FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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マルク・オーグライ

「そうだな……まずはこの体の事について話してやるか。」

 

そう言ってマルクの閉じ込められている独房へと入ってくるオーグライ。無論逃がさない為もあるだろう。

しかし、かなり無茶をしていることには間違いない。

 

「ほれ、見てみ。」

 

そう言ってオーグライは上の服を脱いで見せつける。体に埋め込まれている『それ』を見逃させないために。

オーグライの体には幾つもの魔水晶(ラクリマ)が埋め込まれていた。大きさは一つ一つ異なっており、それが異質だということはアースランド、エドラスなんて関係なく誰でもわかることだった。

 

「なんだお前、その体……」

 

「今までの実験の成功例だ。で、この体になった経緯から話すとしよう。

お前、マルク・オーグライは飲み込まれたと言ったな?あれは正解だ。俺は1度モンスターに飲み込まれたことがある。いやぁ、あの時は死ぬかと思ったぜ。

で、だ…飲み込まれた時に不幸にも俺の使っていた武器のラクリマ部分が俺のハラに突き刺さっちまったんだよ。しかも取れない。

で、消化されていく鎧とか見ていく内にこう思った訳だ『死にたくない』『化け物の腹の中で一生なんて終えたくない』『強力な魔法が使いたい』みたいにな。

すると不思議なことが起こった。俺自身、それ以降の記憶が抜け落ちちまっているが、どうやら俺自身が自分の体から魔法を出して化け物の腹をぶち破って出てきたらしい。ここまではいいか?」

 

「……ラクリマがお前の生きる、という意志に反応してお前はエドラスで初めて、道具を使わず魔法を使った人間になったわけか。」

 

「そういう事。さ、続きを話すか。」

 

指を鳴らして、のりのりで話すオーグライ。そして、適度にマルクに話を振ってわかりやすく理解できるように仕向けていた。

 

「それからだ、俺が魔法開発の部門に関わったっていうのは。今じゃあトップに君臨しているが、やはり俺も最初は一番下っ端……いや、それよりも酷いモルモット扱いだったな。

『魔法を使え』『使わないと廃棄する』とか完全に人間に対して使う言葉ではないな。」

 

「……で、何がどうなって今の地位を手に入れたわけなんだよ。」

 

「新しく魔法を作ってやったのさ。適当なラクリマを体に埋め込んで元々入ってたやつと掛け合わせできることに気づいたからな。

面白いぜ?AとBを掛け合わせてABとBAの二パターンが出来上がり、単純に二つを足す事でCが出来上がる。AからB、BからAを引くことでDかEの魔法が出来上がる。

5パターンだ、たった二つのラクリマから5つ魔法が形成された。そしてそれを秘密裏に王に提出した。その中の一つに人間をラクリマに変える魔法の元祖もあったんだ。」

 

「ラクリマ二つで別の魔法ってのは分かる……だが、たった二つでそんなに強力な魔法が作れるのか?」

 

「作れちまうんだから驚きだよな、俺だって驚いたぜ。んで、王は俺の功績を認めて俺の役職を上げた。

んで、俺は俺で気づいた時にはもうラクリマを漁りまくっていた。だが、何でもいいってわけじゃなくてな。どうしても俺と合わないラクリマもあった。そういうのは何故か同化されずに魔力だけ吸収されたな。」

 

「……で、俺の疑問を解消するってのは?」

 

「もう答えは出てるぜ?簡単さ、飲み込まれた後に復活した俺は生きる事への執着が、とんでもないくらいに大きくなってたんだよ。

俺ですら驚くくらいにな。あ、感情的な話じゃなくて本能的な話な?で、それはラクリマの力を存分に発揮できる代物だった。

つまり、だ……ガキとはいえそこそこ頭の回るお前ならわかるだろ?」

 

「……生きる事への本能的な執着を無理やりあげるために、化け物の体内に潜り込んだり、みたいな命懸けの行動をとるようになったわけか。」

 

「その通り。俺は……いや、俺の体は生きようとした。それはもうとんでもなく、魔法の力を発揮してくれた。

そして俺の体は魔力に順応していっていた。そのせいで余計に魔法も強力になっていった。」

 

もう見せる必要は無いと判断したのか、オーグライは脱いだ服をまた着直して、改めてマルクに向き直る。

 

「さぁまとめの時間だ。答え合わせをするとともに、合否を決めるとしよう。

俺の真実を……簡単にまとめてみな。」

 

「……お前は1度化物に食われた。その際にラクリマが体内に入り込み、お前の生存本能がラクリマの中にある魔力を動かした。

その結果お前は……エドラスで初めての、道具なしで魔法の使える人間になった……って事でいいのか?」

 

「んー、まぁその通りだ。細かいのは置いておくとしても、その言葉だけで俺がマルク・オーグライって証拠になるだろう?」

 

オーグライのその言葉でマルクは黙る。それを見たあとにオーグライは立ち上がり、そのまま出ていこうとする。

 

「……どこに行くつもりだ?」

 

「お前の仲間の滅竜魔導士が、魔力を吸い取られてる場所さ。お前もせいぜいそこで待っているがいい。

永遠の魔力はすぐに手に入る……滅竜魔導士はそういう存在だからな。」

 

「……ウェンディに手を上げてみろ。ただでは済まさないからな。」

 

「おー怖い怖い。滅竜魔導士と言うだけあって、凶暴なのかね。まぁ、そこから動けないだけのお前に、何が出来るのやら……」

 

そう言ってオーグライは出ていく。マルクは、彼が出た後に耳を澄まして彼が離れたことを確認してから、何とかドアを突破する方法がないかを考え始める。

しかしやはり、それは魔法無しでは難しいことだと再確認するだけになってしまった。

 

「くそっ……!部屋から出る事さえ出来れば…………部屋から出る……?」

 

マルクは、改めてドアを見る。特殊なものは、一切なさそうなドア。そして、ドアは金属で出来ているものだった。

マルクは少しだけ躊躇したが……ウェンディやナツを助けるためならば、と()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「い゙っでぇ……!」

 

激痛に悶えるマルク。しかし、その痛みも引く前にもう1度自分の体をドアに叩きつける。いや、1度だけではなく何度も何度も……たとえぶつけた所から血をにじみ出たとしても、それを続けた。

 

「おい!何をしている!!」

 

「っ……!」

 

異変に気づいたのか、近くにいた兵士達がマルクの所まで駆け寄る。しかしドアは開けようとしない。恐らく、オーグライか誰かにマルクが魔法の使える状態だというのを聞いたのだろう。そう考えたマルクだったが、それでも体をぶつけるのを止めない。

 

「おい!いい加減にしろ!!」

 

「開けるなよ……この中じゃあ俺たちの魔法も使えないからな……こいつがやりたいのはここから出ることだ。つまり、こうやって俺達に開かせる事が目的なんだろうしな。」

 

「分かってはいるが……」

 

「ぐっ!?」

 

ぶつけていた体、肩のあたりから嫌な音が響く。しかし、そのかいもあってかドアがほんの少しだけ凹んでいた。

兵士達は、そのことに未だ気づいていない。その機会をマルクが逃す手はなく、マルクは更にぶつけていく。

 

「……お、おい……ドア凹んできてないか?」

 

「い、いや……そんな訳ないだろ?こんな子供だぞ?凹ませられるわけ……ないだろ?」

 

「い、いやそれにしては……ドアも軋み始めてきてるし……こ、こいつ本当に子供かよ……アースランドの人間ってのは化物かよ……!?」

 

「……へ、だからどうした。この部屋から出て魔法が使えるようになったとしても、ボロボロで弱りきってんだから俺達の魔法使えば瞬殺だろ。」

 

「……だ、だといいけどよ……」

 

軋み始める扉、その音はドアをドアたらしめている壁との留め具が、段々と外れかかっている証拠だった。

 

「が、ぎ……!」

 

マルクがぶつけていた肩が使い物にならなくなる。しかし、すぐさまマルクは体勢を変えてぶつかり始める。自分のことよりも大切なものを助けたいがために、動いていた。

 

「……ありゃあダメだな。たとえここから出れたとしても満身創痍じゃねぇか。まだガキなのによく頑張ってるもんだ。」

 

「……ドアが外れても、この調子なら確かに体はボロボロだな。俺達の魔法でも確かに何とかなりそうだ。」

 

安心しきったかのように兵士達は話し始める。ドアが兵士達の手によって開けられようが、開けられなかろうがマルクにとっては大した違いはなかった。()()()()()()()()()()()()()()

 

「よーし、んじゃいっそのことドアの両側に立ってドアが外れた瞬間にありったけぶち込んでやろうぜ。

永遠の魔力が手に入る祝いでな。」

 

「そうだな、そうしてやるか。」

 

そう言ってマルクがドアにぶつかり続けている中、男達はまるでおもちゃで遊ぶかのようにマルクの事を話し合う。

ドアの両脇に立ち、持っている武器を構える。マルクが出てきた瞬間に魔法を放つ。そしたら気絶でもなんでもするだろうと、兵士達は楽観的に考えていた。

 

「これ……で……!」

 

何度もぶつかっている内にドアは完全にガタつき始めて、残り数回強い衝撃をぶつければ、壊れるところまで来ていた。

しかし、何度も何度も……両肩を壊すほどぶつかり続けた結果。マルクは止めと言わんばかりにその扉に全力で蹴った。そして、マルクの思い通りその扉は完全に留め具が外れ、壊れたのだった。

 

「ガキにしては相当な力があるんだろうが……」

 

「ここが運の尽きってやつだ。」

 

そして、兵士達はマルクに向かってありったけ魔力を叩き込む。並の人間ならば、大怪我間違いなしと言えるほどの量だった。

だが━━━

 

「……魔力抽出のために連行した二人の滅竜魔導士はどこだ……」

 

「なっ……!?お、おい魔力は!?」

 

「も、もうねぇよ!な、なんで効かねぇんだよこの化け物!!」

 

「……どこだ、って聞いてるんだけど……その耳は飾りか……?」

 

マルクは脅しと言わんばかりに口に魔力を溜める。それを見て兵士達は、恐怖した。口に魔力を貯めることが出来る人間なんて、まともに見たことがないからだ。

 

「わ、分かった!言う!言うから助けてくれぇ!!俺を殺さないでくれぇ!!」

 

「……俺を殺そうとしておいて、随分勝手だけど……まぁ、今はそんなことどうでもいいな…」

 

そうして、マルクはウェンディたちの場所を聞いた。

聞いたあとはすぐさま向かった。兵士達のことは気に止めなかった。気にしていてもしょうがない、今はどうでもいいことと言わんばかりに駆けだしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

匂いを辿って、マルクはどうにかこうにかナツとウェンディが捕まっているであろう部屋の近くまで来ることが出来ていた。

 

「……あの部屋、か……!ウェンディ!ナツさん!無事、です……か……?」

 

しかし、そこには予想だにしなかった人物が一人いた。グレイである。アースランド側のグレイかそうでないかの判断はともかくとして、グレイがそこに居たのである。

そして、マルクの声でその部屋にいた全員がマルクの方に振り向いた。

 

「マルク!無事ったんだね!?」

 

「ちょっとあんたその怪我どうしたのよ……!?」

 

「お前も来ていたのか……にしてもその怪我大丈夫かよ。」

 

シャルル、ウェンディ、ルーシィ、グレイ。そこには、4人の妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーがいた。

しかし、ウェンディがいるというのにナツがいないことが気になった。

 

「あの、ナツさんはどこに━━━」

 

マルクがナツのことを聞こうとすると、廊下の方から誰かが走ってくる音が聞こえてくる。ここで援軍が来るというのも考えづらい話ではあるので、全員が敵が来たものだと判断する。

 

「誰かきやがった!」

 

「敵!?」

 

だがしかし、そこに姿を現したのは━━━

 

「ああああああああぁぁぁ!!」

 

「ナツかよ!!」

 

まるでこの世の終わりのような顔をした、ナツだった。

 

「エルザが二人いたー!!何だよアレ!怪獣大決戦か!?この世が終わるのかー!?

……グレイじゃねーか!!」

 

「しまらねーし、落ち着きねーし、ホントウゼェな……お前。」

 

エルザが二人いた事に対する驚きと恐怖、そしてグレイがいた事の驚き。忙しい人だな、とマルクは苦笑していた。

 

「アースランドの……私たちが知っているグレイよ。」

 

「何!?」

 

「色々あってこっちにいるんだ。エルザとガジルもな……」

 

「ハッピーはラクリマを止めに行ったわ。」

 

そしてウェンディは何かに気づいたかのように、グレイの方に視線を向けた。

 

「あれ……本当だ、グレイさんがいる……」

 

「おや……?地下だから陽が当たんねーのかな……自分の影が薄く見えるぜ……」

 

軽く再会できたことへの喜びを味わうメンバー達。しかし、時間は刻一刻と過ぎていっている。

マルクはナツ達が得た新しい情報を聞いて、自分のやるべきことを見出す。

 

「……はい、回復終わったよマルク。けど無茶しないでね?」

 

「ん、ありがとうウェンディ。全然腕上がらないから、どうしたもんかと思ってたし助かった。」

 

「おし!準備完了!!王様見つけてラクリマぶつけんの止めるぞ!!」

 

ナツ、グレイ、ルーシィの三人は最初に部屋を飛び出す。次にマルク、ウェンディ、シャルルが部屋から出てくる。

 

「……マルクはどうするの?」

 

「……王国は、ラクリマになったみんなをエクシード達の街、エクスタリアにぶつける……けどそれに関しては、ナツさん達が止めてくれるだろうし、あんまり心配はしてない。

……ただ、一人だけ……倒しておかなきゃならない奴がいる。俺はそいつを倒しに行く。あいつだけ残しておくのは………心がもやもやする。ウェンディは?」

 

「私達は……エクスタリアに向かう。」

 

「ウェンディ!?」

 

「……そっか、気をつけてな。怪我したら……怪我させたやつぶっ飛ばしてやるから。」

 

「ふふ……ありがとう。けど、無茶だけはしないでね。」

 

マルクとウェンディは、ここで分かれた。マルクはウェンディの、決意を宿した目を見て、やりたいようにやらせようと感じたのだ。

そして、マルクは一人向かう……マルク・オーグライの所へと。


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