「全ての魔を……こいつには魔法が効かんというのか!?」
「あぁ…あ……」
アイリーンを倒したエルザ達。しかし、突如そこにアクノロギアが立ちはだかる。人型をしていたために、一瞬でも気づくのが遅れてしまっていたのだが、それをマルクとすぐさま駆けつけたジェラールが応戦。
だが、アクノロギアは魔法を全て食らうドラゴンだった。その事実に、恐れて絶望し掛かっていた。
「天狼島で対峙した時とは、魔力が違いすぎる。」
「か、勝てるわけがない……」
エルザとジェラールは、あまりの力の大きさに屈しかけていた。だが、それを打ち破ろうとするために、ウェンディが動こうとしていた。
「わ、私が……私がやらなきゃ……
しかし、その表情は絶望によるヤケを起こしている者のそれだった。それでは勝てるわけがないと、子供でもわかるようなことだった。
そんなウェンディの頭に手を置く者がいた。マルクである。
「ぁ……」
「…ウェンディ、エルザさんとジェラールを頼むな。」
優しい笑顔を、マルクはウェンディに向けていた。ウェンディは絶望による焦りが無くなり、その分冷静になることが出来たが……これからマルクがどうなるかが、理解出来てしまった。
「マル━━━」
「モード悪魔龍!
アイリーンと戦った時に見せた、マルクの悪魔の力を結集させた姿。未だ使いこなせているとは言えないが、しかし時間稼ぎ程度なら出来るだろうとマルクは思っていた。
「魔法が効かなくても!呪法は効くだろう!?」
「……」
アクノロギアはただ黙って、目の前に現れたマルクを滅ぼそうと手に魔力を貯め始める。
だが、それよりも早くマルクはアクノロギアへと追突して、自分事アクノロギアを吹き飛ばして遠くに行くのだった。
「あぁ……マルク、マルク!!」
「待てウェンディ!今向かってもマルクノ足でまといになるだけだ!!」
向かおうとするウェンディを、エルザが止める。ジェラールは黙って拳を握りしめていたが、そんな3人の目の前に船がやってきたのだ。空飛ぶ船、クリスティーナ……
「エルザさんウェンディちゃん!」
「一夜!?」
「急いで乗り込みたまえ!やつをマグノリアから遠ざけるのだ!!この船で、やつの注意を引く!!」
突如現れた一夜。エルザ達に乗り込むように指示し、遠くで戦っているマルクの方を見て、何やら小さな道具を取り出す。
「マルク君!クリスティーナに着いてきたまえ!!」
「っ!!」
道具を通して、一夜の声が大きく響き渡る。その声はマルクにもちゃんと聞こえたのか、アクノロギアと距離をとるために一旦アクノロギアを蹴り飛ばして体制を整えていた。
「時間が無い!急いで!!行こう、少しでも時間を稼げれば……!」
「振り切れるのか!?」
「クリスティーナを舐めてもらっては困るね。それに……アクノロギアを『ある地点』まで誘導できれば、勝機はあるかもしれん。」
「なっ…」
「本当か!?」
飛び立つクリスティーナ。同時にウェンディが酔い始めたが、もはや気にしてる余裕は一刻も存在していない。
「━━━ですよね。」
「えぇ。」
そして、クリスティーナの奥から一夜達の元に一人の女性が現れる。その女性は、どことなく…ルーシィの面影があった。
「発進したか……!」
「……悪魔如きが、我に逆らうか?竜の王、全ての魔を喰らいし竜の王である…このアクノロギアを!!」
「は!こっちも魔龍なもんでな!!しかも、お前と同じように魔法『だけ』を喰らえるだけじゃねぇんだよ!
地面も水も全部が俺の力に還元できる!!お前の方が下位互換なんだよアクノロギア!!」
アクノロギアを挑発するマルク。能力自体はマルクが言った通りではあるが、それだけでアクノロギアは竜の王になった訳では無い。
それを可能にする、単純な力も持ち合わせているのだ。マルクの体は、今はありとあらゆる魔法を通さない上に、自分の力へと還元することができるようになっている。
だが、アクノロギアの純粋な腕力や戦闘経験の違いはそれらの能力を含めても天と地ほどの差がついているのだ。
「……」
「よし…!」
マルクはある程度様子を見ながら、クリスティーナについて行くように飛んでいく。
アクノロギアはその様子を少し眺めていたが、マルクの挑発が効いたのかはたまた別の要因があったのか、アクノロギアはマルクを追いかけるかのように飛んでくる。
「着いてきたな……よし…っと!?」
マルクはアクノロギアに視点を向けていたが、目の前を飛んでいるクリスティーナが180度旋回しているのを確認して、咄嗟にその直線上から避けて飛んでいく。
その直後に、クリスティーナから魔導砲が放たれてアクノロギアに向かって飛んでいく。
「今の内に…!」
魔法が効かないというのは分かっているが、ほんの一瞬の時間稼ぎにはなっていた。
その隙にマルクはクリスティーナに追いついて、器用に船の上に着地をする。クリスティーナの上に乗るのはかなり自殺行為なのだが、今はそんなことも言っていられないので、誰かが来てくれるまでは甲板に待機することになるだろう……と、マルクは思っていたのだが。
「……あれ?船の上にいるのに酔わない?」
船の上に立っているのに、酔うことがなかった。恐らく滅竜魔導士用の船なのだろうが、何故そんなものをクリスティーナが積んでいるのかは正直疑問である。
だが、今はそれに助けられたと思ってそのままマルクは船の中に向かうのであった。
「うおおお!?」
アクノロギアに追われているせいもあってか、マルクは船の中で揺らされて転がっていた。
だが、一同の影が見えたのでひとまずそこに向かっていた。
「マルク!!」
「っとと……すまんウェンディ。」
出会い頭に、ウェンディがマルクに抱きついた。マルクは苦笑いしながら、ウェンディの頭を撫でていた。
「相変わらず仲がいいわね、二人とも。」
「ぁ……あ、貴方は…」
そして、マルクの目の前に現れる金髪の女性。マルクは、その人物のことを知っていた。
何故今の今まで思い出そうともしていなかったのか不思議なくらいに、綺麗に思い出していた。
「アンナ先生!?」
「ウェンディにも同じ反応をされたわ。」
「……それよりも、だ。アクノロギアを倒せるという話は本当なのか!?」
「慌てては駄目。物事には順序というものがあるの。」
アンナ、彼女を見てマルクはルーシィにそっくりだと今更思い至った。だが、どうして今の今迄思い出せていなかったのか。
「大きくなったわね、ウェンディ…マルク。」
「私、まだ少し混乱してて……」
「すいません、俺も……」
「いいのよ。グランディーネやイービラー…他のドラゴン達のことは残念だったわ。でもね、彼らのしてきたことは無駄ではなかった。
私は……400年前、この子達やナツ達に言葉や文化を教えていた教師。滅竜魔導士と共にエクリプスを通り、この時代に来たの。X777年…全てはアクノロギアを倒すために。」
アンナは真面目な顔でそう語る。しかし、幾つか疑問点がマルク達の中で生まれていた。まずひとつが、エクリプスを通ってきたということ。そして、それが滅竜魔導士達とともにという言葉がつけ加えられていたということに。
「……あ、アンナ先生?俺達がエクリプスを通ってきたって?」
「落ち着きなさい、それの説明もしてあげるから……」
それを言い、アンナは騙り始める。アクノロギアを倒す作戦と、それに至るまでの経緯を。
「400年前、アクノロギアに対抗する術は皆無だった。そこで、ドラゴン達は未来に希望を託すことにしたの。滅竜魔導士達の体内に入り未来…つまりこの時代に来ること。」
「俺達は400年前の人間……」
「そう、魔力が一番満ちているこの時代につながったのは結果的に成功だった。
ゼレフが扉を作り、私が扉を開いた。」
「ゼレフが!?」
「彼はずっと時の研究をしてたの。でも、あの頃はまだ彼の望みであった過去に行くことは出来なかった。
ただ、未来へ希望もまだ持っていたと思うわ。」
少し話を区切って、アンナは再び語り始める。そのゼレフが、何故こんなことをしているのかという気持ちはあるが、マルクはそのままアンナの話を聞いていく。
「……そして、この時代へと繋いだのがレイラ・ハートフィリア。私が入口を開き、彼女が出口を開いた。」
「ルーシィの母親か。」
「私は本来、出口にいる者への事情の説明と、貴方達を育てる役目で一緒に扉を通ってきたの。」
「私達を育てるため?」
「まだみんな子供だったからね……でも思わぬ『事故』で、開いた扉からみんなバラバラになってしまった。」
「事故?」
渋い顔をするアンナに、マルクが尋ねる。アンナはマルクの方を見て、少しだけ躊躇ったがしかし語らなければいけないと思ったのだ。
「ナツ、ガジル、ウェンディ、スティング、ローグ、クォーリ……そしてマルク。全員の居場所を見つけるまで時間がかかったわ。
でもね……みんなの、この時代での暮らしを見ていたらまだ私が接触するときではないと思ったの。物事には順序というものがあるからね……」
「順序、ですか……」
「問題は…実はもう一つあったのだけれど、それは次の話で絡めて説明していくわね。
私は、みんなを探す過程でとんでもないものを見つけてしまったのよ。エクリプスの事故が原因か別の原因なのかは、その時はわからなかったけれど……とにかくそれは存在していた。
私が表舞台に立てなかったのは『それ』の調査と、準備の為。
『それ』はとても強大で!危険な力……いいえ、力ではなく概念に近いわね。
時の狭間……アクノロギアを封印し、無に還せる唯一の希望。」
そのワードに、しっくりこそ来なかった一同。しかし、言葉だけで聞いていれば使用するのも危険そうなものに聞こえてくる。だが、利用できるものはなんでも利用しなければ、アクノロギアは倒せないのだ。
「X777年に、私はレイラが開いたエクリプスから通ってきた。その時に1つ目の問題…つまり、この時代に連れてきた滅竜魔導士達とはぐれてしまったのよ。」
「それの原因は……」
「扉を多人数で通った…って言うのもあるかもしれないけれど……恐らく、原因はマルクよ。」
「え、俺ですか……?」
自分が突然に原因だと言われてショックを受けるマルクだったが、よくよく考えてみれば、自分の魔力と体は特別性なのだ。それが原因ということに直ぐに気がついて、アンナの方を見る。
「……マルクの魔力は、イービラーと同じで特殊。魔法の効果を受けないのよ。けれど、魔力は受けないが過程と結果は受ける…火の魔法を浴びせられたら、火傷しちゃうけれどその魔法から魔力を奪う、それがマルクの特性。
けど、そのせいでエクリプスは超えられたけれどその魔力を浴びてしまったせいでエクリプスがエラーを起こした。」
「それで私達が飛んでいっちゃったんですね……」
「まぁ…1番その影響が酷かったのは、多分マルク本人よ。」
「へ?」
自分が原因だと言われた次には、自分は被害者だと言われる。一体どういう事なのかわからずに、マルクは首をかしげた。
「エクリプスの魔力は、その特殊な性質の魔法の根源となるもの…未来と過去を繋ぐその魔力が、マルク個人に働き掛けたのよ。
覚えはないかしら?過去に、やけに現実味がある夢を見たとか……」
「…あっ!!」
マルクは、大魔闘演武の時に夢を見たことを思い出した。あれは夢ではなく現実、しかしそれがどうしたというのだろうか?
「何周したかわからないけれど…その魔力は尽きるまでマルクを過去に飛ばした。トリガーこそ分からないけれど、確実にマルクは同じ時をループしていた。
肉体が若返っているのか、それとも精神だけが飛んでいるのか分からない……けど、
「どうやって?」
「…私がこの時代に来た時に、全員がはぐれたと言ったわね。確かにそう、そうなんだけれど……その時できた穴は6つだったのよ。」
「…貴方が連れてきた滅竜魔導士は、先程聞いた限り7人の様だが?」
「えぇ、確かに私の記憶ではそうなっていた。あとで国王にも確認したけれど、確かに6人だった。
けど、私がウェンディを見つけた時にいたマルクを見た時に……作られた穴は7つだという記憶が浮かび上がってきたの。」
マルクは、時間を巻き戻って進んでいた。その事実にマルクは唾を飲む。しかしまだ、アンナは話を終えない。
まだ、話の確信に触れていないのだから。