ。王に向かって蹴りを入れようとするマルク。しかしそれは、兵士達自らが盾となることで止められる。
「くそっ!!なんで、何であいつを見殺しにしたァ!!分かっててやったんだろ!!」
「くくく……元より、オーグライにはその役目しか求めとらんわ……万が一、竜鎖砲の鎖が破壊される可能性もあるからの……破壊のために振るわれる、相手からの魔法を無効化するためにやつの命そのものを……鎖のカバーとして使わせてもらったのだ!!」
「っ!!あんたは……絶対に……」
「みんなー!!」
遠くから聞こえる声。空から、エドラスに住む空も飛べる大型獣レギオンに乗ってきたルーシィの声。
「乗って!!」
「ルーシィ!?」
「何故あの小娘がレギオンを!?」
王の疑問に応えるかのように、ルーシィの他にもう一人の人物が現れる。エドラスに住む、ココという少女の姿であった。
「私のレギオンです。」
「こいつで止められんのか!?」
「分かんない!でも行かなきゃ!!」
そして、レギオンは咆哮をあげ、浮遊島に向かって羽ばたき始める。
「……」
「人の命を、なんだと……!」
エドラスとアースランドのエルザ、そしてマルクとエドラス王。前者は互いに互いを敵視し合い、後者は下っ端にくれるものなどないと言わんばかりに、王はマルクの事を無視していた。
「急げぇーーーー!!ぶつける訳には、行かないんだァーーーっ!!」
高速で飛行するレギオン、そのままの速度と勢いで浮遊島に頭突きを当てる。
「頑張って!レギピョン!!」
ココの思いに応えるかのように、レギオンは雄叫びをあげる。しかしそれでも、竜鎖砲に繋がれた浮遊島を止めるにはまったく力が足りなかった。
「駄目だ!!全然止まる気配がねぇ!!」
「私達も魔力を解放するんだ!!」
「お願い!!止まってぇ!!」
グレイも、エルザも、ルーシィも、ナツも、ハッピーも……全員が浮遊島を止めるために、全力で対処する。
しかし、それでもまだ浮遊島を止めるには力が全く足りていなかった。
「駄目だ!!ぶつかるぞ!!」
「うぁっ!」
「こらえろォー!!」
そして遂に、浮遊島はエクスタリアのある島へと激突し始めていた。それでも、まだ誰も諦めてなどいなかった。
「ガジル!!何故私達のようにみんなを元に戻さん!!」
「黒猫が邪魔するんだよ!!」
「どちらにせよ、今からじゃあ時間がかかりすぎる!!」
「ココ、なぜおまえが……」
「……パンサー・リリー!?」
マルクは、こんな所にいるパンサー・リリーに驚いていた。『ラクリマのある島にいれば自身もただでは済まない』と、分かっているはずなのに。それだけ王国への忠誠心が厚いのか、それともエクスタリアのことが気に食わなかったのか。
しかし、今はそれを気にしている暇はなかった。
「気付いちゃった!私……永遠の魔力なんていらない、永遠の笑顔がいいんだ。」
「なんて馬鹿な事を!!早く逃げろココ!!この島は何があっても止まらんぞ!!」
「止めてやる!!身体が砕けようが、魂だけで止めてやるアァァァ!!」
全員の、根気や魔力……もはや体の全てが壊れそうになるのも構わずに、ナツ達は浮遊島を止めようと押し続ける。
それでも、浮遊島はエクスタリアの土地を段々と削っていく。それでもまだ誰も諦めなかった。
どれだけ体が悲鳴をあげようとも、止めなければならなかったからだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお━━━!!」
「潰されそ……!」
「うギギ……!」
「ふんばれぇ!!」
「なんとしても止めるんだ!!」
「ここで、ぶつかったら……!全部水の泡だ……!」
「無駄な事を!!人間の力でどうにか出来るものではないというのに!!」
それぞれが死力を尽くす中、一つの影が浮遊島にぶつかる……否、止めるために押さえつける。
「シャルル!?」
「私は諦めない!!妖精の尻尾もエクスタリアも両方守ってみせる!!」
現れたシャルルに続いて、更にもう一つの影が同じように浮遊島を抑えるために、その体を浮遊島に押さえつけていた。
マルクはその者の姿を見たことがなかったが、猫っぽい姿と羽を生やしてるのを見てエクシードだとすぐに判断した。
「あんた……」
「ぼきゅも守りたいんだよ……きっと、みんなも。」
そして、エクスタリアから次々と……エクシードが現れていた。ラクリマを止めるために、自分達の故郷を守るために。
その翼をはためかせて、浮遊島を抑えていく。
「自分達の国は自分達で守るんだ!!」
「危険を冒してこの国と民を守り続けてきた、女王様の為にも!!」
「ウェンディさん!シャルルさん!!さっきはごめんなさい!!」
「みんな!今はこれを何とかしよう!!」
そして、エクシードの一人に支えられてウェンディも来る。マルクは、少し傷ついているウェンディの姿を見て驚いていたが、それでも命は無事な姿を見て少しだけほっとしていた。
「ウェンディ……よかった……」
「マルク……また無茶したの?」
一旦エクシードから下ろされて、ウェンディはマルクの隣に立って浮遊島を抑え始める。
ウェンディは、腕ではなく魔力を解放して体全体で浮遊島を押しているマルクの姿を見て、少しだけ心配していた。
「はは、無茶したのは多分…お互い様じゃないのか?傷だらけだぞ?」
「……そうだね、これが終わったら……ちゃんと治してあげるからね。」
「あぁ……だから、今はこれをぉ……!」
マルクは更に魔力によるブーストをかけて押していく。腕が使えない分、他の者よりも倍以上踏ん張らないといけないのだ。
「止まれぇぇぇぇーーーーーっ!!」
「みんな頑張れー!!」
「押せー!!」
「俺達なら出来るぞー!!」
全力で、全開で、魔力の全てを使い果たしていく覚悟で。
ナツ達も、エクシード達も、皆が皆浮遊島を押していく。その覚悟が伝わったのか、ラクリマを乗せた浮遊島は段々と押し返されていき始める。
「止ま、れぇぇえええええ!!」
「お願い!!止まってぇぇぇ!!」
段々と押し返されてきている浮遊島。しかし、突如光ったかと思えばなにかの力で、押し返そうとしていた者達を全て軽く吹き飛ばしていた。
「何!?」
「くっ……!?」
空中に投げ出されてしまった、エクシード以外の面々はそれぞれ色んなエクシード達が
だが、気づいた時にはラクリマを乗せた浮遊島から
「ラクリマが消えた……!?」
「ど、どうなったの……?」
不安と喜び、そして驚きが入り交じっている中でラクリマの行方を疑問に思う者達。
「アースランドに帰ったのだ。
……全てを元に戻すだけの巨大なアニマの残痕を探し、遅くなったことを詫びよう。そして、みんなの力がなければ間に合わなかった……感謝する。」
「ミストガン!」
「おぉ!!」
「元に戻したって……」
ハッピー、いやこの場にいる全ての者達の疑問に、ミストガンは答える。
「ラクリマはもう1度アニマを通り、アースランドで元の姿に戻る。全て、終わったのだ。」
その言葉に、全員が喜びを噛み締め始める。ラクリマにされた者達も、エクシード達の故郷も……全てを守れたのだから。
「やったのか!?」
「俺達……エクスタリアを守れたのか……!?」
そして、全員が喜びの喝采をあげる。全てを守れたその喜びを、全員で分かち合うかのように。
そして、ラクリマの事とエクスタリアの事以外でも喜ぶ者がいた。ココである。
「王子が帰ってきたよう……!」
「王子!?」
「え、ミストガン王子なの!?」
ココの呟いたことにルーシィとマルクがツッコミを入れる。
しかし、その喜びに水を差すかのように一つの悲劇が襲いかかる。
「……がっ……!?」
「リリーー!」
パンサー・リリーが、何者かによって撃たれたのだ。そして、その撃った者は━━━
「まだだ……まだ終わらんぞーっ!!」
「王国軍……まだ、諦めてなかったのか……!!」
大量のレギオンに乗った王国軍、そして区別するためか髪を切ったエルザ・ナイトウォーカーが、パンサー・リリーを撃ったのだ。
まだ、何も終わっていなかったのである。