「あぁ…あぁ…!」
ドラゴンなったアイリーン。それを、エルザは自身の体がボロボロになってでも自分の体で彼女の鱗を切り裂いた。
だが、斬ろうとして無茶を犯した結果彼女の体の骨はほとんどが折れてしまう。そして、アイリーンもまた切り裂かれた影響で体がドラゴンから人間の体へと戻っていた。
「エルザさん!ぐっ…!?」
しかし、アイリーンは未だ立っていたのだ。流石はスプリガン
マルクはそれを庇おうと一気につめよろうとするが、体に異変が起こる。呪力を全体的にまとい、体の形すらも変化させていたがその変化がいきなり解ける。そして、体から力が抜けたことで落下してマルクも動けなくなってしまう。幸いな事は、彼が悪魔の力を直前まで使っていた影響か、体のダメージが表面だけで収まっていた、ということである。
「手こずらせやがって…小娘がァ……!」
アイリーンは、エルザが使った剣を手に持ちながらエルザに迫る。ウェンディもマルクも動けないためにエルザを守ろうとすることが出来ない。
「これで終わりよ……もう、諦めなさい。」
アイリーンは剣をエルザに向ける。だが、剣を向けられているエルザは微かに笑っていた。それが、アイリーンに過去をふと思い出させていた。
そして、思い出されたその過去が……彼女の隙を招いた。
「笑うな…笑わないで……笑うなぁァァァァァ!!」
「まだ…諦めてないからな!!」
エルザは、折れてない片腕で一気に起き上がる。自分の体に剣が刺さってしまうが、それを気にするほどエルザに痛みの耐性がない訳では無いのだ。
肩から腹にかけて突き刺さってしまう剣だったが、エルザはアイリーンに頭突きを入れることが出来た。
「エルザさん…!」
「エルザさん!!」
「━━━まだ、詰めが甘いわね。」
頭突きを入れられたアイリーン。しかし、彼女はすんでのところで踏みとどまったのか、倒れずに二本の足で立っていたのだ。
そして、エルザに刺さった筈の剣をその手に持っていた。
「剣は、ここよ……これで、おしまいね…」
そう言いながら、アイリーンは剣を
「え…?」
「っ!?」
「自分の、体に…!?」
突然の事で、困惑する一同。しかし、アイリーンのその顔はどこか満足気な表情となっていた。
「情けないわね…帝国最強の女魔導士の私が……自分の娘だけは、殺せないなんて……」
そして、アイリーンは膝を着いた。最後の最後で、親子の上が湧いたのだ。
いや、もしかしたら彼女は初めからどこか遠慮していたのかもしれない。だが、その親子の情を認識したのは、彼女にとっては今なのだ。
「な、なぜ……」
「さぁ、何故かしらね…そなたが笑ったせいね……思い…出したんじゃ、ない……かし…ら……そなたを、愛していたことを……」
そして、アイリーンは息を引き取った。最後は、親子の情に負けたのだ。エルザは唇を噛み締める。
もっと何か違う方法があったのかもしれない、もしかしたら分かり合えていたかもしれない…そんな幻想を抱いて、しかし彼女は首を横に振った。それは有り得なかった、と。
「━━━さよなら、お母さん。」
もう出会うこともないだろう。唯一にして、たった一人のエルザの『母親』出会った人には。
傍に、ウェンディとマルクが寄る。二人とも、この結末には少し後悔していた。同じように、考えているのだ。
「エルザさん……」
「大丈夫ですか?」
「ウェンディ、マルク……私は無事だ。」
2人の心配するエルザ。どう見ても無事ではない為、即座にウェンディが治癒を行っていく。
全身の骨折に、剣が1度刺さっているのだ。急いで治癒させなければいけない。
「私は…大丈夫だ。」
「いいえ、その……体だけじゃなくて…」
「あぁ大丈夫だ。問題ない。ありがか二人とも……」
「…あの人も、母親だったってことですかね。」
「きっとそうだろうな……あの人も、悲しい人だったのかもしれない。それでも私の親はマスターだけだ。」
マカロフの事を思い出すマルクとエルザ。マルクは直接目にしていないが、魔力を感じとれなくなったということは、きっとそういうことなのだろう。
「そう言えば、さっきから気になってるんですけど……戦場からマスターの匂いが消えたんです。色んな人の匂いが入り交じってるから、確かではないけど……」
ウェンディのその言葉に、エルザとマルクは顔を伏せる。マルクはちゃんと見てはいないが、魔力を感じなかった時から恐らくはそうであろうという予想は立てていた。
「…大丈夫、私がついてる。」
エルザはウェンディを抱きしめて、そういった。ウェンディも全てが理解出来てしまったのか、涙を浮かべ始める。
「そんな……」
「…マスター…!」
拳を握るマルク。だが、間髪入れずに次の事態起こり始める。突如として周りが光り始めたのだ。
この光は、少し違うもののマグノリアの形を変えた光と、直感的に似ているとマルクは察していた。
「くっ!」
「マルク!?」
「2人とも、離れないで!!」
エルザとウェンディの近くに寄って、マルクは魔力を展開する。恐らく、またどこかに飛ばされるのだと思って、全員なが離れないようにするためである。
そして、光は段々と強くなっていき……一瞬の暗転の後、世界は元の姿に再構成される。
「━━━ここは…フェアリーヒルズ?」
開口一番、目を開けたマルクは場所を確かめる。
「ここならば…ある程度装備を整えられるな。」
「そう言えば、エルザさんもヒルズに住んでましたね……とりあえず、ここで少し休憩していきましょう。」
「うん…エルザさんの傷も治さないといけないから。」
完治こそ無理だが、少なくとも折れた骨を治さねばエルザは動くことすらままならない。
ウェンディは治癒術で、エルザを回復させていく。そして、しばらくした頃にエルザは動けるまでに回復していた。
「……エルザさん、歩けますか?」
「本当にお前の治癒術は凄いな…」
「私がマスターのそばにいたら、もしかしたら……」
「いや……あれは覚悟を決めた魔法だった。命を燃やす覚悟を……」
ふと、エルザは視点をずらす。そこには偶然なのかアイリーンの死体が転がっていた。
それを見て、落ち込みそうになるが直ぐに振り払う。
「「「っ!!」」」
そして、すぐさまにマルク達三人は強大な魔力を感じ取る。だが、ほんの一瞬、マルクの方が感じ取るのが早かったのか……エルザとウェンディの前に出て、魔力を込める。
「魔龍の━━━」
そして、すぐさま全魔力を持ってブレスの準備をする。だが、ゆっくりと魔力を練っている場合ではないのだ。
マルクはほぼ一瞬とも言えるタイミングで、使えるだけのありったけの魔力を、込める。
そして、その直後に……『絶望』が地面に落ちてきた。
「━━━咆哮!!」
そして、マルクのブレスが飛び降りてきた何かに対して放たれる。マルクの込められるだけの、ありったけの魔力。これが当たれば魔導士であればたとえアイリーンであろうともオーガストであろうとも、関係無く全魔力を奪うことが出来ただろう…自他ともに認めるほどのそれらの攻撃は……相手には通じていなかった。
「━━━我は飽きた。この世界に飽きたぞ、黒魔導士。」
土煙の中から現れたのは、肌が黒くそして見える範囲で、腕には何かの文様。黒いマントを羽織り、そして黒いズボンを履いている男。
髪は長く、そして青色だった。だが、最も目立ち印象に残ったのはその魔力の強大さと、どこか感じたことのある魔力だったということ。
「誰だお前はァ!!」
「……」
マルクは警戒を最大にしているが、目の前の男は通り過ぎる。マルクは相手にしていないかと言わんばかりに。
そして、アイリーンの死体の前にまで歩き、彼女の死体を見下ろしていた。
「うぬであったか……人々に滅竜の力を与えたのは。ならばうぬは我の母……」
そう言い、足でうつ伏せだったアイリーンを仰向けにする。そして、足を上げ…彼女の体目がけて振り下ろした。
「我の罪ィ!!アハハハハハ!!」
「ひっ……」
男は笑い声を上げながら、アイリーンの死体を踏みつぶした。何度も何度も、笑い声を上げながらただひたすらにアイリーンを踏みつぶしていく。
「クハッ!クハハハハ!!」
「……よせ、骸を辱めるのはやめろ…!」
エルザが声をかけると、ピタッと……まるで直前までのことがなかったかのように、男は止まった。
「うぬはこの女と同じ匂いがするなぁ……っ!」
「……」
男は、ウェンディに視線を向ける。それを、マルクが間に入って庇うが男にはマルクが視線にはいっていないようだった。
「滅竜魔導士?こんなガキが滅竜の力を…」
「貴様は何者だ!」
エルザの問いに、男は答えない。だが、エルザもウェンディもマルクでさえも……その男の正体には気づいていた。
「この魔力…この人……」
「…なんで、ここに居るんだアクノロギア…!」
男は……アクノロギアは、ウェンディを見すえたまま口角を上げる。それとほぼ同時に魔力を練り始めていることに気づいたマルクは、呪力の方を使って相殺しようと考える。
「ふん!!」
そうして、2人の攻撃は激突した。しかし、あのアクノロギアの攻撃とマルクの全力の攻撃である。その余波は凄まじいもので、お互いの方に爆風が迫ろうとしていた。
しかし、その爆発の余波を防ぐかのように間にバリアがあらわれ、また新たにこの場に一人の男が現れる。
「━━━ジェラール!?」
「マルク!!」
「あぁ!!モード悪魔龍
即座に呪力をまとい、マルクはアクノロギアに特攻していく。そして、それを支援するかのように、突如現れたジェラールは魔法を使っていく。
「天体魔法!
「がァ!!」
マルクの攻撃を、アクノロギアは避ける。しかし左右に逃げられないように、アクノロギアの左右にジェラールの魔法が刺さる。
そして、マルクの呪力によって生まれていた3つの首が、アクノロギアを喰らおうと動いて行く。
「……っ!!」
「
即座に回り込んだジェラールだったが、9つの光の刃をアクノロギアに後ろから浴びせていく。
アクノロギアはこれをかわすが、無駄打ちにはならずにそのままマルクが地面に落ちる寸前に拾って、ジェラールの魔法をくらっていた。
「だらァ!!」
「ぐぉっ…!」
ムチのようにしならせて、マルクの首がアクノロギアを吹き飛ばす。その一瞬の間でマルクは呪力を貯めて、ジェラールはトドメを指すために自分の中で最も威力の高い技を選ぶ。
「7つの星に裁かれよ!!」
「暴食龍の━━━」
「
「
3つの頭が、全てを削りながらアクノロギアに迫っていくビームを放つ。ジェラールは、アクノロギアの真上から光り輝く星の裁きを放つ。
だが、アクノロギアは空中で身を翻したかと思えば、未だ余裕そうに笑みを浮かべていた。
「クハ!ハハハ!!ハハ!ハハハ!!」
そして、
「魔法を……」
「食った…!?」
「な、なんの属性を……」
ジェラールの魔法を食らったのだから、当然ジェラールの使う魔法と同じ属性の魔法を使うのだろう。そして、それらを食らうのだろう。だが、だそれだけでこの男はアクノロギアとはなっていない。
「━━━属性?
そう叫びながら、アクノロギアはドラゴンの姿へと変貌した。そして、アクノロギアが告げたアクノロギアの事実。
全ての魔法を食らうその強さに、一同は少し絶望を味わってしまったのだった。