「……オー、来たか。あの部屋から脱出してくるんだろうとは思っていたが……案外早かったな。」
「……かたやエクシード達を敵に回し、かたや俺達も敵に回してる。王国は、魔力の為だけに敵を増やしすぎだと思うがな。」
エドラスの王都、その城の庭に男はいた。マルク・オーグライ、エドラスに住むもう一人のマルク・スーリア。
今、二人のマルクが対峙していた。
「コード『
エクシード達を
生きるために必要な魔力を求めて何が悪い?」
「生きるために、何も知らない人を犠牲にしていいって言うのか?」
「弱肉強食って言うのはそういうもんだ。何がいい、何が悪いなんてないに決まってんだろ?あるとすれば、自分を狙う獲物に気づかない方だがな。」
「そうか……もう、いい。理屈っぽい事言ったけど……要は、勝手に踏み荒らしたやつが気に食わないってだけだからな。」
マルクは冷静に敵を見据える。それを見たオーグライは実に楽しそうにその顔を楽しそうな表情に変える。
「いいねぇ、その表情……冷静に獲物を狙う目だ。食うか食われるか……魔力の食い合いといこうじゃないか……『人間もどき』!!」
「お前には負けないよ……『元人間』!!」
どちらからと言わず、同時に相手に向かって飛び出し、同時に魔法を使う。しかし、お互いの一撃目はどちらも回避して当たることは無かった。
「魔龍の咆哮!」
「
マルクがブレスを放ち、それをオーグライが魔法の盾で防ぐ。マルクの魔力は大抵の魔法を飲み込む。しかし、その性質はオーグライの魔法にも言える事だったのか、互いに同性質の魔法という事で互いの魔法が互いに食いあってしまいすぐさま消滅を迎える。
「……なるほど、こうなるのか。こりゃあ互いに魔法使ってもダメージは通らなさそうだなぁ……っと!!」
「っぶねぇ!?」
直感的に察知してマルクは横へと避ける。マルクが先程いた所からは、マルクが囚われた時と同じ、魔力を吸い上げる魔法が現れていた。
「よーく避けたな。」
「2度と捕まってたまるかよ、あんな魔法に。」
「まぁ、地面にいようが、空中にいようが、水中にいようが…変わらず相手の足元に出る仕様のこの魔法だが……実はとある魔法と組み合わせると面白い変化が起きる。」
そう言ってオーグライは掌から魔力で出来た鎖を生み出す。しかし、その鎖は段々と先の方が、何かの顎のような形に形成され始める。
「……魔力を持った獲物は絶対逃がさない。
こいつは……投げるとこうなる!」
そう言って生み出した鎖をそのまま中に放り投げるオーグライ。空中に投げられた鎖は、先っぽがマルクの方へと向いた瞬間に……高速で接近してきていた。
「っ!?早っ!!」
鎖は地面に激突したかと思えば、そのままマルクの足元から地面を掘り抜きながら飛び出して、それをマルクが避けたらそのままUターンして再びマルクに襲いかかる、ということを繰り返し始めていた。
「くっ、こいつ狼っていうか蛇じゃねぇか!!」
「あ?あー……多分どっちも似たようなもんだろうがよ!!ていうか……俺がいることを忘れてんじゃねぇよ!!」
「がっ!?……うおっ!」
鎖に翻弄されているマルクに向かって、オーグライは殴りかかる。不意打ちで頭への攻撃を許したマルク。だが、それでもやはり追い続けてくる鎖は何としてでもと、避け続けていた。
「一々ブレス使うだけ魔力無駄遣いだろうし……かと言って近接技だと喰らいつかれるんだろうし……くそっ!!
一か八かの魔龍の逆鱗!!」
腕に魔力の棘のようなものを生やし、それを向かってくる鎖に対してトンファーのようにぶつけるマルク。鎖は、その攻撃一撃で破壊され、消えていった。
「おー、良くやったな。じゃあ次は10本いって━━━」
「その前にお前を殴り倒すんだよ!!魔龍の鉄拳!!」
魔力を込めた拳で、オーグライの体にあるラクリマを勢いよく殴るマルク。ラクリマさえ破壊できれば、オーグライの力の源を破壊できると考えたからだ。
「……っ!?」
「破壊できるとでも思ったか?勢いよくパリーンって?いやいやそんなことさせる訳ねぇだろうがよ。
というか、そんな簡単に出来るわけねぇだろうがよ。」
「くっ………!?」
殴りつけた時に鳴り響く鈍い音。マルクは少しだけ痛む手を抑えながらオーグライから離れる。オーグライの体は、まるで鉄のような硬さだったのだ。
「なんだそれ……魔法か?自分の体を硬くする魔法……」
「うーん……いや違う。俺の体は何度も変えたって言ったろ?自分の体を変えるたびに、以前の使っていた体の性質の殆どを受け継いでいる。
前は機械に取り付いていたからなぁ……その影響で少しばかり体が鉄のように硬くなっちまってるんだよな。」
「ち……なら鉄すらもぶち抜けるくらい勢いよく━━━!」
「無駄だよ、体に出てるラクリマを破壊したところでな……
そしてオーグライの体から大量に鎖が生えてくる。その鎖は先ほどの魔法と同じように、顎が付いている。
だが、鎖自体の数が10や20では利かないほどの数をオーグライは出していた。
「さぁこいつら全員倒してみろよ!なぁに、一撃で壊れるほど脆い奴らだからな!お前なら余裕で突破できるだろうな!!」
その鎖の大軍が、襲いかかってくる。噛みつかれれば魔力を吸い取られてしまい、マルクは終わってしまう。
「魔龍の翼撃!」
翼のように広げた魔力で大量に破壊しつつ、再度オーグライに近づこうとするマルク。しかしオーグライは近づかれない余裕があるのか、そこから動かずに笑みを浮かべながらマルクを見据えるだけだった。
「さぁて……お前さん、さっき言ったよな?エクシードとお前さん達を相手したと……」
「魔龍の咆哮!
ちっ……それがどうした……ってんだ!!今お前を殴りに行くんだから黙っとけ!!」
「逆だよ……お前さん達が俺たちに喧嘩を売ったのさ!エクシードに関してもよ!ただの喋れる猫風情に、何怯えてたんだよ家の王国はよ!!寧ろ格好の餌じゃねぇか!!魔力を俺らに提供してくれる都合のいい餌さ!!
お前さん達にしてもそうさ!!俺達にアニマという魔法を持って魔力となって、食われるだけの運命!!餌ごときが、俺達に勝てるなんて思わねぇ事だな!!ひゃはははははははははは!!」
天を仰ぐようにオーグライは高笑いする。マルクはそんなオーグライを見ながら少し、呆れていた。
「……哀れなもんだな。」
「……あ?」
「お前は狂ってるよ、本当にな。魔力に取り憑かれてると言うべきか?」
オーグライが喋っているあいだに、マルクは少しづつ鎖の数を減らしていっていた。
そして、今呼び出した最後の一本を破壊する。
「あー……そりゃあこの国全員だろ?何で俺だけにそんなこと言うんだ?筋違いとは言わねぇがな。」
「いいや……お前だけだよ。いや、正確にはこの王国……王様以上に魔法や魔力の事しか考えていない。
ずーっと、なんか頭に引っかかってたんだよ……生存本能だけで腹に刺さったラクリマの魔力を使えるのか、ましてや魔法を使えるのか……ってな。
今気づいた、というより合点がいった。」
「……何が言いたい?」
「
「……は?」
マルクの言ったことに首を傾げるオーグライ。まるで子供のような、理解ができないという顔をする。
「ラクリマに貯められた魔力は有限、無くなればまた一から貯め直さないといけない。
お前は知性の宿ったラクリマなんだよ。だからそれだけ魔力を求める、魔力が貯められるように、体を何度も移し替える。」
「……はは、面白い冗談だな?知性の宿ったラクリマねー……やっぱり、冗談としては大して面白くないな。
じゃあなんだ、俺がマルク・オーグライを名乗ってるのはただ記憶を読み取っただけだっつうのか?」
「あぁ、その通りだよ。有限とはいえ、何でエクシードやアースランドの人間くらいにしか使えなさそうな魔法を、使ってるんだよお前は。
しかも攻撃力らしい攻撃力も全く備えていない。いや、戦えれば確かに相手にダメージを入れる必要も無いけどよ。
それでも……なんでこの世界の人間やモンスターに対して、全くもって効果の無いものを作ってんだよ。」
「あー?あー…あー……?」
マルクの主張にオーグライは首をあっちこっちに傾けながら、考えるような仕草をとる。
その間に、マルクは拳……否、掌に自分の魔力を溜める。
「…お前は、既に死んでるんだよ!マルク・オーグライ!!」
「……俺が、死んでる……?今、こうして、息をして、立って、物を、見て、喋、って、いる━━━」
言葉を途切れ途切れに喋りながら、オーグライは目が血走らせていた。その頭は無意識に自分の過去の記憶へと遡っていた。
「っっ!?!!?!」
ある記憶にたどり着いた瞬間、オーグライの呼吸は止まる。死んだから、という訳ではなかった。
目に焼きついているのは、自分の左胸に……心臓にラクリマが刺さっている光景。
耳にこびりついていたのは、自分の悲鳴以上に聞こえてくる消化される自分の音。
喉にへばりついているのは、その時の悲鳴。そして何より、
「━━━あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁAAAAAAAAAAAAAAA!!」
鼓膜が震えるほどの大絶叫。喉から血が出るほどに、その一瞬でオーグライは喉を酷使していた。
その間に、マルクはオーグライに対して距離を詰めていた。
「魔龍の━━━」
そしてその魔力の溜めた両の掌を片手は上向きに、もう片手を下向きにして縦に揃え、オーグライの腹に勢いよく当てる。所謂、掌底である。
「━━━
その一撃は、魔力を喰らい尽くす。相手の魔力をほとんど喰らい、完全に無効化する技、食らえば余程の魔力持ちでもない限り、無効化することが可能なこの技。
体中にラクリマを仕込んでいるオーグライにとっては、まさに命をも刈り取りかねない一撃だった。
「……今、解放してやるよ。お前を縛るラクリマからな。」
「が……おま、え……!」
そのまま倒れ込むオーグライ。マルクはオーグライの近くに座り込み、その顔を見下げていた。
「……お前のガールフレンドに、手を出したからか。」
「それで怒っているところもあったが、違う。」
「……なら、お前の仲間をラクリマにした事か。」
「その事でも確かに怒っていたが……それも違う。」
「なら、どうして俺を殺そうとした……いや、もう一度殺そうとした……」
息も絶え絶えになりながら、オーグライはマルクの目を見る。その目は悲しそうな表情をしているのが、特に印象的に映っていた。
「……あんたが、あんたで無くなっていたからさ。多分、あんたはいろんな罪を……いや、倫理的にやっちゃあいけないことをしている。本当に、あんたの体だけで人体実験は行われていたのか?」
「あー……そういや、引き取り手のなかった捨てられた動物……大罪人と言われた人間、はぐれたエクシード……いろんな奴らを実験台にしたなぁ……俺みたいな魔力持ちを作るために、エクシードから魔力を奪って……死刑確定の罪人に……それを無理やり注入しようとした事もあったなぁ……頭ん中にかかってたモヤが……晴れてきた…」
「……例え無実の人間を使わなかったんだとしても、あんたはやりすぎたんだろう。
あんたの魔力を求める様は……怒りを通り越して哀れみすら浮かんだ。それほどまでに、魔力が無くちゃあ生きていけなかったんだろう……」
「……今となっては、魔力なんてどーでもよくなってきた。なんか妙にスッキリした気分だ……」
そう言いながら目を閉じようとするオーグライ。それを、マルクは見届けるつもりだった。
だが━━━
「うぐぁっ!?」
「っ!?」
オーグライの体が、段々と黒ずんでいく。否、
「こ、これは……!?おい、どういう事だこれは!!」
「お前さんの、滅竜魔導士の魔力だなこりゃあ……!ラクリマにして、いたから……!それを俺ァ……体に埋め込まずに放置していた!」
「ドラゴンの魔力で……ドラゴンになるって…どう言う……」
「気をつけろマルク・スーリア……!お前の使う魔力、は……案外とんでもな━━━」
言い切る前に、オーグライは鱗に飲み込まれた。そして、その骨格は形を変え、背中からは羽が生え、顔の形はまさに
「くっ……!とりあえず今は、こいつを止めないと……!」
そして、マルクオーグライは小型の
妖精の尻尾のメンバーによる、エドラスとの戦いは……まだ、終わらない。