FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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ドラゴンの女王

「エルザさん、伏せて!マルクも…今は私を信頼して…!」

 

「あ、あぁ!」

 

スプリガン12(トゥエルブ)が1人であるアイリーン・ベルセリオン。彼女は、元はドラゴンと人間が共存する国の女王であり、またエンチャントと滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)を作りしもの。

しかし、滅竜魔導士を作り出した者は、自分の体がドラゴンになっていくのを止められなかった。そして、最終的に体はドラゴンとなり彼女は人間に戻ろうとし始める。

その過程において、アイリーンは自分のお腹の中にいる娘…エルザを産んだ後で、エルザに自分の人格全てをエンチャントすることを思いつく。だが、結局それは叶わずエルザはローズマリー村に捨てられ今に至る。

そして、アイリーンの方はこの戦争において滅竜魔導士であり同時にエンチャンターでもあるウェンディの体を欲した。自分がエルザにエンチャントできなかったのは、相性の問題だといいウェンディの体を乗っ取る。

乗っ取られて、マルクはウェンディとなったアイリーンに攻撃を仕掛けるが、ウェンディの体に傷をつけるということは自分で行えずに、そのまま一方的に嬲られてしまう。

しかし、そんな時に既に空っぽになっていたはずのアイリーンの体が動き始める。その空っぽの器に入っていたのはウェンディの人格だった。

アイリーンが人格エンチャントをやるのとほぼ同時に、自分も人格エンチャントを行うことによって、アイリーンの体を乗っ取ることに成功したのだ。

そして今、ウェンディは自分の体を取り戻すためにアイリーンの魔力を存分に使う。

 

「くうぅ…!?私が、押されている!?」

 

「━━━分離エンチャント。」

 

「なっ!?体から私を引き剥がすつもりか!?」

 

「えぇ、こっちの方が魔力は上ですから。」

 

「こいつ、何者…!?」

 

そして、類まれなる魔力の高さと多さを利用して、ウェンディはアイリーンの人格を自分の体から引き剥がすことを考える。

アイリーンは、ウェンディが自分とほぼ同等のエンチャント技術を持っている事に驚き、そして恐怖した。

 

「私の体、返してもらいますよ!!大きいお胸には憧れますけど、私はその小さい体で生きてきたんです!!」

 

「おのれえええ!!」

 

ウェンディの攻撃に抵抗しながら、アイリーンはウェンディの傷口を抉る。

その行為は、自傷行為に見えるが、実際は意地でも体を手放さないという欲が見えてしまう。

 

「何を…!」

 

「これでもこの体に戻れるかァ!?やっと手に入れた体!!渡さん!!!絶対に渡さん!!!!」

 

「体中の傷は私が生きてきた証!妖精の尻尾(フェアリーテイル)で戦ってきた勲章ですから!!傷なんていくつ増えても構わない!!

その体には……、大切な人達と触れ合った記憶が残っているんです。」

 

「「ウェンディー!!」」

 

「くそおおおおおお!!」

 

魔力のぶつかりあいが止み、そして2人の女はふらついていた。1人は絶望によって。1人は傷口から出る出血量によって。

 

「━━━エルザ、さん…」

 

「ウェンディ!戻ったのか!?」

 

「はい……マルク、エルザさん……あとは、任せてもいいですか…」

 

傷口と、人格の移動という未知のことを体験した影響か、ウェンディは尻もちをつきかける。

だが、瞬時にマルクがカバーに入りなんとか尻餅をつかずに済んでいた。

 

「あぁ、存分に任せてくれ…」

 

服の袖を破り、マルクはウェンディの傷口を塞ぐようにそれを巻きつける。簡易的な処置だが、無いよりはマシだろう。

マルクはウェンディをゆっくりと寝かせた後に、立ち上がる。

 

「……決着は、私達がつける。」

 

「小娘共が…!」

 

「ウェンディ、直ぐに終わらせてやる…ちょっとだけ待ってろよ。」

 

「すぐに、だと…?笑わせないでくれるかしら……400年生きた魔力を前に!!」

 

手を振り下ろし、アイリーンはエルザ達のいる所を爆破させる。だが、エルザはそれをバックで回避、マルクは既にタイミングは覚えたので爆破した瞬間にその魔力を全て吸収する。

だが、アイリーンはマルクを無視して、そのままエルザに攻撃を仕掛けていく。どうやら、倒せるものから倒していく算段のようだ。

 

「俺を無視、すんな!!」

 

「くっ!小童が…!」

 

舌打ちしながら、マルクの攻撃を必死に回避していくアイリーン。その表情には、既に余裕は無くなっていた。

 

「400年もかけてあなたを守ってきたのに…!生まれてきたら少しの役にも立たない小娘!!私の幸せまで邪魔するつもり!?」

 

「あなたの不幸はわかった…!だが…私は負けられない!」

 

エルザの一太刀が、アイリーンを狙う。だが、その斬撃もアイリーンは防いでいた。

マルクも、反対側から攻撃をしていたが、それも防がれていた。

 

「あんたの不幸は、確かに不幸だと思えるものだ…けどな、それに他人を巻き込むのは違ぇだろ!!」

 

「そなたらに…!そなたらに私の不幸のなにがわかる!!」

 

両腕を降るって、2人を引き剥がす。既に、余裕をなくして我を忘れていた。怒りのままに力を振るうただの魔導士となっていた。

 

「貴方が捨てた村で私は捕まり、数年間…カルト教団の所有物とされていた。

貴方の400年に比べれば、大した不幸じゃないな…!」

 

吹き飛ばされてから、すぐさまエルザはアイリーンに迫る。その言葉からは、アイリーンに対する同情と自分の負けられない思いが詰められていた。

 

「それに、あの時の自分があったから…今の私がいる。大切に思える人もできた。

辛い出来事も仲間がいたから乗り越えられた!!」

 

「綺麗事を!!そなたの存在全てが憎い!!産まなきゃよかった!!死ね死ね死ね!消えてなくなれぇぇぇ!!!」

 

「っ!エルザさん離れて!!」

 

マルクは、エルザに注意を飛ばす。アイリーンの魔力が憎しみによって膨大にふくれあがったのを感じとったからだ。

だが、その注意ですら既に遅かった。

 

「おおおおおおおおおお!」

 

アイリーンの服は弾け飛び、爪は伸び、そして鋭利化していく。皮膚は全て鱗となり、そして体は肥大化していった。

 

「がはっ…!?」

 

「エルザさん!」

 

変身途中のアイリーンに吹き飛ばされたエルザを、即座にマルクが受け止める。

しかし、既にそこには女魔導士としてのアイリーンは存在しておらず、ドラゴンが佇んでいたのだ。

 

「ドラゴン…!?」

 

「っ!エルザさん伏せて!!モード悪魔龍━━━」

 

ドラゴンの姿に戻ったアイリーンが、腕を振るう。それが即座にやばいと判断したマルクは、エルザを突き飛ばして呪力を使ってモード悪魔龍へと変貌する。

おそらく1番力が強いであろう形態。

 

憤怒怒り(フューリーラース)…!」

 

体は呪力で覆われて全てが大きくなり、ドラゴン化したアイリーンと比べても遜色ないほどに大きくなっている。

 

「たかが悪魔が!!」

 

「そのたかが悪魔にやられるんだよ!!」

 

「賢竜はエンチャントの力をさらに増大させる!!ハイエンチャントの上位、マスターエンチャントへと!!」

 

「んなもんいくら使ったところで俺には勝てねぇぞ!!」

 

「ふん…!大地や空や海…あらゆるものを超越した力、天体へのエンチャントだぞ!!たとえ貴様とて防ぎきれん!!エルザごとまとめて…砕け散りなさい!!

神の星座崩し(デウス・セーマ)!!」

 

空を超え、宇宙から星が降ってくる。そんなものをまともに受けてしまえば恐らくこの辺一帯が吹き飛んでしまうだろう。

そして、余波だけでもおそらくエルザとウェンディが吹き飛んでしまうことに、マルクは気がついた。

 

「そ、そんな馬鹿な…!?」

 

「くっ…!?」

 

今ここで受け止めなければ、全てが終わる。そして、今それができるのは自分だけだと、マルクは直感的に行動を起こす。

だが、この形態では空を飛ぶことすらもできない。強欲の力ならば、空を飛翔することも可能なのだ。

マルクは願った。この力を維持したまま、強欲の力を使いたいと。

自分の力の足らなさに『憤怒』し、力を貪欲に求める『強欲』さを発揮する。その『傲慢』さは、やがて自分の中の悪魔に対する『嫉妬』を生み出して、マルクはこの力をこのままただ使っていた『怠惰』さに呆れ果てる。愛するものを守りたいという『色欲』のもとに、あの星の魔力や星すらも食らって力に還元してやるという『暴食』を発揮した。

その発揮された力は、マルクの中の何かを…壊した。

 

「うおおおお!」

 

大きな体を維持したまま、体には装甲が現れる。そして大きな翼が生えて、顔も竜のように変貌する。

体は黒い炎で燃え上がり始め、触手のような物体が腰布のように腰に現れる。そして、それを更に閉じ込めるかのように雑な作りの…まるで岩の破片をつなぎとめ張りつけたかのような装甲が、組まれていた。

 

「ウゥゥ……!」

 

「マル、ク……!」

 

マルクはそのまま飛び上がり、隕石を抑える。ただ、抑えるだけで意味が無いのだ。このまま壊さないといけない。

 

「悪魔の力を行使しているとはいえ、隕石を止めるだと!?」

 

「ただの、悪魔じゃあねぇからなァ!!」

 

声を張り上げながら、マルクは腕に力を込める。体の中にある呪力がマルクの力をさらに活性化させる。

次第に、隕石はその体積を徐々に減らし始める。マルクの装甲が、隕石を喰らい始めているのだ。そして同時に、隕石を両腕の単純なパワーで破壊しようともしている。

 

「ガァァァァァァァ!」

 

「馬鹿な、そんな……はっ!?」

 

マルクが隕石を壊している間、アイリーンはふと地面を見た。そこには既にエルザの姿はなかった。

隕石を呼び、そしてマルクの異形化とその力に意識を向けてしまったのだ。エルザはどこに行ったのか、アイリーンは上を見上げて、気づいた。()()()()()()()()()()

 

「マルク!!」

 

「エルザさん!?」

 

「その力を、貸してくれ!!」

 

「━━━はい!!」

 

マルクは、その隕石を完全に破壊する。そして、ある程度取り込めた隕石の力、アイリーンが付与したエンチャントの力をエルザの刀に付与させる。これほどまでにしないと、ドラゴンの鱗は切れないと判断したのだ。

 

「覚悟ぉぉぉぉ!!」

 

「例え隕石の力を使ったとしても!!ドラゴンの鱗は切れないわよエルザァァァァァア!!」

 

「だったら……切れる、ように…エルザさんの剣に、滅竜属性を、付与…!」

 

「なっ…!?クソオオオオオ!!」

 

ウェンディが最後の魔力をふりしぼり、エルザの剣をさらに強くするために滅竜の属性を付与させる。

最早それを分離している暇はない。アイリーンは、渾身の力を持ってしてエルザを迎撃しようと吼える。伸ばした腕が、エルザを捕らえようと動く。

 

「はァ!!」

 

「ぐぅ!?」

 

エルザは自分の体の限界を超えた力をふりしぼり、まず腕を切り裂いた。この時点で既に片腕が折れてしまっていた。

故にエルザは足も使って、アイリーンの肩に剣をぶつける。

 

「ぐううううう!?」

 

「終わり、だァァァァァァ!!」

 

足が折れる。火事場の馬鹿力とはよく言ったもので、鍛え上げられたエルザの筋肉の力に、今まで耐えてきた骨がまた折れてしまう。

滅竜の力があってもドラゴンを傷つけるのは現代の滅竜魔導士達では難しい。ならばそれを押し込めるだけの力が必要だったのだ。

それを、体を犠牲にしてまでエルザは成しえた。

 

「あああああああ!!」

 

そのまま振りぬき、エルザはアイリーンの体を切り裂いた。その時点で体中の骨が折れて軋みを上げてしまっていたため、エルザは地面に投げ出される。

アイリーンは、元の人間の姿に戻っていた。

勝負は、エルザ達の勝利となったのだった。


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