FAIRY TAIL〜魔龍の滅竜魔導士   作:長之助

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2つの悪魔と悪魔狩り

「オオオオオオオ!!」

 

「ガァァァァァァァァァ!!」

 

ナツが炎を吹き出し、グレイが周りを凍らせていく。それら全てが魔法なので、マルクは全て吸い込んで無効化していく。

だが、仮にも片方は悪魔を滅するための氷なので、吸い込むたびに軽くダメージが入っていっていた。

 

「ふん!!」

 

「ガッ…!」

 

「だらァ!!」

 

「ゴッ……!」

 

二人の魔法が直撃しないように、マルクは必死に避けながら2人に一撃ずつ与えていく。

熱くなっている2人を止めるために、マルクもまた全力を出していた。

マルクもある程度は熱くなっているが、しかし2人が言っていたことを頭で整理するくらいの冷静さは残されていた。

ナツ・ドラグニルという男の正体、それが最強の悪魔であるENDの正体である事。

グレイが誰かから聞いたのだろう、それが真実ならばナツから悪魔の気配がするのも理解できる範囲だった。

E(エーテリアス)N(ナツ)D(ドラグニル)…それがENDの真の名だった。

 

「モード悪魔龍!傲慢傲り(エレガンス・プライド)!!」

 

ありとあらゆる魔法に適応する呪力の鎧を、マルクは作り出す。ディマリアとの戦いで使用した時は、かなり異質な状況だったので、色々マルクにも予想外のことが起きていたが、今回ならば正規の実力を発揮できる。

 

「邪魔だァ!!」

 

「どけええええ!!」

 

片側からはナツの炎が、もう片側からはグレイの氷がマルクに襲いかかる。片方でもまともに受けてしまえば、致命傷は免れない。

だが、()()()()()()()()()

 

「なっ!?」

 

「っ!?」

 

2人は、止められたことに驚いていたが、マルクは間髪入れずに2人を力の限り地面に向かってぶん投げる。

モード悪魔龍の時は、力もかなり強くなっているので、たとえ成人男性だろうが容易く持ち上げて振り下ろすまでができてしまう。

 

「がはっ…!」

 

「ぐ、が…!」

 

「……いい加減止まってくださいよ。俺はあんたらを本気で殺したいわけじゃない。」

 

マルクは、鎧越しにグレイとナツに語りかける。これで、簡単に冷静になってくれるようならば、苦労はしないのだが…そうは問屋が卸さないと言わんばかりに、二人の魔力はさらに漲っていた。

 

「お前が殺したくなくても……俺はENDを殺さないといけねぇんだ!!」

 

「俺は、ゼレフを…殺す……!もう、止まれねぇんだよ…!!」

 

「……止まるには、どうしたら━━━」

 

マルクは鎧の中で渋い顔をする……だが、その隙を許してくれるほど、2人は冷静ではなかった。

握っていた2人の手から、それぞれの炎と氷がマルクの鎧の上から吹き出るように、襲いかかる。

 

「っづぁ!?」

 

悪魔を狩る為の氷が、止まった時の中ですら動けるような悪魔の炎が、マルクの両腕を焼いた。

 

「なん、で……魔法には無類の強さを発揮するモードなのに…!」

 

この2人の思いが強いのか、マルクが未だ躊躇しているためか。どちらかの理由かもしれないし、どちらもあるのかもしれない。

だが、この一瞬だけがマルクを上回っていた瞬間だった。

 

「っ……!まだ暴れるってんなら…!もっと本気で止める!!」

 

暴食食らい(イーター・グラトニー)を使えば、楽に2人を止められるだろう。しかし、それは息の根ごと止めてしまうという1番ダメな方法だった。

他も使えないことは無いが、周りに被害を巻き起こしたり、2人を本気で殺してしまう可能性の高いものだった。

だから、これでしか戦えない。

 

「うおおおおお!」

 

「ああああああ!!」

 

2人の魔法を、再度受け止めるマルク。2人の力が強いのなら、それを上回る勢いで自分も呪力を解放すればいい。

たった、それだけの事なのだ。そう、たったそれだけ━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの二人は殺すしかない。」

 

マルクの心の中、グラトニーもどきが語りかけていた。攻防の一瞬の最中の会話。しかしマルクはそれを応えようとはしない。

 

「片方はあのENDだ、放っておけば世界を滅ぼしかねない。滅ぼされると、ウェンディも死んでしまうぞ?」

 

一瞬過ぎる嫌な映像。しかしそれを振り切る。怒りに身を任せてしまえば、完全に終わる。

 

「そしてもう片方は悪魔狩りだ。しかも、上位互換である氷の魔法を使うインベルを倒せるほどだ。今のうちに始末しておかねば不味いだろう。」

 

何故インベルの魔法を知っているのかはわからない。自分の知らない記憶でもあるというのか。

しかし、今はそこは重要ではない。こちらも、殺す訳には行かないのだ。

 

「何を躊躇う必要がある?お前は、自分の不利益になる相手を殺さないのか?

人間というのは、不利益な相手とは関わりあいになりたくないのだろう?」

 

ただ魔法としての相性が悪いだけ…不利益にならないし、まず家族を傷つける奴がいるはずがないのだ。

それを踏まえた上で、マルクはナツ達を本気で殺すつもりは無い。止めるために、意識をぶっ飛ばす方針ではあるが。

 

「…よく分からんな、人間というものはやはり。」

 

「…だったら消えろ。」

 

たった一言、心の中でそれだけ返事をしてマルクは意識を戦いに再度向ける。

グラトニーもどきは、そんなマルクに呆れたのかやれやれといった表情で心から語りかけるのを止めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オォォォォォォォォォォォォ!!」

 

叫びながら、3人の男は戦闘を続行していた。マルクはナツとグレイを止めるために。ナツはゼレフを殺すために。グレイはナツを殺す為に。

それぞれの考えの中で、魔法を使っての戦闘が行われ続けていた。

 

「ガァァァァァァァァァァァァ!!」

 

しかし、3人はボロボロになりすぎていた。故に、決着は否が応でもつきそうな状態になっていた。

3人は、1旦距離を取って…その中で直ぐにナツとグレイがお互いがお互いに向かって飛び込んでいた。

 

「くっ!?」

 

マルクも、遅れて飛び出す。このままでは呪力も魔力もすっからかんになってしまう。

それはナツとグレイも同じだが、しかし魔力切れを望んでも意味はない。それよりも先にどちらかが死んでしまうからだ。

 

「「「「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」」」

 

ナツとグレイが拳を振り上げる。それに合わせて、マルクも何とか間に入る。

だがその瞬間呪力が完全に切れたのか、マルクの体から鎧が消え去ってしまう。

 

「もう、呪力が無くなったってのか…!けど……!」

 

それでも尚、マルクは諦めずに二人の間に入り攻撃を受け止めようとする。

魔法等が効かないとわかると、すぐさまただの暴力で殴られて傷も増えているが、今から受け止める攻撃たちに比べれば可愛いものである。

そう考えながら、マルクはナツとグレイが降り下ろしたその拳を、それぞれ右手と左手で受け止めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……一体、何をやっているんだお前達は…!」

 

━━━死すらも覚悟した。だが、マルクよりも早くその拳を後ろから受止めた人物がいた。エルザである。

そして、そのエルザは今、涙を流していた。

 

「エルザ…」

 

「涙……」

 

ナツとグレイは、それで止まった。過去に彼ら二人は、エルザに涙を流させないために動いたことがあったのだ。

そう、そんな彼らが流させてしまったのだ。エルザに、涙を。

 

「目の前にいる人間をよく見てみろ!!敵か!?味方か!!何があったか知らんが、一時の感情に流されるな!!

思い出せ!私達の育んだ時間を!!」

 

悪魔となっていたナツが、滅悪魔導士としての力を発揮していたグレイが、記憶を思い出して冷静になっていく。

 

「いいか、よく聞け…!」

 

その言葉が、エルザから発せられる。ナツもグレイもその言葉に聞き覚えがあった。マカロフである。

 

『時には喧嘩するのも良い、互いが自分に正直に生きていれば当然のこと。

だが、それは魂をぶつけるべき相手に敬意をもって為す事じゃ。憎しみや恨みは暴力に用いてはならん。

それが家族(ギルド)じゃ。』

 

ナツの悪魔化していた部分が、消えてなくなる。グレイの体も、元の姿に戻っていく。

 

『ワシは━━━』

 

「私は、お前達を愛している…心の底から愛しているんだ…!」

 

そう言って、エルザは2人を抱きしめていた。それを眺めていたマルクは、2人がようやく落ち着いたことに安堵して、大の字に寝転んでいた。

そして、マカロフの言葉を出したエルザがふと気になって、マカロフの魔力を探り始める。これだけの戦争でも、マカロフ並の魔力はすぐにわかるからだ。

だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それがどういうことか、マルクは察して……涙を流さぬように拳を握りしめた。痛みで涙を流さないように、したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は遡り、マホーグが今やゼレフがいる妖精の尻尾(フェアリーテイル)のギルドに侵入した時。

その部屋の中には緋色の髪を持つ女性が、少女から何かを吸い取っているような光景があった。

隠れて、隙間から様子を伺うマホーグだったが、ふと、違和感に気づいた。

 

「……?」

 

こちらからしか判別できないのか、緋色の女性は全く気にしてもいない様子だった。

しかし、マホーグから見たその少女はどこか生物のような感じがしない気がしているのだ。

 

「……っ!?」

 

そして、よく目を擦ってみると少女が二人いた。その少女…メイビスはマホーグにも気づいているのか、手で彼女を招いていた。

恐らく、幻術の類で騙せているのだろう。凄まじく精度の高い幻術である。だが、それ以外の魔法を持たないのか出るのに一苦労しているようだった。

マホーグはその事を察すると、一瞬でメイビスのところにショートワープしてから、さらにそこから連続したショートワープを使ってギルドからの脱出を成功させたのであった。

 

「……ありがとうございます、助かりました。」

 

「ま、マルクの為、だから……」

 

「マルク…彼の知り合いですか?」

 

「……貴方こそ、知り合い?」

 

「私は…ちょっと色々事情があって、こんな姿ですが…初代妖精の尻尾マスター、メイビスと申します。」

 

「……」

 

マホーグは、ふと合点がいった。相手が求めているものと、自分が守るもの。

それがこの少女なのだ。触感すら騙されているのでなければ、恐らくまだ生きている。この少女の体には、大きな秘密があるのだろう。

 

「……アクノロギアを倒す為、か。」

 

「ひとまず……敵陣営を突破して、8代目と合流しないとなりません。」

 

「マ、マカロフね……い、いいよ。は、運んでいってあげる。」

 

マホーグはメイビスの手を掴む……が、その反対側の手を別の人物が掴んでいた。

 

「君のよりも、俺の方がこの場合向いている。」

 

「…め、メスト……じゃ、じゃあお願い。わ、私も上手く出られそうにない、から。」

 

似ている魔法だが、マホーグとメストのそれは全くの別物である。

主に、戦闘用か隠密用かで分かれるためだ。そして、今回敵陣に囲まれたメイビス達が脱出するためには、長距離を一瞬で渡り切るべきなのだ。

そして、メストはマホーグとメイビスを一緒に運んでいくのであった。


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