FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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完全なる滅竜

時の狭間、そこは1度でも触れた瞬間に飲み込まれて無に帰らされるもの。その時の狭間に、一夜とアンナがアクノロギアを押し込めた。一同はそれで勝ちを確信した。しかし、アクノロギアは時の狭間にある時の魔力を喰らい、さらなるパワーアップを果たして帰ってきた。

その力は、時の狭間に押し込まれる前よりも段違いで強くなっており、たった一言発しただけの魔法で全てが吹き飛んで行った。

海から、小さな陸地やマグノリアの街などの辺り一帯の全ての土地への攻撃をアクノロギアは行ったのだ。

その攻撃の余波で、海は荒れてバラバラになりかけた一同だったが、アクノロギアの攻撃はいまだ終わっていなかったのだ。

 

「みんな無事か!?」

 

流されかけたエルザだったが、即座に海から顔を出す。だが、その瞬間に見た光景はエルザの目を疑うものだった。

 

「ウェンディ!マルク!!」

 

「っ!?」

 

「なに、これ……あああああ!! 」

 

「ぐううう!?」

 

マルクとウェンディが中へと浮かび、謎の光に包まれる。力が抜かれるような、それでいて激痛が体に走っていくような。

そんな状態が続いて行った。マルクには、ろくな魔法は通じないにもかかわらず、マルクにはそれが『効いていた』のだ。そして、マルクの体は呪力を纏った悪魔龍としての姿ではなく、それが剥がされた状態の人間の体へと戻っていた。

唯一、不幸中の幸いだったことは、マルクは悪魔龍としての姿で胸を貫かれていたが、それが本体にフィードバックされる前に人間の姿に戻れたことだろうか。無論、ダメージは受けているのだが。

 

「ああ、ああぁ━━━」

 

「これ、は━━━」

 

「全てのドラゴンを!我が時の中に!!」

 

そして、ウェンディとマルクはその光に包まれたままアクノロギアの手のひらへと飛んでいく。

まるで、何かに吸い寄せられるかのように飛んでいき……ウェンディとマルクはこの世界から姿を消したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ…はぁ、はぁ……ここ、は…?」

 

「どこだここ……」

 

マルクは気がつけば妙な空間の中にいた。周りには流星群のようなものが飛び交っており、自分がいるところは謎の結晶がまるで土地のように広がっている空間だった。

そしてもう1人、マルク以外にも声を上げた人物がいた。ナツである。あの場にいなかったナツでさえもここにいるということは、アクノロギアが何かしたのだろうか、と疑問に感じていた。2人は言葉は交わさなかったが、その異常事態に首を傾げていた。

だが、もう1人……この空間で動く者がいた。

 

「ここは時の狭間……我の世界だ。」

 

「アクノロギア……!」

 

「アクノロギア…そうか、こいつが…こいつが、イグニールを…!」

 

「てめぇ!一体どういうことだ!!ここが時の狭間だと……ウェンディ達はどこに━━━」

 

「うぬらで最後だ。」

 

アクノロギアは、まるで聞こえていないかのようにマルクの言葉を遮る。だが、アクノロギアの言葉にマルクは違和感を感じた。ウェンディが居ない事もそうだが、自分達で最後だという言葉に少しだけ恐れを抱いた。

そして、ふと2人は見上げて気づいた。結晶の中に……人がいることを。

 

「━━━ウェンディ…!?」

 

「いや、ウェンディだけじゃねぇ!ガジル、ラクサス…コブラもいやがる…!いや、俺達の知る滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)が全員いやがる!!」

 

結晶の中にはまるで眠りについたかのような顔で、全ての滅竜魔導士が揃っていた。

9人の滅竜魔導士…その全員が、今この場に揃っていた。

 

「我は時の狭間にて時空の魔力を手に入れた。我は時空を超え、世界を破壊し……時空の中でうぬら最後のドラゴンを滅する。」

 

「……ごちゃごちゃうるせぇ。」

 

「ウェンディを、返せよ…!」

 

「うぬらもここで……永遠の人柱となれ。」

 

アクノロギアはそう告げる。そしてその瞬間に…ナツの体から結晶が溢れ始める。ナツを凍らせるかのように、その身を包んでいく。

 

「が、あぁ…!?」

 

「ナツさん!?くそ、なら俺が……!」

 

「無駄だ、もどきと言えど……貴様も滅竜魔導士である以上、我の人柱となる。」

 

アクノロギアの言葉を無視して、マルクはナツの結晶を破壊しようと拳を掲げる。そして、それを叩きつけようとしたその瞬間に……マルクの体も結晶に包まれ始めていく。

 

「調和と滅竜…実に面白い。」

 

「ぐぅぅ!?くそっ!右手が動かねぇ!!」

 

「クソがっ!なんでこういう時に仲間を助けられねぇんだ俺は!!」

 

2人の体はドンドン結晶へと包み込まれていく。魔法を逸脱した何かが、2人の体を包み込んでいるのだ。

 

「何で炎が出ねぇんだよォ!!」

 

「なんで、魔力が…!」

 

「あの黒魔導士とやり合ったのだ。寧ろ腕1本でよく済んだものよ。」

 

アクノロギアは、2人を見守る。飲み込まれていく二人を見ながら、それには手を出さずにただ見ていた。

この結晶を破壊するためには、物理的な攻撃力が必要である。恐らく、ナツの炎ならばそれが可能だっただろう。だが、そのナツの炎は出ない。ナツの片腕が焦げているからである。故に、2人はただ飲み込まれるしかできなかったのであった。

 

「うああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「く、そ━━━━」

 

「あああああ!!」

 

2人が絶望し掛かったその時。ナツの腕から、炎が溢れ出たのだ。何故出たのか、その時は誰もわからなかった。

だが、その理由はすぐさまナツ達の前に答えを表してくれた。

 

「手が、動いた…!」

 

「━━━天空魔法でお守りします!!」

 

「「ウェンディ!!」」

 

2人の前に現れたのは、結晶に閉じこめられた筈のウェンディだった。だが、何故ウェンディが結晶を破壊して出てこれたのかは分からない。

 

「どうやって結晶を……」

 

「シャルルの声が聞こえた気がして……」

 

「━━━俺も…レビィ、リリーの声がな。」

 

そして、次々に結晶が割れていき中にいる者達が一斉に動き始める。その光景に、2人は喜びと驚きが隠せなかった。

 

「聞こえるぞ……ってか…」

 

「俺達の帰りを待つ人達の声が━━━」

 

「俺たちに力をくれた。」

 

「ガラじゃねぇんだけどな…こういうのは。」

 

「さぁて、やってやろうぜ……ナツ、マルク。ドラゴン狩りだ!!」

 

「「「おお!!」」」

 

中から現れてくるのは滅竜魔導士。彼等の帰りを待つ人の声が、彼らを結晶から出してくれたのだ。

その数は実に9人……滅竜魔導士、揃い踏みである。

 

「教えてやらねばならぬか……なぜ我が竜王と呼ばれるか。」

 

「だったら……今日で終わらせてやるよ…アクノロギア!!」

 

「行くぞォ!!」

 

ナツ、ガジル、スティング、ローグ、クォーリの5人がまずアクノロギアに真正面から突っ込んでいく。

 

「全能力上昇エンチャント!神の騎士(デウスエクス)!!」

 

マルク以外の全員に、エンチャントが付与される。最高クラスの上位エンチャント、それを付けられた全員の力は最早それだけで普通のドラゴンなら倒せるだろう。

 

「おぉ!こりゃすげぇ!!」

 

「力がみなぎる……」

 

「ウチのチ━━━」

 

「ウェンディは凄いんですから!!」

 

ガジルにセリフを被らせるようにして、マルクがウェンディを褒める。少しだけ苦笑するガジルだったが、そのままアクノロギアへと攻撃を行っていく。

 

「鉄竜剣!!」

 

ガジルの腕が伸びて、アクノロギアへと刺さる……筈だったのだが、アクノロギアの体へと到達することすらなかった。

だが、それに追い打ちをかけるかのごとくスティング、ローグ、クォーリの3人が攻めていく。

 

「「「おおおおお!!」」」

 

「ふん……」

 

「ぐぁ!」

 

「うぁ!」

 

「ぬぁ!」

 

だが、アクノロギアは腕を横に振り抜くだけの、その行動だけで3人が1度に吹き飛ばされてしまう。

その攻撃の隙を狙って、後ろからマルクとラクサスとコブラが仕掛けていく。マルクは周りの被害も考えて、悪魔龍ではなく魔龍としての力を行使していく。

 

「雷竜の━━━」

 

「毒竜の━━━」

 

「魔龍の━━━」

 

だが、アクノロギアはそれに対して再び片腕を動かすだけだった。たったそれだけの事で、全員が吹き飛ばされていく。

ダメージは余りないが、しかしこれはアクノロギアに弄ばれていると言っても過言ではないだろう。

 

「ラクサス!コブラ!マルク!!」

 

ナツが3人を心配して後ろを振り向くが、その瞬間を狙ってアクノロギアがナツに対して本気の攻撃を仕掛ける。

巨大な魔力の塊を、ナツに対して放ったのだ。

 

「ナツさん避けて!」

 

「っ!!」

 

ナツは魔力の塊に対して腕を交差させてガードの構えを取るしかない。そして、その魔力の塊にナツが飲み込まれる直前に━━━

 

「━━━させるかよ。」

 

「マルク……」

 

その魔力を、マルクは全て食らっていた。だが、攻撃が少し当たっていたのか腕に少し傷を負っていた。魔法による攻撃は軒並み効きづらいマルクが、である。

 

「なぜ我が竜王と呼ばれるか……この世界で1番強いからに決まっておろう。」

 

笑みを浮かべながら、指を1本立てるアクノロギア。それは、自分がこの世界で1番強いというアピールである。しかし、その言葉に嘘偽りはないだろう。文字通り最強の力を持っているのだから。

 

「今、まさに時の狭間の外では我が肉体が世界を滅せようとしている。」

 

「あ?」

 

「我は全てを破壊し……終末を告げる。」

 

拳を握りしめて、アクノロギアはただ破壊だけを求めている。だが、その破壊という目的に、一同は虚しささえ感じていた。

 

「お前は何がしてぇんだ。」

 

「破壊、それだけよ……クハハハハハハ!」

 

「━━━悲しいやつだな。」

 

「…何?」

 

アクノロギアの言葉に、マルクが悲しそうに言葉を返す。同情されるとは思っていなかったのか、アクノロギアはマルクの言葉に直ぐに真顔になっていた。

 

「……お前に破壊されるほど、この世界は弱くはねぇぞ。」

 

そして、ナツはアクノロギアに対して怒りを向けていた。無論、ただ破壊するだけの権化に対しての怒りである。

 

「く、くく……弱くはない、か。ならば、証明してみるがいい。」

 

「言われなくとも!!」

 

スティング、ローグ、クォーリがそれぞれ別方向からアクノロギアに対して攻撃を仕掛けていく。

 

「甘い!」

 

「ぐぁ…!」

 

「オラァ!!」

 

だが、3人はアクノロギアの一撃によって吹き飛ばされてしまう。それとほぼ同時のタイミングで、ナツが飛び出していく。

 

「はっ…!」

 

だが、アクノロギアもナツとほぼ同タイミングで飛び出した。そして、ナツ、コブラ、ガジル、ウェンディを薙ぎ倒していく。

その直後の背後を、ラクサスが自慢の雷を纏って殴りかかっていた。

だが、アクノロギアにダメージは通らない。

 

「我に魔法は効かぬ!!」

 

「なら、呪法はどうなんだよ!!」

 

呪力を纏ったマルクが、アクノロギアの頭上から攻撃を仕掛ける。モード悪魔龍、傲慢傲り(エレガンスプライド)…ありとあらゆる魔法に完全に適応するので、如何なる魔法も通じない鎧を身に纏う力。

アクノロギアに対しては、これくらいせねばまずスタートラインにすら立てないだろう。

 

「悪魔の力であっても…我には通じぬ!」

 

「ぐっ…!?」

 

初手で殴りかかっていたマルクだったが、アクノロギアの素早くも凄まじい連撃に、すぐさま防戦一方にまで持ち込まれてしまっていた。

 

「ふん!」

 

「がっ……!」

 

マルクは吹き飛ばされ、近くの結晶に激突する。鎧がクッションになったのか、マルクの体自体にダメージは存在していなかった。

 

「ちっ……さすがに世界で1番強いを自称するだけはある…!」

 

だが、この圧倒的な強さを前に…マルク達はまだ諦めてはいなかったのであった。


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