アクノロギア、もとい西の大陸のアルバレス帝国との戦いから1年の時が経った。そんなある日の晩に、マルクはタキシードを着てとある会場に来ていた。
パーティの為に来ているのだ。では、なんのパーティか?それは、仲間であるルーシィが自身の書いた小説で新人賞を取ったパーティである。無論、そのような場は静かにしているのが一般的なルールではある。
しかし、そのルールは仲間…否家族を祝おうとする
「……まぁ、うん…騒ぐよなぁ。」
「マルク?どうしたの?」
「いや…なんでもない。」
マルクは、別に嫌な思いはしていないのだ。やはりどうしても、このギルドは型破りなのだろうとそう考えて、来てよかったと思っているのだ。
「……いやほんと、色んな事があったな…」
「マルクって今年で何歳だっけ?」
「16かな…誕生日パーティはちょっと騒がしくしすぎて、家が壊れたけど…まぁこれくらいなら微笑ましいなぁ……」
マルクは周りをぐるっと見渡す。ルーシィに作家の事を教えているアンナ、その二人を見て会話しているガジルとナツ、酔って服を脱ぎかけてるジュビ━━━
「そっちは見ちゃダメ。」
「……」
ウェンディに目こそ塞がれてしまったものの、しかし楽しそうな雰囲気は伝わってきている。
と、ここでマルクの耳に入ってくる声があった。
「ガジルーこっち!」
「オウ。」
ガジルを呼ぶレビィの声である。ガジルが入った当初は、元々敵対していたギルドからのメンバーという事もあり、険悪なムードだったらしいがよくここまで仲良くなれたものだとマルクは思っていた。
天狼島からより一層距離が近くなったようだが、ハッピーの言う『どぅえくぃてるぅ』はここで言うべきなのではないだろうか、とさえマルクは思っていた。
「あのね、赤ちゃん━━━」
マルクは目を塞がれながらも、ウェンディの耳を器用に両手で塞ぐ。この会話は自分には刺激が強すぎるような気がしたからだ。
ウェンディには、恐らくもっと刺激が強い。だがまぁ、マルクに聞こえている時点で、ウェンディにも聞こえているので既に無意味なのだが。
「……何してんのあんた達…」
「……わからないです。」
ルーシィの声が聞こえてくるが、恐らく自分たち以上に今の格好が不自然な者達はいないだろう。ウェンディもそう感じたのか、マルクの目を開ける。それと同時に、マルクもウェンディの耳から手を離す。
「……」
「……ウェンディー…?」
「今のガジルとレビィちゃんの会話聞こえたのかもねぇ…って、それはそっちもか。」
ウェンディとマルクは顔を真っ赤にして、俯く。それだけ刺激が強い会話を聞いてしまったのだ。
そして、今度は少し離れたところからまた別の者達の声が聞こえてくる。
「━━━男と女じゃあれだろっ!!お前の体は……!」
「お前の体は…?」
「っ………俺の、もの…かもしれねぇつーか……」
「グレイ様ーッ!」
グレイとジュビアの会話だろう。いつの間にか少し離れた所に行っていたらしいが、この会話ももれなくウェンディ達の耳に入っていた。
「あうぅ……!」
「うぅ……!」
「こういうところ見ると、まだまだ子供よねぇ…」
ルーシィの呆れた声と共に、2人は顔を真っ赤にさせたまま俯いていた。しばらくしてこのパーティも終わりに近づいてきているが、その終わりどころか帰りまでずっと2人は顔を真っ赤にさせながら俯いていたのであった。
「……」
「おはよう、マルク。」
「……えっと、あれ…ここどこ……」
「マルクの家だよ?」
「…ウェンディってヒルズ住みじゃなかったっけ……」
寝ぼけた頭で、マルクは起き上がる。部屋にウェンディがいる、シャルルが居ない、いつも一緒にいる2人がいないのは珍しいし、そしてマルクの家にウェンディが朝早くからいることも珍しかった。基本的に迎えに行くことはあるが、朝早くからいることは滅多にないからだ。
「そうだけど…合鍵、渡してたでしょ?」
「いや、そうだけど……どうしたの急に…」
「うーん…ちょっと、不安になって。」
「……不安?」
ウェンディが、マルクの寝ているベッドに腰をかける。その顔は、いつも笑顔のウェンディには珍しいものだった。
「…現実、なのかなって。」
「……?」
「マルクとこうしてずっと一緒にいて…アクノロギアも倒して……でもね、私思うんだ。『実は私達はアクノロギアに負けた』んじゃないかって。」
「ウェンディ…」
「あの時結晶に閉じこめられて…実は今でも閉じ込められてて……今この時が、夢なんじゃないかなって。」
ウェンディは見上げる。あれだけの死闘を繰り広げたのだ、今このような幸せがあっても現実味が湧かないと言えばそう思う者もいるのかもしれない。
「…だったら、夢じゃないって思えるようにしようか?」
「え…?」
「これからもずっと一緒にいる、いつまでも一緒にいる…これから大人になって、おじいちゃんおばあちゃんになっても…ずっとウェンディと一緒にいる。」
マルクは今までのことを思い出していた。ずっと守ってきたウェンディ、けれど妖精の尻尾との出会いから彼女は変わった。
強くなったのだ、大切なものを守る為に…誰かを守るために決意を固められるようになったのだ。
「マルク……」
「ウェンディ…俺はずっと一緒にいる……だから、…その、えっと……」
マルクは言い淀む。いつも似たようなことを言っているのに、このような時ではついつい言い淀んでしまう。だが、精一杯の勇気を振り絞り…その言葉を出す。
「……これからも、ずっと一緒にいてくれないか?」
「……ふふ、当たり前だよ。ずっと一緒……どんな時でも、心で通じあってるんだもん。」
「ウェンディ……」
「ちょ、マ、マルク…!?」
マルクはウェンディの肩を抱き寄せる。その温かさに心が落ち着いてくる。このままずっとこうしていたい……とさえ思えてくる時間。だが、そのようなことは続くはずも無い。
「おーい!マルク行くぞー!!」
「わあああああああ!?」
「きゃあああああああああ!?」
ナツが窓から飛び込んでくる。割らずにきちんと開けてくるだけマシなのだろうが、いきなりやられると驚くのは誰でも変わらないだろう。
そして、二人の叫び声に驚いたシャルルが家の奥から走って現れる。
「ちょ、何!?」
「お、ウェンディとシャルルもいたのか。丁度いいや。じっちゃんからついに許可が出たんだよ!!
一緒に行こうぜ!!」
「きょ、許可…ですか?」
「えっと、それってなんの許可なんですか…」
「ふふ、聞いて驚け……100年クエストだ!!」
「「っ!!」」
ナツの宣言に、マルク達は驚きを隠せない。100年クエスト、その名の通り、100年間誰もクリアすることが出来なかったクエスト。そうそう数があるものでもない…そして、恐らくそのクエストはギルダーツが失敗したクエストの事だろう。
「い、行けるんですか!?」
「おう!100年間…あのギルダーツもクリア出来なかったクエストだ!!来るだろ!?」
マルク、シャルル、ウェンディの3人は顔を見合わせる。断る理由もない、そして受ける理由はある。
ギルドの一員として、そして何よりまた旅ができるのだ。
「俺は行きます!!」
「私も!!」
「2人が行くなら、私も行くしかないわよね。」
やれやれと言った感じにシャルルは肩をすくめているが、しかし嫌そうな感情は全く見受けられない。
「とりあえず今からルーシィ誘いに行くから!」
「い、今からですか?」
「あー、酒飲み過ぎてぶっ倒れてよー…多分今は家で寝てると思うんだけどよ、一旦運んでやって朝早くから全員集めるために動いてたんだ。
マルクのとこにウェンディとシャルルいてくれて助かったぜ。」
「わ、分かりました!すぐ準備していきます!!」
「おう!というわけで俺ら先にルーシィの家戻ってっから!!」
そう言って、ナツとハッピーは窓から飛んでルーシィの家に向かっていく。その後に、3人は顔を見合わせて笑みを浮かべる。
「ふふ、100年クエストかぁ…」
「楽しみだな……!」
「そうね、とりあえずあんた達2人が何もしないように見張ってないといけないわ。」
「とりあえず━━━」
3人は手を重ねる。これから向かう100年クエスト、そのクリアのために…そしてこれから向かう旅の為に、力を合わせる暗黙の誓い。
「「「燃えてきたァ!!」」」
そして、その掛け声とともに3人は重ねた手を上げる。
妖精の尻尾は終わらない、彼らの冒険は終わらない。未知への探求は続いていく。
マルク、ウェンディ、そしてシャルルの関係も……これからもずっと続いていくのである。
〜Fin〜
最終回ですが、かなり短めになってしまいました。
これにて本編は終わりますが、番外編であるマルクの力の紹介等などはやっていきたいと思っています。
感想欄にて100年クエスト編をやって欲しいという声がありました。私としても、描きたいとは思っていますが、100年クエスト編は未だ続いている話なので投稿ペース的にこちらが追いついてしまうと、話の展開がさせづらくなるということもあります。タダでさえマルク周辺の描写しかしていないから余計に、ですね。
ですから、100年クエスト編を投稿……と言うよりは、恐らく別の小説でこの小説の番外編という名目で書くかもしれません。
100年クエストをメインとしつつも、思いついた話を書いていく……といった感じですね。
このように書いても、今のような3日周期の投稿はいずれ出来なくなるかもしれません。ですが、その声が多ければしてみようとは思っています。
そちらは、活動報告の方に……
というわけで改めて……
最後までこの小説を読んでいただきありがとうございました。数々の評価や、感想などの声が私の励みになっておりここまで書きあげることが出来ました。
この小説をここまで読んでくれてありがとうございました。また作品を何か書くかもしれませんが、また別の作品を読んで貰えると、こちらも励みになります。
ありがとうございました。