「……ドラゴン……!?」
マルク・オーグライが変質した姿。彼の体内に埋め込まれている魔力を消滅させて、彼を戦闘不能にするつもりだったマルクは、変質した彼の姿を見て、そう呟いた。
「喰ラう……魔力、ヲ!いっ、パイ、食べテ……満タす……満たス……ミタ、すゥゥゥゥ……!GRUAAAAAAAAAAA!!」
巨大な咆哮をあげて、目の前の小さなドラゴンはマルクに視線を向ける。魔力を持ってさえいれば、誰であろうと関係なく彼の前では捕食対象になりうるようだ。
「……滅竜魔法、効くといいなぁ!!」
そしてマルクとドラゴンは同時に飛び出して、お互いの一撃をぶつけ合う。しかし━━━
「おっも……!?がっ!?」
マルクは、ぶつけあったその一撃で大きく吹き飛ばされてしまう。一瞬で城の壁まで吹き飛ばされてしまったマルクは、壁を一枚貫通して二枚目でめり込んでいた。
「魔力……!まリョくぅうぅゥウ……!」
「ちっ……俺の魔力のせいか……?そりゃあ腹いっぱい食いたいよなぁ……魔力がないと、死んじまうもんな……死にたくないもんなぁ…誰だって、どんな奴だって……絶対にそう思う。」
なんとか壁から抜け出しながら、目の前のドラゴンにマルクは喋りかける。だが、ドラゴンからの返答はない。
「……お前を殺そうとした俺を、軽蔑でも侮蔑でも罵倒でも……何でもすればいい。魔力がないと生きていけないお前から、俺は魔力を奪う。」
マルクは、構えを取りながらドラゴンに向かう。ドラゴンは明らかに会話が通じていなかったが、それでもマルクは語りかける。
「人殺しだと罵れ、自分が生き残るために他人の命を犠牲にした屑だと軽蔑しろ、そして……死んでも俺を恨みで糾弾するのを忘れるな。
俺は人を殺す。エドラスの……異世界だからと罪を背負えない俺に罪を……業を与えろ……!」
再び飛びかかるドラゴン。そのタイミングに合わせて、マルクはドラゴンに膝蹴りを与える。
怯んだその一瞬で、マルクはそのまま体を捻ってドラゴンの横顔に蹴りを入れる。
その一撃一撃全てに魔力を込めて、ドラゴンの魔力を吸い取っていく。
「GAAAAAA!」
「いぎっ!!?」
しかし、怯みはすれどドラゴンの攻撃は止まず。ドラゴンの腕の一撃が、マルクの肩に与えられる。
ウェンディに直してもらった肩だったが、
「いって……また壊れたらシャレになんねぇ…他のみんななら完治していたんだろうなぁ……!」
「GAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」
大きく叫ぶドラゴン、痛む肩を抑えながらマルクはさらに攻撃を続けていく。
「魔龍の……翼げがっ……!」
しかし、攻撃しようとした瞬間に壁に叩きつけられ、両肩をドラゴンの両手で押さえつけられる。
完全に、餌と捕食者の立場になってしまっていた。
「クソッ……両手は、動かねぇし……ブレスで攻撃しろってか……それしか手がないんなら……するしか、ねぇんだろうけどな……」
「……」
唸り声をあげながら、ドラゴンはマルクを見下ろす。感情を感じ取れないその瞳は、何を思っているのかマルクは少しだけ気になってしまった。
「……オーグライとしての、意識があるんなら……言葉が聞こえてんだろうか。
いや、聞こえてないだろうな……ていうかドラゴンって……正しく
「……」
大きく口を開けるドラゴン。相手が抵抗しないとわかったからか、恐らく肉ごとマルクの魔力を食らうつもりなのだろうと、予想していた。
「……黒い、ドラゴン……イービラーが言ってた……倒すべき、ドラゴン……ドラゴン……?これが……?」
小さなドラゴンを、気づけばマルクはよく見直していた。羽は生えているもののとても肉感的で、羽というよりはただの肉の塊だった。
前足も後ろ足も、急な体の変化に付いていけなかったのか、形がぼこぼこになっていた。
顔も、黒い鱗が生えているとはいえまるで人間の顔をそのまま引き伸ばしたかのような見た目だった。明らかな違い、彼の中にあるドラゴンと目の前にいるドラゴン。
比べて、マルクは無意識にこう呟いていた。
「━━━
「ぐあぁ……?」
唸り声が、何か疑問を感じたように聞こえたマルク。明らかに意思がないのに、感じ取れたことに対して妙におかしくなってしまった。
「……こんなんじゃ、俺は倒せねぇぞ……!」
「がっ……」
無理に体をひねって、マルクはドラゴンの顔に蹴りを打ち込む。たった一撃、しかしその一撃はドラゴンの目を直撃していた。
蹴りを入れた一瞬は特に反応をしなかったドラゴンだったが、自分の目を潰された痛みが遅れてきたのか、次第に大きく鳴き始める。
「ぐるるァああえ!!」
「目潰し……卑怯だが、これくらいしねぇと今の俺じゃあ勝てる気がしないんでな……!はぁ……ぐむっ!!」
たじろぎ後ろにさがるドラゴン。マルクは体を無理に動かしてドラゴンの首筋に噛み付く。
「ぎゅあ!?がああぁぁぁぁ!!」
噛み付かれたことに気づいたドラゴンは、咄嗟にマルクを殴りつけていく。しかし、マルクはそれで離れることは無かった。
「ふー……ふー……がぁ!!」
噛み付いたところに、そのまま魔法を……ブレスを使うマルク。ゼロ距離での魔龍の咆哮。
「ぐが、GAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
勢いでマルクもドラゴンも吹っ飛ばされる。マルクは勢いよく吹っ飛んでいって壁に叩きつけられ、ドラゴンも反対側の壁へと叩きつけられる。
「なんだ!誰だここで暴れているやつは!!」
「やっべ……こっちにも来たか……いや、今までこなかっただけましか……」
城の兵士、マルクとドラゴンの戦いの音を聞いてやってくる。しかしその数は本来の兵士の数と比べれば圧倒的に少なかった。それでも、今のマルク一人には多い数だったが。
「………」
「っ!?ば、バケモノ!?」
「……お前の相手は、俺だろう……がっ!!」
兵士達の方に視線を向けるドラゴン、その一瞬の隙にマルクはかかと落としを頭に決める。
「……」
「……魔力込めたんだけどな。もしかして効いてない?」
全くダメージが入ってなさそうなドラゴン。なんとか距離をとるマルクに改めて視線を向ける。
両肩がイカレてしまっている今、腕を酷使できるわけでもないので必然的にブレスか足技主体になってしまう。
「……がぁっ!!」
「っ……!」
一瞬で間を詰め、マルクに頭突きをするドラゴン。そのまま角度を変えて城の屋根を突き破る。つまり、空を飛んだ。マルクを頭に乗せたまま。
「が、は……!」
息を取り込もうとしてもかなりの速度で飛んでいるために、肺が抑え込まれてしまって空気が入り込まない。
このままだと窒息してしまう……そう考えたマルクは必死にドラゴンに蹴りを入れる。しかし、それはドラゴンに取っては全く意にも介していなかった。
流石にダメか……?と、マルクが諦めた時に勢いが無くなる。
「……は?」
そして、今度は落下する感覚があるのと、自分の上にドラゴンがいた事。つまり、ドラゴンがマルクを落下させたのだ。
そして、当のドラゴンは羽を羽ばたかせながら魔力を溜め込んでいた。……口に、ブレスの準備をしていた。
「━━━━━KYURAAAAAAA!!」
そして、マルクに向かってそのブレスは放たれる。そのブレスはマルクを貫……かなかった。
「━━━へへ、魔力ご馳走さん。」
「っ!!がぁ!!」
殺す気の一撃だったのだろう、死んでないことがわかったドラゴンはマルクに向かって高速で突撃してくる。その爪が生えた腕を伸ばしながら。
ブレスが効かなければ、腕で貫いて殺す。そういうつもりなのだろうとマルクは思っていた。
「あいにく両腕は使えないが……お前のおかげで魔力を貯め込めたよ。もう……眠れ……!」
地面に近づくマルク、その落ちる速度よりも早く迫ってくるドラゴン。マルクは、使えるだけのありったけの魔力を足に貯める。
そして、ドラゴンの腕がマルクに触れるのと、マルクが地面にたどり着くのはほとんど同タイミングになりかけたその時。
「魔龍の━━━」
マルクはドラゴンの攻撃の勢いを利用して、体を回転させる。そして、そのまま受け流したドラゴンの頭めがけて……足を振り下ろす。
「━━━尾激!」
「ゴガァ……!」
まるで、ドラゴンがその尻尾を地面に叩きつけるように、その一撃はドラゴンの頭に与えられる。
強烈なかかと落とし。落下の勢いとドラゴンの勢いの二つを利用しての強力な一撃。ただのかかと落としに比べれば圧倒的に威力が高かったようで、その一撃を受けたドラゴンは昏倒する。
「ひっ……」
「はぁはぁ……次は、お前らか……?」
「ば、化け物だ!勝てるわけねぇ!!」
兵士達はその場から武器を捨てて逃げ出す。ブレスを食べる所を見られたのか、もしくはただドラゴンを倒した事なのかは分からないが、マルクに恐れをなして逃げ出したのだろうと、満身創痍になりながらそう考えた。
「……さて、どうやったら元に戻るのかね……吸い取った俺の魔力を逆に吸い取ったら、戻ったり……しないよな。」
気絶したドラゴンを見ながら、マルクは呟く。何せ、異常事態も異常事態なのだ。自分の魔力を入れたラクリマで、ただの人間がドラゴンになるなどということが、考えられないことなのだ。
「……ナツさん達は、どうなったかな。ラクリマにされたみんなの事も気になるけど、それ以上に
昏倒するドラゴンの頭に手を置いて、自分の魔力でドラゴン化した時に使われた魔力を吸い始めるマルク。これで治るかは不明だが、やらないよりはマシだと思っていた。
「……ん?今こいつ動いて……いや、それだったらもっとえげつない動きするよな。魔力吸われたくないだろうしな。」
「……」
依然として気絶し続けるドラゴン。ドラゴン化した時に使われた魔力は順調に吸収できていっていた。
といっても、いつものように魔法を食べるわけではなく、魔力を通して吸収しているため、魔力は回復するどころか減っていってるが。
「……震えてる……?」
突然、何かに怯えるように震え始めるドラゴン。しかし、震えているにも関わらず
「一体何が……っ!?おいどこに行く!!」
そして、羽ばたくこともせずになにかに引っ張られるかのように、ドラゴンは城の中心の上階に向かって飛んでいく。
「くそっ……あそこで何が……!とりあえず向かうしかねぇ!!」
ドラゴンの後を追いかけて、マルクは城の中心まで走っていくのだった。
「……ここまで、兵士が全くいなかった。シュガーボーイとか言われてた人はぶっ倒れていたけど……床が凍っていたけど、グレイさん暴れてたのか……?っと、この部屋か……?」
マルクは大きな扉のある部屋までたどり着く。しかし、その扉の前には二人ほど兵士がいた。
既に自分が偽物だとバレている以上、マルク・オーグライのフリをして行くのは難しい。
「……扉は、開いている。扉の前には二人の兵士……中には……ナツさんとグレイさん……それと……ナイトウォーカーの方のエルザさんか……」
捕まっているナツとグレイ。そして部屋の中には巨大な砲台。この辺りにドラゴンが飛んできているのは確実だったが、どこにいるのかまでは予想がつかない状況だった。
どうすればいいのか分からないマルクだったが、中で突然ナイトウォーカーが王を人質に取り始める。
「っ!そうか、ナイトウォーカーじゃなくて……今突入すれば……!」
エルザはナイトウォーカーの方ではなく、スカーレット……つまり、アースランドのエルザだったのだ。それにすぐ気づいたマルクは、すぐさま部屋に向かって走り始める。
そこで、偶然見つけたのだ。砲台の前に、まるで繭のように丸まっているドラゴンを━━━