「少女の声がみんなをここに集結させた?」
「おそらく
「わ、私には聞こえなかった、し……多分、そう。」
妖精の尻尾のギルドから、マホーグの協力もあって逃げ出せたメイビス。そして、何故バラバラに飛ばされたはずのギルドメンバーがギルドに集まってこれたのか。
それが気になっていた。そして、メストに話を聞くと少女の声が妖精の尻尾メンバーにだけ届いたという。
「一体誰が……はっ!!」
「…メイビス?」
「おそらく思い当たる人物がいたんだろう…少し静かにしておくか。」
メイビスは、驚いた表情になってから、胸に手を当てて目を瞑り始める。何か思考しているようだが、その間にマホーグは聞いておきたいことがあった。
「…メ、メスト…何か、した?」
「……何か、とは?」
「と、とぼけないで……あ、貴方はさっきから…何かを隠してる。め、メイビスの目は見れているけど……み、妙に…意識が別の方、向いてる。」
マホーグは、メストの目を見て追求し始める。誰か重要な人物が死んだのか、それとも何かを知ってしまったのか。
酷すぎて、大きすぎて言えないようなことだと言うのはマホーグにも理解ができた。
「……魔道王オーガストにあっていた。和解のためにな。」
「…な、なんで?す、スプリガン
「……少し、長くなる。」
そこから、ひとまず前提をメストは騙り始める。事の発端といえば、スプリガン12のブランディッシュを捕まえた時の話から始まる。
彼女の部下に、空間系の魔法のエキスパートがいたのだ。そいつはカラコール島にてナツ達と接触した男だったが、その男が捕虜として捕まっていたブランディッシュを殺害しようとしたのだ。
そこに、ルーシィとカナが助けに入ってどうにか殺害は免れた。そこからか、ブランディッシュはルーシィに心を開いたのだ。
彼女達の間にも、どうやら親同士で関係があったらしく、その蟠りが解消されて彼女達は仲良くなった。
そして、ブランディッシュが提案したのだ。『侵攻を辞めるように伝える』と。そのためにはまずオーガストに会う必要があった。そして、そのメンバーにナツとルーシィとハッピーが選ばれたのだが、それにメストが勝手についてきたのだ。
「……ここまでが前提だ。」
「……そ、それで?どうなったの?」
「…俺達はオーガストに出会った。そして、ブランディッシュが会話している隙を狙って……ブランディッシュにある記憶を植え付けた。」
「……記憶?」
「…オーガストは絶対に殺さなきゃ行けない相手だってな。」
メストの魔法は、ただの瞬間移動だけではない。相手に記憶をうえつけたり、逆に奪い取ったりすることが出来る魔法もある。
そのせいで、妖精の尻尾メンバーから自分の記憶を消していたということもあった。
それが、言われたりするまでは全く違和感を起こさないという強力なものであることは、マホーグですら知っていた。
そして、そんな記憶を植え付けられてしまえば……
「……自分の手で、和解を壊した…」
「……そういう事だ。」
「…す、住んだことは仕方ない…けど、あ、貴方は少し過剰すぎる……じ、自分に対しても相手に対しても……や、やり方が。」
マホーグはその件は責めたりはしなかった。だが、メストのその性格が幸も不幸も呼び寄せているという事は、糾弾していた。
「自分でも、嫌になる。」
「…その魔法、もう使ったら……駄目、だよ。」
「……あぁ。」
そこまで話してから、ようやくメイビスが目を開けた。そのことに気づいたマホーグとメストは、そこで話を区切っていた。
「初代…」
「ゼーラは帰りました、私の中に……」
「俺は、その……俺は、その………」
「次は我々がギルドに帰る時です。」
立ち上がったメイビスは、覚悟を決めた目をしていた。先程の、無垢な少女のような顔をしたメイビスは一時なりを伏せて、今からは妖精軍師メイビスとしての顔が輝く時である。
「……そろそろですね。」
「な、何が?」
「敵の魔導士……
それに合わせて、私は私の幻覚の魔法で……味方を鼓舞します。」
そう言って、メイビスは空を見上げた。それに釣られてメストとマホーグも空を見上げる。
そして、それとほぼ同じタイミングで巨大な『目』が空に浮び上がる。この戦場全てを見渡せるかと思うほどの巨大な目が、空に現れたのだ。
『メイビス…どこに隠れても無駄よ。私の目からは、逃げられない。』
そして、それと共に声も聞こえてきた。恐らく、これがアイリーンという魔導士の声であり、魔法なのだろう。
「ひっ!?」
「こ、こんな魔法を使えるのか……!」
「━━━『私は逃げも隠れもしません。』」
そして、その後にマホーグ達にいるメイビスが喋り始める。勿論、超巨大な自分の幻覚を持ってして、である。
声も戦場全てに届くかのような、大きな声である。
「『貴方達のいる場所は私たちのギルド。必ず奪い返してみせます。私の声を聞く全ての同士よ、共に戦え!汝らの剣、妖精軍師が預る!!』」
そして、その後から戦場から湧き上がるほどの声が聞こえ始める。戦場に居る殆どの人物が一気に励まされたのだ。
それほどまでに、メイビスの魔法は味方の士気を上げていた。
「……では、行きましょう。マホーグ。」
「…う、うん。で、でもメストは?せ、戦力は1人でも多い方が……」
「いえ、メストには見つからないように隠れて魔力を回復してもらいます。長距離を一瞬で移動できる、という魔法の性質上、余り魔法は乱発されても困ります。」
「あ……なるほど。」
メイビスの言い分に、納得するマホーグ。今はまだメストの出番が来る訳では無い。
ならば、ここで魔力を回復させて行った方が無難である。
「じゃ、じゃあ私が送っていく、ね。」
「はい、ありがとうございます。」
メイビスはマホーグに捕まり、マホーグは連続でショートワープを繰り返し始める。
マホーグは時折敵をなぎ倒していきながら、進んでいくのであった。
戦場、妖精の尻尾が戦っているところにたどり着いたマホーグとメイビス。しかし、既にその場には構えを取っているマカロフがいた。
そして、その構えに見覚えがあるのか、メイビスは着くなり走り始めた。マホーグは、念のためにメイビスの様子を確認しながら、敵を倒していく。
「なりません!!
「初代……そんなことは承知の上じゃ。止めんでくだされ、ワシの花道。」
「策はあります!必ずこの状況を脱する策が━━━」
「黙っとれぇ!!」
「っ!!」
初めて、初めてマカロフがメイビスに物申した瞬間だった。それほどまでに、マカロフの我慢は利かなかったのだ。
「目の前でガキ共が苦しんどるんじゃ、ガキ共が傷ついているんじゃ。あんたにとっては兵の1人かもしんねぇが、ワシにとってはかけがえのないガキ共なんじゃ。」
「私は、そんな……」
メイビスが怯えながらも頭を横に振った。妖精の尻尾のメンバーを、誰一人としてただの駒として扱ったつもりは無かったのだ。
だが、『そういう風に見ていた』という風に見られていたというのがメイビスの心に刺さっていた。
「分かってますとも…初代の策があれば、勝てることくらい。じゃがワシは、これ以上血を流してるガキ共を見ていられんのじゃ!!
老い先短い老兵の命で、ガキ共の未来が作れるとあれば、安い仕事じゃ……」
マカロフは自嘲気味に笑みを浮かべる。生きることを諦めたのではない、妖精の尻尾に居るもの達が、これ以上傷つくところを無くしたかったのだ。
「マスター!」
「エルザ、よく聞け。」
「いいえ聞きません!!一緒にギルドに帰りましょう!!」
「この先、どんなに辛いことがあっても…仲間と共に歩けば道はある。仲間を信じよ、自分を信じよ……ギルドは家族、忘れてはならん。
貴様らのお陰で、我が旅は実に愉快であった。」
「マスター!!」
妖精の尻尾が涙を流した。マスターであり、いい父であり、そして祖父でもあったマカロフの死を悟ったからだ。
「思い残すことはなし……みんな、仲良くな。『妖精の法律』!!」
その言葉を最後に、マカロフは手を合わせる。それが、妖精の法律。敵と認識した者全てを戦闘不能にさせる超魔法。
それから発せられる光は、この辺り一体を全て照らして行った。そして、最後に残されたのが、倒れている大量の敵と妖精の法律の構えのまま命を亡くしたマカロフの亡骸だけだった。
「ああ……あぅ……あぁ…!」
メイビスは、絶望と悲しみで膝を着いた。妖精の尻尾のメンバーも同じように泣き崩れ掛けていた。
しかし、それをラクサスが励ます。
「立ち上がってくれ……初代。敵はまだ残ってる……あんたの作戦がなきゃ勝てねぇ。」
「ラクサス……」
おそらく、1番辛いのはラクサスだろう。しかし、彼は涙を流すのを堪えて、笑みを浮かべていた。
今やるべき事は、悲しむことではなく敵を倒してギルドに帰ること。それを、彼が1番理解してしまっているのだ。
「……ジジイの為にもな。」
そして、エルザはマカロフの遺体に近づいて地面に膝をついて頭を下げる。それは、マカロフにマスターに対しての感謝、親子の関係でいてくれたことへの感謝……色々な感謝が混ざった土下座だった。
「…え、エルザ・スカーレット……」
「マホーグ…だったな……初代をここまで連れてきてくれて感謝する。」
「……だい、じょうぶ?」
「あぁ……悲しむのは、後に回さないといけないからな。」
エルザは立ち上がり、先を見据える。先行していっているナツ達と合流せねばならないからだ。
「……」
そして、マホーグは今までの光景をじっと見ていた。親しい人が死ぬと、悲しむということだけは理解できる。しかし、今の今までそのような環境に置かれたことがなかったので、彼女はそういうものだと理解ができても、それは上辺だけの理解しか出来ていないと自分で思っていた。
この状況を見ても、それは変わっていない。だが、上辺だけしか理解出来ていない彼女でも、これだけは心の底から理解していることがあった。
「……こんな、ことを……もう、何度も起こさせ、ない…!」
彼女が初めてする覚悟の目であった。戦争は、親しい人を何人も何十人も亡くして、そしてその亡くした悲しみに囚われるのが何百人何千人といる。
きっとそれは、許されてはならないことなのだ。互いの正義のための戦争ではなく、これが侵略戦争だというのだから尚更タチが悪い。
「……嫌な予感がする。マホーグ、進むのを手伝ってくれるか?」
「……ん、いいよ。ケーキお、奢って……ね。」
「済まない、助かる。お詫びにいくらでも奢ってやろう。」
戦争が終わったあとの約束をしながら、2人は手を握り合う。そして、一足先にエルザ達はナツ達と合流して、そして現在に時間は巻きもどる━━━