「がはっ……!」
コブラがアクノロギアに蹴り飛ばされる。吹き飛ばすような一撃ではなく、寧ろ体内にダメージを残す一撃。コブラの体内は、今の一撃で壊れてしまう。
「コブラ!!」
「━━━まだだ!!まだ、くたばる訳にはいかねぇ…!俺にだってよォ……仲間ってのがいるんだ!!アイツらを守れるなら!!オレァ、何だってするぜぇ!!」
コブラは叫ぶ。倒れてしまえば、仲間が殺される…仲間を守る覚悟が、今の彼にはあるのだ。そしてそれは、他の者達も一緒だった。
「アンタを倒さなきゃ、オレはアイツらに顔向けできねぇ……」
「皆が待ってる、あの場所へ帰るために……」
「倒さなきゃ行けねぇんだよなぁ、お前を!!」
スティング、ローグ、クォーリの3人も叫ぶ。声を絞り出し、体力も魔力も捻り出す。
彼らもまた、守るべきものがある。
「ジジイもギルドの奴らも…誰もやらせねぇ。」
「てめえに壊される前に、こっちが壊してやるよ。」
「貴方の伝説は、ここで終わりです。」
「竜王の名は、今日で捨てることになるぜ…!」
「……最後の勝負だ、アクノロギア。」
ナツ達が、アクノロギアを睨む。だが、意に返さないかのようにアクノロギアは未だ笑みを浮かべていた。
「最後?何も始まっておらぬのに……最後?クハハハハハハハ!」
高らかに笑い声をあげるアクノロギア。自称でもなく、本当の意味での最強のドラゴン。
それを相手にしても、引いてはいけないのだ。絶対に。
「ここまでのようだな、ドラゴン共。この世にドラゴンは……1頭も残しておく訳にはいかぬ。それこそが滅竜…我の存在する意味。」
全員が、地面に倒れ伏していた。圧倒的な強さの前に、押し負けていたのだ。だが、恐れる訳には行かない。引いてはならない……その覚悟を、消してはならないと。ナツ達は未だ立ち上がる。
「クク、ははは……お前だってドラゴンじゃねぇか。中々、面白いジョークだ。『我』が存在したら、ドラゴンが1頭残っちまうだろ?ククク……」
アクノロギアは、ナツの言葉に何も言わない。言えないのか言わないのか…だが、話は遮らなかった。
「それにな……俺達は人間だ。ドラゴンから力を貰った…それだけの人間だ。自惚れんな、バカ。
本当のドラゴンはなぁ……強くて気高くて……優しいんだ。」
「━━━優しい?ドラゴンが?」
ナツの言葉に、アクノロギアが表情を歪める。その表情から読み取れるのは、見てわかるほどの怒りの感情だった。
「我から全てを奪ったドラゴンが…優しいだと?我が家族を喰い、街を焼き、小さな少女さえも殺した。
そのドラゴンのどこに優しさなどあるものか…!くだらん!!」
爆発するかのように、アクノロギアの怒りに呼応して彼の魔力が噴き出す。その力で、アクノロギア一体の結晶がえぐれて飛び散った。
ナツも巻き込まれたが━━━
「━━━言っただろ、『本当』のドラゴンって……ドラゴンにだって色々いるさ。俺達人間と同じようにな。
好きなやつ嫌いな奴、強え奴弱え奴、悪い奴に優しい奴…そしてお前を倒すやつだ。」
「我の攻撃が、何故…!」
『そりゃあ、お前を倒す為にわざわざ体張ったんだからな。』
『あんたを倒すのが、ウチらの使命やったって事や…!』
突如響く声。アクノロギアが声の方向に視線を向ける。この時の狭間の空間における、上…そこに、2つの影があった。
「ドラゴンと、悪魔だと…!?」
「フ、フリーゾ…!?」
「お前、グラトニーか…!」
「ご明察!いやはや…皮肉なもんだ……この時の狭間は、時の魔力に満ちていた。
過去の人物が現代にいる…そういう時間の矛盾によって生まれたこの空間内なら、魂だけの存在になっているやつは…実体化できる。お前を強化したこの力が、他の者にも影響を与えるなんてな。」
氷竜フリーゾ、暴食の悪魔グラトニー。その2人がいま彼らの目の前現れていた。
「……今の攻撃、貴様らが防いだのか。」
「そういう事や…あんたと戦う為にはウチらが時間を稼がなあかんねや。ちょーっと、付き合ってもらうで。」
「例え勝てないとしても、な…!」
2人は、アクノロギアに向かって飛び込む。だが、恐らくは数分も持たないだろう。実力の差と言うよりは、この空間内でしか存在できないような存在が、アクノロギアとまともに戦えるだけの力を発揮できるわけがないのだ。
「……2人が、時間を稼いでる間に…!私達の魔力を、ナツさんに全てエンチャントします…!」
「あぁ……望んでいることさ、フリーゾもな…!」
ウェンディがエンチャントを使い、まず全員の魔力のほとんどを剥がしていく。
そして、それら全てを……ナツに受け取らせる。
「がはっ…!」
「ぐぁ…!」
「ふん…この程度か。」
現れたフリーゾとグラトニー。力を発揮出来ないままに、アクノロギアに心臓を貫かれていた。
「あぁ……けどな、あんたを止めるくらいはできたで…!さて、ウチらもそろそろ退場せなあかんからな!!」
「その力…全部持って行ってやるよ!!」
フリーゾの体が氷へと変貌する。それは、アクノロギアを凍らせた。だが、このままではすぐさま砕かれしまうだろう。
それを防ぐために、グラトニーも体を粒子へと変えてアクノロギアの体を氷と共に覆った。
「この力、魔力が…!死に損ない共め!!」
アクノロギアの力が、吸収されていく。そして、そのアクノロギアの目の前に、ナツが迫ってくる。
「行け、ナツ…!」
「お前になら、全部任せられる…!」
「2人の分まで…!」
「頼むぜナツさん!!」
「俺達の魔力を…!」
「分けてやるよ、全部な!!」
「だから、勝ちやがれ!!」
全員の魔力を、ナツは受け取った。9人の
「ああ……伝わってくる。みんなの力が炎に変わる!!これが九炎竜の力だ!!」
だが、それはこの場にいる9人の力だけではない。時の狭間の外…現実の空間でも、皆が戦っているのだ。
その力も、全て受け取っている。
「オオォォォォォォォ!!」
「滅せよドラゴン共! これが我の破壊の力なり!!」
アクノロギアは、無理矢理に氷を破壊する。だが、奪われた力は確実に彼の強さを奪っていた。
「はぁはぁ……破壊、破壊ね……」
ナツとアクノロギアの戦いを見ながら、マルクはアクノロギアを哀れんでいた。
恐らく、元は優しい性格だったのだろう。しかし、家族を失い、友人も何もかもを失い、全てを奪っていくドラゴンを見て歪んでしまったのだ。
「…小さい女の子の命が奪われたことに、お前は怒っていた…」
「マルク……?」
「もうちょっと……頑張ってくるわ…」
マルクは立ち上がり、そして歩き始める。魔力も体力も既に尽きている。けれども、向かわなければならない。
「うぬらの力が集まったところで、竜王には勝てぬ!!」
アクノロギアは段々と荒くなっていく。破壊衝動が、自分でも気づかない間に抑えられなくなるほどに暴走してしまっているのだ。
「破壊!破壊!!破壊!!!全てを破壊する!!!!」
「あいつ…」
「暴走している……」
「人柱を失ったからだな……俺達っていう…」
「もっと血をよコセ!!もっとドラゴンの血を我に浴びセヨ!!」
荒れ狂うアクノロギア。その瞳には既に理性は宿っておらず、最早暴れ狂うだけの獣と化していた。
「終われねぇんだよな…自分じゃ。」
「ヴァア゛ア゛ア゛ア゛!!」
叫ぶアクノロギア。だが、その体が唐突に動きを止める。フリーゾ達の氷のせいではない、別の原因で、彼の動きは止まっているのだ。
「体が……!?」
「ウオオオオオ!!」
ナツは飛び込んでいく。全ての力を、祈りを、思いを…その全てを体に宿して、アクノロギアを倒すためにその拳を振るう。
全ての滅竜魔導士の力を結集させた力の一撃が、ナツの腕に集まる。
「これで、終わりだァー!!」
「くっ…!?」
アクノロギアは、腕を振るう…が、その腕の一撃は届かなかった。彼の腕に、魔力ではない力が彼に取り付いていたからだ。
「これは……!?」
「『これ』は…ナツさんには渡せなかったんでな…これで正真正銘…全員の力を集めたってわけだ。」
マルクの呪力、マルクの悪魔としての力がアクノロギアの腕の力を食らっていた。最早、指一本…今は動かせないだろう。
そして、その一瞬の隙に……ナツの拳が、アクノロギアを捉えるのであった。
「がはっ……」
アクノロギアは吹き飛ばされて、結晶に叩きつけられる。だが、まだ彼は息をしていた。
動けそうな状態ではないが、まだその命は健在だった。
「……アクノロギア…俺はお前が『誰かを守るため』に動いたことを尊敬するよ。」
「尊敬、だと…?」
アクノロギアの近くに、マルクが座る。そして、ゆっくりと語る。その光景を、ナツ達はじっと見ていた。
「あぁ…家族のため、友のため…お前は他人の為に自分を犠牲にしてきたんだ。
もう、この世界にお前を苦しめるドラゴンはいない……いいから、楽になれ。」
「だが、我は…全てを破壊し、全てを手に入れて……」
「全部は手に入らねぇ……」
「っ!」
マルクの言葉を引き継ぐかのように、ナツが喋り始める。その言葉に、アクノロギアは驚いたような顔をしていた。
「だから、手に入れたものを大切にするんだ。欲張るな……俺は、仲間がいれば他に何もいらねぇよ。」
「そうか、仲間…我に足りなかったのは……」
「あんたには…友はいたのか?」
「……あぁ、故郷の街に…友は……」
言葉を言い終える前に、アクノロギアの体が消え始める。零れるかのように、端から消えていく。だが、不思議とアクノロギアには消えることに安らぎを感じていた。
「…うぬこそが…王にふさわしい。」
そして、その言葉をナツに向けて言ってアクノロギアは消え去った。だが、その言葉にナツは苦笑するしかなかった。
「王になんかなりたくねぇよ……」
「ナツさんが王様だったら…気に入らないどこかの王様に自分から殴りに行きそうですね。」
「おいおい、俺はそこまで喧嘩腰じゃねぇぞ?」
マルクの冗談に、ナツは本気で疑問そうに首を傾げる。だが、そのような会話も直ぐに終わらせられる。一瞬の内に視界が眩しくなる一行、そして少しすると……落下していた。
「は!?」
「えぇ!?」
「んだと!?」
「げっ……」
「嘘だろ!?」
全員が時の狭間から追い出されて、そして空中に身を投げ出される形となってしまった。
だが、不幸中の幸いと言うべきかナツ達はマグノリアの街に飛ばされていた。それも、あまり高くない場所から。
「ウェンディ!」
「ひゃっ!?」
マルクはウェンディを抱きしめて、自分の片腕を地面に向けて突き出す。魔力は全くと言っていいほど残ってないが、こここそ絞り出す正念場である。
「ふん、ぬっ!!」
絞り出した魔力は、落下中のマルク達の向きを変える程度のものだったが、それで十分だった。
そのまま落下していたマルクは、ウェンディを抱えながらきちんと着地を決める。
「━━━ウェンディ!!マルク!!」
聞こえてくる声、どうやらウェンディ達が落ちた場所はシェリアとシャルルがいる場所だったようだ。
「シャルル!シェリア!!」
マルクとウェンディは嬉しそうに駆け寄り、再会出来たことを喜ぶ。そして、同時に実感する。全ての戦いは終わり、そしてこれからが始まりなのだと。
「よかった、よかった無事で……!」
「あぁ、そっちも2人他も無事でよかった…」
……だが、今はこの喜びだけを噛み締めていたい。全員が、今はそう感じているのであった。
次回、最終回
マルクの能力とか描ききれなかったので、そこは番外編として書こうかなと思っています。